2026年のGPHGで新設されたComplication部門には、伝統的な複雑機構を現代的に再解釈した意欲作が集結した。ワンダリングアワー、ジャンピングアワー、ルモントワール、特殊脱進機――単なる機能の多さではなく、「時間をいかに新しく見せるか」が問われるこの新カテゴリーで、栄冠を手にするのはどの一本か。Revolution Japanが6本のノミネート作を読み解き、勝者を大胆予想する。
GPHG 2026 Predictions: Complication — Reinventing Traditional Complications
GPHG 大予想——Complication部門「面白い時計が集まった新部門」
2026年のGPHGで新設されたComplication部門には、伝統的な複雑機構を現代的に再解釈した意欲作が集結した。ワンダリングアワー、ジャンピングアワー、ルモントワール、特殊脱進機――単なる機能の多さではなく、「時間をいかに新しく見せるか」が問われるこの新カテゴリーで、栄冠を手にするのはどの一本か。Revolution Japanが6本のノミネート作を読み解き、勝者を大胆予想する。
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by Revolution Japan. Sep 21, 2026 |
Complication部門とは?
Complication(コンプリケーション)部門は、2026年のGPHGで新設されたカテゴリーだ。従来のMen’s、Ladies’といった性別による枠が廃止され、Essential、Complicationなど、時計の機能や性格を基準とする分類へと再編された。GPHG自身も、従来の男女という境界が薄れつつある市場の変化を反映したものと説明している。
複雑な機構やユニークな表示を備えた時計を評価するカテゴリーで、ワールドタイムやデュアルタイム、カレンダーといった昔からある複雑機構だけでなく、新しい発想の表示方法を持つ時計も対象になる。
ただし、どんな複雑時計でもこの部門に入るわけではない。特殊な脱進機や、きわめて独創的な表示機構、オートマタ、音響機構など、機械そのものの特殊性が大きな魅力になっている時計は、Mechanical Exception部門に振り分けられる。
そのためComplication部門は、簡単にいえば、「複雑機構をどう使い、どう見せるか」を競う部門。
今年のノミネートを見ると、その境界はかなり曖昧だ。伝統的な複雑機構を現代的に見せた時計もあれば、脱進機や調速機構そのものに踏み込んだモデルもある。だからこそ、審査員が何を「コンプリケーション」と捉えるかが、結果を左右する重要なポイントになりそうだ。

Nominee #1——CLEGUER Inspiration One
クレゲール〈インスピレーション ワン〉
〈インスピレーション ワン〉は、クレゲールのデビュー作である。マチュー・クレゲールがデザイナーのリー・ユエン=ラパティと共同で手掛けたモデルで、38.5mmのホワイトゴールドケースに独創的なムーブメント構造を収める。
2時位置にはグラン・フーのシャンルヴェ・エナメルダイアルを配置し、36時間のパワーリザーブ表示と、毎時1万8000振動の大型テンプを備える。ケースバック側では輪列やマルタ十字式ストップワーク機構を鑑賞できる。
最大の特徴であり、視覚的なポイントともなっているのが、5年の開発を経て完成した独自のイネイト脱進機だ。約200年前に考案されたナチュラル脱進機を現代に蘇らせたものである。しかも、ナチュラル脱進機最大の弱点のひとつである「外部から力を加えない限り自動始動しない」という問題を、独自の方法で解決している。伝統的な時計製造の美学と革新的な脱進機を融合した、他に類を見ない一本である。

Tech Specs
クレゲール〈インスピレーション ワン〉 ケース素材:ホワイトゴールド ブレスレット/ストラップ:レザー バックル:ピンバックル ダイアル:エナメル 防水性能:30m サイズ:直径38.5mm 厚さ:12mm ムーブメント:手巻き機械式ムーブメント パワーリザーブ:約36時間、毎時1万8000振動 機能:時、分、秒、パワーリザーブ表示、特殊脱進機 リファレンス:I1.0N.01 発売時期:2026年9月 限定:12本 価格:10万3020スイスフラン(税込)

Nominee #2——CZAPEK Time Jumper
チャペック〈タイム・ジャンパー〉
チャペックは1845年にフランソワ・チャペックがジュネーブで創業した老舗だが長らく歴史の表舞台から消えていた。しかし、2015年に現オーナーのグザヴィエ・ド・ロックモレルらによって復活。その10周年を祝うのが本モデルである。19世紀の懐中時計、ハーフハンターケース、ギヨシェといったフランソワ・チャペックの伝統を受け継ぎながら、レトロフューチャーなデザインへと再解釈している。
40.5mmのステンレススティールケースは“空飛ぶ円盤”を思わせるフォルムで、カバーには新開発の立体ギヨシェを採用。中央の拡大レンズ越しにジャンピングアワーを読み取る。
搭載するのは、新世代自社製キャリバー10.01。2枚のサファイアディスクで24時間表示を行うジャンピングアワーと、外周リングによる分表示を組み合わせる。再生プラチナ950製スケルトンローターを備え、構成部品の75%を自社加工。ステンレススティールモデルは100本限定となる。

Tech Specs
チャペック〈タイム・ジャンパー〉 ケース素材:ステンレススティール ブレスレット/ストラップ:ラバー バックル:ピンバックル ダイアル:スケルトン 防水性能:30m サイズ:直径40.5mm 厚さ:10.5mm ムーブメント:自動巻き機械式スケルトンムーブメント パワーリザーブ:約55時間、毎時2万8800振動 機能:時、分、ジャンピングアワー 発売時期:2025年11月 限定:100本 価格:4万5400スイスフラン(税込)

Nominee #3——DOMINIQUE RENAUD Pulse60 Titanium Black
ドミニク・ルノー〈パルス60 チタン ブラック〉
ドミニク・ルノーは、1986年にジュリオ・パピとともに複雑時計工房ルノー・エ・パピを創業し、数々の名作ムーブメントの開発に携わってきた時計師である。2023年にはマニュファクチュール・ドミニク・ルノーを設立し、2026年、自身の名を冠したブランド「ドミニク・ルノー」を本格始動させた。
その新たな挑戦を象徴する〈パルス60〉が採用するのは、現代の機械式時計では極めて珍しい1Hzという超低振動の調速機構だ。テンプは1秒に1往復というゆったりとしたリズムで振動し、そのテンポは安静時の人間の心拍を思わせる。振動数をあえて低く抑えることで、脱進機から受ける衝撃や干渉を減らし、より安定した振動を引き出すことを狙っている。
さらに、テンプと脱進機まわりの構造を根本から見直し、360°を超える大振幅を実現。テンプをより長く自由に振動させることで外乱の影響を抑え、振動子本来の安定性を追求した。高振動化とは逆の発想から、機械式時計の“心臓部”そのものを見直した意欲作である。

Tech Specs
ドミニク・ルノー〈パルス60 チタン ブラック〉 ケース素材:チタン ブレスレット/ストラップ:ラバー バックル:フォールディングバックル ダイアル:部分スケルトン(約3分の1をオープンワーク化) 防水性能:30m サイズ:直径40mm 厚さ:12mm ムーブメント:手巻き機械式ムーブメント パワーリザーブ:約96時間、毎時7200振動 機能:時、分、秒、パワーリザーブ表示、ナチュラル・ハーフデッドビート・セコンド リファレンス:BUA2024TIBK 発売時期:2026年3月 価格:5万2969スイスフラン(税込)

Nominee #4——LEDERER CIC 39 InVerto Titanium
レデラー〈CIC 39 インヴェルト チタン〉
「見えないものを可視化する」という発想のもと、ベルナルド・レデラーが手掛けた〈CIC 39 インヴェルト チタニウム〉は、クロノメトリーを支える機構そのものを主役に据えた一本だ。
最大の特徴は、ムーブメントを反転させるように再構成し、ダイアル側にダブル・ルモントワール・デガリテを露出させたこと。2つのルモントワールはそれぞれ15秒ごとに作動し、脱進機へ一定のエネルギーを供給する。これにより、パワーリザーブ全体を通じてテンプの振り角を安定させることを狙っている。
さらに、2つの独立したガンギ車を備えるダブルホイール・デテント脱進機を採用。かつて高精度なマリンクロノメーターで用いられた原理を現代の腕時計用に再解釈したものだ。クロノメトリーの原理を隠すのではなく、あえて見せることによって、その本質を表現したモデルである。

Tech Specs
レデラー〈CIC 39 インヴェルト チタン〉 ケース素材:チタン ブレスレット/ストラップ:レザー、ラバー バックル:ピンバックル ダイアル:ロジウムメッキ仕上げの真鍮 防水性能:30m サイズ:直径39.5mm 厚さ:10.206mm ムーブメント:手巻き機械式ムーブメント パワーリザーブ:約40時間、毎時2万1600振動 機能:時、分、秒、ルモントワール・デガリテ リファレンス:CIC 9019.80.001 発売時期:2025年11月 価格:16万4312スイスフラン(税込)

Nominee #5——ULYSSE NARDIN X URWERK UR-FREAK
ユリス・ナルダン✕ウルベルク〈ウル-フリーク〉
マリン・クロノメーターの名門ユリス・ナルダンと、前衛的な時間表示で知られるインディペンデントブランド、ウルベルク。時計界を代表する二つの革新者が初めて手を組んだ。
本作〈ウル-フリーク〉の最大の特徴は、ユリス・ナルダンのムーブメント自体が回転して時刻を示す〈フリーク〉の機構と、ウルベルクを象徴するワンダリングアワー表示とを、ひとつのキャリバーに融合したことだ。3時間で1回転するカルーセル機構とワンダリングアワー表示を組み合わせ、機械そのものがデザインを形成している。
さらに、ユリス・ナルダン独自のグラインダー自動巻き機構、ダイヤモンシル、シリコン技術も採用。両ブランドを象徴する技術と表示機構をひとつに融合した、初の共同開発モデルである。

Tech Specs
ユリス・ナルダン✕ウルベルク〈ウル-フリーク〉 ケース素材:チタン ブレスレット/ストラップ:ラバー バックル:フォールディングバックル ダイアル:スケルトン 防水性能:30m サイズ:直径44mm 厚さ:12mm ムーブメント:自動巻き機械式ムーブメント、シリコン脱進機、毎時2万1600振動
パワーリザーブ:約90時間 機能:時、分表示 リファレンス:2413-500LE-2A-UR/3B 発売時期:2025年11月 限定:100本 価格:10万8100スイスフラン(税込)

Nominee #6——VIANNEY HALTER Behrens X Vianney Halter : KWH
ベーレンス×ヴィアネイ・ハルター〈KWH〉
中国のインディペンデントブランド、ベーレンスは、独立時計師ヴィアネイ・ハルターとのコラボレーションにより、〈マスター コレクション KWH〉を発表した。
着想源となったのは、ハルターの工房にあったアンティークの電力量計。ベーレンス創業者のリン・ビンチアンも同様の計器を所有していたことから、20世紀の工業デザインを現代の腕時計へ落とし込むというアイデアが生まれた。
搭載するのは、ベーレンスとヴィアネイ・ハルターが共同開発した手巻きキャリバーBM06。約870個の部品で構成され、ツインバレルにより約72時間のパワーリザーブを実現する。時表示には90年代の人気ゲーム『スネーク』を思わせる表示機構を採用、ダイアル外周をまるで蛇のようなチェーンがぐるぐる回って、時刻を知らせる。ベーレンス独自のルビー支持マイクロチェーン機構や温度補正機構も組み込まれている。
左側にはパワーリザーブ表示とデイ/ナイト表示、右側には分表示を配置。ケースバックにはカレンダーとムーンフェイズを備える。工業デザインと遊び心、そして高度な機械技術を融合した一本である。

Tech Specs
ベーレンス×ヴィアネイ・ハルター〈KWH〉 ケース素材:タンタル ブレスレット/ストラップ:レザー バックル:ピンバックル ダイアル:ラズリンブルー仕上げ 防水性能:30m サイズ:35 × 41mm 厚さ:10.9mm ムーブメント:手巻き機械式ムーブメント、毎時2万8800振動
パワーリザーブ:約72時間 機能:時、分、日付、ムーンフェイズ、パワーリザーブ表示、デイ/ナイト表示 リファレンス:BHRM2TA01 発売時期:2026年3月 限定:90本 価格:2万8800スイスフラン(税込)
Revolution Japanの予想
Complication部門は、2026年のGPHGでもっとも解釈の難しいカテゴリーだろう。クラシックな複雑機構から独創的な表示方法までを幅広く対象とする一方、機構そのものの特殊性が際立つ時計はMechanical Exception部門に分類されるという。その境界線は決して明確ではなく、ちょっと首を傾げてしまう人もいるかもしれない。しかし、面白い時計が集中していることも間違いない。
三印から外したモデルも侮れない。チャペック〈タイム・ジャンパー〉は、ジャンピングアワーをレトロフューチャーなデザインでまとめた完成度の高い一本。
クレゲール〈インスピレーション ワン〉は、独自のイネイト脱進機という技術的な見どころが強烈だ。
そしてベーレンス×ヴィアネイ・ハルター〈KWH〉は、複数の表示機構と遊び心を約870個の部品に詰め込んだ、まさに複雑時計らしい存在である。ヴィアネイ・ハルターというマッドサイエンティスト的な業界のカリスマを戴いたのも強い。
審査員が「コンプリケーション」という言葉をどこまで広く捉えるか。その解釈こそが、今年の勝敗を左右する最大のポイントになりそうだ。
◎ 本命
ユリス・ナルダン×ウルベルク〈ウル-フリーク〉
今回のノミネートのなかでも、存在感は頭ひとつ抜けている。ユリス・ナルダンを象徴する〈フリーク〉のカルーセル機構と、ウルベルクの代名詞ともいえるワンダリングアワー。現代時計を代表するふたつの発想を、単なる意匠上のコラボレーションではなく、ひとつの機構として融合した点が最大の魅力だ。
しかも、それぞれのブランドらしさが薄まることなく共存している。話題性だけでなく、技術的な必然性まで感じさせるコラボレーションという意味で、本命に推したい。ただし、その内容があまりにも特殊であるがゆえに、「むしろMechanical Exception向きではないか」と判断される可能性は残る。
○ 対抗
レデラー〈CIC 39 インヴェルト チタン〉
ベルンハルト・レデラーは、近年のGPHGでも高い評価を受けてきた独立時計師のひとり。その代表的な機構であるダブル・ルモントワール・デガリテを、あえてダイアル側に露出させた〈CIC 39 インヴェルト チタン〉は、技術そのものをデザインへと昇華した一本だ。
複雑機構を隠すのではなく、見せることで時計の個性へと変えている点は、Complication部門との相性もいい。機械としての完成度、設計思想、仕上げのバランスでは今回屈指だろう。唯一気になるのは、〈ウル-フリーク〉や〈KWH〉などと比べると第一印象がややストイックなこと。そこを審査員がどう評価するかが鍵になりそうだ。
▲ 穴
ドミニク・ルノー〈パルス60 チタン ブラック〉
ルノー・エ・パピの共同創業者として、現代の複雑時計に大きな影響を与えてきたドミニク・ルノー。その本人が自身の名を冠して送り出す〈パルス60〉だけに、注目度は十分だ。
1Hzという超低振動、360°を超える大振幅、そして再設計された調速機構。多くのブランドが高振動化や複雑化へ向かうなか、あえて逆方向から機械式時計の根本を見直したアプローチは非常に大胆である。単に新しい機構を加えるのではなく、時計の“心臓部”そのものを考え直しているところが面白い。そのスローな動きは魔術的だ。
ただし、最大の強みがそのまま弱点にもなる。これは果たして「コンプリケーション」なのか、それとも革新的な調速機構としてMechanical Exceptionで評価されるべき時計なのか。あるいは、文字盤に掲げられた「1Hz」が象徴するように、複雑機構を足し算するのではなく、機械式時計の本質を突き詰めた時計なのか。
※この予想はRevolution Japanが独断と偏見で論じているものであり、審査とはなんの関係もありません。
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