大胆なデザインと華やかなマーケティングの陰で、ウブロは20年近くにわたり地道な機械開発を積み重ねてきた。〈ビッグ・バン ウニコ〉のクラッチホイールから覗いた”裏の顔”を起点に、ブランドを形づくってきた主要ムーブメントと機構を俯瞰する。。
Hublot: Milestones in Innovation
ウブロ:革新の軌跡―イノベーションを象徴するムーブメントと機構
大胆なデザインと華やかなマーケティングの陰で、ウブロは20年近くにわたり地道な機械開発を積み重ねてきた。〈ビッグ・バン ウニコ〉のクラッチホイールから覗いた”裏の顔”を起点に、ブランドを形づくってきた主要ムーブメントと機構を俯瞰する。
![]() |
by Cheryl Chia. Jan 15, 2026 |
工房としての、もうひとつの顔
ウブロは万人受けするとは限らないブランドだろう。大胆さゆえに強く支持される一方で、同じ理由で距離を置かれることもある。存在感のあるデザイン、意外性に富んだ素材の組み合わせ、そして印象的なマーケティング。たしかにウブロは、“スペクタクル”という言葉が似合うブランドである。
しかし、その華やかな演出の背後には、あまり語られてこなかったもうひとつの物語がある。それは、機械式時計の未来を、一貫して追い続けてきた工房としての姿である。
正直に言えば、私がこの10年近く時計を取材してきた中で、ウブロについて書いた回数は決して多くない。それでも取り上げるたびに、第一印象に隠された裏の顔に気づかされてきた。
直近では2023年、キングゴールド仕様の〈ビッグ・バン ウニコ〉を改めて見たときのことである。何度も手に取ったことがあったため、私はこの時計については十分に知っているつもりでいた。
しかし実際にはそうではなかった。ダイアル越しに姿を現したのは、弾性をもたせた歯車を組み合わせたクラッチホイールである。その存在は、まるで授業中に気を抜いている生徒を見つけた教師のように、こちらを鋭く見つめ返していたのである。

▲ 2023年:〈ビッグ・バン ウニコ キングゴールド〉44mm
少なからず反省しつつ、私は特許文書に目を通した。そこに記されていたのは、実に巧妙な構造であった。クラッチは一本の軸を中心に構成され、その両端にLIGA製法(高精度な金属部品を製作するためのマイクロ加工技術)で作られたホイールが取り付けられている。それぞれのホイールには、異なる形状の歯が備えられている。
ダイアル側のホイールには、旗のような形をした衝撃を吸収するよう工夫された歯が並び、これがクロノグラフ秒針車と噛み合う。一方、ムーブメント側のホイールは分割された歯の形状を採用し、駆動側の秒車と連結する。
いずれの歯も、噛み合いの際に生じるわずかな遊びを吸収し、力を滑らかに伝えるよう設計されている。その結果、クロノグラフをスタートさせた瞬間に秒針が“カクン”と跳ねる現象を抑えることができるのだ。

一見すると小さなディテールのように思えるかもしれない。しかし決して些細な話ではない。歯形を設計することは、時計製造の中でも最も難しい領域のひとつである。ひとつひとつの部品は、剛性と弾性、接触圧のバランスを緻密に計算しながら設計されなければならない。しかも噛み合いのあいだ、角速度を一定に保つ必要がある。
多くのブランドは既製の歯車形状をそのまま用いる。しかし、ウブロは自社で歯形を設計し、LIGAで製作している。となれば、数学とエネルギー伝達に対する確かな知識が不可欠である。表層的な技巧ではなく、基礎から積み上げられた工学が必要なのだ。
それは意外であると同時に、嬉しい発見でもあった。派手な外観の裏で、ウブロは確実に仕事をしてきたのである。
では、私は他に何を見落としてきたのだろうか?
本稿は、その問いに対する私なりの答えである。派手なマーケティングに目を奪われることなく、それを支えるメカニズムの側からブランドを見直す試みである。
サファイアクリスタルのケースやレインボージェムをあしらったモデル、華やかなコラボレーションといった外観を超えて目を凝らせば、そこに見えてくるのは、過去20年にわたりまじめな開発に力を注いできた企業の姿である。ウブロは確固たる機械的アイデンティティを、自らの手で獲得してきたのである。
ブランドの始まり
ウブロの現在を理解するには、その出発点を振り返る必要がある。ブランドは1980年にイタリア人起業家カルロ・クロッコによって創業された。しかし、20世紀が終わる頃にはブランドは半ば忘れられた存在となっていた。
2004年、スイス時計界の伝説、ジャン=クロード・ビバーがCEOとしてウブロに加わった。2005年、ビバーは〈ビッグ・バン〉を発表する。“宇宙の創成”を意味するこのモデルは、その名に相応しい大ヒットとなった。
2004年から2007年のあいだに売上は5倍へ拡大し、その勢いを受けて2008年、ウブロはLVMHグループの一員となった。
翌2009年にはスイス・ニヨンに自社マニュファクチュールを開設し、2015年には第二工場も完成した。
2010年には、コンプリケーション専門工房、BNBコンセプトを買収している。

▲左:時計界の重鎮、ジャン=クロード・ビバー。右:創業者、カルロ・クロッコ。

▲オリジナルの〈ビッグ・バン〉(2005年)

▲BNBコンセプトの創業者マティアス・ビュッテ。
BNBコンセプトの経営破綻が囁かれる以前から、最大の顧客であったウブロはすでに動き出していた。同社が保有していた既存ムーブメントおよびスペアパーツを買い取ったのである。
そして2010年、ウブロは同社の設備リースを引き継ぎ、機械を自社へと移した。物理的な資産とともに、創業者マティアス・ビュッテ以下、マイクロメカニクスを専門とする29名のスペシャリストがウブロに合流した。ウブロは研究開発ラボを丸ごと自社へ迎え入れたのである。

▲マティアス・ビュッテの構想による〈MP-02 キー・オブ・タイム〉
この人材と技術力の流入は、ウブロに二つの生産体制を築いた。
ひとつは、基幹となる自社製クロノグラフムーブメントの開発に特化した「ウニコ部門」である。もうひとつは、当初「コンフレリー・オルロジェール・ウブロ」と呼ばれたハイコンセプトのアトリエで、トゥールビヨンやミニッツリピーターをはじめとする複雑機構の製作を担っている。
最初の自社ムーブメント:ウニコ
ブランド初の自社開発・製造ムーブメントは、2010年に発表されたフライバック機構付きの〈ウニコ〉キャリバー HUB1240である。やがてこのムーブメントはキャリバー HUB1280へと進化した。
〈ウニコ〉キャリバー HUB1240は、それまでウブロのクロノグラフを支えてきた定番ムーブメント、バルジュー7750に代わるべきものだった。外径や厚みはほぼ同じに設計されており、既存ケースとの互換性があった。
基本的な輪列構成は7750を踏襲しているものの、ウニコは単なる代替ではなかった。ジャン=クロード・ビバーの指揮のもと、このムーブメントにはひとつの目標が掲げられた。それはクロノグラフ機構をダイアル側へ移動させ、その作動を着ける人の目に見えるようにすることだった。

▲〈ウニコ〉キャリバーHUB1240の製作過程。
この決断は、モジュール構造の変更へとつながった。整備のしやすさに加え、機構を入れ替えたり拡張したりできる柔軟性を持たせたのである。
ムーブメントの大きな特徴は、ダブル水平クラッチを採用している点である。ひとつは分計測を担う歯車用で、香箱から直接駆動される。もうひとつはクロノグラフ秒針用で、第4番車から力を受け取る仕組みである。役割を分けることで、動作の安定性を高めている。
レバーの制御にはコラムホイールが用いられ、さらにフライバック機能も備えている。いまでは珍しくない仕様だが、実装は容易ではない。動作の滑らかさと耐久性を両立させるには、高い設計精度が求められる。
自動巻き機構も独自の工夫が凝らされている。ペラトン式を応用した双方向巻き上げシステムを、よりコンパクトに再設計したのである。巻き上げ機構をローター内部に組み込み、従来のような大きなレバー構造を排した。低摩擦ローラーをローターハブ内の溝に噛み合わせることで、薄さを保ちながら効率を維持している。
また、脱進機はモジュール式となっており、ムーブメント全体を分解せずに取り外しや調整が可能である。ガンギ車とアンクルにはシリコンが採用され、慣性を抑えつつ精度向上に寄与している。
こうした設計の積み重ねは、単なるスペック競争ではなく、構造を合理的に見直す姿勢の表れである。〈ウニコ〉は、見せるためのマシンであると同時に、きちんと考え抜かれた機械でもあるのだ。

▲〈ビッグ・バン ウニコ ノバク・ジョコビッチ〉 (©Revolution)
2018年、このムーブメントは大きな改良を受け、HUB1280へと生まれ変わった。設計の基本構造そのものが見直されたのである。クロノグラフ機構は引き続きダイアル側に配置されているが、従来のような後付けのモジュール式ではなく、メインプレートと一体化した構造へと改められた。
その結果、ムーブメントの厚みは8.05mmから6.75mmへと大幅に薄型化された。これは着用感にも影響する重要な改良である。
さらに注目すべきは、新しいオシレーティングピニオンを採用した点である。従来型のピニオンの代わりに、LIGA製法によるニッケル・リン製の歯車が使われている。これらの歯はわずかにしなる構造になっており、クラッチが噛み合う際に生じる“遊び”を吸収する。結果として、クロノグラフの作動がより滑らかになったのである。

▲ 2018年、自社開発・製造ムーブメントは大幅な改良を受け、HUB1280へと生まれ変わった。
クロノグラフ秒針を噛み合わせて駆動する上部のクラッチホイールには、先端が丸められた旗状の“しなる歯”が採用されている。これらの歯は緩やかなカーブを描いている。
噛み合う際に、相手側であるクロノグラフホイールの三角形の歯にぶつかるのではなく、その間へ滑るように入り込む。これにより、衝撃を抑え、より滑らかな作動を実現しているのである。

▲上部クラッチホイールには、先端を丸く仕上げた旗形の“しなる歯”が採用されている。
これに対し、常に駆動秒車とかみ合っている下部のクラッチホイールには、間に隙間を設けた二本の弾性アームによって形成された“分割歯”が採用されている。
これらの柔軟な歯形は、わずかな芯ずれといった微細な誤差を吸収し、バックラッシュを解消しながら、歯車列に適切なテンションを保つ役割を果たす。
その結果、従来型の水平クラッチ式クロノグラフとは異なり、スタート時に針が跳ねるような動きは生じない。クロノグラフは瞬時に、かつ滑らかに作動するのである。
さらに、分積算機構の中間ピニオンにも、二枚の弾性ブレードから成る分割歯が採用され、遊びを吸収する設計となっている。
これらの設計およびムーブメントの開発を担ったのは、2009年からウブロに在籍するエンジニア、クリストフ・リネールである。リネールは、このムーブメントについて、こちらにてさらに詳しく解説している。

従来、クロノグラフにおいては、特定の歯車――とりわけカップリングホイールやクロノグラフ秒車――に適度な摩擦を与える設計が採られてきた。これは、クロノグラフが停止しているときに針を完全に静止させ、作動時には瞬時かつ滑らかに動き出させるためである。
その摩擦はごくわずかで、通常は意識されることはない。しかし、この微妙な抵抗があることで、停止中のクロノグラフ針が揺れたり、わずかに流れたりするのを防ぎ、作動時のもたつきを解消しているのである。
この調整のために、時計師たちは長年にわたり、薄く柔軟な板バネやシムを用いてきた。多くはスチールや真鍮製で、クロノグラフホイールのリムやハブに軽く押し当てられる構造である。
摩擦の強さは、このバネの弾性と位置決めによって決まる。その調整には、きわめて繊細な手加減が求められるのである。

▲〈ビッグ・バン ウニコ マジックセラミック〉(©Revolution)
問題は、この従来の方法が完璧ではない点にある。スプリングの曲げ具合や位置がわずかに変わるだけで、摩擦の強さに大きな影響が出てしまう。調整には通常、ムーブメントを分解し、スプリングを取り外して曲げ直し、再び組み立てて動作を確認するという工程が必要である。この作業は手間がかかるうえ、精度にも限界があり、望ましい状態に到達するまで何度も繰り返さなければならないことが多い。
さらに、時計がケースに収められた後は、ムーブメントを再び開かない限り摩擦の微調整はできない。加えて、スプリングの張力が変化したり、接触面が酸化したりすることで、摩擦の状態が時間とともに変わる可能性もある。
これに対し、HUB1280では、コンパクトでアクセスしやすい新しい機構に置き換えられている。ネジによって軸方向の圧力を与え、調整する仕組みである。従来のようにホイールの側面を押さえるのではなく、クロノグラフホイールのピボット肩部に直接力を伝える構造となっている。
ネジを回すことでスプリングが圧縮または緩和され、摩擦を増減させることができる。ボールが力を正確に軸方向へ伝えるため、不要なトルクや引っかかりは生じない。
調整は外部から行うことができ、ムーブメントを分解する必要はない。かつては試行錯誤に頼らざるを得なかった工程が、整備しやすいものへとなった。クロノグラフ調整における最も繊細なパラメーターのひとつを、時計師が簡単にコントロールできるようになったのである。

▲ネジを回すことでスプリングが圧縮されたり緩められたりし、摩擦の強さを調整できる。この調整は、ムーブメントを分解することなく外部から行うことが可能である。
ムーブメントの基本構造も改良されている。従来のように香箱の逆回転を防ぐためにクリックとスプリングを用いるのではなく、特殊形状の歯を持つ二枚の歯車を備えた揺動式ロッカー機構が採用されている。これらの歯車が“不可逆機構”を形成している。
時計を巻き上げるときには、この歯車対が滑らかにトルクを香箱へ伝達する。一方、ゼンマイが逆方向に戻ろうとすると、歯形同士がかみ合ってロックし、逆回転を阻止する仕組みである。
ロッカーは一体型の薄い板バネによって静止位置へと戻され、余分な部品を追加することなく適切なかみ合いを維持する。
この設計により、従来の機構で聞かれるクリック音は消え、巻き上げ時の摩擦損失も低減される。その結果、エネルギー伝達効率が向上している。
コンパクトでシンプルなこの機構は、一方向には香箱を自由に回転させ、反対方向では静かにロックする。従来のクリック機構と同じ一方向機能を果たしながら、はるかに洗練された方法でそれを実現しているのである。

さらに、カンヌキピニオン(キャノンピニオン)を保持するフリクションホイールも改良されている。従来の設計では、二本のスプリングアームでアーバーを挟み込む構造であったが、本機ではそれに補強および連結アームを加えている。これにより、より強く、安定し、長期にわたって持続するフリクショントルクを実現しているのである。


最後に、調速機構(レギュレーター)も再設計されている。アームには歯付きの円弧状セクターが一体化されており、そこに噛み合うピニオンをネジで回すことで微調整を行う仕組みである。
歯の根元には柔軟な構造が設けられており、噛み合う歯面同士を常に密着させることで遊びを排している。
その結果、どちらの方向にも滑らかかつ精密な調整が可能となり、同時に時計師にとってもアクセスしやすく、扱いやすい構造となっているのである。

〈キングパワー トゥールビヨン クロノグラフ〉―2011年
2011年、ウブロは〈キングパワー トゥールビヨン クロノグラフ カテドラル ミニッツリピーター カーボン〉と〈キングパワー トゥールビヨン クロノグラフ F1 キングゴールド セラミック〉を発表した。いずれも、そのムーブメントはBNBコンセプトに端を発するものである。

▲左:〈キングパワー トゥールビヨン クロノグラフ カテドラル ミニッツリピーター カーボン〉 右:〈キングパワー トゥールビヨン クロノグラフ F1 キングゴールド セラミック〉(2011年)
トゥールビヨンやクロノグラフは、それぞれ単体の複雑機構としてはよく見られる。しかし両者を組み合わせる例は依然として少ない。そこには、構造上の制約、スペースの問題、そしてエネルギー管理という複数の課題が絡み合っている。
両機構を統合する時計は、いくつもの相反する要素を解決しなければならない。たとえば視覚的に主張の強いトゥールビヨンは、クロノグラフの積算表示と文字盤上のスペースを奪い合う。
また輪列構成の観点から見ても、トゥールビヨンは通常固定された第4番車から駆動されるのに対し、クロノグラフは経過秒を測るために第4番車から動力を引き出すのが一般的だ。ここにも本質的な矛盾が生じる。
さらに、両機構はいずれも大きなエネルギーを必要とする。効率的な動力伝達と十分なトルクの確保が不可欠である。
こうした背景のもとで、BNBコンセプトが設計したトゥールビヨン クロノグラフは、その独創的な構造によって際立っている。モノプッシャー仕様で、中央クロノグラフ秒針を持たない代わりに、1時と3時の間に配置されたサブセコンド表示が採用されている。さらにクロノグラフ機構全体を文字盤側に配置するという反転構造をとっている。
ムーブメントの基盤がもともとミニッツリピーターの輪列を収めることを前提に設計されていたのだろう。その結果、トゥールビヨン単体、クロノグラフ付き、リピーター付きなど、派生モデルへの柔軟な展開が可能となっている。

▲〈キングパワー トゥールビヨン クロノグラフ カテドラル ミニッツリピーター カーボン〉(Image: Christie’s)
このクロノグラフは水平クラッチを採用しているが、その構成はきわめて独創的である。作動させると、クラッチホイールがトゥールビヨンケージの方向へと回動し、そのケージ自体がクロノグラフの輪列全体を駆動する仕組みとなっている。
これにより、従来のように第4番車からクロノグラフを駆動する必要がなくなった。輪列自体は一般的な構成を保ちながら、トゥールビヨンケージは第3番車によって駆動される。
つまり、クロノグラフ機構は作動と同時に、調速機構そのものへ直接結びつくことになるのである。
これは大胆な構造であり、とりわけトルク管理には極めて高い精度が求められる。トゥールビヨンケージはもともと追加的な負荷を伴う機構であるが、ここでは時刻表示だけでなくクロノグラフ機構をも駆動し続けなければならないからである。
このようなシステムが安定して作動するという事実そのものが、開発チームの卓越したエンジニアリング能力を雄弁に物語っている。

▲ 左:〈ビッグ・バン トゥールビヨン クロノグラフ カテドラル ミニッツリピーター フロステッドカーボン〉 右:〈ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン カテドラル ミニッツリピーター ブルーテキサリウム〉
ミニッツリピーター仕様では、打鐘機構およびその輪列は、クロノグラフプレートの下、メインプレート上に配置されている。一方、ハンマー、リピーター用の香箱、そしてガバナーはブリッジ側から視認できる構造となっている。
カテドラル ミニッツリピーターは、長く延長されたゴングを特徴とする。これらのゴングはムーブメントの周囲を二重に巻くことで、より深く、豊かに響く音色を生み出す。大聖堂の残響を思わせる重厚な音にちなんだ名称である。
2014年には、同じムーブメントをベースとしながらクロノグラフを備えない〈クラシック・フュージョン トゥールビヨン カテドラル ミニッツリピーター〉が発表されている。

▲〈クラシック・フュージョン トゥールビヨン カテドラル ミニッツリピーター〉(2014年)
実際、このトゥールビヨン クロノグラフのムーブメントは、その後、時計師レジェップ・レジェピによってアクリヴィア〈AK-01〉へと発展的に引き継がれている。レジェピはかつてBNBコンセプトに在籍し、このムーブメントの開発に携わっていた人物である。
一方、同じくBNB出身のピエール・ファーヴルが設立したマニュファクチュール・オート・コンプリカシオン(MHC)では、ミニッツリピーター・トゥールビヨン仕様の派生モデルが現在も用いられている。
MHCを通じて、このムーブメントの系譜は幅広いブランドへと広がった。エルメス、ルイ・ヴィトン、ラルフ ローレンから、H.モーザーに至るまで、その派生機構が採用されている。
〈MP-02 キー・オブ・タイム〉— 2011年
マニュファクチュールピース、すなわちMPコレクションは、ウブロにおける技術的実験の頂点である。ブランドが抱く最も大胆な時計製造のアイデアが形になる所だ。
シリーズは2011年に始動した。当時、ムーブメントの自社開発体制を整えたウブロは、オート・オルロジュリーの領域において、その可能性をさらに押し広げようとしていた。MPコレクションは、「ビッグ・バン」や「クラシック・フュージョン」の枠を超えた、きわめて特殊な複雑機構や前衛的構造を実現するための実験場となったのである。

▲〈MP-02 キー・オブ・タイム〉(2011年)
シリーズの中でも、ひときわ急進的な創作として知られるのが、〈MP-02キー・オブ・タイム〉である。構想を手がけたのはマティアス・ビュッテ。これは単なる機械的挑戦にとどまらず、むしろ哲学的実験でもあった。
そのコンセプトは、単純でありながら挑発的だ。それは着用者が時間の進み方を、速くも遅くも見せることができるというもの。3ポジションのリューズにより、ムーブメントは4分の1速、通常速度、あるいは4倍速で表示させることが可能だった。
もっとも、その変化はあくまで視覚的なものにすぎない。輪列そのものは途切れることなく作動し、時計は常に正確な時を刻み続けている。ただし、輪列と針とのあいだに組み込まれたディファレンシャルによって伝達比が変更され、表示だけが変化する仕組みなのである。
最も遅い設定では、現実の1時間が、文字盤上ではわずか15分として進む。逆に最速設定では、同じ1時間のあいだに針は4時間分を駆け抜ける。しかし内部では常に実時間を記録しており、リューズをニュートラル位置に戻せば、針は正しい時刻へと瞬時に戻る。
それは言わば、知覚のシミュレーションであった。時間は誰にとっても同じようには感じられない――そう思わせる、きわめて哲学的な時計なのである。

▲〈MP-02 キー・オブ・タイム〉(Image: Christie’s)
技術的にも、それは圧巻のエンジニアリングであった。垂直配置のフライング・トゥールビヨンを中核に、約120時間というロングパワーリザーブを備える。
外観は角張ったチタニウム製ケースと多層構造のダイアルを特徴とし、まるでSFの世界から現れたかのようだった。
しかし何よりも、〈MP-02 キー・オブ・タイム〉が表現していたのは、「時計とは何か」という根源的な問いであった。
〈MP-08 アンティキティラ〉 — 2012/2013年
2011年、ウブロは現代時計製造において最も野心的なプロジェクトに着手した。それは、古代のアンティキティラ機械を腕時計に装着するという試みであった。
オリジナルのアンティキティラ機械は、紀元前150年から100年頃に制作された、驚くべき精巧さを誇るギリシャの天文計算装置である。エーゲ海のアンティキティラ島沖で沈没船から引き揚げられたこの装置は、腐食しバラバラになった状態で発見されたが、最新の画像解析技術によって、単なる暦以上のものであったことが明らかになった。
数ある機能のひとつが、メトン周期の追跡である。これは19年ごとに月の位相が太陽暦の同じ日に再び一致する周期で、古代ギリシャ人は太陰暦と太陽暦を調整するために用いていた。この表示は装置裏面の螺旋状ダイアルに示され、各太陰月に一目盛り進み、235太陰月で一巡する仕組みであった。
さらにその内側には、より長期の周期も組み込まれていた。例えば、76年周期のカリポス周期や、日食・月食の予測に用いられた223か月のサロス周期などである。
アンティキティラ機械はまた、黄道十二宮における太陽と月の位置を示すことができ、月の楕円軌道による速度変化を再現し、当時知られていた五つの惑星の逆行運動を、複雑なエピサイクル(周転円)歯車機構によって表現していた。
これらの惑星運動は、地球を中心とする古代ギリシャの天動説宇宙観に基づき、同心円状に重ねられたチューブとリングのシステムによって表示されていた。

▲〈MP-04 アンティキティラ〉
ウブロのこの試みは、〈MP-04 アンティキティラ〉と名付けられた、4つの特別なムーブメントの創造へと結実した。プロジェクトはマティアス・ビュッテが率い、古代の機構を腕時計として再構築することを目指した。それは紀元前2世紀の天文コンピューターを、21世紀のオート・オルロジュリーの技術で再現する試みだった。
中核には、1分間で1回転するトゥールビヨンが据えられ、そこから数多くの天文表示が派生していた。ダイアル正面には、実に豊富な情報が展開される。エパゴメナル・デー(補足日)を含むエジプトの365日暦、オリンピック競技を含む全ギリシャ競技大会の暦、黄道十二宮内における太陽の位置、さらには月齢と月相表示などである。

時計を裏返すと、さらに驚くべき光景が現れる。そこには古代時を表す螺旋状ダイアルが広がり、メトン周期、カリッポス周期、サロス周期、そしてエクセリグモス周期が表示されている。それぞれの周期は、順に19年、76年、18年、54年という歳月にわたる。
これらの表示は、精緻を極めた減速歯車列によって駆動され、太陰月が進むごとに、ほとんど知覚できないほどわずかに前進する仕組みとなっていた。
左上の螺旋はメトン周期を示している。これは19年にわたり、235太陰月に相当する周期である。右下の螺旋はサロス周期を表し、223太陰月、すなわち約18年に及ぶ期間で、日食や月食が再び起こる間隔を示す。

いずれの表示も、先端が外側へと伸びながら回転するテレスコピック式の指針によって読み取られる。この針は、カム機構によって長さが微妙に調整され、螺旋状の軌道を正確になぞるよう設計されていた。この巧妙な仕組みによって、長大な天文周期がダイアル上に展開し、腕時計という限られた寸法の中に古代宇宙が再現されたのである。
メトン周期とサロス周期のそれぞれ4倍および3倍にあたるカリッポス周期とエクセリグモス周期は、小型のサブダイアルに表示された。
このムーブメントは天文時計というよりも、むしろコスモグラフ――宇宙を記述する機械であった。その目的は時刻を告げることではなく、古代ギリシャ人が天体学をいかに深く理解していたかを、縮小模型として示すことにあった。
当時、原器に惑星表示が存在したかどうか、またその構成については推測の域を出ていなかった。ゆえに復元研究が進む以前に発表されたウブロの腕時計は、太陽と月の機能のみに焦点を絞っていた。
その後2021年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のアンティキティラ研究チームが画期的な論文を発表した。アンティキティラ機構の完全モデルを提案するとともに、それが古代に知られていた五つの惑星すべてを表現する機械式プラネタリウムであったという証拠を示した。
2013年、ウブロは〈MP-08 アンティキティラ サンムーン〉を発表した。これは博物館級トリビュートモデルを商業向けに簡略化したバージョンである。同年のバーゼルワールドで披露されたこの時計は、初号機の圧倒的な複雑性を装着可能な形としつつ、その知的精神と美学をしっかりと継承していた。

▲〈MP-08 アンティキティラ サンムーン チタニウム〉(2013年)
トリビュート版のムーブメントが約495個の部品と13の表示機構を備えていたのに対し、サンムーンはそれを295個の部品と7つの表示へと簡素化し、太陽・月・星座の天体的関係に焦点を絞った。
すべての表示は文字盤側に配置され、天空の運行を表現している。着用者は、月の月相と月齢、月の背後に位置する星座、さらに月がその星座を横断するのに要する時間を読み取ることができる。同時に、太陽の背後にある星座と、太陽がそれを通過するのに必要な時間も示される。
この天文表示の下には、6時位置にフライングトゥールビヨンが配され、1分で1回転しながら秒を示す。一方、中央の通常針が時・分を表示する構成となっている。

▲〈MP-08 アンティキティラ サンムーン キングゴールド〉(2013年)
ウブロは「リターン・トゥ・アンティキティラ」プロジェクトの支援者でもある。これは、先端技術を用いて古代の沈没船を再調査するという取り組みである。本格的な学術調査に、時計ブランドがこれほどまでに関与する例は稀であり、一般的なマーケティング路線とは一線を画している。
本プロジェクトは、ギリシャ文化・スポーツ省の主導のもと、ウッズホール海洋研究所の主宰によって進められている。ウブロは資金提供に加え、発掘物の高精度3Dデジタルモデルの開発といった技術支援も行っている。
特筆すべきは、先進的な潜水装備や画像取得システムにも関与した点である。これらの技術は、2024年の調査で発見された大理石像や陶片、さらには船体木部の大きな一部といった重要遺物の発掘において、大きな役割を果たした。
〈MP-05 ラ・フェラーリ〉— 2013年
2013年、ウブロは11個の香箱を用いることで、実に約50日間という驚異的なパワーリザーブを実現した〈MP-05 ラ・フェラーリ〉を発表した。これは、時計界の最長パワーリザーブ競争に終止符を打つモデルとなった。また時計とハイパーカーのデザインが融合したとき、いかなる姿となるのかを示した存在であった。
フェラーリとのコラボレーションによって誕生したこの〈MP-05 ラ・フェラーリ〉は、フェラーリのV12エンジンの精神をそのままムーブメントへと昇華させている。

▲ 中央軸に沿って縦方向に整列した複数の香箱を備える〈MP-05 ラ・フェラーリ〉(©Revolution)
MP-05の中核を成すのは、時計の中央軸に沿って縦方向に積み重ねられた複数の香箱である。これらの香箱は直列に連結され、その結果として驚異的な約50日間というパワーリザーブを実現している。
これは今日に至るまで、腕時計としての最長パワーリザーブ記録となっている。

▲最大50日間のパワーリザーブ
縦に積み重ねられた香箱は、まるでエンジンブロック内のピストンを思わせる。巻き上げの際には、ラチェットホイールが最初の香箱をその芯(アーバー)を通じて直接巻き上げ、ゼンマイが締め上げられるにつれて、そのドラムが中間歯車を駆動する。これが次の香箱を巻き上げ、同様の連鎖が続き、最後の香箱まで完全に巻き上げられるのである。
香箱は同軸上に積層されているため、この円柱全体は完全なアライメントを保ちながら、各ドラムが自由に回転できなければならない。その摩擦を最小限に抑え、整列を維持するために、香箱ドラムの側面にはローラージュエルが一直線に配置されている。
11個の香箱によるこのシステムは理論上、最大55日間ムーブメントを駆動可能だが、実際には約50日で停止するよう設計されている。最終段階の低トルク域に入る前に動作を止めることで、パワーリザーブ全域にわたり安定したエネルギー供給を確保しているのである。
この構成は、ムーブメントの直線的でエンジンのような構造を維持しつつ、調速機構を時計の自然な静置姿勢、すなわち水平位置に合わせて配置している。この向きではケージは地面に対して垂直を保ち、縦型トゥールビヨンがその重力平面内を回転することで、重力による歩度変動を平均化する仕組みとなっている。

▲垂直配置のケージと縦型トゥールビヨン。
時刻表示は、回転するドラム(シリンダー)によって行われる。ムーブメント右側には上下に積み重ねられた二つのローラーが配置され、上段が「時」、下段が「分」を示す。
これらのローラーはアルミニウムから削り出され、オープンワークのムーブメントに対して高い視認性を確保するため、鮮やかなラッカーで仕上げられている。
同様の構造は左側にも踏襲されており、もう一つのドラムが残りのパワーリザーブを表示する。

▲時刻は回転式ドラム(シリンダー)によって表示される。
MP-05最大の課題は巻き上げであった。これほど巨大なパワーリザーブは、従来のリューズによる手巻きで巻き上げることはできない。そこでウブロは、ミニチュアドリルのような専用電動ツールを開発し、巻き上げ軸に直接接続して11個すべての香箱を均一に巻き上げられるようにしたのだ。
このツールは安定した巻き上げを可能にすると同時に、時計の持つ工業的で機械的なアイデンティティをいっそう強調している。
フロントには大きく湾曲したサファイアクリスタルが配され、ムーブメントをパノラマのように見渡すことができる。さらに後年のバージョンでは、これを一段と推し進め、ケース全体をサファイアクリスタルで成形することで、最大限の視覚的インパクトを実現している。
〈ビッグ・バン メカ-10 〉— 2016年(45mm)/2025年(42mm)
初代〈ビッグ・バン メカ-10〉は2016年に登場し、当初はブラックセラミックおよびチタニウムケースで展開された。時刻とパワーリザーブ表示だけのムーブメントでありながら、そのデザインは視覚的にきわめて複雑である。
インスピレーションの源となったのは、20世紀初頭にイギリスのフランク・ホーンビーによって発明された組み立て玩具「メカノ(Meccano)」である。
メカノは金属製のストリップやプレート、歯車、プーリー、ナットやボルトなどで構成され、それらを組み合わせることでクレーンや橋、乗り物などの模型を作り上げることができるおもちゃであった。

〈メカ-10〉は、時計のパーツが単なる部品ではなく、それ自体が主役であることを示している。機械であることそのものが価値なのだという思想である。ウブロのムーブメントの中でも、とりわけ大胆にムーブメントそのものを露わにした、きわめて魅力的な存在である。
オープンワーク仕様のキャリバーHUB1201には、通常のメインプレートは存在せず、外周リングを基盤として、そこに各コンポーネントを支えるブリッジが取り付けられている。部分的にスケルトン加工された2つの香箱を並列に搭載している。
並列配置は持続時間よりもトルクを優先する設計思想だが、本ムーブメントは約10日間というロングパワーリザーブを実現している。その理由は、35.2mmという大径サイズにある。内部には通常よりもはるかに大きな香箱を収める十分なスペースが確保されているのだ。
同時に、振動数を21,600vphとやや低めに設定することで、可能な限りのパワーリザーブ性能を引き出している。
裏面には、メカノのセットに用いられる穴あき金属ストリップを思わせる、横方向に配置された3本のブリッジが備わっている。

ムーブメントの中核を成すのは、きわめて精巧なパワーリザーブ表示機構である。実に30点以上の部品から構成されている。文字盤の10時から12時位置の間には、差動歯車機構が視認できる。
巻き上げ時には、ラチェットホイールが中間ピニオンを駆動し、それが差動装置の入力ホイールのひとつを回転させる。
一方、時計が作動している間は、香箱がもう一方の入力ホイールを駆動する。差動装置はキャリア(保持枠)に取り付けられた遊星歯車から構成され、このキャリアは両入力ホイールと連結されている。
両方の入力ホイールが回転すると、遊星歯車は内歯を持つリングギアとかみ合うことで回転する。遊星歯車はキャリアに固定されているため、この作用によりキャリア全体が中央軸を中心に回転する。この中央の回転運動はキャリアのシャフトを通じて上方の出力ピニオンへ伝達される。
差動装置の出力ピニオンは一連の中間歯車を駆動し、最後の歯車に取り付けられたピニオンがデュアル・ラック機構を動かす。このピニオンは上部ラックと下部ラック双方の内歯とかみ合っているため、その回転により2本のラックは互いに逆方向へスライドする。
上部ラックは短い弧を描いて放射状スリットと歯を持つホイールを駆動し、下部ラックには赤いラッカー仕上げのマーカーを備えたホイールが取り付けられている。ラックが移動することで、それぞれのホイールは逆方向に回転する。パワーリザーブ残量が最後の2日間に入ると、赤いマーカーが徐々に姿を現す仕組みだ。
上部ホイールにはスプリングが取り付けられ、常に一定の負荷を与えている。これは、差動装置が巻き上げと作動のバランスに応じた純粋な角度位置のみを出力し、能動的な駆動力を生まないためである。スプリングにより上部ホイールは常にラックおよびピニオン機構に確実にかみ合い、遊びを排除する。
最終的に、上部ホイールは表示窓を駆動し、下部ホイールは0から10までの数字が刻まれたシルバーディスクを回転させる。これらが連動することで、残りのパワーリザーブ日数が示されるのである。

▲文字盤の10時から12時位置の間には、パワーリザーブ機構の歯車が視認できる(©Revolution)

初代メカ-10は45mmケースで登場したが、後にコンパクトな42mmバージョンも発表された。小型ケースに収めるため、新しいキャリバーHUB1205は35.2mmから33.4mmへと縮小されている。
このダウンサイジングに伴い、いくつかの変更が加えられた。まず6時位置のセカンダリー・パワーリザーブ表示が省略された。その結果、3時位置の表示が再設計され、残り2日となった際に現れる赤い警告インジケーターと、残り日数を正確に示す同軸針とを組み合わせた構成となった。
もうひとつのアップデートは、ハック機能(秒針停止機構)の追加である。リューズを引くとテンプが停止し、秒単位で正確に時刻を合わせることが可能となった。

▲〈ビッグ・バン メカ-10 チタニウム〉(2025年)(©Revolution)
さらにHUB1205では、調速機構も機能面・視覚面の双方で改良されている。従来のHUB1201では、伝統的なインデックス式レギュレーターを採用していた。側面のスクリューでレギュレーターアームを調整し、わずかに回動させることで、ヒゲゼンマイに対する緩急針(カーブピン)の位置を変化させる構造である。
これに対しHUB1205では、レギュレーターアームに歯付きの円弧セクターを一体化した新方式へと置き換えられた。微調整は、その歯付きアークとかみ合うスクリューを回すことで行われる。このアークの根元にはフレキシブル構造が設けられており、噛み合う歯同士に常に一定の圧力を保持する。
このフレクシャー構造によりバックラッシュが排除され、双方向においても正確かつ再現性の高い調整が可能となった。その結果、より滑らかでコントロール性に優れ、かつ時計師にとって扱いやすい調速システムへと進化している。

▲キャリバー HUB1205(©Revolution)
〈MP-09 トゥールビヨン バイ-アクシス〉 — 2017年
2017年に発表された〈MP-09 トゥールビヨン バイ-アクシス〉は、ウブロの基準をもってしても大胆不敵なモデルであった。搭載されるキャリバーHUB9009.H1.RAは、単一の香箱から訳5日間のパワーリザーブを引き出す手巻きムーブメントである。

▲〈MP-09 トゥールビヨン バイ-アクシス 5デイズ パワーリザーブ〉
ダブルアクシス・トゥールビヨンは、内側の軸で1分に1回転し、外側の軸で30秒に1回転する。二つの軸は互いに90度の角度で配置されており、脱進機は三次元空間において絶えず姿勢を変化させる構造となっている。
この複雑な機構はケース下半分に収められている。サファイアクリスタルは大きく前方へと湾曲し、トゥールビヨンが文字盤を越えてせり出すような迫力がある。

▲〈MP-09 トゥールビヨン バイ-アクシス 5デイズ パワーリザーブ キングゴールド〉(2017年)
日付表示は進むにつれて、それぞれのインジケーターが1か月の間に半円を描くように動き、ひとつが半円の軌道を終えると同時に、もうひとつが動き始める仕組みとなっている。
日付フィンガーはスネイルカム(渦巻き状カム)によって駆動される。カムの立ち上がる曲線形状が徐々にスプリングへ負荷をかけ、頂点に達するとスプリングが解放され、その反発力によって日付車をちょうど真夜中に1目盛り進める。
各歯がそれぞれの日付に直接対応しているため、ケース左側のクイックセットレバーを使って、日付表示を前後どちらの方向にも調整することが可能である。
〈MP-10 トゥールビヨン ウエイトエナジーシステム〉 — 2024年
マニュファクチュールピースのコレクションにおける最も異色かつ刺激的なモデルが、2024年に発表された〈MP-10 トゥールビヨン ウエイトエナジーシステム〉である。本作は、傾斜トゥールビヨンと、従来の回転式ローターを完全に排した革新的なリニア式自動巻き機構を組み合わせている。
通常のムーブメントでは、中央に軸支された半円形の回転ウェイトが用いられるが、MP-10ではそれに代わり、ガイドレールに沿って直線的に往復運動する2本の平行スライド・マスを採用している。
これらのウェイトには、宝石受けを備えた開口部が設けられ、2本のアーバーに支持されることで、滑らかで低摩擦の動きを実現している。それぞれにラックが取り付けられ、ピニオンおよび歯車列を介して香箱へと動力を伝達する。
特筆すべきは、このシステムが両方向巻き上げを可能にしている点である。前進時も復帰時も香箱を巻き上げる設計となっており、ウェイトのいかなる動きも無駄にされることはない。

▲〈MP-10 トゥールビヨン ウエイトエナジーシステム チタニウム〉(2024年)
この機構には、衝撃を吸収する巧妙なダンピング装置が組み込まれている。ウェイトがストロークの端に達すると、ストッパー付近に配置されたレバーが押される。このレバーが回動しヘリカルスプリングを圧縮する。
スプリングはレバーの動きに抗い、ウェイトがストッパーに接触する前に減速させる。そして蓄えられたエネルギーを解放することで、ウェイトの運動方向を反転させる。
このスプリングとレバーによるダンピング機構は、可動マス本体の内部に巧みに収められており、全体をコンパクトに保っている。

▲垂直配置のウェイトはムーブメントを双方向に巻き上げる。
機械的な独創性にとどまらず、このリニア式巻き上げシステムには設置上の利点もある。従来の回転ローターでは干渉してしまうようなムーブメントにも、組み込むことが可能だからだ。MP-10では、この自由度が最大限に活かされている。
2本のウェイトは、アルミニウム製ローラーで表示される時・分表示を挟むように配置され、隣には円形のパワーリザーブ表示が置かれる。一方、トゥールビヨンと秒表示は傾斜させて設置されている。
トゥールビヨン・キャリッジは、メインプレートに対して35度の角度で取り付けられている。ムーブメントフレームから片持ち(カンチレバー)構造で支えられているため、ケース下端からせり出し、宙に浮かんでいるかのように見える。
テンプと脱進機はこの円錐構造の内部に収められ、ケージは1分に1回転しながら秒表示も兼ねる。円錐面には秒目盛りが印刷され、フレーム側の固定インデックスが、回転するケージを指し示すことで走行秒を読み取る仕組みとなっている。

▲トゥールビヨン・キャリッジは、メインプレートに対して35度の角度で取り付けられている。
このトゥールビヨンはベベルギア(傘歯車)によって駆動されており、水平の輪列から傾斜したキャリッジへと動力を伝達している。この構造はMP-10の彫刻的なアーキテクチャーを強調している。
このモデルは、MPラインが目指してきた理念を体現する、最も鮮やかな実例のひとつである。
〈ビッグ・バン MP-11 14デイ パワーリザーブ〉 — 2018年
2018年に発表されたMP-11は、先行するMP-05およびMP-07に見られた“エンジンブロック”というコンセプトを継承しながら、それをより純粋で、より着けやすい形へと進化させたモデルである。
ケースサイズは45mm、厚さ14.5mm。決して控えめとは言えないが、単なるステートメントピースに終わらず、実際に腕に載せることを前提としたプロポーションになっている。
最大の魅力は、細長く直線的に並ぶ香箱群が、円形のムーブメント内部に巧みに収められている点である。さらに、大型のフルーテッド(溝付き)リューズを用いれば、外部ツールを必要とせずに巻き上げが可能であり、実用性も確保されている。

▲〈ビッグ・バン MP-11 14デイ パワーリザーブ 3Dカーボン〉(2018年)
MP-05が機構を収めるためにケースのフォルムそのものを打ち破ったのに対し、MP-11はその機構をケース内部へきちんと収めている。
7つの香箱は文字盤下部に一直線の地平線を描くように並び、その先端にはローラー式のパワーリザーブ表示が配される。一方、輪列、テンプ、そして時刻表示は文字盤上半分に配置されている。
垂直方向から水平方向への動力伝達は、最終香箱ドラムに施されたヘリカル(斜歯)歯車によっている。この歯は、同じく傾斜歯を持つ中間輪とかみ合い、滑らかに動力を受け渡す構造となっている。

フロントのサファイアクリスタルは、文字盤の下半分に沿ってやわらかく外側へとふくらみ、内部に並ぶ香箱列のカーブをなぞるように形づくられている。
その造形は十分に個性的だが、全体のフォルムが伝統的な“丸い時計”であることで、むしろ印象は強まる。大胆な香箱の並びは、既成概念を壊すのではなく、見慣れた秩序の中に収められることで、いっそう際立ち、思わず目を引く存在となっている。

ウブロのような個性の強い時計は、現代のように市場が保守的で、クラシックな価値観が重んじられる時代には、やや分が悪いかもしれない。だからこそ、こうした時計を生み出すことは、端正なドレスウォッチをつくるよりも、ずっと難しく、大胆な挑戦なのだ。
新しい技術や素材を開発するには大きな投資が必要で、その成果が必ずしも受け入れられるとは限らない。新素材も、新しい機構のアイデアも、すべては「いま」という時代の感性に向けた賭けでもある。
ウブロは他が踏み出さない領域に挑み続けているブランドである。すべての人に好かれるとは言えないかもしれない。それでも、リスクを恐れず、それを自ら引き受けるウブロのような存在があるからこそ、時計の世界は豊かであり続けているのだと思う。
Brands:Hublot
