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ウブロ ✕ クーンズの深遠な哲学——バルーン ドッグとMP-14 オリジン

Reference

Editorial

Hublot Introduces Its First Two Watch Collaborations with American Artist Jeff Koons

ウブロ ✕ クーンズの深遠な哲学——バルーン ドッグとMP-14 オリジン

アーティスト ジェフ・クーンズ エクスクルーシブ インタビュー

現代美術を代表するアーティスト、ジェフ・クーンズとウブロが、初のコラボレーションを発表した。代表作《Balloon Dog》を腕時計へと落とし込んだモデルと、宇宙の起源をテーマにしたトゥールビヨン。まったく異なる2本の時計を貫いているのは、クーンズが長年追い続けてきた「受容」と「驚き」という思想だ。アートとラグジュアリー、そして時計づくりが交わる場所で、クーンズは何を見いだしたのか。本人とのビデオ・インタビューを通して、その創作の核心に迫る。

by Tracey Llewellyn . Sep 16, 2026


ジェフ・クーンズの生い立ち

 ジェフ・クーンズは、時計とはまったく関係のない質問を私に浴びせた。

 「ニューヨークのどのあたりにいるのですか?」

 私がイーストヴィレッジにいると答えると、インタビューはしばし脱線してしまった。クーンズは昔暮らしていた住所を次々と思い出し始めたのだ。4thストリート、5thストリート、まだNoHoと呼ばれる前のボンド・ストリート。7thストリートと1stアベニューの角にあったRed Barを経営していた友人の話まで飛び出した。

 私は、そこなら今では自分の近所だと伝え、しばらくの間、ふたりでマンハッタンの記憶を照らし合わせることになった。

 クーンズは会話の間ずっと、そんな調子だった。親しみやすく、せかせかせず、しかも物事をよく分析している。こちらの質問に答える前には少し間を置き、ミケランジェロについて話しているときも、幼少期の記憶について語るときも、あるいはトゥールビヨンの複雑な機構を説明するときでさえ、ほとんど絶えず微笑んでいる。

 本来、私たちが話すべきテーマは、過去半世紀を代表するアーティストのひとりであるクーンズとウブロが共同で生み出した2本の新作だった。

 ひとつは〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ〉。クーンズのとりわけよく知られた作品《Balloon Dog》を腕時計へと翻訳したモデルだ。もうひとつは、宇宙創生から着想を得たサファイアクリスタルとチタンのトゥールビヨン、〈MP-14 オリジン by ジェフ・クーンズ サファイア チタニウム〉である。

 見た目だけなら、この2本に共通点はほとんどない。だが、クーンズは会話のなかで何度も同じ思想やテーマへと立ち返った。45分ほど話す頃には、2つの時計は最初に感じたほどかけ離れた存在ではなくなっていた。

▲ ウブロ〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ  レッド〉

▲ ウブロ〈MP-14 オリジン by ジェフ・クーンズ サファイア チタニウム〉

 私はまず、「受容」というテーマについて尋ねることにした。それは何十年にもわたってクーンズの作品を貫いてきた思想だからだ。彼は私たちに、これまで「価値がない」と切り捨ててきたものを、もう一度見つめ直すよう繰り返し問いかけてきた。その執着がどこから生まれたのかを尋ねると、彼は幼少期の記憶へと話をさかのぼらせた。

 中流家庭で育ったクーンズにとって、子供の頃、美術館は親しみのある場所ではなかった。彼が美しさを学んだのは、身の回りにあった玩具や置物、あるいは祖父母の家にあった何気ない小物からだったという。

 クーンズは語る。

 「外の世界との対話を通じて、つまり、さまざまなイメージや物との出会いを通して、私は『すべてのものは、それぞれの存在そのものにおいて完全である』という受容の姿勢を実践してきました。たとえば祖父母の家に、小さな灰皿があって、それで遊ぶのが好きだったとします。その体験は、ミケランジェロの彫刻を見て感動することと、本質的には同じなのです。大切なのは、その対象と向き合ったときに、自分がどれだけ畏敬や驚きを感じるか。それだけです。そこに序列はありません。すべては等価であり、優劣をつける余地などないのです」

 この哲学は、《The New》《Banality》《Celebration》といった彼の代表作にも一貫して流れている。たとえば《Balloon Dog》についても、クーンズが見ているのは、鏡面仕上げの美しさや、誰もが親しみを覚える風船の犬というモチーフだけではない。その奥には、はるか昔から人類が受け継いできた思想とのつながりがある。その話題には後ほど改めて触れることにしよう。

 だがその前に、ありふれたものの美しさについての会話は、思いがけない方向へと展開していく。テーマは、「ラグジュアリー」だった。

▲ ジェフ・クーンズ作《Balloon Dog(バルーン・ドッグ)》(©Jeff Koons)

クーンズが見つめていたもの

 1986年に《Luxury and Degradation》が初めて発表されたとき、クーンズが見つめていたのは広告と、それが人々の内側に生み出す欲望や憧れだった。だが現在、彼はこのシリーズについて少し異なる見方をしている。

 ルイ・ヴィトン、BMW、そして今回のウブロとのコラボレーションを経験するなかで、彼は以前ほとんど意識していなかったものに気づくようになったという。それは、卓越したものを生み出すために注ぎ込まれる、途方もないほどの手間と配慮である。

▲ ウブロ アンバサダーのジェフ・クーンズ。自身が手がけた〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ レッド〉を着用(©Hublot)

 クーンズは言う。

「私のラグジュアリーに対する考え方は変わりました。《Luxury and Degradation》は、人々に『ラグジュアリーに惑わされてはいけない』というメッセージを伝えようとした作品でした。でも今は、そこに注がれる配慮や素材の質の高さを理解するようになりました。もちろんウブロは、素材にも製造品質にも徹底してこだわっています。彼らは、可能な限り最高の時計を作ろうとしているのです」

 私は、ウブロというブランドも、彼自身の作品も、ときに賛否を巻き起こす存在であることに触れた。しかし彼は、その話題を軽く受け流した。今回の協業で、挑発的な表現を目指したことは一度もないという。

 ウブロのマニュファクチュールを訪れて強く印象に残ったのは、エンジニアや素材のスペシャリスト、若い時計師たちに至るまで、時計づくりに携わる人々の真摯な姿勢だったらしい。

 クーンズはいう。

 「私は賛成か反対か、といったことは考えていませんでした。私が感銘を受けたのは品質です。できる限り最高のものを作ろうとする姿勢でした。共同制作の過程では、私が『もう少し光沢を抑えたい』『透明感を変えたい』『反射の見え方を調整したい』と要望を伝えるたびに、それらはすべて、技術的な課題として検討され、解決策が探られました。ウブロは、常に素材に関する問題を解決しようとしていました」

 そのプロセスは、クーンズ自身のスタジオともよく似ている。どちらも専門家たちが、完成品ではほとんど気づかれないような細部の問題を解決しながら作品を作り上げていく。そして、どちらも素材に対して大胆な挑戦を繰り返してきた歴史を持つ。

 私がその共通点を指摘すると、クーンズは技術論とは少し違う方向へ話を広げた。彼の記憶に強く残っているのは、新しい技術がうまく形になった瞬間、チーム全員の表情が一気に輝いたことだった。

「たとえばサファイアクリスタルを前にすると、みんなで顔を見合わせて笑うんです。『この色を見てください。この透明感を見てください』と。トゥールビヨンでも同じです。その動きや回転を見ながら、皆が純粋に興奮している」

 その語り口は、祖父母の家にあった灰皿とミケランジェロの彫刻について話したときと驚くほどよく似ていた。対象が何であれ、そこに心を動かされる瞬間がある。クーンズにとって重要なのは、その体験そのものなのだ。

 そう考えると、〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ〉の成り立ちもよく見えてくる。これは単に、彼の代表作を腕時計へと置き換えたモデルではない。ウブロの素材や機構、そしてそれを生み出す人々の姿に、クーンズ自身があの灰皿やミケランジェロの彫刻と同じ「畏敬」と「驚き」を見いだした。その感覚から、この時計は生まれたのである。

偶像としての〈バルーン ドッグ〉

 議論の出発点は《Balloon Dog》をダイアル上に載せることではなかった。クーンズとウブロが考えたのは、この時計そのものを、どこまで彫刻のフォルムへ近づけられるかということだった。

 もちろん、腕時計というサイズでは実現できないこともある。ウブロはその都度、技術的な限界を率直に伝えた。だがクーンズの記憶に残っているのは、会話がそこで終わることはほとんどなかったという点だ。「できない」が最初の答えだったとしても、そこから可能な限り理想に近づける方法を探し続けたのである。

 完成したのは、鏡面仕上げのステンレススティール、レッドのアルマイト加工アルミニウム、ブルーのアルマイト加工アルミニウムによる3モデル。各世界限定200本となる。

 変更点はダイアルだけにとどまらない。風防はより強くドーム状に成形され、ケースは柔らかく丸みを帯び、ビスも存在感を増した。ストラップとクラスプも再設計され、時計全体に《Balloon Dog》特有の、空気を含んだような膨らみのあるフォルムを与えている。

 さらに、バルーンを思わせる形状のリュウズに加え、10時30分位置のケースサイドからは犬の尻尾を思わせる膨らみのあるパーツが突き出す。秒針のカウンターウェイトにも犬のモチーフが配された。自動巻きキャリバーHUB1710にも手が加えられ、ローターには同じく丸みを強調した専用デザインが採用されている。

▲〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ〉

 クーンズはいう。

「〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ〉は、とても自然な心地よさを持った時計です。そこには、私が《Balloon Dog》に感じている魅力がきちんと表れていると思います。楽観的で、とてもポジティブな作品です。でも同時に、もっと深いところにある何かと結びついている感覚もあるのです」

 多くの人は、まずその明るさやポップさに目を奪われるだろう。《Balloon Dog》の魅力のひとつは、その意味について深く考えたことがない人でも、ひと目見ればすぐにそれと分かることにある。

 だがクーンズ自身は、当然ながらその作品が何を意味するのかを、30年以上にわたって考え続けてきた。

▲〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ レッド〉

 クーンズは続ける。

「私はいつも、《Balloon Dog》にはどこか偶像的なところがあると考えています。それは単に、その瞬間のポップな高揚感を表すだけのものではありません。ある意味では、儀式に使われるようなイメージなのです。旧石器時代であれば、共同体全体が、《Balloon Dog》に似た何らかのイメージや物体の周りに集まっていたかもしれないのです」

 そこで彼は少し間を置き、さらに思考を深めた。

「それは、“膜”というものが持つ深い意味にもつながっています。私たちの臓器も、身体そのものも、すべて膜によって成り立っている。《Balloon Dog》で強調されているのも、その膜なのです。私はそこが、この作品のコンセプトを支える核だと考えています」

▲〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ  ブルー〉

 クーンズは語る。

「何かを生み出し、そこにひとつの“語彙”をつくる。そして、その語彙を通して人々と対話しようとする。私は《Balloon Dog》によって、それを実現できたと感じています。《Balloon Dog》を通して、こうした対話ができることをとても嬉しく思っています。私はずっと、人とのコミュニケーションについて考えてきました。それこそがアートなのです」

 クーンズは続ける。

「ところで……、私は理想郷と死を同時に描く牧歌詩が大好きなんです。あれは、いわば“芸術についての芸術”です。牧歌詩には、さまざまな韻やリズムがあり、それらはすべて数学に基づいている。描かれるアルカディアは理想郷でありながら、同時に死も存在する。これは時間や空間を考えることにも似ています。過去があり、現在があり、未来がある……。《Balloon Dog》は、そのすべての次元で存在しているのです。今この瞬間の高揚感があり、未来へ向かう楽観性があり、そして過去とのつながりもある」

▲〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ  シルバー〉

 実に壮大な話だが、そこにはクーンズの創作を理解するうえで欠かせない本質がある。彼にとって、ポップカルチャーと哲学の境界は曖昧だ。誰もが見慣れた身近なモチーフを通して、より大きな思想や概念を語ることこそが、彼の表現なのである。〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ〉にも、そんな彼の哲学が宿っている。

▲〈MP-14 オリジン by ジェフ・クーンズ〉を着用するウブロ アンバサダーのジェフ・クーンズ(©Hublot)

〈MP-14 オリジン〉:宇宙の眼

 さらに、もうひとつの新作〈MP-14 オリジン by ジェフ・クーンズ〉は、時計づくりをまったく異なる領域へと導くモデルだ。サファイアクリスタルとチタニウムを組み合わせたケースに、ウブロ初となるセンター配置の自動巻きトゥールビヨンを搭載する。

 44mmの八角形サファイアクリスタルケースは、それだけで加工に500時間以上を要する。その内部では、ホワイトゴールド、ダイヤモンド、ブルーサファイアクリスタルによるリングが、中央に据えられたトゥールビヨンを取り囲む。

 そのトゥールビヨンは、クーンズの《Gazing Ball》シリーズから着想を得た半透明のブルーサファイアクリスタル製ドームの下に隠されている。ダイアル外周を巡るキューブが時と分を示し、ムーブメント全体はケースの中にほとんど宙吊りになっているかのように見える。

▲〈MP-14 オリジン by ジェフ・クーンズ〉

 新開発のキャリバーHUB9014は、594個の部品で構成される。巻き上げにはペリフェラルローターを採用することで、中央の視界を遮る要素を排し、ムーブメントの構造を余すところなく見せる設計とした。固定式のチタニウム製ビスを備えた一体型サファイアクリスタル製のブレスレットも、その「拡張」というコンセプトを引き継ぎ、ケースから手首へと連続するようにデザインされている。

▲キャリバーHUB9014。

 クーンズは、このセンタートゥールビヨンを、あらゆるものがそこから放射状に広がっていく起点として捉えている。クーンズがこの時計について語るのは、現在の宇宙ではなく、「宇宙が誕生した瞬間」についてである。いわば、宇宙のビッグバンを時計で表現したような存在だ。

「2つの時計はどちらも“抽象”についての作品だと思っています。〈バルーン ドッグ〉には、より多くの原型的なイメージや象徴が重なっている。一方〈MP-14 オリジン〉もやはり抽象を扱っています。それは、存在そのもの、宇宙が存在するという事実についてです。宇宙の誕生そのものを腕の上に凝縮したのです。見た瞬間に、何か驚きの感覚が生まれるものを作りたかった。そして同時に、広がりを感じられるものにしたかった。ひとつの中心がありながら、そこからどこまでも拡張していくような感覚です」

《モナ・リザ》と《ピエタ》とウブロ

 2本の時計はいずれも、開発に約2年を要した。クーンズ自身も強調するように、彼は単に作品のイメージを提供し、完成品を承認しただけではない。開発の初期段階から継続的に関わり、自身のスタジオとウブロのチームが何度も試作と修正を重ねた。

 デザインの進化に合わせて、3DモデリングやAIによるビジュアライゼーションも活用され、形状、素材、光の反射、透明感といった細部まで検討が重ねられていった。

 クーンズは語る。

「私はかなり深く関わっていました。まさにその場にいて、このプロジェクトの中心となっていました。約2年にわたって、時計をどう作り上げるかについて対話を続け、さまざまなアイデア、サイズ、デザインの方向性を試しました。そして最終的に、私たちが目指していたものを実現することができたのです」

 30本限定の〈MP-14 オリジン〉は、ごく限られた人しか所有できない時計である。だがクーンズはこの30分ほどの間、普遍性やコミュニケーション、共有される体験について語り続けてきた。

 それほど排他的な存在と、そうした思想は本当に両立するのだろうか。そう尋ねると、クーンズは一枚の絵画を例に挙げた。

▲〈MP-14 オリジン by ジェフ・クーンズ〉

「私は《モナ・リザ》が大好きです。でも、《モナ・リザ》を所有しているわけではありません。私にとって、あの作品を所有すること自体には何の意味もないんです。むしろ、持っていなくてよかったと思いますよ。もし所有していたら、管理するだけでも大変でしょうから(笑) 大切なのは、その“考え”です。たとえば誰かがピカデリーを歩いていて広告を目にする。あるいはタイムズスクエアで作品を見る。雑誌で目にするかもしれない。重要なのは、そうやってそのアイデアに触れることなんです。それこそが本当に意味のあることだと思います」

 この考え方は、インタビューを通して一貫していた。クーンズは、物を「所有すること」についてほとんど語らない。むしろ、何かと出会ったときに生まれる感情や記憶に関心を向けている。

 クーンズはそのことを、今度はミケランジェロの《ピエタ》を例に説明した。

「私はあの作品の前に立つと、溶けてしまいそうになるんです。そこには、人間という存在をめぐる幾重もの対話があり、その深さに圧倒されるのです。所有という意味では、部屋を出るときに、その作品を持って出ることは不可能です。しかし、大切なのは、その体験が自分をどう変え、どう自分の一部になったかです。外側に何が残っているかではなく、自分の内側に何が残ったかなんです」

 そこには、時計にも通じるものがある。コレクターは希少性や価値、来歴について何時間でも語ることができる。けれど、最後まで記憶に残るのは、初めてその時計を目にした瞬間の感情であることが多い。

 クーンズにとって、物を所有することよりも大切なのは、その物と出会った瞬間に、自分の中で何が起こるかなのだ。

▲〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ〉と専用ボックス。

時計は、人と人をつなぐためのもの

 クーンズの作品は、ときに挑発的で、見る者を揺さぶるものだと評される。一方、画面越しの彼は、予定時間を大きく超えてなお、終始穏やかで親しみやすく、どんな質問にも真摯に向き合い、一度も答えを急ぐことはなかった。

「あの奔放な一面は、インタビューではどこへ行ってしまうのですか?」

 そう尋ねると、彼は微笑んで言った。

「同じ人間ですよ。私は、あらゆるものに対して心を開いていたいと思っています。私の中には、人を裁く場所はありません。そして、それこそが私に力を与えてくれるのです。その力を、人にも伝えたいと思っています。判断を手放せば、あらゆるものに参加し、関わることができるようになるのですから。これまでの作品を振り返ると、私がずっと続けてきた対話のテーマは、『受容』と『判断を手放すこと』でした。序列というものがなくなれば、不安も消えていきます。不安がなくなれば、人は自由になれる。それこそが“悟り”なのだと思います」

 私は、その考え方は生まれつき備わっていたものなのか、それとも後から身につけたものなのか尋ねた。クーンズは答えた。

「時間をかけて学んできたものだと思います。作品を作り続けるなかで、『芸術とは何か』『芸術は人のために何ができるのか』を、自分自身に問い続けてきました」

 その言葉は、最後の質問へとつながる絶好の橋渡しになった。

 ジェフ・クーンズは、世界的なアーティストとして名を成す以前、卓越したセールスマンでもあった。子どもの頃には包装紙やグリーティングカード、チョコレートを戸別訪問で売り歩き、後にはアーティストとして活動する傍ら、ウォール街でも働いていた。欲望や説得、人間の行動について、これほど深く考えてきたアーティストはいない。

 私は、その経験は現在の創作と結びついているのかと尋ねた。クーンズは笑いながら答えた。

「私は昔から、セールスが大好きなんです。子どもが8人いるのですが、いつも彼らにはこう話しています。セールスとはコミュニケーションなのだと。人が行うあらゆる活動には、コミュニケーションがある。そのすべてに通じることなんです」

 子どもの頃、クーンズは見知らぬ家のドアを一軒一軒ノックして回っていた。誰がドアを開けるのか、家の中へ招き入れてもらえるのか、そしてその家がどんな場所なのか――何ひとつ分からないまま訪ね歩いていたという。彼は、その経験こそが、目の前に現れるものや人を、先入観なく受け入れる姿勢を育ててくれたと振り返る。

 クーンズはいう。

「ドアを開ける人がどんな人なのか、私にはまったく分かりませんでした。家の中へ招いてくれるかどうかも、その家がどんな場所なのかも分からない。でも私は、すべてに対して心を開いていました……結局のところ、すべてはコミュニケーションなのです。今日はずっと、モノについて話してきました。時計について、アートについて。でも結局、私たちが向き合っているのは人なのです。やがて、すべてのものは塵へと還っていく。それでも意味を持ち続けるのは、人と人との関係なのです」

 数秒後、インタビューは終わった。クーンズはもう一度穏やかに微笑み、会話への感謝を伝えると、画面の向こうへ消えていった。

 クーンズは、形を変えながら一貫して「モノは、それだけで完結する存在ではない」と語り続けた。子どもの風船、トゥールビヨン、ミケランジェロの彫刻、そして腕時計。それらはすべて、コミュニケーションのきっかけにすぎない。

 クーンズが本当に大切にしているのは、それらが人と人との間に生み出す「つながり」なのだ。今回ウブロから発売された2つの時計は、クーンズのそんな哲学を象徴する存在なのである。

Tech Specs

ウブロ〈クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ〉 リファレンス:542.UR.8170.NR.JKN26(レッド)、542.UB.5170.NR.JKN26(ブルー)、542.SX.0820.NR.JKN26(シルバー) キャリバー:自動巻き HUB1710、185個の部品、27石、毎時2万8800振動(4Hz)、パワーリザーブ約50時間、ケースの丸みをモチーフとした専用デザインのローター ケース:42mm、ミラーポリッシュ仕上げのステンレススティール、レッドアルマイト加工アルミニウム、またはブルーアルマイト加工アルミニウム。ドーム型サファイアクリスタル、バルーンをイメージしたリュウズ、10時30分位置に装飾的なテール、50m防水 ダイアル:膨らみを持たせたメタリック構造、ドーム型インデックス、秒針カウンターウェイトにバルーン・ドッグのモチーフ、6時位置にジェフ・クーンズのサイン ストラップ:ケースカラーに合わせたラバーストラップとメタリックレザー、デプロワイヤントクラスプ 限定数:各モデル世界限定200本 ¥3,366,000
ウブロ〈MP-14 オリジン by ジェフ・クーンズ サファイア チタニウム〉 リファレンス:914.NJ.0100.JX.9941 キャリバー:マニュファクチュール HUB9014、自動巻きセンタートゥールビヨン(ウブロ初)、594個の部品、ペリフェラル巻き上げ機構、毎時2万1600振動(3Hz)、パワーリザーブ約60時間 ケース:サファイアクリスタル&チタニウム、44mm八角形ケース、一体型サファイアクリスタルブレスレット、30m防水 ダイアル:ポリッシュ仕上げサファイアクリスタル、バゲットカットダイヤモンドとブルーサファイアクリスタルをセッティングした2本のポリッシュ仕上げホワイトゴールドリング、時表示用半透明レッドラッカー仕上げステンレススティール製キューブ、分表示用ステンレススティール製キューブ、センタートゥールビヨン、《Gazing Ball》シリーズから着想を得た半透明ブルーサファイアクリスタルドーム 限定数:世界限定30本 ¥65,494,000

Brands:Hublot

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