In Conversation With Pierre Rainero On The Enduring Strength of Cartier
ピエール・レネロが語る、カルティエの尽きることのない創造性の源泉
イメージ スタイル&ヘリテージ ディレクターであるピエール・レネロが、カルティエの本質を維持しつつ、移りゆく時代に適応するための戦略を明かす。
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by Celine Yap . Jan 31, 2025 |
ジュエリーと時計を同時に制した唯一のメゾン
リシュモン傘下で他ブランドを圧倒するカルティエは、世界で最も強力なハード・ラグジュアリー・ブランドだ。ジュエリーと時計市場の両方を同時に支配できたブランドは、カルティエ以外にない。時計愛好家とジュエリー愛好家の両方を同時に魅了できたブランドも、カルティエ以外にない。2020年のフォーブス誌「最も価値あるブランドTOP100」リストでは、同社は56位にランクされ、評価額は122億米ドル、推定年間収益は62億米ドルだった。当時、カルティエ以外にリスト入りしたジュエリーメゾンはなかった。
それから5年で多くのことが進化し、カルティエはハード・ラグジュアリー分野での驚異的な幅広さを証明した。リシュモンは驚くべき第3四半期決算(2024年度)を発表した。ジュエリーメゾンが+14%とリードし、全体で+10%の堅調な成長を記録した。その数字の大部分をCartier(カルティエ)が占め、次いでVan Cleef & Arpels(ヴァン クリーフ&アーペル)、さらにBuccellati(ブチェラッティ)とVhernier(ヴェルニエ)が続く結果となった。
この成功の原動力が何であるかを特定するのは簡単ではない。強力なリーダーシップなのか、卓越したデザインセンスなのか、あるいは連綿と受け継がれてきた豊かなヘリテージなのか。その答えを導き出すのは容易ではない。しかし、もしピエール・レネロに同じ問いを投げかけたなら、彼はきっとこう答えるはずだ。「そのすべてが、カルティエというメゾンそのものなのだ」と。

▲ ピエール・レネロ、カルティエのイメージ スタイル&ヘリテージ ディレクターであり、あらゆる知識の源
「カルティエの仕事とは、すなわちチームワークの結晶なのです。それはルイ・カルティエやジャンヌ・トゥーサンの時代も、現代も何ら変わりはありません」と、同社のイメージ スタイル&ヘリテージ ディレクターであるピエール・レネロは語る。
「後世の私たちは『ルイがトップだったから、彼がすべてを創り上げた』『その後をジャンヌが引き継いだ』と、つい単純化して語りがちです。しかし実際には、彼らの傍らには極めて影響力のある多くの俊才たちが存在していました」
レネロが言及するのは、カルティエのチームを支えた多くのクリエイティブな頭脳と、優れた技術を持つ職人たちだ。ルイ・カルティエの右腕として活躍したシャルル・ジャコーや、ジャンヌ・トゥーサンと緊密に連携したピエール・ルマルシャンらがその筆頭である。さらに彼は、カルティエの拡大においてコマーシャルチームが果たした重要な役割についても触れた。

▲ 左:〈カルティエ リーブル〉ポリモーフ、ロブスタークラスプウォッチ 右:〈カルティエ リーブル〉ポリモーフ、爪にインスパイアされたシークレットブローチウォッチ
究極のラグジュアリー・メゾン
さらに、ハード・ラグジュアリー業界におけるカルティエの巨大な存在感を本当に理解している人は少ない。確かに、多くの人が世界ナンバーワンのジュエラーだと認識している。そして2020年以来、モルガン・スタンレーとリュクスコンサルトによる年次報告書によると、年間売上高31億スイスフラン(2023年時点)で、公式に世界第2位の時計メイカーとなった。リシュモンの2024年財務報告書では、カルティエを筆頭とするジュエリーメゾンが総年間売上高の69%を占めていることが明らかにされた。
その年、リシュモングループの総収益は206億ユーロで、ジュエリーメゾンは142億4200万ユーロを計上した。カルティエが部門売上の75%を占めると推定した場合、年間収益は100億ユーロ以上となり、その数字は今後数年間で増加すると見込まれる。2023年1月、カルティエはトリノに最先端のジュエリー生産拠点をオープンした。これは、近い将来の生産量増加を示唆している。

▲ 上海で開催されたカルティエ「Cartier, the Power of Magic」展に展示されたダイヤモンドパヴェのフローラルブローチ(左)、装飾石と翡翠の置時計(中央)、翡翠と漆のケース(右)
カルティエというメゾンの真髄、そして最大の驚異はまさにここにある。
同社は(ファインジュエリーとハイジュエリーを例外として)実質的にはマスボリュームを誇る一大プレイヤーでありながら、送り出すすべてのプロダクトには、フランスの高級ジュエラーに期待される強固なアイデンティティと高水準のクオリティが深く息づいているのだ。
量産体制を確立しているからこそ、〈トリニティ〉リングや〈LOVE〉リングなどのエントリーレベルのファインジュエリーは、ラグジュアリーを愛する、いや、それ以上に洗練された審美眼を持つ顧客層にとって親しみやすい存在であり続ける。同時に、それぞれの顧客がさらなる高みへとステップアップできるよう複数の製品グループの階層が用意されている。なぜなら、ある時点で〈ジュスト アン クル〉ブレスレットや〈トリニティ〉リングだけでは物足りなくなり、顧客は〈パンテール〉や〈クラッシュ〉、あるいは〈グラン ドゥ カフェ〉のようなよりエクスクルーシブなコレクションへと移行するからだ。

▲〈グラン ドゥ カフェ〉のネックレスとリング
しかしながら、たとえエントリーレベルのプロダクトであっても、そこにはカルティエが紡いできたヘリテージと、創造における圧倒的な正統性が豊かに息づいている。名作〈タンク〉の誕生は1917年。そして〈トリニティ〉リングの起源は1924年にまで遡る。驚くべきは、この双方がほかでもないルイ・カルティエ自身の手によるオリジナルデザインであるという事実だ。さらに、ジャンヌ・トゥーサンの功績として語り継がれる〈パンテール〉のモチーフは1914年に産声を上げた。
その旅路は21世紀の現代へと脈々と続いており、今日のメゾンを率いるリーダーやディレクター陣は、このカルティエが誇る至高のレガシーを次世代へと守り伝えるという、極めて重要な使命を担っているのである。
レネロは語る。「私にとって、創業者たちが成し遂げた最大の偉業とは、メゾンの内部に『カルティエの文化』を確固たるものとして築き上げたことにほかならない。なぜなら、私たちがその文化から受けている恩恵は、計り知れないほど大きいからです。人が去り、時代が移り変わろうとも、カルティエの文化はそこに残り続ける。そして、その文化を大切に育み、さらに豊かにし、未来へと語り継いでいくことこそが、現代を生きる私たちの使命なのです」

▲ カルティエ〈トゥッティフルッティ〉、ネックレスの圧倒的な壮麗さ

▲ 左:幾何学の美、〈ナチュール ソヴァージュ〉 ダイヤモンド&サファイア ネックレス 右:ダイヤモンドパヴェをあしらった自然なフォルムのパンテールが主役の珊瑚とペリドットのネックレス
単一のビジョンを持つメゾン
ファインウォッチメイキングからファインジュエリー、ハイジュエリーに至るまで、すべての製品部門で、カルティエは単一のアイデンティティと、過去を尊重し未来を定義するダイナミックなビジョンを持っている。このメゾンは、創造的なアイデアを過去に過度に依存することはない。むしろ、今日創造されるすべては、先祖が確立したアイコンの継続なのだ。これが、カルティエのデザインが常に各時代のモダニティを反映している理由だ。
輝かしい例の一つが、2020年に発表された〈マイヨン ドゥ カルティエ〉 ジュエリーウォッチだ。これはカルティエのヘリテージを深く感じさせながらも、完全に新しい創造物だった。最新の〈カルティエ リーブル〉コレクションも同様である。一目で象徴的な〈トゥッティフルッティ〉を想起させつつも、確固たる独自のアイデンティティを備えている。また、カルティエが得意とするアニマルモチーフを取り入れた、新しい〈トリニティ〉コレクションも同様に注目に値する。

▲〈クッサン ドゥ カルティエ〉のリングとブレスレット

▲〈マイヨン ドゥ カルティエ〉のイエローゴールド製タイムピース
レネロは続ける。「私たちが手がけるすべてのクリエイションは、その大いなる達成の結実なのです。かつてルイ・カルティエでさえ、会社の未来を議論する際に『私』や『僕』といった主語を決して使いませんでした。語られるのは常に『メゾン』のことであり、彼個人の欲求ではなかったのです。彼は、自分自身の好みと、メゾンの礎として築くべきものとを、極めて厳格に区別していました。当時確立されたその手法は、現代のカルティエにもそのまま息づいています」
不朽のアイコンから最新の新作に至るまで、カルティエの時計やジュエリーをひと目見れば、誰もが理屈抜きに「手に入れたい」という強い衝動に駆られる。その美しさを享受するのに、いかなる説明も必要としない。
現代のカルティエのデザインと過去のアーカイブを結ぶ「一本の赤い糸」は確かに存在する。しかし、その繋がりは単に「見慣れたモチーフの再登場」といった表面的なレベルを遥かに凌駕するものだ。
現代と過去のカルティエを結びつけているのは、「過去からエッセンスを汲み取り、それを現代のために再創造する」という確固たる哲学にほかならない。カルティエのデザイナーやアートディレクターが理解しているのは、みずからが生み出すプロダクトが、これから先何十年にもわたって価値を認められ続けなければならないという事実だ。
この永続的なプロセスこそが、世代を超えたカルティエのクリエイティブの数々に、絶えず進化し続けるカルティエのデザイン言語を染み込ませているのだ。

▲ タイガーのクリップイヤリング(1961年)

▲ ピーコックのブローチ(1989年)

▲ パンテールのクリップブローチ(1949年)
まさにこの哲学があったからこそ、〈マイヨン ドゥ カルティエ〉のような独創的なデザインが産声を上げ、〈LOVE〉や〈ジュスト アン クル〉といった不朽の名作が形づくられたのだ。
当時、デザイナーのアルド・チプロは、まさに‟カルティエの論理”に則ってこれらの造形を生み出していた。メゾンには創業初期から、純粋なシェイプの美しさを表現するという揺るぎない思想があった。〈サントス〉に見られるビスの露出や、早くも1900年代に登場していたクル カレ型のブローチやカフリンクスがその好例だ。したがって、〈ジュスト アン クル〉が当時どれほど急進的で異端な美学と捉えられようとも、それはカルティエのデザインカルチャーの文脈においては調和していたのである。
「絶え間なき進化、さらに言えば、進化することの必然性という根源的なビジョンは、このカルチャーがあるからこそ維持できているのだと思います。この文化のおかげで、私たちの思考が硬直化することはありません。私たちは常に変化し、新たな提案を行うよう促されています。そして、私たちが創り出すプロダクトは、美術館に飾られる骨董品ではなく、現代を生きる人々が日々を共に過ごしたくなる、今まさに希求される対象でなければならないという思想を具現化しているのです」と、レネロは結んだ。
Brands: Cartier
