The Cartier Roadster: On The Road Again
独創のデザイン——カルティエ〈ロードスター〉、再び走り出す
スポーツカーの流麗なフォルムに着想を得て、2002年に誕生したカルティエ〈ロードスター〉。2012年に生産を終えた個性派コレクションが、約14年の時を経て再び動き出した。自動車や航空機など、機械の世界観を巧みに取り入れた独創的なデザインはそのままに、現代の感性で生まれ変わった新作。その魅力と、カルティエの時計製造における〈ロードスター〉の存在意義をひもとく。
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by Felix Scholz. Oct 9, 2026 |
「先駆者」としてのカルティエ
時計の世界では、カルティエといえば、エレガンスや洗練、上質なライフスタイルを象徴するブランドというイメージが強い。もちろん、それは間違いではない。しかし、そうしたイメージだけでは、1世紀以上にわたって時計をデザインしてきたカルティエの奥深さや多彩な魅力を語り尽くすことはできない。
時代とともに人々の好みが変わり、過去への憧れが強まるなか、かつての紳士淑女が身に着けていた小ぶりな金時計は、現代のドレスウォッチと同じように捉えられがちだ。つまり、フォーマルで控えめ、機能性よりも美しさを優先した時計というイメージである。
しかし、カルティエの時計の歴史を振り返ると、必ずしもそうではないことがわかる。カルティエの時計は、単にシャツの袖口に収まる美しい装飾品ではなく、実用性を重視して作られてきた。また、そのデザインには、それぞれの時代の文化や技術が反映されており、機械的な構造物から着想を得たものも少なくない。
その代表例が〈サントス〉だろう。カルティエの先進的なデザインと実用性を象徴するこの時計は、1904年、ブラジル出身の飛行家、アルベルト・サントス=デュモンのために製作されたことで知られている。

▲航空界の先駆者、アルベルト・サントス=デュモン。
よく知られている逸話によれば、サントス=デュモンはある悩みをルイ・カルティエに打ち明けたという。木材と布、金属を組み合わせた簡素な飛行機でフランスの空を飛ぶ際、従来の懐中時計では使い勝手が悪かったのだ。
そこでルイ・カルティエが考案したのが、手首に装着する時計だった。この出来事をきっかけに、カルティエの時計製造の歴史は大きく変わることになる。
この逸話は時計愛好家にはおなじみだが、あまりにも昔の出来事であるため、当時のカルティエの試みがいかに革新的だったかは、見過ごされがちである。
その数年後にも、同じような例が見られる。今やカルティエを象徴する時計となった〈タンク〉だ。第一次世界大戦の混乱が続く時代に、ルイ・カルティエは当時登場したばかりの新兵器である戦車に着目。その大胆なフォルムを腕時計のデザインへ取り入れた。
自動車さえまだ目新しかった時代に、圧倒的な破壊力を持つ戦車のシルエットから、時計のデザインを見いだしたことは、まさに先駆的だった。
こうした着想は、時計に限ったものではない。カルティエのジュエリーにも、実用的な道具や機械の造形を取り入れた例が数多く見られる。その代表格が、ありふれた一本の釘をジュエリーへと昇華させた、伝説的な〈ジュスト アン クル〉である。

▲1919年製のカルティエ〈タンク〉のオリジナルモデル。
〈ロードスター〉の誕生
ここで登場するのが〈ロードスター〉だ。カルティエがモータースポーツの世界を独自の視点で表現したこの時計について、最新モデルを紹介する前に、まずはその誕生を振り返ってみたい。
カルティエを代表するほかの時計とは異なり、〈ロードスター〉の歴史は比較的新しい。2002年に発表された〈ロードスター〉は、新しい時代にふさわしい、まったく新しいデザインのコレクションだった。
航空機が誕生して間もない時代に、その世界から着想を得たカルティエは、それから約1世紀を経て、20世紀を象徴するもうひとつの乗り物、自動車へと目を向けたのである。
時計と同じように、自動車の世界も実に奥深く、多種多様なモデルが存在する。歴史に名を刻んだ名車も数多い。では、カルティエはどのような自動車から着想を得たのだろうか。
そのデザインが生まれた詳しい経緯は明らかになっていないが、カルティエのスタイルやメゾンのイメージ、価値観にふさわしい時代や自動車文化を探し求めたのではないかと想像できる。
ロードスターという言葉が指す自動車の姿は、時代とともに変化してきた。その起源は自動車の黎明期にまでさかのぼる。当時はレースのために、車体を切り詰め、ボディの装備を最小限に抑え、屋根のない運転席を備えた「スピードスター」と呼ばれる車両が製作されていた。
もっとも、カルティエ〈ロードスター〉のデザインは、こうした自動車の黎明期ではなく、もう少し後の時代から着想を得ている。その流麗で空力的なラインが思い起こさせるのは、20世紀半ばのスポーツカーだ。例えば、エルヴィン・コメンダがデザインしたポルシェ356。美しい曲線を描くそのボディは、実際に速く走るだけでなく、見る者にも速さを感じさせる傑作だった。
しかし、〈ロードスター〉が表現しているのは、特定の自動車のデザインというよりも、スピードそのもののイメージだろう。道路を駆け抜ける自動車と、手首の上で時を刻む時計。両者には、絶え間なく続く動きが生み出す、複雑で優美なリズムという共通点がある。
〈ロードスター〉の進化
カルティエが〈ロードスター〉を発表した2002年は、時計業界にとって大きな転換期だった。〈ロードスター〉はカルティエにとって21世紀最初の新コレクションであり、その誕生には当時の時計業界の流れが色濃く反映されている。
1970〜80年代、スイスの時計産業はクォーツ時計の普及によって大きな打撃を受けた。しかし、1990年代に入ると機械式時計の人気が再び高まり、時計業界は復興の時代を迎える。時計は単に時刻を知るための道具ではなく、所有する喜びやステータスを感じさせる存在として、改めて注目されるようになった。
機械式ムーブメントの技術革新が進み、斬新なケースデザインや新素材、鮮やかな色彩を取り入れた時計が次々と登場。時計に深い知識を持つ愛好家やコレクターの存在感も増していった。
こうして21世紀を迎えた時計業界では、伝統を受け継ぎながら、それを現代的なデザインや技術によって進化させようとする動きが活発になっていた。その象徴のひとつが、トノー型ケースの再評価である。
「トノー」とはフランス語で「樽」を意味し、縦長で両側が緩やかに膨らんだケース形状を指す。実は、腕時計の歴史のなかでも古くから使われてきたデザインだ。カルティエは1906年に〈トノー〉を発表しており、1921年に誕生した〈タンク サントレ〉にも、その曲線を生かしたデザインの流れを見ることができる。
トノー型ケースは、カルティエだけでなく、さまざまな時計メーカーに採用されてきた。その魅力は、独特の美しさに加えて、実用性にもある。縦長の形状は手首に収まりやすく、両側に膨らみを持たせることで、同じような大きさの直線的なケースよりも、ムーブメントや文字盤のためのスペースを広く確保できるのだ。

▲1906年に発表されたカルティエ〈トノー〉
20世紀を通じて、トノー型ケースは時計の定番デザインのひとつとして親しまれてきたが、1990年代から2000年代初頭にかけて、その人気は急速に高まった。近年、ブレスレット一体型の時計が再び注目を集めているのと似た現象だ。
その理由はいくつかあるが、何よりも丸型時計が主流のなかで、トノー型のフォルムが新鮮に映ったことが大きい。また、手首の上で強い存在感を放つだけでなく、歴史の浅い新興ブランドにとっては、自社に長い歴史がなくても、時計製造の伝統を感じさせるデザインを取り入れられるという利点もあった。
もちろん、カルティエにはそうした事情は当てはまらない。すでに述べたように、カルティエとトノー型ケースの歴史は20世紀初頭にまでさかのぼる。その伝統的なフォルムを21世紀にふさわしい姿へと進化させることは、ごく自然な流れだった。そして〈ロードスター〉は、まさに現代的な感覚を体現した時計だったのである。
こうした時代背景のなか、カルティエは2002年に新作〈ロードスター〉を発表した。クラシックなトノー型ケースを基本としながら、カルティエを代表するほかの時計のデザイン要素も取り入れた、まったく新しいフォルムが特徴だった。なかでも、ひときわ目を引いたのがリューズである。
通常、時刻合わせやゼンマイの巻き上げに使うリューズは、ケースから独立した機能部品として設けられる。しかし、〈ロードスター〉ではリューズをケースの造形に巧みに組み込み、さらに文字盤や風防のデザインとも一体化させていた。その独創的な造形は、一目で〈ロードスター〉とわかるほど強い個性を放っている。
数年後にカルティエが発表した〈バロン ブルー ドゥ カルティエ〉にも、同じように印象的なリューズが採用されたことを考えると、〈ロードスター〉での経験が、そのデザインにも生かされたのではないだろうか。
ケースから滑らかにつながり、日付表示の拡大レンズへと続くリューズ周辺の造形は、自動車デザインの黄金時代を思わせる。例えば、シボレー〈コルベット C1〉や、ヨーロッパを代表するポルシェ356といった名車に見られる、流線形のヘッドライト周辺のデザインだ。
このデザインが優れているのは、特定の自動車を直接模倣していない点にある。往年の名車を思わせる要素は確かに感じられるものの、どれか一台を再現したわけではない。自動車の美しい造形を巧みに取り入れながら、カルティエ独自の時計デザインへと昇華させているのである。
一方、カルティエの時計に詳しい愛好家にとっては、初期の〈ロードスター〉の文字盤も興味深いものだろう。カルティエといえば、独創的なケース形状とともに、長年受け継がれてきた特徴的な文字盤デザインでも知られている。むしろ文字盤のデザインは、ケース以上に一貫したスタイルを守ってきたといえる。
ところが、初期の〈ロードスター〉は、その伝統的なスタイルから大きく踏み出していた。明るい色の文字盤に剣型針、ローマ数字のインデックスというおなじみの組み合わせに代わり、採用されたのは、よりスポーティーなデザインだった。
アラビア数字を配した文字盤には、中心から放射状に広がる目盛りが設けられ、時刻を示す大きな表示と、その間にある細かな分目盛りが交互に並ぶ。さらに、外周には細かな分目盛りを備えたリング状のスケールが配置されていた。その印象は、まるでクラシックカーのスピードメーターのようだ。
文字盤にはいくつかのバリエーションが存在したが、なかには夜光塗料を施したアワーマーカーと、赤色で交互に印刷された分表示を組み合わせたモデルもあった。その姿は、クラシックなポルシェの計器類を思わせるものだった。

▲アラビア数字の文字盤を備えたカルティエ〈ロードスター〉(Image:The Diamond Box)
鮮烈なデビューを飾った〈ロードスター〉は、その後もバリエーションを増やしながら進化を続けた。2003年には、このコレクションに最もふさわしい複雑機構ともいえるクロノグラフが登場する。
このモデルでは、自動車の計器盤を思わせるデザインがやや控えめになり、文字盤にはカルティエらしいローマ数字のインデックスが復活した。それでも、わずかに楕円形を描くインダイヤルなど、自動車から着想を得たディテールは随所に残されている。
もちろん、〈ロードスター〉を象徴するリューズやケース、風防の独創的な造形はそのままに、リューズの両側にはスポーティーなクロノグラフ用プッシュボタンが追加された。

▲カルティエ〈ロードスター〉 XL クロノグラフ(Image:The Watch Club London)
2005年には〈ロードスター〉に小型サイズが追加され、翌2006年にはステンレススティールとゴールドを組み合わせたコンビモデルや、GMT機能を備えたモデルが登場した。2008年からはカラーバリエーションも充実し、淡いブルーやピンク、パープルを取り入れたモデルが、スポーティーなデザインに夏らしい軽やかさを加えた。
そして2010年、〈ロードスター〉の初期展開が終盤を迎えるなか、コレクションに大きな変化をもたらす〈ロードスター S〉が発表された。
▲左:カルティエ〈ロードスター〉 右:カルティエ〈ロードスター S〉
〈ロードスター S〉では、それまでの〈ロードスター〉を特徴づけていたデザインが、大胆に簡略化された。なかでも大きな変更点は、ケースと一体化した立体的なリューズ周辺の造形が見直されたことだ。
上から見たリューズの輪郭は従来と変わらないものの、風防とケースはよりフラットになり、全体としてシンプルですっきりとしたデザインに仕上げられた。一方、文字盤にはオリジナルモデルのデザイン要素が受け継がれている。
また、ケースのビスがなくなり、ステンレススティール製ケースにブラックADLC加工のベゼルを組み合わせたモデルや、ブレスレットのような形状を持つラバーストラップを備えたモデルも登場した。
〈ロードスター S〉は、従来のデザインをよりシンプルに再解釈したモデルだったが、スポーティーな個性とひと目でそれとわかる独特のフォルムは健在だった。
そして2012年、カルティエは約10年間にわたって展開してきた〈ロードスター〉の生産を終了した。しかし、〈ロードスター〉が人々の記憶から消えることはなかった。カルティエの歴代モデルへの関心が高まるにつれ、比較的新しい時代に生まれたこの名作も、中古市場で再び注目を集めるようになったのである。
やがてカルティエは、〈ロードスター〉を再び世に送り出すことを決断した。そして2026年、その復活を披露する時が訪れた。
〈ロードスター〉の復活
ここ10年ほどのカルティエの新作を追いかけてきた人なら、メゾンが過去の名作を慎重に見直し、現代的にアップデートしてきたことに気づいているだろう。
2017年には、1980年代に一世を風靡した〈パンテール ドゥ カルティエ〉が復活。2018年には、1904年に誕生した〈サントス〉を1970年代に再解釈した〈サントス ドゥ カルティエ〉が刷新された。
2020年には、ジェラルド・ジェンタが手がけたデザインのなかでも比較的知られていなかった〈パシャ ドゥ カルティエ〉が、洗練された姿で生まれ変わった。さらに2023年には〈タンク フランセーズ〉がリニューアル。
そして今回、ついに〈ロードスター〉が復活を果たしたのである。

▲〈ロードスター〉は、機械の世界から着想を得たカルティエの時計の系譜に連なるモデルだ。そのデザインには、20世紀半ばの自動車の意匠が取り入れられている(©Revolution)
今回の復活にあたり、カルティエが選んだのは、〈ロードスター〉のクラシックなデザインだった。現時点で発表されているのは時刻と日付を表示するモデルのみだが、クロノグラフが登場する日もそう遠くはないだろう。
サイズはミディアムとラージの2種類で、ケース素材はステンレススティール、ステンレススティールとイエローゴールドのコンビ、イエローゴールドの3種類が用意される。ラージモデルは縦47.2×横38.7mm、厚さ10.06mm。ミディアムモデルは縦42.5×横34.92mm、厚さ9.7mmとなっている。いずれもケースが緩やかにカーブしているため、手首への収まりは良好だ。
全7モデルのうち6モデルには、ローマ数字を配したホワイトダイヤルを採用。いずれもブレスレットとレザーストラップが付属し、カルティエ独自の「クィックスイッチ」システムによって簡単に交換できる。
この6モデルだけでも、統一感のあるコレクションのなかで、実に幅広い選択肢が用意されていることがわかる。では、残る1モデルはどうだろうか。
今回の〈ロードスター〉復活を象徴する存在が、ステンレススティール製のラージモデルだ。こちらはおなじみのホワイトダイアルではなく、深みのあるブルーPVDダイアルを採用している。
さらに、ブレスレットに加えてネイビーブルーのラバーストラップが付属し、スポーティーな印象をいっそう強めている。このラバーストラップは、かつての〈ロードスター〉と同様にブレスレットのリンクを思わせるデザインで、装着すると意外なほどカジュアルな表情を見せてくれる。
ここまでが新しいコレクションの概要だが、細部に目を向けると、何が変わったのだろうか。実は、変わらなかった部分から説明するほうが簡単かもしれない。カルティエが過去の名作を復活させる際によく見られるように、基本的なデザインはそのままに、細部の完成度を高めることで魅力を引き出しているからだ。
例えば、円錐形のリューズがそうだ。オリジナルの〈ロードスター〉を特徴づけていた、ケースと一体化したリューズの造形はすべて受け継がれている。しかし、そのディテールには細かな改良が施され、より洗練された印象になった。
文字盤側の角度をわずかに広げることで、リューズ周辺の輪郭は台形に近づき、ケースとのつながりもいっそう明快になっている。また、サファイアクリスタルの下にある独特な形状の日付表示窓には、光を反射する縁取りが加えられ、視覚的な存在感が高められた。
さらに、〈ロードスター〉を象徴するもうひとつのディテールにも変更が加えられている。従来のモデルでは、ケース上面のビスがラグのくぼみに収められていた。

▲ゴールド製の〈ロードスター〉では、洗練されたケースの仕上げと文字盤のデザインが際立っている(©Revolution)
今回の新作では、これらのビスがベゼルへと移され、従来の自動車や工業製品を思わせる魅力を残しながら、ケースの輪郭がよりすっきりとした印象になった。ほかにも、ケース形状には細かな変更が加えられている。
ラグの周囲ではケース側面が外側へと広がり、ポリッシュ仕上げのベゼルも全体的に幅が増したことで、ケースにはいっそうの重厚感が生まれている。個々の変更は小さなものだが、それらが積み重なることで、現代のカルティエにふさわしいプロポーションと品質を備えた、確かな進化を感じさせる時計に仕上がった。
こうした細部へのこだわりは、文字盤にも及んでいる。すべてのモデルにスーパールミノバ®を施した剣型針が採用され、ブルーPVDダイアルモデルでは数字にもブルースーパールミノバ®が充填されている。
ステンレススティールモデルにはブルー剣型針、イエローゴールドモデルとイエローゴールド×ステンレススティールモデルにはイエローゴールド仕上げの剣型針が採用されている。一方、ブルーPVDダイアルモデルではシルバー仕上げのインデックスとロジウム仕上げの針が組み合わされている。
インデックスの内側には、カルティエ伝統のレイルウェイ式とは異なるミニッツトラックが設けられ、長さの異なる目盛りが配されている。ブルーPVDダイアルモデルのみ、5分ごとの目盛りにスーパールミノバ®を塗布した夜光マーカーを備える。文字盤中央はマット仕上げ、外周には円形の筋目模様が施され、さりげなくスピードメーターを思わせるデザインとなっている。
▲中央のミニッツトラック、夜光マーカー、多彩な仕上げを備えた〈ロードスター〉の文字盤。カルティエらしいクラシックなデザインを基調としながら、バランスのよさと抑制の効いた美しさを見事に表現している。(Image:Julien T. Hamon © Cartier)
洗練されたケースに続いて、この時計の大きな見どころとなるのが、完成度の高い文字盤だ。カルティエらしさをしっかりと受け継ぎながら、これまでとは少し異なる表情を見せている。しかも、スピードメーターからの着想を過度に強調することなく、絶妙なバランスにまとめ上げている。
ここでもカルティエは、デザインにおけるバランスと引き算の美学を見事に示している。

▲モデルを問わず、〈ロードスター〉は日常使いに最適な一本であり、汎用性と実用性を兼ね備えている。
もちろん、自動車をモチーフにした時計について語る以上、時計の「エンジン」、すなわち一般的にムーブメントと呼ばれる機構について触れないわけにはいかない。ただし、今回に限っては話はいたってシンプルだ。
このクラスのカルティエの時計では、高級時計製造における複雑な機構や技巧よりも、信頼性とデザインが重視されているからだ。ラージモデルにはキャリバー1847 MC、ミディアムモデルにはキャリバー1899 MCが搭載される。いずれも十分な性能を備えた自動巻きムーブメントで、パワーリザーブはラージモデルが約40時間、ミディアムモデルが約39時間となっている。
新しい〈ロードスター〉は、オリジナルの魅力を的確に表現し、完成度の高い復活を遂げたモデルといえる。しかし、カルティエの愛好家にとっては、いくつかの疑問が浮かぶだろう。
なぜ10年以上の時を経て、この時計が復活したのか。誰に向けたモデルなのか。そして、なぜ今なのか。あくまで傍観者としての予測ではあるが、近年、時計製造の分野でますます人気を高めているカルティエは、難しい課題に直面しているように思える。
カルティエは何よりも、エレガントな造形の時計を生み出すメゾンとして知られている。したがって、新たなケースデザインを継続的に生み出していくことが、自然な方向性となるはずだ。しかし、時計製造に携わる者なら誰もが認めるように、時計のケースに採用できる形状には限りがあり、デザインを誤るリスクも大きい。

▲ダークブルーのPVD文字盤、ラバーストラップ、存在感のある一体型リューズを備えたカルティエ〈ロードスター〉。その大胆なフォルムは、造形美と機能性を見事に融合させている(©Revolution)
より現実的なのは、過去の人気モデルを復活させることだ。そうしたモデルは、かつて愛用していた人々や、その時計に憧れていた人々から高い評価を得ていた。実際、〈パンテール ドゥ カルティエ〉などの復活は成功しており、〈ロードスター〉にも同様の成功が期待できる。
ただし、〈ロードスター〉の魅力は、しなやかで優美な〈パンテール〉とは大きく異なる。では、〈ロードスター〉はどのような人に向けた時計なのだろうか。もちろん、誰が着けても似合う汎用性を備えているが、基本的には日常使いを想定した実用的な時計といえる。
洗練されたデザインと堅牢さを兼ね備え、さまざまな場面で活躍するモデルなのだ。その点では〈サントス ドゥ カルティエ〉に近い存在だが、〈ロードスター〉はより曲線を生かしたデザインによって、独自の個性を打ち出している。
そして、最も興味深いのは、復活した〈ロードスター〉が今後どのように進化していくのかということだろう。カルティエには長い歴史を持つモデルが数多く存在するが、〈ロードスター〉はそのなかでは比較的新しいコレクションだ。それだけに、過去のデザインを受け継ぐだけでなく、これから独自の歴史を築いていく可能性を十分に秘めている。
Tech Specs
カルティエ〈ロードスター〉(ラージモデル)
▲左から:WSRD0020(ステンレススティール)、W2RD0010(18Kイエローゴールド×ステンレススティール)、WGRD0012(18Kイエローゴールド)(Image:Antoine Pividori © Cartier)
リファレンス:WSRD0020(ステンレススティール)、W2RD0010(18Kイエローゴールド×ステンレススティール)、WGRD0012(18Kイエローゴールド) ムーブメント:自動巻きキャリバー1847 MC、パワーリザーブ約40時間 機能:時・分・秒表示、日付表示 ケース:47.2×38.7×10.06mm、ステンレススティール、18Kイエローゴールド×ステンレススティール、または18Kイエローゴールド、100m防水 文字盤:ホワイト、ローマ数字インデックス、グリーンのスーパールミノバ®を塗布した剣型針 ストラップ:ステンレススティール製ブレスレット、およびスティール製フォールディングバックル付きネイビーブルーのアリゲーターレザーストラップ(WSRD0020)。18Kイエローゴールド×ステンレススティール製ブレスレット、およびスティール製フォールディングバックル付きグレーのアリゲーターレザーストラップ(W2RD0010)。18Kイエローゴールド製ブレスレット、およびスティール製フォールディングバックル付きグレーのアリゲーターレザーストラップ(WGRD0012)。すべてクィックスイッチ交換可能システムを搭載¥1,676,400(ステンレススティール)、¥3,313,200(18Kイエローゴールド×ステンレススティール)、¥9,438,000(18Kイエローゴールド)
カルティエ〈ロードスター〉(ミディアムモデル)
▲左から:WSRD0019(ステンレススティール)、W2RD0009(18Kイエローゴールド×ステンレススティール)、WGRD0011(18Kイエローゴールド)(Image:Antoine Pividori © Cartier) リファレンス:WSRD0019(ステンレススティール)、W2RD0009(18Kイエローゴールド×ステンレススティール)、WGRD0011(18Kイエローゴールド) ムーブメント:自動巻きキャリバー1899 MC、パワーリザーブ約39時間 機能:時・分・秒表示、日付表示 ケース:42.5×34.92×9.7mm、ステンレススティール、ステンレススティール×18Kイエローゴールド製ベゼル、または18Kイエローゴールド、100m防水 文字盤:ホワイト、ローマ数字インデックス、グリーンのスーパールミノバ®を塗布した剣型針(スティールモデルはブルースティール製、コンビおよびゴールドモデルはイエローゴールド仕上げのスティール製) ストラップ:ステンレススティール製ブレスレット、およびスティール製フォールディングバックル付きネイビーブルーのアリゲーターレザーストラップ(WSRD0019)。18Kイエローゴールド×ステンレススティール製ブレスレット、およびスティール製フォールディングバックル付きグレーのアリゲーターレザーストラップ(W2RD0009)。18Kイエローゴールド製ブレスレット、およびスティール製フォールディングバックル付きグレーのアリゲーターレザーストラップ(WGRD0011)。すべてクィックスイッチ交換可能システムを搭載 ¥1,544,400(ステンレススティール)、¥3,022,800(18Kイエローゴールド×ステンレススティール)、¥8,514,000(18Kイエローゴールド)
カルティエ〈ロードスター〉(ラージモデル)
(Image:Antoine Pividori © Cartier)
リファレンス:WSRD0014 ムーブメント:自動巻きキャリバー1847 MC、パワーリザーブ約40時間 機能:時・分・秒表示、日付表示 ケース:47.2×38.7×10.06mm、ステンレススティール、100m防水 文字盤:ブルーPVD仕上げ、ブルーのスーパールミノバ®を塗布したローマ数字インデックス、同じくブルーのスーパールミノバ®を塗布したロジウム仕上げのスティール製剣型針 ストラップ:ステンレススティール製ブレスレット、およびスティール製フォールディングバックル付きネイビーブルーのラバーストラップ。いずれもクィックスイッチ交換可能システムを搭載 ¥1,676,400
Brands:Cartier
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