anOrdain: Where Design Meets Craft
創業者ルイス・ヒースに聞く、アンオーダインとは何か?
スコットランド・グラスゴーで、美しいエナメル文字盤をつくるアンオーダイン。その魅力は、色彩や繊細な手仕事だけではない。創業者ルイス・ヒースが大切にしているのは、自分たちのアイデアを、自分たちの手で形にすることだ。小さな試みから始まったブランドの歩みと、時計づくりに込めた思いを聞いた。
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by Ross Povey. Apr 18,2022 |
ルイス・ヒース|Lewis Heath
アンオーダイン創業者。美術学校で学んだ後、音響機器ブランドの事業を経て、2015年にスコットランド・グラスゴーでアンオーダインを創業。デザインと手仕事の融合を掲げ、自社工房でのエナメル文字盤の製作に取り組む。職人やデザイナーとともに、美しい色彩と実用性を備えた時計を生み出している。
——時計にまつわる、いちばん古い思い出は?
「両親が、とてもシンプルな白と黒のスウォッチを着けていたことです。父は、自分の豊かさを見せつけて、周りの人に居心地の悪い思いをさせないよう、いつも気を配っていました。医師だった父は、さまざまな境遇の患者さんを日々診ていました。ウェールズの炭鉱地帯で、かつて炭鉱夫として働いていた方も多かったんです。品質や使いやすさは大切にしていましたが、派手なものを好む人ではありませんでしたね」
——自分のブランドをつくることは、以前からの計画だったのでしょうか。それとも偶然、あるいは自然な流れだったのでしょうか?
「正直に言うと、自分の心を整えるためだったんです(笑)。美術学校を出たあと、家電のブランドを立ち上げました。私が辞める頃には社員が60人に増え、その会社は今ではソノスに買収されています。ただ、会社が大きくなるにつれて、私が好きだったデザインや試行錯誤、自由なものづくりに時間を使うことが難しくなっていきました。それで、本業とは別にアンオーダインを始めたんです」
「取り組んでいたことがあまりに難しく、しばらくは事業にしようという気持ちも、それを実現できる見通しもありませんでした。それでも続けたのは、ものづくりをしていると自分らしくいられたからです。課題をひとつずつ解決し、新しいものを生み出す。それこそが、私の好きなことでした。数年後、アンオーダインこそ自分がやりたいことだと確信して、もとの会社を辞めました。振り返ると、最初の数年間、売上目標や『どう売るか』『どう利益を出すか』を考えずに取り組めたことが、いろいろな意味で、私たちのよい土台になったと思います」

▲〈モデル2 ミッドナイトグリーン〉は、タフで実用的なつくりに、現代的なデザインを組み合わせた一本。ルイスが愛用する時計には、細かなシボ模様のあるマホガニー色のキッドレザー(子ヤギ革)ストラップが付けられている。
——ブランドを立ち上げた頃のことを教えてください。
「学びと成長の連続でした。製造を外部の会社に任せ、自分たちはデザインや組み立てを担当するのであれば、比較的始めやすいと思います。でも、自分たちでつくるとなると、身につけなければならない知識や技術は膨大です。私たちは本当にゼロからの出発だったので、歩みはとてもゆっくりでした。その分、多くのことを学べましたし、自社で製造していなければ、デザインについても、今ほど深く理解することはできなかったと思います」
——現在のアンオーダインは、どのような体制ですか?
「私たちはエナメル文字盤で知られています。フュメ・エナメルという、色がグラデーションになる技法を生み出したことでも知られているかもしれません。でも、私が大切にしているのは、デザインと手仕事をひとつにすること。エナメルも、その考えから生まれたものなんです」
「今の工房は4か所目です。仲間や機械が少しずつ増えるたびに、手狭になって引っ越してきました。現在はグラスゴー東部にある、5つの区画に分かれた作業場を使っています。チームは18人で、その約7割が製造に携わっています。2014年には、私と、地元の美術学校から迎えた専任のエナメル職人の2人だけでした。文字盤にエナメルを施す方法を、一から探っていたんです。それ以来、たくさんの知識と技術を身につけてきましたが、今も学びは続いています。ちょうど、グラスゴー南部に時計づくりのための工場を新設する計画を申請したところです。私たちにとって、大きな一歩になります。自分たちが望む以上の規模にも対応できる広さがあり、ムーブメントやケースの製作に必要な機械も、さらに導入できるようになるはずです」

▲グラスゴーの工房で焼き上げたエナメル文字盤と、熱処理を施した針を備える、アンオーダイン〈モデル1 アイアンクリーム〉
——ブランドを立ち上げる際、いちばん大変だったことは何ですか?
「時計を売るブランドを始めることと、時計をつくるブランドを始めることは、まったく別の話です。私たちにとって大きな課題は、人材と知識でした。当時、スコットランドだけでなく英国全体を見ても、時計職人の仕事はほぼ修理や整備が中心でした。でも、時計を直すことと、新しくつくることでは、必要な技術が違います。ですから、エナメルの技法を身につけるだけでなく、時計そのものをつくる体制も整えなければなりませんでした。それが大変でしたね」
——これまでに学んだ、いちばん大切なことは何でしょうか?
「自分よりも優れた人を仲間に迎えることです。そうして素晴らしいチームができました。彼らがいれば、私ひとりでは思いつかないほど、アイデアの可能性を広げられます。私はデザインを学んできたので、その経験は役に立っています。でも、何でも自分でやろうとせず、自分に足りないところを見つめ、優れた人たちの力を借りる。その大切さを学びました」

▲グラスゴーの工房で製作したフュメ・エナメル文字盤を備える、アンオーダイン〈モデル1〉。写真は「ペインズグレー」。数年をかけて開発した、手間のかかる技法によって美しいグラデーションを生み出している。さらに改良を重ね、煙がかったような色の変化を際立たせるとともに、文字盤の外周にいっそう深みを持たせた。
——これまでで、いちばんの成果は何ですか?
「英国で本格的なものづくりに取り組み、これからも事業を続けていける、将来が楽しみな時計会社をつくれたことです。私にとっては、それに尽きますね」
——どのようなものから刺激を受けていますか?
「ほかの時計会社の製品は、あまり見すぎないようにしています。素晴らしい時計はたくさんありますが、一度目にすると、自分でデザインする際に、無意識にその影響が出てしまうことがあるからです。私たちは、文字の形や配置を考えるタイポグラフィなど、時計以外の分野から多くのヒントを得ています。ただ、初期のブレゲの懐中時計には、工房のみんなが憧れています。文字盤の細部も、その仕上がりも、本当に見事です」
——英国の時計づくりは、世界でも重要な存在なのでしょうか?
「そう考える人もいるでしょうが、大多数の人にとっては、そうではないと思います。最近は“英国の時計づくり”という言葉をよく耳にします。でも、それを声高に語る会社ほど、実際には国内でものをつくっていないことが多いんです。今、英国で本格的な時計づくりに取り組んでいる会社の生産数は、すべて合わせても年間数百本ほどです。ストラザーズ、チャールズ・フロッシャム、ギャリック、私たち、そしてもちろん、マン島のロジャー・W・スミスがあります。ブレモンもありますが、実際にどこまで手がけているのか、私にはよくわかりません。そのほかには、製造をすべて海外に任せている会社が数多くあります。国内で組み立てる会社もあれば、そうでない会社もあります。そうした会社は、“英国のデザイン”や“将来は英国でつくりたい”という思いを、宣伝の中心に据えています」
「ただし問題は、英国には時計づくりを支える産業の基盤がないことです。機械を買うにも、整備してもらうにも、スイスやEUを頼らなければなりません。人材も海外から迎え、部品も輸入する必要があります。コロナ禍とブレグジットによって、それがさらに難しくなりました。私たちは、その状況を変える、ごく初期の動きの一部になっているのだと思います。国内の時計会社から機械を買ったり、別の会社に文字盤を供給したりしています。困ったことがあれば、先ほど名前を挙げた会社の仲間に相談することもあります。こうしたつながりは、互いに支え合う時計産業の、小さな芽と呼べるかもしれません。ただ、その芽が出始めた英国の土壌は、まだほとんど整っていません。英国の名機スピットファイアを持ち出したり、国旗を振ってみせたりしても、その現実は変わらないんです」
「“英国の時計づくり”ばかりが強調されると、もどかしく感じることがあります。今お話しした事情もありますが、私たちは愛国心から時計をつくっているわけではないからです。外部に任せるより、自分たちでつくるほうが、よいものができると考えているんです。ヨーロッパ大陸には、素晴らしい部品メーカーがあります。私たちが取引先を選ぶ基準は、品質と仕事への姿勢です。英国の会社かどうかは関係ありません。むしろブレグジット以降は、ヨーロッパの会社と仕事をしたい気持ちが強くなったかもしれません。そうすることで、少しでも気持ちが晴れるなら、という思いもあります。それに、通関がどうにも進まない日には、暖かくて食べ物のおいしい場所に移転できたら、と本気で心が動いたこともありますよ!」
Brands:anOrdain
※この記事は2022年4月に作成されたものです。
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