HAUTLENCE: Changing Time
時の読み方を変えるブランド―オートランスとは何か?
回転する球体で時を告げる〈スフィア シリーズ 4〉と、ジャンピングアワーと外周を巡るカーソルで時刻を示す〈クベラ シリーズ 1〉。2004年の創業以来、時刻表示の常識に挑んできたオートランスが、異なる表現を持つ2本を送り出した。機構の動きを見せる楽しさと、複雑な仕組みが支える簡潔な表示。その両面から、機械式時計の新たな可能性を探る。
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by Revolution. Sep 30, 2026 |
時計にもっと自由な発想を!
オートランスは、創業当初からスイスの時計づくりに敬意を払ってきた。ブランド名は、2004年に創業した時計産業の街、ヌーシャテル(Neuchâtel)の文字を並べ替えたものだ。ただし、目指していたのは、従来の時計とは違う新しい表現だった。
共同創業者のギヨーム・テテュとルノー・ド・レッツは、創業前から何年にもわたり、「時計には、もっと自由な発想があってもいいのではないか」と話し合っていた。特に関心を持っていたのが、時と分の表示方法だ。
テテュによれば、ウルベルクのフェリックス・バウムガートナーやヴィアネイ・ハルターといった先駆者を除くと、時刻の表示方法を根本から見直そうとするブランドは、驚くほど少なかった。オートランスは、そこに挑戦しようとしたのである。
「2004年の創業以来、オートランスは機械の仕組みに建築やアートの発想を取り入れ、ジャンピングアワーという、数字が瞬時に切り替わる時刻表示を追求してきました。その考え方は今も変わりません。複雑な機構を備えた〈スフィア〉シリーズにも、洗練された優雅さを持つ〈クベラ〉にも受け継がれています」と、創業者兼会長のギヨーム・テテュは語る。
▲左:オートランス〈スフィア シリーズ 4〉 右:オートランス〈クベラ シリーズ 1〉
最初の時計〈HL〉は2005年に登場した。そこには、20年後の現在にも受け継がれるデザインや機構のアイデアが、すでに盛り込まれていた。角を丸めた長方形のケースは、どこか昔のテレビ画面を思わせる。中央の針で時刻を示す一般的な時計とは異なり、時はディスクの数字が瞬時に切り替わるジャンピングアワーで表示。分は針が弧を描くように進み、毎正時にゼロへ戻るレトログラード式を採用していた。
さらに、各機構の動きをつなぐロッドなど、仕組みの多くを文字盤側から眺めることができた。時刻を知るだけでなく、それを表示する機械の動きそのものを楽しめる時計だった。

▲オートランス〈HL〉(2005年)
このアイデアは、その後のモデルへと発展していった。2009年の〈HLQ〉では、ジャンピングアワーとレトログラード式の分表示に、日付が瞬時に切り替わる機構を追加。続く2011年の〈HL2.0〉では、さらに大胆な仕組みを取り入れた。時を示す数字がチェーン状につながったリンクに載って縦方向に移動し、ムーブメントそのものも動いて、表示の一部を担うようになったのである。
針が扇形に動いて元に戻るレトログラード表示、数字が瞬時に切り替わるジャンピング表示、目に見えるレバーの動き、そして型にはまらないケースの形。こうした特徴が、オートランスらしさを形づくっていった。

▲オートランス〈HLQ〉(2009年)

▲オートランス〈HL2.0〉(2011年)
H.モーザーと同じグループへ
2012年、オートランスは大きな転機を迎えた。オーデマ ピゲの元CEO、ジョルジュ=アンリ・メイランが率いる、家族経営の時計グループ、MELBホールディングの傘下に入ったのである。
これにより、創業以来の自由な発想を保ちながら、より豊富な資金や経験、時計づくりのネットワークを活用できるようになった。同グループには、H.モーザーや、精密部品メーカーのプレシジョン・エンジニアリングも加わることになる。
その後も、オートランスの挑戦は続いた。〈ヴォルテックス〉では、〈HL2.0〉の動きのある立体的な機構をさらに発展させた。一方、2016年に登場した〈プレイグラウンド〉コレクションでは、腕時計というものを、もっと自由に捉えてみせた。
〈ラビリンス〉と、その翌年に登場した〈ピンボール〉は、腕に着けて遊ぶ機械仕掛けのゲーム。時刻を表示する機能さえなかった。腕時計は、遅刻していないかを確かめるためだけのものではない。そんなことを、遊び心たっぷりに思い出させてくれる作品だった。

▲オートランス〈ラビリンス〉(2016年)
2019年には、現在のオートランスにつながる重要なアイデアが生まれた。〈HL スフィア〉では、ジャンピングアワーの数字を、文字盤の片側に浮かぶように配置したチタン製の球体に載せた。球体が回転して時を示し、その反対側ではレトログラード式の針が分を表示する。
オートランスは10年以上にわたり、時刻表示を瞬時に切り替えたり、針を元の位置に戻したり、数字を直線上に移動させたりしてきた。そして今度は、立体的に回転する動きで時刻を伝えるようになったのである。

▲オートランス〈HL スフィア〉(2019年)
2020年、オートランスは創業の地ヌーシャテルを離れ、新たな一歩を踏み出した。MELBがブランドの事業拠点をシャフハウゼン地域に集約し、H.モーザーやプレシジョン・エンジニアリングとの連携を深めることにしたのである。
その2年後、オートランスは、より現代的でスポーティな姿となって、新作〈リニア シリーズ 1〉を発表した。ただし、その機構にはブランドの原点が息づいていた。時を直線上で示すジャンピングアワーには、関節のようにつながったリンク機構が使われ、初代〈HL〉の仕組みを思わせるものだった。
この原点とのつながりを、さらに明確に示したのが、創業20周年を迎えた2024年の〈HLXX〉である。初代〈HL〉のムーブメントと、ジャンピングアワー、レトログラード式の分表示を受け継ぎ、縦横のバランスを見直した新しいチタン製ケースに収めた。
2004年にオートランスが追求し始めたアイデアには、まだ発展の余地がある。〈HLXX〉は、そのことをはっきりと示していた。

▲オートランス〈HLXX〉(2024年)
受け継がれる革新性
〈スフィア シリーズ 4〉を見ると、こうしたアイデアが今も受け継がれていることがよく分かる。内部の機構が見えるスケルトン仕様の文字盤。その左側には、時を示す数字を載せたサンドカラーのチタン製球体が配置されている。
球体は、車輪のように一定の方向へ回るだけではない。4つの傘歯車と、21度の傾斜を持つ交差した2本の軸を組み合わせることで、3つの軸を中心に立体的に回転し、時を表示する。

▲オートランス〈スフィア シリーズ 4〉
球体の反対側では、オートランスおなじみの仕組みで分を表示する。針は180度の弧を描いて進み、1時間が経過すると瞬時に出発点へ戻る。
文字盤の大部分がスケルトン仕様のため、機構を間近に眺めることができる。球体の周囲には歯車やブリッジが広がり、時が切り替わる瞬間も、目で追って楽しめる。
時計を動かすエネルギーの残量まで、見どころのひとつになっている。ゼンマイを収める香箱と、その巻き上げに使う歯車が肉抜きされており、ゼンマイの巻き具合が見えるのだ。その様子から、残りのパワーを視覚的に把握できる。

▲オートランス〈スフィア シリーズ 4〉
手巻きキャリバーA82は、オートランスの工房で設計・組み立てを行い、72時間のパワーリザーブを備える。ヒゲゼンマイは、同じグループのプレシジョン・エンジニアリング製だ。
37×45mmのグレード5チタン製ケースと、スケルトン化したムーブメントによって、重量は従来の150gから88gへと大幅に軽減。近年のオートランスらしい、引き締まった一体感のあるフォルムに仕上げられている。これほど個性的な機構を備えながら、防水性能は実用的な100mを確保。世界限定28本が製作される。
〈クベラ シリーズ 1〉は、同じ哲学をまったく異なる形で表現している。〈スフィア〉が機構を大胆に見せるのに対し、〈クベラ〉は一見すると、とてもシンプルだ。
ステンレススティール製のケースと一体型ブレスレットは、幾何学的な形を段状に重ねたデザイン。モチーフをいくつもの面に分けて表現する、キュビスムから着想を得ている。もうひとつのヒントとなったのが、エス・テー・デュポンのライターだ。その造形は、実用品をラグジュアリーな品へと高める手本となった。
オリーブグリーンの文字盤にも、外側から内側へと段差が続く。まるで、何層にも重なる建築の内部を見下ろしているようだ。ブレスレットも同じ考え方でデザインされ、ケースから離れるにつれてコマが少しずつ小さくなる。時計全体が、ひとつの金属から彫り出されたかのような一体感を生んでいる。

▲オートランス〈クベラ シリーズ 1〉
そして、あるものがないことに気づく。針だ。時は窓の中の数字が瞬時に切り替わるジャンピングアワーで表示され、時刻を合わせる際には、数字を前にも後ろにも送ることができる。一方、分を示すのは、文字盤の外周を移動するターコイズブルーのマーカー。文字盤の下に隠されたガイドに沿って動く仕組みだ。
特に手が込んでいるのが、この分表示である。ムーブメントの中心から専用の歯車列を通じて外周のリングを動かしており、そのために36個もの部品が追加されている。一定の位置から次の位置へと切り替わる日付リングと違い、このリングは動き続けながら、1時間を通して正確な位置を保たなければならない。そのため、摩擦や部品寸法のわずかな誤差、動作の安定性、消費エネルギーまで、細かく管理する必要がある。さらに、文字盤は高さの異なる2層で構成され、それぞれを正確な位置に安定して固定することも求められる。
見た目のシンプルさの裏には、これほど複雑な仕組みが隠れている。〈スフィア〉に比べて控えめな印象だが、その発想は同じくらい独創的だ。機械の動きを見せる代わりに、〈クベラ〉は時刻表示そのものの動きで、見る人を楽しませるのである。

▲オートランス〈クベラ シリーズ 1〉
内部には、ふたつのムーブメント専門メーカーの技術が集められている。自動巻きムーブメントB60はラ・ジュー・ペレ製で、磁気の影響を受けにくい脱進機を備える。一方、ジャンピングアワーと外周の分表示を担うモジュールは、複雑機構を得意とするアジェノーと共同で開発した。
パワーリザーブは少なくとも70時間。こうした専門メーカーとの協力によって、オートランスは、機械式時計で時の流れをどう独創的に伝えるかという、自らの得意分野に力を注ぐことができるのである。

▲オートランス〈クベラ シリーズ 1〉
オートランスは、これまでやってきたことをただ繰り返すことには、まったく興味がありません」と、オートランスのブランドマネージャー、セドリック・ジョースは語る。
「私たちは常に既成概念を打ち破り、メカニズムとデザインをさらに先へと押し進めようとしています。そして創業当初から変わらない、大胆でエッジの効いたブランドであり続けたいと考えています」
〈スフィア〉と〈クベラ〉は、外観こそ大きく異なるが、どちらもオートランスが最初の腕時計で提示したアイデアを受け継いでいる。〈スフィア〉がそのメカニズムを大胆に見せる一方、〈クベラ〉はその多くを建築的なダイヤルの下に隠している。
創業から20年以上を経た現在も、オートランスは機械式時計による時刻表示のあり方を変える、新たな方法を探し続けている。その姿勢は、2004年の創業時から変わっていない。
Brands:Hautlence


