2020年、コロナ禍の只中でわずか8ブランドから始まったジュネーブ・ウォッチ・デイズは、2026年に第7回を迎え、参加ブランドは71社へと拡大した。大手メゾンから独立系、マイクロブランドまでを包摂し、しかも一般公開を無料とする独自のスタイルによって、いまや単なる時計見本市を超えた文化イベントへと進化している。Revolutionは、その共同創設者でありプレジデントを務めるジャン・クリストフ・ババンにインタビュー。小規模ブランドを育てる“インキュベーター”としての役割、次世代への時計文化の継承、そして業界を競争ではなく、コミュニティとして捉える思想について聞いた。
In conversation with Jean-Christophe Babin, President and Co-founder of Geneva Watch Days
ジュネーブ・ウォッチ・デイズの楽しみ方――ジャン・クリストフ・ババン
2020年、コロナ禍の只中でわずか8ブランドから始まったジュネーブ・ウォッチ・デイズは、2026年に第7回を迎え、参加ブランドは71社へと拡大した。大手メゾンから独立系、マイクロブランドまでを包摂し、しかも一般公開を無料とする独自のスタイルによって、いまや単なる時計見本市を超えた文化イベントへと進化している。Revolutionは、その共同創設者でありプレジデントを務めるジャン・クリストフ・ババンにインタビュー。小規模ブランドを育てる“インキュベーター”としての役割、次世代への時計文化の継承、そして業界を競争ではなく、コミュニティとして捉える思想について聞いた。
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by Joyceline Tully. Aug 31, 2026 |
2026年9月2日〜、ジュネーブ・ウォッチ・デイズが、これまで以上の規模と存在感をもって幕を開ける。その中心人物が、プレジデント兼共同創設者を務めるジャン・クリストフ・ババンだ。
コロナ禍とロックダウンのさなか、7年前にわずか8ブランドでスタートしたこの時計フェアは、その後、参加ブランドを着実に増やしながら、肩肘張らないフェスティバル形式という独自のスタイルを確立。いまや時計業界の年間カレンダーに欠かせない存在へと成長している。

当初参加したのは、ブライトリング、ブルガリ、ドゥ・ベトゥーン、ジラール・ペルゴ、H.モーザー、MB&F、ユリス・ナルダン、ウルベルクの8ブランド。それが今年は、大手ラグジュアリーメゾンから独立系、マイクロブランドまで、約71社が参加する規模へと成長した。
さらに今回は、長年のコレクターや時計愛好家はもちろん、若い世代や新たな層を惹きつけるための新企画も数多く用意されている。単に若者へ時計を紹介するだけではなく、実際に時計製造そのものを体験してもらうことが狙いだ。
たとえば国際時計博物館による“キッズ・クラブ”は、8歳から12歳の子どもたちを対象に、時計製造を親しみやすく、楽しく、分かりやすく体験できるよう企画されている。
一方、恒例の“パワー・ブレックファスト”も引き続き大きな見どころのひとつだ。時計業界のみならず、さまざまな分野の経営幹部が集まり、業界を横断するテーマについて意見を交わす。
今年はジャン・クリストフ・ババンをはじめ、ジョナサン・ブリンバウム(ブルガリ)、パトリック・プルニオ(ソーウインド グループ)、ニールス・エガーディン(フレデリック・コンスタント)、ダビデ・チェラート(ブレモン)、プラニース・ラージ・シン(MING)らが参加する。
このほか、Revolutionのトレーシー・ルウェリンとコンスタント・クォンがモデレーターを務め、時計業界のキーパーソンたちが登壇するシンポジウム、FHH(高級時計財団)が主催するブランチ・クイズ、そして参加ブランドから集められた130本以上の時計を、“空・地・火・水」という4つのエレメントをテーマに紹介するガイド付き展覧会「Air, Earth, Fire, Water: 4 Elements in Time”も開催される。
つまり、ジュネーブ・ウォッチ・デイズ 2026は、ベテランの時計愛好家から次世代まで、幅広い人々が楽しめる本格的な“時計の祭典”となる。その進化を誰よりも楽しみにしているのが、ババン自身だ。
ここでは、ジュネーブ・ウォッチ・デイズがどのように成長してきたのか、ブランドを育てる“インキュベーター”と、次世代へ時計文化を伝える“教育者”という二つの使命、そして2026年大会の見どころについて、彼自身の言葉で語ってもらった。

——ジュネーブ・ウォッチ・デイズ 2026について教えてください。他の時計フェアとの違いはどこにあるのでしょうか?
「年を追うごとに、内容は確実に充実しています。そして今では、単なる時計フェアというより、これまで以上にグローバルな文化イベントになっていると思います。時計そのものを超えて、その周辺で行われるイベントや取り組みも、より文化的なものになっています。
もちろん、すべての出発点は時計です。しかし、シンポジウムやCEOによる“パワー・ブレックファスト”、参加型のアクティビティ、コンテスト、オークションなどを通じて、ここでしか体験できないものをつくろうとしています。そして毎年、各ブランドとともに新しいアイデアを考え、イベントにさらなる厚みを加えています。
参加ブランド数については、現在の規模を維持しています。あまりに多くのブランドを受け入れてしまうと、来場者の体験の質が損なわれてしまうからです。一方で、パビリオンは毎年拡大しています。より多くの一般来場者を迎えることは、最初の開催時から私たちが掲げてきた目標のひとつです。ご存じの通り、第1回から毎日無料で一般公開しています。今年はジュネーブ市やジュネーブ観光局といった、新たな素晴らしいパートナーからの支援も得ています。
ジュネーブ・ウォッチ・デイズは文化イベントであると同時に、非常に教育的なイベントでもあります。例えばコンスタンチン・チャイキンによる“タイム・イン・ペインティング”では、時計製造における創造性が、どのようにアートへと置き換えられるのかを体験できます。また、ジュネーブ時計学校の学生たちが来場者にムーブメントの歩度調整の基本を指導するプログラムもあります。2026年の公式プログラムでは、学生の指導のもとセリタ製ムーブメントの調整に挑戦する“キャリバーシップ・チャレンジ”も予定されています。
さらにフランソワ-アンリ・ベナミアスは、若いコレクターたちに時計業界の“秘密”の一端を明かしてくれます。一方、国際時計博物館は子どもたちに機械式ムーブメントの仕組みや、それが私たちの時間の読み方とどのようにつながっているのかを紹介します」
——ジュネーブ・ウォッチ・デイズは、スタート当初から完全無料で一般公開されています。この方針は、イベントの個性にどのような影響を与え、他の時計フェアとの違いを生み出してきたのでしょうか?
「無料で一般公開するという方針は、来場者だけでなく、行政や参加ブランドからも非常に好意的に受け止められています。ただ、私たちを他のイベントと違うものにしているのは、それだけではありません。最大の特徴のひとつは、各ブランドの最新作の中でも選りすぐりのモデルを、マルチブランド形式のパビリオンで一堂に見ることができる点です。他の時計イベントとは異なり、それぞれのブランドから数本ずつを実際に見比べながら、新しい発見を楽しむことができます。
すでによく知っているブランドもあれば、これまでほとんど知らなかったブランドに出会うこともあるでしょう。私たちは、いわば小規模ブランドの“インキュベーター”です。設立されたばかりの若いブランドや、年間数百本しか製造しない小規模ブランドも参加しています。そうした希少性は、もちろんコレクターにとって大きな魅力です。
つまりここには、ブライトリングやブルガリのようなメジャーブランドから、フェルディナント・ベルトゥーのように歴史を持ちながら復活を遂げたブランド、そして今まさに成長しつつある若いブランドまで、非常に幅広い顔ぶれがそろっています。その多様性こそが、ジュネーブ・ウォッチ・デイズの大きな魅力なのです。
もうひとつ興味深いのは、ウォッチズ&ワンダーズに参加した66ブランドのうち、ジュネーブ・ウォッチ・デイズにも参加するのはごく一部にすぎないということです。つまり毎年、このイベントがあるからこそ、自らの技術力や創造性を披露できるブランドが数多く存在する。ジュネーブ・ウォッチ・デイズがなければ、そうしたブランドが広く注目を集める機会がありません」

——小規模ブランドにとって、ジュネーブ・ウォッチ・デイズが“インキュベーター”となっているというのは、とても興味深いですね。実際のところ、それは彼らにとってどのような意味を持つのでしょうか?
「こうしたブランドの多くがウォッチズ&ワンダーズに参加していないのは、そもそも会場であるパレクスポに十分なスペースがないからです。仮に追加スペースが確保できたとしても、その費用は、まだ成長途上にあるブランドの予算には見合わないものになってしまいます。
その点、ジュネーブ・ウォッチ・デイズは設立当初から非常にインクルーシブで、ブランドごとの規模の違いを尊重してきました。料金体系も単純に使用面積で決まるのではなく、ブランドの規模に応じて複数のレベルが設定されています。そのため、まだ小規模で、出展に大きな予算をかけられないブランドでも参加することができる。これは非常にユニークであり、彼らにとって大きな価値があります。
そして何より、単独では決して実現できないことを、複数のブランドが集まることで実現できる。その点こそが、彼らにとって大きな魅力であり、明確なアドバンテージなのです」
——若いブランドや小規模ブランドにとって、それは大きな後押しになりますね。どのようにして、その仕組みを成り立たせているのでしょうか?
私たちには、年間を通じて人員を雇用し、固定費を抱えるような常設組織がありません。ジュネーブ・ウォッチ・デイズの運営に携わる人たちは、皆それぞれの本業を持ちながら、その仕事に加えてこのイベントに関わっています。それこそが、このフェアの精神だからです。
また、ひとつのブランドだけが運営しているのではなく、多くのブランドがそれぞれプロジェクトチームを送り込み、警備や会場運営など、異なる領域を分担している点も特徴です。一見すると簡単に見えるかもしれませんが、内容のあるプログラムをつくり上げるには、実際にはかなりの時間と労力が必要です」
——ジュネーブ・ウォッチ・デイズの構想を、コロナ禍の2020年に初めて提案したときから、こうした姿を思い描いていたのでしょうか?
「2020年当時の最初の目標は、とにかくコロナ禍の年にも最低ひとつは時計業界のイベントを実現することでした。ほかの大規模な時計フェアが翌年への延期を決めたことで、時計メーカーと業界関係者が直接交流する機会が何カ月にもわたって失われることになったからです。
それは同時に、本来もっと注目を必要としている時計業界が、長期間スポットライトを浴びる機会を失うということでもありました。多くのブランドは、単独で大規模なイベントを開催するには規模が小さすぎます。仮に開催できたとしても、私たちのようなイベントほど効果的ではありません。年間に300もの個別イベントを回ることなど、現実的ではないからです。
だからこそ、わずか5日間で71のブランドと出会い、その時計を知ることができるという機会は貴重なのです。参加ブランドの多くは、まだいわゆる大手や老舗として確立された存在ではありません。少なくとも現時点ではそうです。しかし、彼らこそが“未来のブランド”なのです」
——今年は若いブランドだけでなく、若い世代の来場者へ働きかける取り組みにも力を入れています。その狙いをどのように考えていますか?
「20歳のとき、高級時計が必ずしも最優先の関心事とは限りません。しかし、いつか情熱を込めて手仕事でつくられたものを所有する喜びに目覚める日が来るかもしれない。時計業界にとっては、若い世代がそうした世界に触れる機会を、できるだけ早い段階からつくることが大切です。
例えば、時計を1〜2時間見て回るだけのために25スイスフランを払える人ばかりではありません。けれど、ジュネーブ・ウォッチ・デイズのように無料であれば、『ちょっと覗いてみよう。面白そうだし、名前も聞いたことがある』と気軽に足を運んでもらえるかもしれません。
今年は、時計製造の複雑さをより深く理解してもらうためのインタラクティブなセッションも用意しています。若い世代に知ってほしいのは、機械式時計が単に情熱だけでつくられているのではなく、高度な専門知識と熟練した技術によって生み出される、非常に価値あるものだということです。
シンプルな時・分・秒表示のムーブメントでさえ、およそ180個の部品を組み上げる必要があります。ましてチャイミングウォッチともなれば、800〜1000個もの部品から構成されることもある。客観的に見ても、極めて難しいものづくりなのです。
こうした教育的な取り組みは、時計業界にとって重要な課題のひとつです。そして、それは個々のブランドが単独で行うよりも、業界全体で取り組む方がはるかに効果的です。多様なブランドが集まることで、より多くの人に『訪れてみたい』、『何かを発見したい』と思わせることができるからです。
人が時計に興味を持つきっかけはさまざまです。パートナーへの贈り物かもしれないし、これから予定しているダイビング旅行かもしれない。そうした日常生活の関心事と時計を結びつけることができれば、それだけ時計業界にとってプラスになります。
もちろんその先では、どのブランドを選ぶのか、どのモデルを選ぶのかという市場競争が始まります。しかし、その一歩手前では、私たちは競争相手ではありません。ひとつのコミュニティなのです」

——ジュネーブ・ウォッチ・デイズにとって、“コミュニティ”という考え方はどのような意味を持つのでしょうか?
「私たちの強さは、結束力にあります。ジュネーブ・ウォッチ・デイズにあるのは、コミュニティの精神です。それは、時計に情熱を持って訪れるコレクターや、新しい発見を求める人々、メディアだけを指すのではありません。互いに競い合うのではなく、力を合わせることでより強くなれると信じている、時計業界全体のコミュニティでもあるのです。
だからこそ、ジュネーブ・ウォッチ・デイズで過ごす時間の多くは、販売そのものよりも、分かち合い、発見し、学び、理解することに費やされています」
——今年の“キャリバーシップ・チャレンジ”と“カルチャー・クラブ”について教えてください。
「今年は、来場者がより積極的に参加できる体験を増やしたいと考えました。“カルチャー・クラブ”には、FHH(高級時計財団)、GPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)、ザ・ウォッチ・ライブラリー、ホロペディア、COSC(スイス公式クロノメーター検定協会)、ジュネーブ時計学校が集まります。それぞれが専用ラウンジを設け、クイズやゲーム、体験型プログラムを通じて、時計製造のさまざまな側面を知ることができます。
“キャリバーシップ・チャレンジ”は、2つのパートで構成されています。ひとつは高品質なムーブメントの歩度調整、もうひとつは磁気をテーマにしたものです。特に私が気に入っている点は、参加者を指導するのが学生たちだということです。彼らが、この2つのテーマについて基本となる知識や技術を教えてくれます」
——今年のジュネーブ・ウォッチ・デイズで、あなたが最も注目していることは何でしょうか?
「シンポジウムやCEOによる“パワー・ブレックファスト”には、素晴らしい顔ぶれがそろいます。また、今年はこれまで以上に多くのアクティビティが用意されています。
時計業界というのは、ともすれば少し真面目でフォーマルになりがちです。だからこそ今回は、それをもっと文化的で、楽しく祝う場にしたい。時計業界に関わることの喜びを表現するイベントでもあるのです」
——ジュネーブ・ウォッチ・デイズを最大限楽しむために、来場者へアドバイスするとしたら?
「率直に言えば、4日間滞在することをおすすめします。どのブランドにも、それぞれ異なる理由で見る価値があります。ですから理想を言えば、できるだけ多くのブランドを見る時間を取ること。それが、このイベントを存分に楽しむいちばんの方法です。
1日で半分ほどのブランドを回ることもできるでしょう。しかし、このイベントが大切にしているのは、人と人が交流し、対話し、つながることです。そのためには、腰を落ち着けて話を聞き、『なぜこの時計をつくったのか』まで理解する時間が必要です。
だからこそ、ジュネーブ・ウォッチ・デイズで用意されている多彩な体験を楽しむために、ぜひ十分な時間を確保してほしいと思います」
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