Hublot Hits Rewind
蘇った創業者の魂——ウブロ〈クラシック・フュージョン トリビュート〉
1980年、ゴールドケースとラバーストラップという異色の組み合わせで時計業界に衝撃を与えたウブロ。その創業者カルロ・クロッコへ敬意を表し、46年の時を経てブランドの原点に立ち返った。新作〈クラシック・フュージョン トリビュート〉は、初代モデルのミニマルなデザインを忠実に受け継ぎながら、マニュファクチュール自動巻きムーブメントを搭載した現代のタイムピースだ。イエローゴールドとホワイトゴールドの2モデルに込められた、ウブロの過去と未来をつなぐ物語を紐解く。
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by Revolution. Oct 15, 2026 |
大成功した「注目されなかった時計」
1980年のバーゼルフェアが開幕してからの2日間、カルロ・クロッコはある問題に頭を悩ませていた。ゴールド製の時計にラバーストラップを組み合わせるというアイデアの実現に3年を費やし、イタリアからスイスへ移住して、その時計を製造するための会社まで設立したというのに、ブースを訪れて時計を見ようとする人がなかなか現れなかったのだ。
そこでついに、クロッコは妻とともに材料を買いに出かけ、ショーウインドーに「ラバーストラップ」と書いて掲示することにした。そうすれば、少しは来場者の興味を引き、ブースに足を運んでもらえるかもしれないと考えたのである。

▲ウブロ〈クラシック・フュージョン ホワイトゴールド〉を着用するカルロ・クロッコ。
しかし、2日目か3日目にはウブロが人々の話題に上るようになり、数カ月も経たないうちに、ヨーロッパの王族たちがその時計を購入し始めた。ギリシャ国王コンスタンティノス2世は2本を購入し、1本を自分用に、もう1本を義理の兄弟にあたるスペイン国王フアン・カルロス1世に贈った。
その後も王族の顧客が増え続け、実業家や企業経営者、さらには国際的な社交界を彩るファッショナブルな人々へと支持が広がっていった。彼らこそが、やがてウブロの中核的な顧客層となっていくのである。
当時の時計業界の状況を考えれば、新興ブランドがこれほどの成功を収めたことは驚くべき快挙だった。1980年代、時計業界は極めて厳しい時代を迎えていた。日本製クォーツ時計が市場の大きなシェアを奪い、スイスの老舗時計メーカーが次々と廃業に追い込まれていたのだ。
そんな時代にクロッコが打ち出した答えは、直径36mmのゴールド製ケースに、ほとんど装飾のないシンプルなブラックダイアル、ベゼルを囲む12本のビス、そしてバニラの香りをまとわせたラバーストラップを組み合わせたクォーツ時計だった。
クロッコはこう語る。
「私は、単に美しいゴールドウォッチをもうひとつ作りたかったわけではありません。新しいデザイン言語を提示したかったのです。スイスの時計製造が誇る品質と真摯なクラフツマンシップに、より現代的でミニマル、そして創造性に富んだデザイン感覚を融合させること。それが私の考えでした。当時、ゴールドウォッチにラバーストラップを組み合わせるという発想は革新的でした。しかし、私にとってそれは、単に人々を驚かせるための挑発ではありませんでした。調和、快適さ、そして現代性を追求した結果であり、イタリアらしいスタイルの表現だったのです」

▲MDM ジュネーブが1980年に発表した初代〈クラシック〉。ラバーストラップを採用した世界初のラグジュアリー・スポーツシックウォッチ。
MDM ジュネーブの誕生
クロッコは、イタリアの時計業界に深く関わる家庭で育った。一族はロンジンをはじめとするスイスの時計ブランドの販売代理店を営む一方、ブレイルやヴェッタのブランド名で時計の開発も手がけていた。
1969年に家業に加わったクロッコは、若い顧客層をターゲットとした手頃な価格帯のモデルを担当することになった。しかし、彼自身の志向は、より高級な時計づくりに向けられていた。
1970年代半ば、クロッコは妻の名前にちなんで「マリー・ダニエル」と名付けたコレクションの開発に着手した。そのうちの1本は、ジュネーブのケースメーカーであるフックスと共同で製作されたもので、装飾を排したシンプルなケースの周囲に12本の小さなビスを配したデザインが特徴だった。
ある同僚が、このデザインをスポーツウォッチに応用してはどうかと提案したことをきっかけに、クロッコはさまざまなストラップやブレスレットの試作を始めた。
ゴールドやステンレススティールも試されたが、いずれも採用には至らず、最終的にチームがたどり着いた素材がラバーだった。イエローゴールドとブラックの組み合わせは見栄えがよかったものの、高級時計にふさわしいストラップを作り上げることは、予想以上に困難だった。
クロッコはイタリアの研究機関やゴム製造の専門家たちと協力し、最終的にスティール製のインサートを組み込んだ構造を完成させた。バニラの香りを加えたことも、当時としては異例の試みだった。こうしてストラップを完成させるまでに、実に3年の歳月が費やされた。
時計の名前も、意外なほど何気ない会話から生まれた。クロッコはスイスのケースメーカー、エリック・ボネと、開閉式の保護カバーを備えたモデルについて話し合っていた。その際、ボネがその形状を船の舷窓に似ていると指摘したのだ。
舷窓はフランス語で「Hublot(ウブロ)」という。カバー付きの時計そのものはそれほど人気を得られなかったが、その名前は残されることになった。
会社は当初、妻の名前に由来する「Marie-Danielle Montre」の頭文字を取って、MDM ジュネーブと名付けられていた。しかし、ウブロが成功を収めるにつれ、時計の名前が次第に会社名を上回る知名度を獲得していった。
その成功は紛れもないものだった。1980年代半ばには、クロッコは自身のデザインを模倣した時計を製造するメーカーへの対応に、多大な時間と費用を費やすようになっていた。

▲ヴィンテージのウブロ〈クラシック〉
ジャン-クロード・ビバーの時代
その後の20年間、ウブロは高級時計業界において、独自の個性を持ちながらも広く認知されるブランドとしての地位を確立していった。そして、ジャン-クロード・ビバーが登場する。

▲ジャン-クロード・ビバー。
ビバーは2004年にウブロの経営に参画し、翌2005年には〈ビッグ・バン〉を発表した。彼はクロッコが生み出したラバーストラップ、露出したビス、舷窓を思わせるベゼルといったデザイン要素を継承しながら、ケースサイズを大型化し、より複雑なケース構造を採用した。
1980年に誕生した控えめなゴールドウォッチの面影は薄れたものの、その後継モデルは、まさに当時の時計業界が求めていたものだった。ウブロはビバー自身の言葉を借りれば「ディスラプター(既存の秩序を打ち破る者)」となり、商業的に大きな成功を収めた。そして2008年、LVMHによって買収された。

▲ウブロ〈ビッグ・バン〉
自身が創業した会社の経営から離れた後も、クロッコはウブロの歩みを見守り続けてきた。彼は語る。
「ウブロを他の人々に託すことは、決して簡単な決断ではありませんでした。なぜなら、何もないところから自分で生み出したものには、いつまでも深い個人的な思い入れが残るからです。私は距離を置きながらも、常に会社の動向を注意深く見守ってきました。当然ながら、その方向性に強く共感できるときもあれば、自分だったら違う選択をしただろうと思うときもありました」
具体的にどのような選択を変えたかったのかについては明言を避けるクロッコだが、ウブロが遂げてきた飛躍的な進歩については高く評価している。
ニヨンに自社マニュファクチュールを設立したことから、クロノグラフムーブメント「ウニコ」や「メカ-10」をはじめとする自社製ムーブメントの開発に至るまで、その進化は目覚ましい。
なかでも彼が最も心を躍らせているのは、素材技術の進歩だ。1980年当時には想像すらできなかったような素材の組み合わせが、次々と実現されているのである。

▲コラムホイールを備えたフライバッククロノグラフムーブメント、自動巻きマニュファクチュールキャリバー「MHUB1280 ウニコ」

▲ウブロ〈ビッグ・バン メカ-10〉(©Revolution)
クロッコは語る。
「ある意味で、現在のウブロは、私がかつて思い描いていた姿になったといえるでしょう。当初のアイデアは、時代を超えて生き続けるだけの力を持っていたのです。ブランドがこれほどの規模に成長したことを、うれしく思っています。世界的な知名度を獲得し、真のマニュファクチュールへと発展を遂げたことは、私が事業を始めた当時には、まったく想像もつかなかったことなのです」
ウブロ創業時の理念への回帰
2024年にジュリアン・トルナーレがCEOに就任すると、彼が約40年前に誕生した初期のウブロに関心を寄せているという噂が広まり始めた。
ゼニスやヴァシュロン・コンスタンタンで要職を歴任してきたトルナーレは、まずウブロの歴史を深く掘り下げることから、その仕事をスタートさせた。

▲ウブロCEOのジュリアン・トルナーレ。
トルナーレはこう語る。
「初代ウブロは、時計の魅力が必ずしも複雑さや過剰な装飾から生まれるわけではないことを、私たちに思い出させてくれます」
彼が初代モデルの特徴として挙げるのは、シンプルさ、明快さ、ひと目でそれとわかるシルエット、そしてもちろん、異なる素材の大胆な組み合わせだ。
▲ウブロ〈クラシック・フュージョン トリビュート〉のスケッチ。
「初代モデルは、たとえミニマルなデザインであっても、ウブロが豊かな表現力と独自の個性を発揮できることを証明しています」
そして、初代ウブロがバーゼルフェアに登場してから46年。トルナーレはクロッコを再びウブロに招き、共同で時計づくりに取り組むことを提案した。
ウブロ〈クラシック・フュージョン トリビュート〉

▲ウブロ〈クラシック・フュージョン トリビュート〉 262.VX.1130.RX.MDM(イエローゴールド)、262.WX.6870.RX.MDM(ホワイトゴールド)
こうして誕生したのが〈クラシック・フュージョン トリビュート〉である。一見すると、1980年に発表された初代モデルと見間違えるほど、その姿はよく似ている。
クロッコが最も懸念していたのは、1980年に発表したオリジナルモデルが、そもそも装飾を極限まで削ぎ落としたデザインであったため、わずかな変更でも当初のデザインを損なうおそれがあるということだった。
クロッコは語る。
「私は、この時計のアイデンティティを形づくる要素を守ることに、とりわけ細心の注意を払いました。ダイアルの純粋さ、ケースのバランス、特徴的なビス、そしてもちろん、MDMのロゴです」
クロッコにとって、これらは単なる表面的なディテールではない。どれかひとつでも失われれば、初代ウブロが持っていた真の精神も失われてしまうのである。
新しいケースの直径は38mmで、クロッコが手がけた初代モデルよりわずか2mm大きく、厚さは9.5mm。ベゼルには、わずかに丸みを帯びた12本のビスが引き続き配され、一般的なインデックスを持たないダイアルにおいて、時刻を読み取るための目印として機能している。
日付表示は3時位置に設けられ、ラバーストラップは露出したラグに直接取り付けられている。現代のウブロの多くのモデルに採用されているストラップ交換システム「ワンクリック」は搭載されていない。

▲ウブロ〈クラシック・フュージョン トリビュート〉
バリエーションは2種類が用意される。イエローゴールドモデルは1980年の初代モデルに最も近い仕様で、マットブラックのダイアルにゴールド製の針を組み合わせ、6時位置にはMDMのイニシャルが配されている。
一方、ホワイトゴールドモデルは、ポリッシュ仕上げのブラックオニキス製ダイアルを採用し、ベゼルのビスにはブラックコーティングを施したチタニウムが使用されている。いずれも100m防水を備える。

▲ウブロ〈クラシック・フュージョン トリビュート〉
初代モデルに搭載されていたクォーツムーブメントに代わり、新作にはウブロのマニュファクチュール自動巻きキャリバー「HUB1711」が採用された。185個の部品で構成され、約50時間のパワーリザーブを備える。
サファイアクリスタル製のケースバックからは、H字型のローターを鑑賞できる。ローターの素材は、イエローゴールドモデルでは18Kイエローゴールド、ホワイトゴールドモデルではブラックタングステンが使用されている。

▲ウブロ〈クラシック・フュージョン トリビュート〉の自動巻きキャリバー「HUB1711」
クロッコは語る。
「オリジナルを尊重するということは、ただ盲目的に再現することではありません。時計は、その時代に生きるものでなければなりません。目指しているのは博物館に展示するような時計を作ることではなく、当初のアイデアを生き続けさせることなのです。今回の時計に自動巻きムーブメントが搭載されたことを、とてもうれしく思っています!」
クロッコが時計づくりを始めた頃から使ってきた「MDM」というイニシャルには、現在、もうひとつの意味が込められている。1998年、彼はインド、スイス、イタリアでのさまざまなプロジェクトを通じて、困難な状況に置かれた子どもたちや家族を支援する「Main Dans la Main(マン・ダン・ラ・マン)財団」を設立した。
ウブロを離れて以来、クロッコは多くの時間をこの財団の活動に捧げてきた。その取り組みには、精神的な問題を抱える子どもたちや自閉症の子どもたちのための、治療・療育を目的とした農場の運営なども含まれている。今回の新作発表を記念して、ウブロは同財団に10万スイスフランを寄付する。

▲ウブロ〈クラシック・フュージョン トリビュート〉
クロッコは語る。
「ウブロの時計にMDMのイニシャルが刻まれているのを見ることは、私にとって非常に個人的な意味を持っています。もともとMDMは、妻のマリー・ダニエルに由来するものでした。つまり、最初から私の人生における親密で大切な存在と結びついていたのです。その後、この3文字は、私が子どもたちのために設立した財団『マン・ダン・ラ・マン』をも意味するようになりました。ですから、この3文字には、私自身の物語と、人々を支援するという使命の両方が込められています。それが再びウブロの時計に刻まれることは、私にとって非常に感慨深いことなのです」
一方、トルナーレはすでに、ウブロの初期の歴史から、ほかにどのような価値を見いだせるかを考え始めている。ウブロが持つアヴァンギャルドな側面を決して捨てるつもりはないとしながらも、創業当初に存在していた繊細さやミニマリズムも忘れずにいたいと語る。

▲ウブロ〈クラシック・フュージョン トリビュート〉 のバックルとラバーストラップ。
では、クロッコ自身は〈クラシック・フュージョン トリビュート〉のどちらのモデルを選ぶのだろうか。その答えは、ほぼ明らかなようだ。
「ええ、今回の新作には満足しています。非常によくできた時計だと思いますし、特にイエローゴールドモデルは完璧だと思います」
かつてバーゼルフェアで、自らのブースに来場者を呼び込むことに苦労していた男が、半世紀近い時を経て、自身が創業した会社へと戻ってきた。そして、その会社は今、当時とほとんど変わらない姿の時計を再び世に送り出そうとしている。
ただし今回は、ラバーストラップの存在をわざわざアピールする必要など、きっとないだろう。
Tech Specs
ウブロ〈クラシック・フュージョン トリビュート〉 リファレンス: 262.VX.1130.RX.MDM(イエローゴールド)、262.WX.6870.RX.MDM(ホワイトゴールド) ムーブメント: 自動巻きキャリバー HUB1711、18Kイエローゴールド製またはブラックタングステン製ローター、パワーリザーブ約50時間 機能: 時・分・秒表示、日付表示 ケース: 直径38mm、厚さ9.5mm。ポリッシュ&サテン仕上げの18Kイエローゴールドまたはポリッシュ仕上げの18Kホワイトゴールド。同素材のベゼルに、ポリッシュ仕上げまたはブラックコーティングを施したチタニウム製H型ビス。10気圧防水 ダイアル: マットブラック(イエローゴールドモデル)、ブラックオニキス(ホワイトゴールドモデル)。いずれも6時位置にMDMのロゴ ストラップ: ブラックのライン入りラバーストラップ。18Kゴールド、ブラックコーティングを施したステンレススティールおよびチタニウム製フォールディングバックル ¥4,235,000
Brands:Hublot
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