腕時計の進化を語るうえで、軍事史との関係を避けて通ることはできない。とりわけ航空戦が本格化した第二次世界大戦以降、正確な計時、瞬時の再計測、優れた視認性、耐衝撃性といった要求は、クロノグラフを単なる複雑時計から、命を預けるための実用機器へと変えていった。
Milestone Military Chronographs
ハンハルトからポルシェ・デザインまで──軍用クロノグラフの名作史
腕時計の進化を語るうえで、軍事史との関係を避けて通ることはできない。とりわけ航空戦が本格化した第二次世界大戦以降、正確な計時、瞬時の再計測、優れた視認性、耐衝撃性といった要求は、クロノグラフを単なる複雑時計から、命を預けるための実用機器へと変えていった。本記事では、ルフトヴァッフェ向けのハンハルトやチュチマ、フランス軍の〈タイプ20〉、英国空軍のレマニア、イタリア空軍の〈CP-1〉と〈CP-2〉、西ドイツ連邦軍のホイヤー、そしてポルシェ・デザイン〈クロノグラフ1〉まで、軍用クロノグラフ史に残る銘機をたどる。そこにあるのは、戦場という過酷な環境が生み出した、機能と造形の必然である。今日、コレクターを魅了するこれらの時計は、単なるヴィンテージウォッチではない。20世紀の技術革新と軍事史を、その小さなケースの中に刻んだ証人なのである。
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by by Cheryl Chia. Jan 14, 2021 |
腕時計の歴史は戦争の歴史
腕時計の歴史は、戦争と深く結びついている。第一次世界大戦によって、腕時計は男性たちのあいだで本格的に普及したが、時計技術を大きく進化させたのは、むしろ第二次世界大戦だった。
当時、航空機は戦争の重要な道具となり、実際に第二次世界大戦の多くは空で戦われた。そこでパイロットたちには、正確に時間を計測できる時計が必要になった。その流れのなかで、20世紀を代表する数々の名作時計が生まれていった。
戦争が始まると、パイロット向けの腕時計が数多く開発された。なかでも有名なのが、イギリス空軍に支給されたIWC〈マーク11〉と、アメリカ陸軍航空軍で使われた〈A-11〉だ。〈A-11〉は“戦争に勝った時計”と呼ばれることもある。
ただ、機械好きという視点で見ると、面白いのはやはりクロノグラフだろう。クロノグラフは、パイロットが飛行中に素早く計算したり、正確に時間を測ったりするために欠かせない道具だった。
こうした軍用クロノグラフは、長い間あまり評価されてこなかった。しかし現在では人気が大きく高まり、再評価が進んでいる。なぜなら、それらは機能性と美しさを高いレベルで両立しているからである。
フリーガー・クロノグラフ
すべてはドイツ軍から始まった。第二次世界大戦中、本格的なストップウォッチ機能を備えた腕時計を実戦で使用していたのは、ドイツ軍だけだったとも言われている。
ドイツ空軍ルフトヴァッフェ向けに製造されたクロノグラフは、第二次世界大戦を代表する軍用時計であり、高い完成度を誇っていた。後に有名となる〈タイプ20〉も、そのデザインから大きな影響を受けている。

▲ Cal.40を搭載した、1938年製ハンハルトのモノプッシャー・クロノグラフ。
1938年からはドイツ南西部ブラックフォレスト地方のハンハルトが、そして1941年からは同東部グラスヒュッテのチュチマ(当時はUROFA-UFAGとして知られていた)が、ルフトヴァッフェ向けパイロットクロノグラフを供給していた。
これらの時計を特徴づけていたのが、フライバック機構である。当時としてはまだ新しい技術だったが、コックピット内では重要な役割を果たした。
フライバック機構は、1936年にロンジンが開発した。このシンプルな仕組みにより、パイロットは時計を停止することなく、瞬時にリセットして再スタートできた。そのため、デッドレコニング(推測航法=速度・時間・方位で自分の位置を計算する方法)を行う際に便利だったのである。
両社とも複数のバリエーションを製造していたが、代表的なモデルは、ハンハルトCal.41(1939年)またはチュチマCal.59(1941年)を搭載した、2プッシャー式フライバッククロノグラフだった。ハンハルトは、フライバック機構を持たないモノプッシャー仕様のCal.40(1938年)搭載モデルも製造している。
機械的に見ると、フライバッククロノグラフの最も分かりやすい特徴は、リセットハンマーに“停止用タブ”が存在しない点にある。そのためクロノグラフを作動させたままリセットすることが可能なのだ。 リセットボタンを押すと、別のレバーがクロノグラフ機構を一時的に切り離す。そしてボタンを離すと、そのレバーも解除され、スプリングの力によって輪列が再び噛み合い、クロノグラフ秒針が即座に動き始めるのだ。

▲ 伝説的なフライバック機構付きCal.41を搭載した、ハンハルトの2プッシャー・クロノグラフ。
これらのクロノグラフは、古典的なコラムホイール式を採用しており、さらに、テンプ周りにはインカブロック耐震装置が備えられていた。 デザイン面では、後の〈タイプ20〉とはいくつかの違いがある。
たとえば、ニッケルメッキを施した真鍮ケース、赤いマーカー付きの刻み入りベゼル、カテドラル針、ときに赤く塗装されたプッシャーなどが特徴だった。特にCal.41搭載のハンハルト製クロノグラフは、操作性を高めるため、プッシャー位置が左右非対称になっていた点でも知られている。
もっとも、軍用時計という性格上、これらの時計は実際に過酷な環境で酷使されたので、良好な状態の個体は非常に少ない。しかし、その歴史的重要性については疑いようがない。
タイプ20
第二次世界大戦後、ハンハルトはフランスへの戦後賠償の一環として、ヴィクサの名でフランス空軍向けタイプ20を製造することになった。タイプ20クロノグラフを製造したメーカーは少なくとも7社存在し、ハンハルト/ヴィクサのほかにも、マセ・ティソ、エラン、アウリコスト、クロノフィックス、ドダーヌ、そしてもちろん、ブレゲなどが名を連ねている。なかでも現在、最も高い人気を誇っているのがブレゲ製のものである。

▲ハンハルトが製造したヴィクサ タイプ20。
タイプ20というのはモデル名ではなく、戦後1940〜50年代にフランス空軍がクロノグラフに求めた仕様の名である。一般的に、38mm未満のケースサイズ、ねじ込み式ケースバック、14mm以下の厚さ、日差8秒以内の精度、そして何より、少なくとも300回は確実に作動するフライバッククロノグラフを備えることが条件だった。
ただし、それ以外の部分についてはかなり自由度があり、インダイヤルの構成、針の形、ベゼル、リューズのサイズや形などはメーカーごとに異なっていた。
マセ・ティソは、第一次世界大戦中にアメリカ陸軍工兵隊向けクロノグラフ腕時計を供給していたメーカーで、その後ブレゲ向けタイプ20の製造も請け負っている。
1950年代には、およそ2000本のブレゲ製タイプ20が納入されたと考えられており、これらにはバルジュー222が搭載されていた。さらに後に民間市場向けとして販売されたモデルには、バルジュー222、225、235、720などが採用されている。
興味深いのは、フランス空軍向けブレゲ・タイプ20と、海軍向けモデルの違いだ。空軍仕様には、ムーブメントを磁気から守るための軟鉄製インナーケースが備えられていた。また、空軍モデルが30分積算計を採用していたのに対し、海軍仕様は“大きな目”のように見えるビッグアイ15分積算計を備えていた。
やがて製造コストの上昇によって、フランス政府はタイプ20の採用を終了する。しかしブレゲは、その後も一般市場向けにこの時計を販売し続けた。そして軍用支給モデルとの違いを示すため、民間仕様では名称がローマ数字表記の〈タイプ XX〉へ変更されたのである。

▲ 2018年、フィリップスのオークションで20万スイスフランで落札された、イエローゴールド製ブレゲ〈タイプ XX〉(Image: Phillips)
ブレゲは民間市場向けに、およそ2000本の〈タイプ XX〉を製造したと考えられている。しかし、そのうちイエローゴールド製はわずか3本しか存在しないとされる。そして2018年、その貴重なゴールドモデルのうち1本が、フィリップスのオークションで20万スイスフランで落札された。
RAF レマニア
ドーバー海峡の向こう側、つまり英国軍を代表する軍用時計といえば、やはり英国王立空軍(RAF=Royal Air Force)に支給された伝説的なIWC〈マーク11〉だろう。
しかし実はそれだけではない。1940年代後半から1970年代にかけて、レマニアはイギリス国防省(MoD)向けに、非常に興味深いモノプッシャー・クロノグラフも開発していたのである。

▲ クラウンとプッシャーを保護するため、特徴的なアシンメトリーケースを採用したRAF レマニア シリーズ3(Image: Shuck the Oyster)
これらのクロノグラフは3つのシリーズに分けられ、その典型とされるのが、クラウンとプッシャーを保護するために特徴的なアシンメトリーケースを採用した第3シリーズである。
これらは英国空軍および英国海軍航空隊(フリート・エア・アーム)の双方に支給され、アラビア数字入りの大型ブラックダイヤルや夜光付きの針とインデックスなど、パイロットウォッチに共通するデザインコードを備えていた。

▲ RAF レマニア シリーズ3の別個体(Image: Shuck the Oyster)
注目したいのは、その内部に搭載された極めて堅牢なコラムホイール式レマニア Cal.2220である。このムーブメントは、先行シリーズに搭載されていたCal.15CHTとは異なり、テンプ軸にインカブロック耐震装置を備えていた。 さらに、これらのレマニア製ムーブメントは、通常のクロノグラフとは異なる独自の構造を採用していた点でも興味深い。
一般的なクロノグラフでは、クロノグラフ秒針車に取り付けられたフィンガーによって60秒ごとに分積算計を送る仕組みとなっているが、このムーブメントでは、クロノグラフ作動時に輪列の秒車と分積算車を連結するオシレーティングピニオンを採用していたのである。
このように独立したシステムを用いることで、理論上はジャンプ動作が不要となり、輪列への負荷を軽減できる。また、一般的なクロノグラフに見られる半瞬時送り式の分積算計とは異なり、より連続的で滑らかな動きを実現していた。

▲ オシレーティングピニオンを備えたレマニア Cal.2220。写真左側、分積算車の隣にその機構を見ることができる。これはムーブメントのセンターホイールとクロノグラフの分積算車を連結する役割を担う(Image: watchguy.co.uk)
A.カイレッリ〈CP-1〉と〈CP-2〉
今日、軍用クロノグラフのなかでも特に高い人気を誇るモデルのひとつが、1960〜70年代にイタリア空軍(AMI=Aeronautica Militare Italiana)のために開発され、ローマのリテーラーであるA. カイレッリによって供給された〈CP-1〉および〈CP-2〉(Cronometro da Polsa Type 1/2)である。
しかし、〈CP-1/CP-2〉クロノグラフの物語は、それ以前の巨大な時計から始まっている。それが、1953年にユニバーサル・ジュネーブによって製造された〈タイプ HA-1〉だ。極めて希少なこの大型スプリットセコンド・クロノグラフこそが、その原点である。

▲ 2016年、フィリップスにおいて19万7000スイスフランで落札されたユニバーサル・ジュネーブ〈HA-1〉(Image: Phillips)
ケース径44.5mmを誇るこの時計は、現代の基準から見ても巨大であり、パイロットが時角を計算するための16分積算計を備えたホワイトの24時間表示ダイヤルを備えていた。 そして何より重要なのは、この時計に、ロレックス唯一のスプリットセコンドRef.4113にも搭載されたムーブメント、バルジュー Cal.55 VBRが採用されている点だ。
現代的とも言える大型サイズ、卓越したムーブメント、そして極端な希少性によって、その価格は現在15万スイスフランを大きく超えている。
〈HA-1〉の後継として登場したのが、レオニダス製の〈CP-1〉、そして後にユニバーサル・ジュネーブ、ゼニス、さらに再びレオニダスによって製造された〈CP-2〉である。この2世代はサイズに違いがあり、〈CP-1〉は39mm径、〈CP-2〉は43mm径であった。いずれも〈HA-1〉と同様、本来は懐中時計用として設計されたムーブメントを搭載しており、それが大型ケースの理由となっている。CP-1には、フライバック機構とハック機能を備えたバルジュー Cal.22-2が搭載されていた。

▲ レオニダス〈CP-2〉。後のホイヤー、ブンデスヴェーアの前身にあたるモデル(Image: Phillips)

▲ 1970年頃に製造されたゼニス〈CP-2〉(Image: Phillips)
〈CP-2〉は、幅広いブラックベゼルを特徴としており、そのデザインはホイヤー〈ブンド〉クロノグラフを強く想起させるものだった。 ゼニス製モデルには、後にゼニスが1950年代末に買収するクロノグラフ専門メーカー、マルテルが製造したCal.146 DP(フライバック機構なし)が搭載されていた。
一方、レオニダス製〈CP-2〉には、ブレゲ タイプ20にも採用されたバルジュー Cal.222が搭載されていた。そしてユニバーサル・ジュネーブ製モデルではCal.265Pが用いられたが、コスト面の理由から生産数は限られていたと考えられている。
すべての〈CP-2〉は、スクリューバック式裏蓋を備えた3ピースケース構造を採用し、内部にはダストカバーを備えていた。また、トリチウム夜光付きのブラックダイヤル、バイコンパックス式クロノグラフレイアウト、そして外周のレイルウェイミニッツトラックを共通の特徴としていた。 近年では、特にゼニス製〈CP-2〉がヴィンテージ市場で驚くほど高額で取引されるようになっている。
ブンデスヴェーア・クロノグラフ
1964年にレオニダスを買収したホイヤーは、1960年代初頭から1970年代初頭にかけて、西ドイツ連邦軍、すなわちブンデスヴェーア向けに1550 SGフライバック・クロノグラフを製造した。この時計はパイロットウォッチとして設計されていたが、同時に他軍種の仕様にも適合するよう作られていた。

▲ 恒星時に合わせて調整されたムーブメントを搭載するホイヤー Ref.1551 SGSZ“シュテルンツァイト・レギュリエート”(Image: Phillips)
最も興味深く、そして最も希少な仕様として知られるのが、砲兵部隊向けに製造されたRef.1551 SGSZ “シュテルンツァイト・レギュリエート”クロノグラフである。 外観はほかのブンド・ウォッチとほとんど変わらないが、そのムーブメントは実際には恒星時用に調整されており、通常の時計より1日あたり約4分速く進むよう設定されていた。
これは、砲兵部隊が真北を割り出すために恒星時を使用していたためである。そのため誤用を防ぐ目的で、ダイヤル上には「Sternzeit Reguliert」の文字が印字されていた。
ホイヤー“ブンデスヴェーア”は、前身であるレオニダス〈CP-2〉と同様、バランスの取れた現代的サイズ感を備えたクロノグラフであり、非常に幅広いブラックコーティングの回転ベゼルと大型インダイヤルを特徴としていた。ムーブメントには、当初フライバック機構付きのバルジュー Cal.222、後にはCal.230が搭載された。
またユニークなのはケース構造で、ムーブメントを前面側から組み込む設計となっていた。ベゼルと風防はインナーケースに固定されており、そのための4本のネジがケースバック側から確認できる。これらの時計には、ブンドスタイルのレザーカフストラップが装着されていた。これは高々度における極端な温度からパイロットの皮膚を守るためである。

▲ ホイヤー “3H” 1550 SG ブンデスヴェーア(Image: Analog:Shift)
1980年代になると、ドイツ・フランクフルトの時計ブランド、ジンがこれらホイヤー製クロノグラフの整備を請け負うようになった。同時に、余剰となった個体の一部を同社が取得・レストアし、ジン名義の交換用ダイヤルを装着したうえで民間向けに販売していた。この時計には数多くのバリエーションが存在するが、その違いの多くはロゴや表記など外観上のものに留まっている。
初期に使用されていた放射性夜光物質は後にトリチウムへ変更され、それに伴いダイヤルには夜光素材を示す化学記号Hydrogen-3に由来する「3H」の表記が加えられた。また、一部仕様では6時位置インデックス上に小さな「T」が記され、トリチウム使用モデルであることを示していた。
今日では、シュテルンツァイト・レギュリエート仕様を除けば、ホイヤー“ブンデスヴェア”はおおむね5000〜1万スイスフラン程度で入手可能である。 軍用由来の背景、現代的なデザイン、そして優れたフライバック・ムーブメントを備えていることを考えれば、なお魅力的な価格帯と言える。
ポルシェ・デザイン〈クロノグラフ1〉
1980年代を代表する軍用時計のなかでも、最もアイコニックでありながら過小評価されているモデルのひとつが、スイスの軍用時計サプライヤーであるオルフィナによって製造されたポルシェ・デザイン〈クロノグラフ1〉である。この時計はもともと、1972年にポルシェ・デザインによって民間市場向けにデザインされたが、その後、世界各国の空軍に採用されることとなった。
クオーツ危機の時代、そのデザインとムーブメントには、機械式時計の最後の輝きとも言える技術革新の数々が注ぎ込まれていた。ケースはブレスレットと一体感を持つオーバル状フォルムを採用していたが、最大の特徴は全面を覆うマットブラック仕上げにあった。ポルシェ・デザイン〈クロノグラフ1〉は、軍用航空機にのみ用いられていた表面処理技術PVD(Physical Vapor Deposition/物理蒸着)を採用した、世界初のオールブラックウォッチだったのである。

▲ ポルシェ・デザインによるオルフィナ製クロノグラフ。ムーブメントにはCal.7750を搭載している(Image: Christie’s)
ムーブメントはバルジュー Cal.7750が搭載されていたが、数年後には極めて堅牢なことで知られるレマニア Cal.5100へと置き換えられた。1969年に登場した先駆的自動巻きクロノグラフとは対照的に、これらのムーブメントはクォーツショックの影響を強く意識して設計されており、「最小限かつ最も安価な部品で最大限の性能を実現する」という、従来とは異なるエンジニアリング思想を反映していた。
両者はいずれもカム切り替え式クロノグラフではあったが、その構造はまったく異なっていた。バルジュー Cal.7750では、オシレーティングピニオンによってムーブメントの4番車とクロノグラフ秒針機構を連結していたのに対し、レマニア Cal.5100では、4番車と一体化された垂直クラッチを採用しており、その上部に配置されたクロノグラフ秒針車を直接駆動していたのである。

▲ 時代錯誤的とも言えるピラー型構造を持つレマニア Cal.5100。脱進機のガンギ車の隣に見える垂直クラッチは4番車と一体化されており、その上部に配置されたクロノグラフ秒針車を駆動する(Image: watchguy.co.uk)
その結果、レマニア Cal.5100は優れた耐衝撃性を持っていた。当時の水平クラッチ式クロノグラフでは、衝撃を受けるとクロノグラフ秒針が停止してしまうことがよくあった。しかし、このムーブメントではそうした問題が起こりにくかったのである。
さらにレマニア Cal.5100は、独特なピラー型アーキテクチャーを採用していた。通常のように地板を切削して歯車を収めるのではなく、部品をプレス加工で作り、製造コストを大幅に削減していたのである。加えて、一部パーツにはナイロンやデルリン樹脂といった、低摩擦かつ衝撃吸収性に優れた素材が使用されていた。

▲ レマニア Cal.5100は、ダイヤル側では12時位置の24時間積算計と、クロノグラフ秒針と同軸に取り付けられたセンター式クロノグラフ分針によって容易に識別できる(Image: Watchpool24)
民間向けモデルにはバルジュー製とレマニア製の両ムーブメントが混在して搭載されていたが、軍用仕様ではすべてレマニア Cal.5100が採用されていた。
これら軍用モデルでは、ダイヤル上の「Orfina」ロゴが「military」表記へ置き換えられているほか、タキメータースケールは通常12時間表示スケールへ変更され、センター式クロノグラフ分針は先端のみを赤く残したブラック仕上げとなっていた。

▲ コクピット内での視認性向上を目的として、12時間スケールを採用した軍用仕様(Image: A Collected Man)
今日では、これらの時計はますますコレクターズアイテムとして人気を高めている。特に軍用仕様は、過酷な使用によってPVDコーティングが摩耗している個体が多く、良好なコンディションで見つけることは容易ではない。
しかし、この時計の価値は単なる軍用由来に留まるものではない。ポルシェ 911を生み出した天才デザイナー(フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ)によって手掛けられたという事実もまた、このモデルを特別なものにしているのである。
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