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Revolution Awards 2025:クロノメトリー賞

Editorial

独自の機構を突き詰め、スプリングドライブは新たな高みへ。グランドセイコー〈スプリングドライブ U.F.A.〉が体現する、妥協なき精度への執念と進化の軌跡を紐解く。

Editorial

Revolution Awards 2025: Chronometric Advancement — Grand Seiko Spring Drive U.F.A.

Revolution Awards 2025:クロノメトリー賞

グランドセイコー〈スプリングドライブ U.F.A.〉

独自の機構を突き詰め、スプリングドライブは新たな高みへ。グランドセイコー〈スプリングドライブ U.F.A.〉が体現する、妥協なき精度への執念と進化の軌跡を紐解く。

by Cheryl Chia. Jan 27, 2026

 クロノメトリー賞は、時計製造における高精度(クロノメトリー)の限界を大きく押し広げ、あるいは既存の技術水準を極限まで高めた偉業に対して贈られる。グランドセイコーの〈スプリングドライブ U.F.A.(Ultra Fine Accuracy)〉は、従来の機械式ムーブメントや、これまでの高精度へのアプローチとは異なる軸に位置している。しかし、その達成した成果が「高精度の追求」そのものであることに疑いの余地はない。実のところ、スプリングドライブという機構そのものが時計製造の技術水準を拡張したのだとすれば、この〈スプリングドライブ U.F.A.〉は、自らが創り出したそのパラダイムを極限まで突き詰めた存在なのである。

グランドセイコー〈スプリングドライブ U.F.A. SLGB001〉 (©Revolution)

 スプリングドライブが従来保持してきた月差±10秒という精度を、年差±20秒へと昇華させた事実は、機械式腕時計の枠組みにおける最高精度の到達を意味する。

 この技術はスプリングドライブ独自の結実であり、セイコーが独占的に保有する、時計製造の世界において類を見ないイノベーションである。既存のカテゴリーに当てはまらないからといって評価をためらうことは、新しい進歩を否定することに他ならない。

 スプリングドライブの発明と進化は、現代の時計製造において称賛に値する偉業の一つであり続けている。

 それは、ある一人のエンジニアが、時間計測に対する根本的に異なる解決策が可能だと確信していたことから、数十年にわたり、たった一つの企業内で孤立して追求されてきた。他に頼れる研究ルートはなく、外部からの評価もなければ、開発を続けるメリットもなかった。クオーツがすでに「勝利」し、機械式時計が危機を乗り越えて復活しつつあるなか、どちらの陣営にも属さない新しい機構へ投資するビジネス上の理由はどこにもなかったのである。

 さらに、その構造は非常に複雑で、開発コストも莫大だった。セイコーは、水晶振動子をゼロから育て、超低消費電力のICを開発し、機械と電子を融合させる熟練の時計師を育成するという、すべてを自社で行う「垂直統合モデル」を構築しなければならなかった。誰かに頼ることも、協力することもできない、孤独な理想の追求であった。 

セラミック製のキャップ(蓋)で覆われ、真空密閉された水晶振動子。サーミスタ(温度センサー)を搭載した制御IC、配線が一体化されている。

 スプリングドライブが量産化へと移行するなか、半導体の高効率化、水晶振動子の製造技術、熱補正機能、主ゼンマイ技術、そして歯車の歯型形状の進化がそれぞれ役割を果たしたことで、広大な時計製造の領域におけるあらゆる機械式ムーブメントと同様に、改良や多様化、適応を可能にする、真に確立されたウォッチメイキング・プラットフォームへと進化したのである。

水晶振動子の加工方法、パッケージ内のIC設計、そしてパッケージングのプロセスそのものが洗練される一方で、機械式(メカニカル)の側面においては、エネルギーの伝達効率を高めるために歯車の歯型が最適化された。

 〈スプリングドライブ U.F.A.〉は、長年にわたる飽くなき挑戦の集大成であり、苦難の末につかみ取った勝利の証である。その偉業は、単一の部品や革新的なアイデアだけに帰結するものではない。むしろ、すべての要素を「長期的な精度変化の抑制」という単一の目的に向かって、妥協なく極限まで推し進めたその姿勢にこそ本質がある。これにより、時間の経過とともに誤差が蓄積していくあらゆる原因(ルート)が、事実上すべて断たれたのだ。

 その徹底した排除は、精度の基準(リファレンス)となる根源的なレベルから始まっている。Cal.9RA系同様に、水晶振動子と温度補正機能を搭載するIC、配線とともに真空パッケージ内に封入し、水晶振動子は独自のエージング工程により精度を安定化させ、湿度や静電気、光からシステム全体が保護されている。

 今回大きく変わったのは、その水晶振動子の加工方法である。結晶体である水晶は、切り出される際の「残留応力(内部の歪み)」をわずかに宿しており、時間の経過とともにその応力が解放されることで、振動数に極小のズレを生じさせることがある。しかし、キャリバー9RB2においては、この応力を緩和する新たな手法が導入された。これにより、水晶が元の状態に戻ろうと「弛緩(リラックス)」する傾向を抑えることに成功したのである。

スプリングドライブ U.F.A. キャリバー9RB2 (©Revolution)

 水晶振動子を司る「頭脳」にも、また新たな見直しが図られた。新設計の集積回路(IC)は、従来通りの超低消費電力を維持しながらも、その制御ロジックを洗練させることで、極小の周波数ブレさえも徹底的に抑制している。あらゆる振動子は温度変化によってわずかに狂い(ドリフト)が生じるが、Cal.9RA/B系スプリングドライブムーブメントではこの狂いを1日に540回も検知。その都度、熱補正(温度補正)を実行することで、日常のあらゆる着用シーンにおいて安定した精度をキープしている。

 キャリバー9RB2では、この補正がさらに高い精度で行われ、誤差が蓄積する前に抑え込まれる。さらに、キャリバー9RB2には初となる「緩急スイッチ」が組み込まれており、水晶振動子の経年変化による制度変化の影響に対しても、メンテナンス時に微調整を行うことが可能となった。

 一方、機械式(メカニカル)の側面にも、同様に執拗なまでのこだわりが注がれている。キャリバー9RA2が2つの香箱を直列に配置(デュアルバレル)して120時間のパワーリザーブを実現していたのに対し、キャリバー9RB2ではこれをシングルバレルへと縮小し、パワーリザーブは72時間となった。しかし、主ゼンマイのトルク(駆動力)自体は増強され、さらにエネルギーの伝達効率を高めるために歯車の歯型形状が再設計された。これにより、輪列全体のエネルギーロスが低減し、エネルギーを「流れるようなスイープ運針」へと変換するローターに対して、より安定したトルクが供給されることとなった。

グランドセイコー〈スプリングドライブ U.F.A. SLGB001〉 (©Revolution)

キャリバー9RB2はシングルバレルで、72時間のパワーリザーブを備える。(©Revolution)

 ムーブメントの直径はキャリバー9R65と同じ30mmを維持しているが、軟鉄製耐磁素材を4つのセクションに分割し、ムーブメント両面のわずかな隙間に巧みに配置した。これにより、このシリーズとしては初となる37mmというケースサイズへの搭載が可能となったのである。

 これは実に見事な偉業である。従来のクロノメーター(高精度計測)のカテゴリーや戦略とは比較すらできない独自の次元にありながら、この賞(クロノメトリー賞)が掲げる目的に完璧に合致している。

Brands: Grand Seiko 

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