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カルティエの小さな亀〈トーチュ〉──優雅さを形にしたケース

Editorial

1912年、亀の甲羅を思わせる独創的なケースとともに誕生したカルティエ〈トーチュ〉。クロノグラフから宝飾時計まで、多彩な表現を受け入れてきたその優雅なフォルムは、1世紀以上を経た今も色あせない。歴代モデルを振り返りながら、2026年の新作に受け継がれた革新と美意識をひも解く

Editorial

The Cartier Tortue: A Case for Elegance

カルティエの小さな亀〈トーチュ〉── 優雅さを形にしたケース

1912年、亀の甲羅を思わせる独創的なケースとともに誕生したカルティエ〈トーチュ〉。クロノグラフから宝飾時計まで、多彩な表現を受け入れてきたその優雅なフォルムは、1世紀以上を経た今も色あせない。歴代モデルを振り返りながら、2026年の新作に受け継がれた革新と美意識をひも解く。

by Joyceline Tully. Jun 30, 2026

柔軟性に富んだデザイン

 1912年に誕生した〈トーチュ〉は、当時「いわゆる亀型の、プラチナ製の裏蓋を備えたゴールドウォッチ」と記録されている。柔らかな曲線を描くトノー型ケースは、上から眺めた亀の甲羅を思わせる。その姿から、フランス語で「亀」を意味する“トーチュ”と名付けられ、〈サントス〉(1904年)、〈トノー〉(1906年)に続く、カルティエ初期の代表的なフォルムウォッチとなった。

 腕時計の多くが丸型だった時代、ルイ・カルティエはそれとは異なる形を求めていた。直線的で力強い〈サントス〉、細長く優美な〈トノー〉に対し、〈トーチュ〉はより幅広い表現を受け入れられる、柔軟性に富んだデザインだった。

2000年頃に製作されたカルティエ 「コレクション プリヴェ カルティエ コレクション(CPCP)」の<トーチュ>カルティエ コレクションより(©Revolution)

「当時の顧客は、この新しいフォルムを受け入れる準備ができていました。そして〈トーチュ〉は、男女を問わず絶大な人気を集めたのです」と、カルティエ コレクションのディレクター、パスカル・ルプウは語る。

 誕生当初から〈トーチュ〉には、エナメルやダイヤモンドをはじめとする宝石をベゼルやラグにあしらった、さまざまな装飾が施されてきた。そのケースは、メゾンの職人たちが創造性を発揮するための、柔軟性に富んだキャンバスとなったのである。

 初期のモデルだけを見ても、プロポーションやサイズには微妙な違いがある。しかし、ルプウが「円と長方形が出合った形」と表現する、独特のフォルムは一貫して守られていた。こうして〈トーチュ〉は、1910年代から1920年代にかけて、メゾンを代表する人気腕時計のひとつへと急速に成長していった。

1929年にカルティエ ニューヨークが製作した〈トーチュ〉シングルプッシュ クロノグラフ。カルティエ コレクションより(©Revolution)

左:1913年にカルティエ パリが製作した〈トーチュ〉。右:同1922年製。カルティエ コレクションより(©Revolution)

左:1924年にカルティエが製作した〈トーチュ〉。右:1925年にカルティエ ロンドンが製作した〈トーチュ〉。カルティエ コレクションより(©Revolution)

▲ 左:1980年頃にカルティエが製作した〈トーチュ〉。右:1984年頃に製作されたカルティエ〈トーチュ LC〉エクストラフラット ラージモデル。カルティエ コレクションより(©Revolution)

1990年に製作されたカルティエ〈トーチュ〉スモールモデル。カルティエ コレクションより(©Revolution)

 美しい曲線を描くケースは、複雑機構を収めるための十分な空間も時計師たちにもたらした。

 「〈トーチュ〉のケースは、〈タンク〉や〈サントス〉よりも大きなムーブメントを搭載できます。そのため〈トーチュ〉は、カルティエが複雑機構を搭載した最初期の腕時計のひとつとなったのです」と、ルプウは説明する。

2006年頃に製作されたカルティエCPCP 〈トーチュ〉 XL トゥールビヨン。カルティエ コレクションより(©Revolution)

アイコニックな〈トーチュ〉 モノプッシャー クロノグラフ

 1928年に発表された〈トーチュ〉 モノプッシャー クロノグラフは、複雑機構を搭載した最初の〈トーチュ〉となった。ケースは幅わずか25mm、ラグ・トゥ・ラグ35mm。ダイヤルにはカルティエを象徴するローマ数字とリンゴ型の針、2つのクロノグラフ用サブダイヤルを配し、その周囲を円形のレイルウェイ式ミニッツトラックが取り囲んでいる。

 同じ1928年には、イエローゴールド製の〈トーチュ〉ミニッツリピーターも登場した。ケース左側に控えめなスライダーを備え、これを操作することでリピーター機構が作動する。

1920年代に製作されたカルティエ〈トーチュ〉 モノプッシャー クロノグラフ。

 その後もメゾンは、〈トーチュ〉のケースが持つ可能性を追求し、さまざまな試みを重ねてきた。そして1998年、愛好家から“CPCP”の名で親しまれる特別なコレクション「コレクション プリヴェ カルティエ パリ」の一作として、〈トーチュ〉 モノプッシャー クロノグラフを復活させた。

 ホワイトゴールドまたはイエローゴールドのケースに、THAが開発した手巻きキャリバー045 MCを搭載。発表後すぐに、カルティエのコレクターから高い人気を集める、CPCPを象徴するモデルのひとつとなった。

手巻きキャリバー045 MCを搭載したカルティエ「CPCP」〈トーチュ〉 モノプッシャー クロノグラフRef.2714(Image: Sotheby’s)

 2000年代を通じて、そしてCPCPが2008年に終了した後も、メゾンは〈トーチュ〉の展開を続けた。パーペチュアルカレンダーをはじめとする多彩な複雑機構を搭載するとともに、小ぶりなレディスモデルからXL、さらに力強いサイズ感のXXLまで、幅広いバリエーションを発表している。

カルティエ「CPCP」〈トーチュ〉 XL モノプッシャー クロノグラフRef.2762(Image: Christie’s)

 そして2024年、カルティエは「カルティエ プリヴェ」コレクションの一作として、〈トーチュ〉 XL モノプッシャー クロノグラフを200本限定で復活させた。これを機に、〈トーチュ〉への注目はかつてないほど高まった。同時に、同じく限定生産となる時・分表示のみのモデルも発表されている。

 いずれもイエローゴールドとプラチナで展開され、歴代モデルを特徴づけてきた曲線的なプロポーションとデザインを受け継ぎながら、現代的に仕上げられた。なかでもクロノグラフには、美しい装飾を施し、湾曲したケースに沿うよう設計された手巻きキャリバー1928 MCを搭載。その姿は、サファイアクリスタル製ケースバック越しに鑑賞できる。

カルティエ プリヴェ〈トーチュ〉 モノプッシャー クロノグラフと手巻きキャリバー1928 MC。

2026年、より大胆に進化した〈トーチュ〉

 2026年、カルティエは再び〈トーチュ〉 モノプッシャー クロノグラフに光を当てた。「カルティエ プリヴェ」第10章を飾る3部作として、〈タンク ノルマル〉、〈クラッシュ〉スケルトンとともに発表されたもので、いずれもプラチナケースに鮮やかなボルドーのアクセントと美しいブルースティール針を組み合わせている。

 この最新作は、1998年に発表された「コレクション プリヴェ カルティエ パリ(CPCP)」版のデザインを着想源としている。12時位置に特大のローマ数字「XII」を配した人気モデルを下敷きに、独特のミニッツトラックと、その周囲に控えめなドット状のアワーマーカーを配置。さらに歴代モデルにも見られた三角形のモチーフをケースの四隅にあしらい、〈トーチュ〉ならではのフォルムを際立たせている。

 ムーブメントには、従来モデルに代えてキャリバー1928 MCを採用した。〈トーチュ〉のケース形状に合わせて開発された、厚さわずか4.3mmのマニュファクチュール最薄クロノグラフ ムーブメントである。

「カルティエ プリヴェ」第10章を飾る3部作のひとつ、<トーチュ> モノプッシャー クロノグラフ。

 カルティエは、〈トーチュ〉ケースの多様性にも改めて目を向け、その可能性を示す8つの新作を発表した。サイズは、26.1×20.9mmのミニモデルから、43.7×34.8mmの堂々たるメティエダールモデルまで、幅広く展開される。

 新しい〈トーチュ〉のケースは、どのサイズも従来以上に曲線が強調され、丸みと量感を増したプロポーションが、ラグまで滑らかにつながっている。ダイヤルには象徴的なローマ数字を残す一方、歴代モデルでおなじみだったレイルウェイ ミニッツトラックを廃止。代わりに、ベゼル上へ点線をあしらった1922年の歴史的モデルを着想源とする、ドット状のミニマルな縁取りを採用した。

 ダイヤルにも細かな変更が加えられている。伝統的なギヨシェ模様に代わり、外周まで広がる立体的なサンレイ模様を型押しで表現。さらに、これまでの〈トーチュ〉ではローマ数字「VII」に組み込まれていたカルティエのシークレットサインが、新作では「X」の中へ移されている。

イエローゴールド製のカルティエ〈トーチュ〉Laure Sée © Cartier

 こうした新しい〈トーチュ〉の特徴を端的に示しているのが、シャンパンカラーダイヤルを備えた、イエローゴールド製のクラシックな2針仕様のSM(スモールモデル)である。

 さらに華やかなモデルとして、ロジウム仕上げのホワイトゴールド仕様とピンクゴールド仕様も用意される。いずれもミニとSMの2サイズで展開され、ベゼルにはブリリアントカット ダイヤモンドをパヴェセッティング。ムーブメントには高効率クォーツムーブメントを採用している。

ロジウム仕上げのホワイトゴールド製およびピンクゴールド製カルティエ〈トーチュ〉Laure Sée © Cartier

 一方、ラージモデルのプラチナモデルには、より伝統的な〈トーチュ〉の意匠が採用されている。ギヨシェ風の型押し模様を施したダイヤルに、レイルウェイ ミニッツトラックとローマ数字を配置。カルティエのシークレットサインも、従来どおり「VII」に組み込まれている。ムーブメントは、約38時間のパワーリザーブを備えた超薄型の手巻きキャリバー430 MCである。

 しかし、今季の〈トーチュ〉で最も華やかな存在といえるのが、カルティエを象徴、パンテールを題材としたメティエダールモデルだ。

カルティエ〈トーチュ〉パンテール メティエダール。

 このモデルでは、ダイヤルからケース側面まで広がる〈トーチュ〉のケース全体が、メゾンの職人たちが精緻な技を繰り広げるキャンバスとなっている。金属の素地にくぼみを彫り、そこへエナメルを充填するシャンルベエナメル技法を用いることで、立体感と視覚的な奥行きを生み出した。

 ダイヤルには、雨粒のヴェール越しにこちらを見つめる、カルティエを象徴するパンテールが描かれている。一粒ずつ緩やかなドーム状に盛り上げられた雨滴が、金または銀の粒子をまとったパンテールとの鮮やかな対比を生み出している。

カルティエ〈トーチュ〉パンテール メティエダールLaure Sée © Cartier

 このモデルには、エメラルドの瞳を持つホワイトゴールド仕様と、ツァボライトの瞳を持つイエローゴールド仕様という、2つの表現が用意されている。15色以上の色彩を使い分け、1本につき36回を超える焼成を実施。エナメル装飾だけでも、ダイヤルに80時間、ケースにさらに50時間を要する。こうして完成する印象的な情景が、〈トーチュ〉パンテール メティエダールを時計やジュエリーという枠を超えた芸術作品へと昇華させている。

 誕生から100年以上を経た現在も、〈トーチュ〉は人々を魅了し続けている。多彩な表現を受け止める柔軟性と、時代を超える美しさは今なお健在であり、カルティエを代表するフォルムウォッチとして、その確かな地位を築いている。

Brands:Cartier

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