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日付を戻せる永久カレンダー。IWC「プロセット」を詳解する

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日付を戻せる永久カレンダー。IWC「プロセット」を詳解する

日付を進めすぎても、リューズで戻せる。IWCの新機構「プロセット」は、永久カレンダーのすべての表示をリューズで前後に調整できる操作性を実現した。クルト・クラウスが築いた伝統を受け継ぎながら、機構を根本から刷新。ホワイトセラミックのケースとブルーダイヤルをまとった“プティ・プランス”を通して、その進化と使い勝手に迫る。

by Lee Sheng . Sep 23, 2026

最新の永久カレンダー調整機構「プロセット」

 1985年のバーゼルワールドで、クルト・クラウスが考案した画期的な永久カレンダーが発表されて以来、この複雑機構はシャフハウゼンの高級時計マニファクチュール、IWCシャフハウゼンを代表する存在となった。その魅力は、リューズだけで調整できる巧妙な操作機構にとどまらない。

 IWCのさまざまなコレクションに採用された永久カレンダーは、大きな4つのサブダイヤルが織りなす美しいレイアウトでも知られている。伝統的でありながら、数ある永久カレンダーの中でも際立つデザインだ。その代表格が〈ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・プロセット“プティ・プランス” Ref:IW339601〉。情報が緻密に配された文字盤は、航空機のコックピットを思わせる。

 クルト・クラウスのオリジナル機構の誕生から約40年。今年のウォッチズ&ワンダーズで、IWCはその最新機構を搭載したモデルを発表した。すべての調整をリューズで行えるだけでなく、カレンダーを前後どちらにも動かせる機構だ。うっかり日付を進めすぎても、実際の日付が追いつくのを待ったり、修正のために時計をメーカーへ送ったりする必要はない。プロセットなら、リューズを回して元に戻せばよい。

 この新機構を搭載して登場したのが、〈ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・プロセット “プティ・プランス”〉だ。今やブランドを象徴するブルーダイヤルに、未来的な印象のホワイトセラミックケースを組み合わせている。この他にブルーダイヤルにステンレススティールのケース&ブレスレットや、グリーンダイヤルに18Kレッドゴールド製ケース&レザーストラップのバリエーションも展開。

▲ 新作〈ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・プロセット “プティ・プランス”〉(Image: Revolution ©)

永久カレンダーの進化をたどる

 腕時計における永久カレンダーの歴史は、パテック フィリップが現存する最古の永久カレンダー搭載腕時計を製作した1925年にさかのぼる。しかし、この複雑機構の進化は驚くほど緩やかだった。オーデマ ピゲがRef. 5516で初めて閏年表示を採用したのは、ようやく1955年になってからのことだ。

 20世紀半ばの長きにわたり、永久カレンダー搭載腕時計を手がけるメーカーは少なく、パテック フィリップとオーデマ ピゲがその代表的な存在であり続けた。

 1970〜80年代のクォーツ危機を経て、機械式時計は復興期を迎える。永久カレンダーの開発が再び大きく前進したのも、この時代だった。ここでは、特にリューズで調整できる永久カレンダーに注目し、その進化を振り返ってみたい。

 1985年、IWCはすべての調整をリューズだけで行える世界初の永久カレンダーを発表した。これにより、ケースに埋め込まれた修正プッシャーが不要になった。時刻を送ることなく曜日と日付を早送りでき、日付を変更すると、月、年、ムーンフェイズを含むすべてのカレンダー表示が連動する仕組みだ。

 もっとも、この連動には利点もあれば不便さもある。数日分の調整なら、すべての表示が連動するのは理想的だ。しかし、数カ月、あるいは数年先に合わせる場合も1日ずつ送る必要があり、操作が数百回に及ぶこともある。

 価格も比較的手の届きやすいものだった。バルジュー7750に永久カレンダーモジュールを組み合わせることで、当時としては最も手頃な永久カレンダー・クロノグラフの一つを実現したのである。

▲ クルト・クラウスの永久カレンダーを搭載した第2弾として、1986年に登場したブラックセラミック製のIWC〈ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー Ref. 3755〉(Image: IWC)

 次の大きな革新は、その約10年後の1996年に訪れた。時計師であり天体物理学者でもあるルートヴィヒ・エクスリン博士が開発した、ユリス・ナルダン〈パーペチュアル・ルートヴィヒ〉の登場だ。これは、カレンダーを逆方向にも調整できる世界初の永久カレンダーだった。

 日付と月は連動して早送りできる一方、曜日は時針を進めたり戻したりして、個別に調整する必要がある。この機構の意義は、永久カレンダーの従来の設計思想を覆したことにある。伝統的なグラン・レバー機構に代わり、初めて歯車によるシステムを採用したのである。

▲ 1996年製のユリス・ナルダン〈パーペチュアル・ルートヴィヒ〉

 さらに約10年後の2005年、独立時計師アンドレアス・ストレーラーの協力を得て開発された、H.モーザー〈パーペチュアル1〉が登場する。この時計は、先の2本が備えていたリューズによる調整と、カレンダーを前後どちらにも動かせる機能を併せ持ち、さらに日付の瞬時切り替えを実現した。日付と月の早送りも可能だが、曜日表示は備えていない。

 こうした仕組みは、永久カレンダーの使い勝手と技術的な完成度を高めた。その革新性に加え、永久カレンダーとは思えないほど巧妙でミニマルな文字盤も、現代の時計界におけるH.モーザーの存在感を確立する一助となった。

▲ 2005年に登場したH.モーザー〈パーペチュアル1〉(Image: H. Moser & Cie.)

 リューズで調整できる永久カレンダーとして、ほかにも触れておきたい時計がいくつかある。こうした操作が可能なモデルは、今なおごく少数に限られている。

 2007年、パネライはフェラーリとのダブルネームで、カレンダーを前後に調整できる永久カレンダーモジュールを搭載した時計を発表した。ただし、早送り機能は備えていない。カレンダー表示を変更するには、時刻を進めたり戻したりする必要がある。幸い、時針は1時間単位でジャンプさせることができる。

 そして、F.P.ジュルヌ〈カンティエーム・パーペチュアル〉も挙げられる。曜日と日付をリューズで調整できるが、動かせるのは順方向のみ。どちらも早送りが可能で、日付と曜日の同時調整と、曜日だけの調整が可能。月は、右上のラグの下に隠されたレバーで調整する。

 この時計ならではの魅力は、日付、曜日、月の瞬時切り替えにある。表示がゆっくりと移り変わるのではなく、午前0時にすべてが一斉に切り替わり、明瞭なクリック音がオーナーに心地よい満足感をもたらすのだ。

▲ 40mm径のF.P.ジュルヌ〈カンティエーム・パーペチュアル ブラックレーベル〉(Image: F.P. Journe)

 2015年、グルーベル フォルセイ〈QP イクエーション〉は、永久カレンダーを新たな次元へと引き上げた。曜日、日付、月を一列に並べた視認性の高い表示に加え、4桁の西暦表示を含む充実したカレンダー表示を備える。ただし、ムーンフェイズは搭載していない。さらに、均時差表示などの機能も組み込まれている。

 何より見事なのは、リューズによる前後両方向への調整に、早送りと表示の瞬時切り替えを兼ね備えていることだ。機能面では、永久カレンダーが到達しうる最高水準にある。あえて改善の余地を挙げるなら、常に連動する各表示を、それぞれ独立して調整できるようにすることくらいだろう。

▲ 驚異の機構を備えたグルーベル フォルセイ〈QP イクエーション〉(Image: Greubel Forsey)

 直近の例として挙げられるのが、オーデマ ピゲの創業150周年に発表された永久カレンダームーブメント、Cal. 7138だ。特筆すべきは、日付、月、曜日、ムーンフェイズというすべてのカレンダー表示を、リューズで個別に調整できる唯一の永久カレンダーであること。つまり、月を変更するために、日付を何日分も送る必要がない。ただし、調整できるのは順方向のみだ。
 ここで触れておきたいのは、リューズで調整できる数少ない永久カレンダーでありながら、伝統的な大レバーを用いる機構を採用している点である。逆方向に調整できないのも、この構造によるものだ。伝統的な設計と現代的な操作性を巧みに融合させた機構といえる。

▲ Cal. 7138を搭載した最新のオーデマ ピゲ〈ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー オートマティック〉(Image: Revolution ©)

 そして、IWCの新機構「プロセット」である。ユリス・ナルダン、H.モーザー、パネライと同様に、リューズでカレンダーを前後どちらにも調整でき、早送りも可能だ。なかでも特徴的なのは、これらの永久カレンダーの中で唯一、4つのサブダイヤルによる伝統的なレイアウトを維持していること。他の革新的な永久カレンダーは、より型破りな表示方式を採用している。

 伝統的な顔立ちと、リューズで前後どちらにも調整できる現代的な利便性。その両方を永久カレンダーに求めるなら、IWCの「プロセット」が唯一の選択肢となる。

▲ 伝統的な4つのサブダイヤルのレイアウトを受け継ぐIWCの「プロセット」搭載モデル〈ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・プロセット〉Ref: IW329602 (Image: Revolution ©)

 永久カレンダーが長年にわたり進化してきた一方で、完璧な機構は存在しないということだ。デザインにも内部の機構にも、それぞれの個性と長所がある。コレクターは、普段どのようにカレンダーを合わせるかに応じて、自分に合う機構を選ぶことになる。

▲ プロセット搭載のIWC〈ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・プロセット “プティ・プランス”〉Ref: IW339601(Image: Revolution ©)

プロセット——時を巻き戻す装置

 クルト・クラウスが開発した従来のIWCの永久カレンダーに対し、プロセットが遂げた最大の進化は、カレンダーを逆方向にも調整できることだ。一見すると小さな機能の追加に思えるが、その実現には文字盤の下で機構を根本から変える必要があった。端的にいえば、永久カレンダーモジュールは従来とはまったくの別物であり、ゼロから設計し直されている。

 伝統的な永久カレンダーは、大レバーを中心に作動する。レバーがカムの起伏をなぞって上下することで、カレンダー表示を進める量を制御する仕組みだ。ばねの力とカムを利用するこの構造は、一方向にしか機能しない。動きを逆転させると、カムの起伏を乗り越えるための形状が逆方向には働かず、表示を切り替える量も同じにはならない。つまり、平年の2月28日から3月1日へ進めることはできても、同じ動作を逆にたどって戻すことはできない。実際には、部品の形状によって動きが阻まれるため、機構そのものを逆方向に作動させることができないのだ。

 したがって、永久カレンダーを逆方向にも調整できるようにするには、この伝統的な設計から離れる必要がある。大レバーに代わって用いるのが、歯車だ。全周に歯を備えた歯車は、その歯形に違いがあっても、物理的にはどちらの方向にも回転できる。大レバーを廃し、歯車を主体とするシステムへ移行するために、IWCは永久カレンダーモジュールを基礎から設計し直したのである。

 この機構の中でも特に重要な部品の一つが、プログラムホイールだ。月の日数を制御するホイール、閏年ホイール、3本の柔軟なフィンガー、そして一対のカムという4つの主要な要素を組み込んでいる。これらが連携することで、月ごとに異なる日数と、4年周期の閏年に対応する。

▲ 永久カレンダーモジュールにプログラムホイールを組み付ける(Image: IWC)

 カレンダーを動かす力は、時針を動かす歯車から、回転を遅くする遊星歯車の仕組みを通じて伝わる。これにより、24時間で1回転する動きが生まれる。24時間ホイールと一緒に回る歯車には、日付を送るための小さな爪が付いており、1日1回、日付ホイールを1日分進める。

 日付ホイールには、31日分にあたる31枚の歯がある。しかし、30日までの月や2月には、存在しない日付を飛ばして翌月1日へ進めなければならない。そのために、月末の補正を担う別のホイールに、伸び縮みする3本の爪が設けられている。この爪が「フィンガー」だ。外側に伸びると歯車の歯と同じ役割を果たし、日付を通常より多く進める。

 フィンガーを何本伸ばすかは、月カムと閏年カムという2つの部品が決める。カムとは、輪郭の凹凸によって他の部品の動きを制御するものだ。この2つのカムの形状に、月ごとの日数と閏年の周期が組み込まれている。31日まである月はフィンガーを伸ばさず、30日までの月は1本、29日まである閏年の2月は2本、28日までの平年の2月は3本すべてを伸ばす。

 伸びたフィンガーは、夜間の日付切り替え時に24時間ホイールとかみ合う。これによって、通常の1日分に加えて必要な日数を送り、翌月1日へ直接切り替える。例えば4月末なら、存在しない4月31日を飛ばし、4月30日から5月1日へ進む。

 2月が28日までか、29日までかを決めるのが、4年で1回転する閏年カムだ。平年には3本目のフィンガーを伸ばし、閏年には引っ込めておく。この1本の違いによって、平年は2月28日から、閏年は2月29日から、正しく3月1日へ切り替わる。

▲4桁の西暦を表示するディスクに注目。従来の機構では上2桁の「20」が固定されていたが、プロセットでは最初の「2」だけが固定され、2桁目は回転して「0」から「7」まで切り替わる(Image: IWC)

 この複雑な機構を実現するには、部品の製造にも高度な技術が求められる。そこでIWCが採用したのが、「LIGAプロセス」と呼ばれる精密加工技術だ。光を使って正確な型を作り、そこに電気めっきで金属を積み重ねて部品を形作る。この技術により、従来の製造方法では難しかった複雑な形状の部品も、高い精度で作ることができる。

▲ LIGAプロセスによって、歯の内側をくり抜いた複雑な形状を実現した歯車の数々(Image: IWC)

 この〈ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー〉に搭載されているのは、Cal. 82665だ。これは少し意外な選択でもある。ビッグ・パイロット・ウォッチといえば、通常は7日間のパワーリザーブを備えたムーブメントが使われているからだ。ただし、今回のモデルは従来の46mm径ではなく、小ぶりな43mm径。そのため、ポルトギーゼや、時刻表示のみの43mm径のビッグ・パイロット・ウォッチと同様に、パワーリザーブ約60時間のムーブメントをベースとしている。

▲ホワイトセラミックをまとった“プティ・プランス”

 プロセットは、ビッグ・パイロット・ウォッチに初めて搭載された。そのラインナップの中でも、ひときわ目を引くのが“プティ・プランス”だ。特徴的なブルーダイヤルに鮮やかなホワイトセラミックケースを組み合わせ、より未来的な印象に仕上げている。なお、リューズ、裏蓋、バックルはスティール製。ケース径は43mmとなり、腕に収まりやすいサイズになった。

 この未来的な雰囲気は、よりクールで精密機器らしい表情へと刷新されたカレンダー表示にもよく合っている。個人的には、従来の永久カレンダーの方が、伝統的でロマンを感じさせる表示で魅力的に思える。特にポルトギーゼでは、その良さが際立っていた。ただ、計器としての性格を持つビッグ・パイロット・ウォッチには、新しい表示もよくなじんでいる。

 従来モデルは9時位置にスモールセコンドを備え、それがサブダイヤルの表情に個性を添えていた。プロセットでは秒針が文字盤の中央に移り、9時位置のサブダイヤルから小秒針がなくなった。その結果、文字盤は情報の重なりが減り、すっきりとした印象になっている。このシンプルで現代的なデザインを好む人は多いだろう。

 もう一つ、興味深いのが価格だ。私がまだ学生だった2012年、IWCはセラミックケースに永久カレンダーを搭載したトップガンのモデルを発表した。精悍なマットブラックのセラミックケースをまとったその時計は、当時の私にとって、まさに憧れの1本だった。

 販売価格は約3万8600米ドル。そして現在、新しいプロセット搭載モデルの販売価格は4万3100米ドルだ。パワーリザーブは7日間から60時間へ短くなったとはいえ、時計業界では珍しく、大幅な値上がりをしていない例といえるかもしれない。この十数年で、販売価格が2倍、さらには3倍になった時計も少なくないのだから。

革新を、実用につなげる

 永久カレンダーの進化には、大きく3つの方向性がある。1つめは従来の機構に少しずつ改良を重ねるもの。2つ目は仕組みを根本から見直す、きわめて先進的なもの(構造が複雑になりすぎて、まとまった数を生産するのが難しいことも多い)。3つ目は両者の間にあるもの——機構に確かな革新をもたらしながら、ある程度の数を安定して作ることもできる時計だ。

 IWCのプロセットは、この3つ目に当てはまる。すべてのカレンダー表示をリューズで操作でき、前後どちらにも調整できる永久カレンダー自体は、目新しいものではない。しかし、その革新性と、まとまった数を生産できる仕組みを両立させることこそ、今の時計業界に必要なのだ。

 重要なのは、その革新が単なる技術的な誇示に終わっていないことだ。日付を進めすぎても戻せる——その一見ささやかな使い勝手の向上の裏には、永久カレンダーという伝統的な複雑機構を根本から組み替えるほどの大きな挑戦がある。

 クルト・クラウスが約40年前に示した「複雑な時計を、より簡単に使えるものにする」という思想を受け継ぎながら、IWCはそれを現代の技術でさらに一歩先へ進めた。プロセットは、永久カレンダーを鑑賞する複雑機構から、より日常に寄り添う存在へと近づける、新たな一歩なのだ。

Tech Specs

IWC〈ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・プロセット “プティ・プランス”〉 リファレンス: IW339601 ムーブメント: Cal. 82665、自動巻き、約60時間パワーリザーブ、毎時28,800振動(4Hz) 機能: 時・分・秒表示、永久カレンダー ケース: 42.9mm × 14.3mm、ホワイトセラミック/ステンレススティール、100m防水 ストラップ: ホワイトラバーストラップ、ステンレススティール製ピンバックル 販売: IWCブティックおよび正規販売店 限定: なし ¥  6,864,000

Brands: IWC Schaffhausen・

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