クロノグラフという完成された複雑機構に、なお進化の余地はあるのか。その問いに対し、オーデマ ピゲは明快な答えを示した。新開発ムーブメントCal.8100は、リセット機構からクラッチ構造、操作フィールに至るまで従来の常識を見直し、精度と操作性を高次元で両立。派手な演出ではなく、クロノグラフの本質を磨き上げた技術革新が、高く評価された。
Revolution Awards 2025: Best Chronograph — Audemars Piguet Royal Oak Extra-Thin Selfwinding Flying Tourbillon Chronograph RD#5
Revolution Awards 2025:ベスト・クロノグラフ賞「常識の進化」
オーデマ ピゲ〈RD#5〉
クロノグラフという完成された複雑機構に、なお進化の余地はあるのか。その問いに対し、オーデマ ピゲは明快な答えを示した。新開発ムーブメントCal.8100は、リセット機構からクラッチ構造、操作フィールに至るまで従来の常識を見直し、精度と操作性を高次元で両立。派手な演出ではなく、クロノグラフの本質を磨き上げた技術革新が、高く評価された。
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by Tracey Llewellyn . Jan 27, 2026 |
激戦となったこの部門で、オーデマ ピゲの〈RD#5〉が栄冠を手にした理由は、クロノグラフという複雑機構を根本から再構築した点にある。ケースはおなじみの39mm径“ジャンボ”を採用しながら、その内部ではクロノグラフ機構のほぼすべてが見直され、精度、効率性、そして操作性を徹底的に追求している。

▲オーデマ ピゲ〈ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ (RD#5)〉
このプロジェクトの核となるのは、新開発のムーブメントである。長年クロノグラフの標準機構として用いられてきたハンマー&ハート式のリセット機構に代わり、ラック&ピニオン方式を採用した。
この変更は極めて重要で、作動中に蓄えられたエネルギーをリセット時に一度に制御しながら解放することで、針は正確にゼロ位置へ復帰する。
さらに、クロノグラフ積算分針の瞬時切り替え(インスタントジャンプ)も実現した。目指したのは視覚的な演出ではなく、経過時間をより正確に記録するための性能向上なのである。

クラッチ機構にも同じ思想が貫かれている。RD#5は、複雑な多層構造の垂直クラッチを採用する代わりに、ピニオンを上下に移動させることでクロノグラフを接続・切り離しするシンプルな機構を採用した。
これにより、従来のクロノグラフで見られたスタート時のわずかな遅れや針飛びを抑え、動力損失も低減している。さらに、スタート、ストップ、リセットの一連の動作はコラムホイールによって制御され、確実な操作感を実現した。
また本機は、日常的に使うクロノグラフとしての操作性にも配慮している。一般的な現代のクロノグラフでは、プッシャーを深く、しかも強い力で押し込む必要がある。しかしオーデマ ピゲは、そのストロークを大幅に低減。プッシャーは短いプッシュで正確に作動し、軽い力でスタート、ストップ、リセットを行うことができる。
目指したのは、着用者に負担をかけることなく、意のままに反応するクロノグラフである。一見すると小さな改良に思えるが、ユーザーと時計との関係を大きく変える、極めて意義深い進化といえる。

▲ 39mm径のチタンケースに、BMG(バルク・メタリック・ガラス)製のベゼル、プッシャー、リュウズを組み合わせる。
これほど大規模な技術革新を遂げながらも、本作は“ジャンボ”の名で親しまれるモデルならではのプロポーションを維持している。フライング トゥールビヨンを搭載しながら、ケース厚はわずか8.1mm。緻密に設計されたムーブメント構造とペリフェラルローターの採用によって省スペース化を実現するとともに、厚みを増すことなくムーブメントをより開放的に鑑賞できる構成となっている。
また、ケースにはチタン、ベゼルとプッシャーにはBMG(バルク・メタリック・ガラス)を採用することで軽量化を実現。装着感を高めるとともに、控えめでありながら現代的な存在感を備えた一本に仕上げられている。

▲ Cal.8100は、特許取得済みのリセット機構を備えたフライバック・クロノグラフを採用する。
これらの技術革新を総合すれば、計時精度、クロノグラフの構造、クラッチ機構、動力伝達効率、そして操作フィーリングといった観点から審査が行われた本部門において、〈RD#5〉が際立った存在となった理由は明らかである。
本作が追求したのは、派手な演出ではない。クロノグラフがいかに正確に時間を記録し、いかに効率よく動力を伝え、そして作動時にいかに自然な操作感を実現するかという、本質的な性能の向上である。そのすべての設計判断は、クロノグラフという複雑機構を、より信頼性が高く、より安定し、より直感的に扱えるものへ進化させるという一つの目的に貫かれている。
〈RD#5〉への受賞は、単なるデザイン変更ではなく、クロノグラフという機構そのものを前進させたことへの評価である。時計史を代表するアイコニックなケースデザインの中に、熟考を重ねたエンジニアリングを収めた本作は、親しみやすさを保ちながらも、新たな完成形へと到達したクロノグラフといえる。機械式クロノグラフが現代においていかにあるべきか──その期待値を、的確な技術革新によって塗り替えた一本なのである。
Brands:Audemars Piguet
