独創的な表示機構から、手仕事が光る文字盤、本格的な自社製ムーブメントまで。GPHG 2026の「Petite Aiguille」部門には、大塚ローテックの8号をはじめ、異なる魅力を備えた6本が名を連ねた。限られた価格の中で、どこまで時計作りの可能性を広げられるか。本命・対抗・穴を挙げながら、受賞の行方を読み解く。
GPHG 2026 Predictions: Petite Aiguille — Watchmaking Beyond the Price Tag
GPHG 大予想——Petite Aiguille部門「価格を超える時計作りの競演」
独創的な表示機構から、手仕事が光る文字盤、本格的な自社製ムーブメントまで。GPHG 2026の「Petite Aiguille(プティット・エギーユ)」部門には、大塚ローテックの8号をはじめ、異なる魅力を備えた6本が名を連ねた。限られた価格の中で、どこまで時計作りの可能性を広げられるか。本命・対抗・穴を挙げながら、受賞の行方を読み解く。
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by Revolution Japan. Sep 24, 2026 |
- 「Petite Aiguille」部門とは?
- Nominee #1——CHRISTOPHER WARD Loco Classic
- Nominee #2——FRÉDÉRIQUE CONSTANT Classic Worldtimer Manufacture
- Nominee #3——MASSENA LAB Noctograph by Massena LAB and Raúl Pagès
- Nominee #4——MING × J.N. Shapiro 37.06 Lightning
- Nominee #5——OTSUKA LOTEC No.8
- Nominee #6——TAG HEUER TAG Heuer Monaco Chronograph
- Revolution Japanの予想
「Petite Aiguille」部門とは?
「Petite Aiguille(プティット・エギーユ)」は、フランス語で「小さな針」を意味する。大賞である金の針賞と好対照を成している。
ここは単純に価格帯によって区分される部門で、2026年は小売価格4,500〜10,000スイスフラン(約86万〜191万円)の間の時計が対象となる。一点製作のユニークピースは含まれない。
Challenge部門と並び、これほど選考基準がわかりやすく、またフェアな部門はない。実際に時計を購入しようと思っている人には、もっとも参考になる部門である。
見どころは、一定の価格枠の中で繰り広げられる、多彩な時計作りだ。複雑機構で驚かせる時計もあれば、仕上げや文字盤の工芸性で魅せる時計もある。バランス重視という考え方も、もちろんある。
機構、デザイン、品質、そして価格。それぞれの作り手が何に力を注いだかを比較できる、愛好家にとって興味深い部門である。

Nominee #1——CHRISTOPHER WARD Loco Classic
クリストファー・ウォード〈C1 ロコ・クラシック〉
2004年に英国で創業したクリストファー・ウォードは、英国のデザインとスイスの時計製造技術を融合し、高品質な機械式時計を手の届く価格で届けるブランドだ。その哲学を体現する最新作が、〈C1 ロコ・クラシック〉である。
手巻きキャリバーCW-003を搭載し、C12 ロコの左右対称の構造をドレスウォッチへと再解釈。丸みを帯びた新しいブリッジには、スイス・ジュラ地方の専門工房APJが5時間以上の手仕上げを施す。ドーム状のセラミック製時分表示盤と、それに沿って湾曲するランス針が優美な表情を生み、マザー・オブ・パールの粉末を含む塗装が背景に繊細な輝きを添える。
直径41mmのケースは904Lステンレススティール製。側面からラグへ流れる立体的な造形を持ち、ラグは1本ずつろう付けされる。表裏のサファイアクリスタルを含む総厚は14.1mmだ。
毎時2万8800振動のムーブメントは、2つの香箱から同時に動力を供給するツインバレルを採用。144時間のパワーリザーブ全域で、日差0〜+7秒の精度を実現するという。手仕上げと独創的な構造を4,775スイスフランに収めた、価格以上の内容が光る1本だ。

Tech Specs
クリストファー・ウォード〈C1 ロコ・クラシック〉 ケース:ステンレススティール、直径41mm、厚さ14.1mm 文字盤:セラミック製の時分表示盤 ムーブメント:手巻き、毎時2万8800振動、パワーリザーブ144時間 機能:時・分表示 防水:30m ストラップ:レザー、フォールディングバックル リファレンス:C01-41H6D1-S00G0-VT 発売予定:2026年10月 価格:4,775スイスフラン(税込)

Nominee #2——FRÉDÉRIQUE CONSTANT Classic Worldtimer Manufacture
フレデリック・コンスタント〈クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール〉
1988年に創業したフレデリック・コンスタントは、本格的なスイス製機械式時計を手の届く価格で提供することを目指すブランドだ。2012年の登場以来、その代表作となっているクラシック ワールドタイマー マニュファクチュールが、機構とデザインを刷新した。
搭載するのは、ブランドにとって35番目の自社開発ムーブメントとなるFC-719。主ゼンマイの長さと合金組成を見直し、毎時2万8800振動を維持しながら、パワーリザーブを従来の38時間から72時間へと延ばした。
一方、ケース径は2mm小さい40mmに。日付表示を省いた文字盤はすっきりと整い、時刻とワールドタイム表示の視認性が高まった。
世界24の基準時間帯を同時に表示し、2色の24時間ディスクで昼夜も判別できる。わずか24個の部品で構成されるワールドタイマーモジュールは、すべての機能をリューズひとつで調整可能。独立したコレクターを設けない構造が、操作の簡便さとケースの端正な輪郭を両立する。防水性能は5気圧だ。
複雑機構の魅力を、扱いやすさと実用性へと結びつけた今回の進化。小径化、視認性の向上、長時間駆動という着実な改良に、フレデリック・コンスタントらしい価値が表れている。

Tech Specs
フレデリック・コンスタント〈クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール〉 ケース:ステンレススティール、直径40mm、厚さ12.53mm 文字盤:グラデーションブルー、ダークグレーの世界地図 ムーブメント:自動巻き。毎時2万8800振動、パワーリザーブ72時間 機能:時・分・秒表示、ワールドタイム、昼夜表示 防水:50m ストラップ:レザー、フォールディングバックル 品番:FC-719BLW3H6 発売:2026年4月 価格:4,995スイスフラン(現地税込)

Nominee #3——MASSENA LAB Noctograph by Massena LAB and Raúl Pagès
マッセナ ラボ × ラウル・パジェス〈ノクトグラフ〉
時計コレクターのウィリアム・マッセナが2018年に設立したマッセナ ラボと、独立時計師ラウル・パジェスが手を組んだノクトグラフは、古典的な意匠とミニマリズムを融合した限定モデル。穏やかな文字盤の表情に、本格的な手仕上げのムーブメントを組み合わせている。
縦方向のブラッシュ仕上げを施したブルーの文字盤は、光によってスレートから青緑、深いミッドナイトブルーへと表情を変える。外周には放射状のブラッシュ仕上げを施したロジウムめっきのチャプターリングを配し、6時位置には一段低いスモールセコンドを配置。1930〜50年代のドレスウォッチに着想を得たリーフ針と、4時位置の控えめな「Massena」の署名が端正な顔を引き立てる。
共同設計による手巻きキャリバーM660は、60時間のパワーリザーブを確保。裏面からは、コート・ド・ジュネーブを施した広いプレートや、手作業で面取りされたブリッジを鑑賞できる。テンプの下には、パジェスの代表作であるオートマタにちなむ亀のマークも潜む。製作と装飾を担うのは選ばれたスイスの時計師たちで、パジェス自身は監督と指揮に当たる。
直径38.5mmのステンレススティール製ケースは、側面のブラッシュ仕上げとラグ、ベゼルのポリッシュが対比を描く。手作りのダブグレーのレザーストラップを合わせ、限定99本。華美な装飾に頼らず、色彩と質感、丁寧な仕上げで魅せる1本だ。

Tech Specs
マッセナ ラボ × ラウル・パジェス〈ノクトグラフ〉 ケース:ステンレススティール、直径38.5mm、厚さ10mm ムーブメント:手巻き。毎時2万8800振動、パワーリザーブ60時間 機能:時・分・秒表示 防水:50m ストラップ:レザー、ピンバックル 品番:ML-RP-N 限定数:99本 発売:2025年10月 価格:8,540スイスフラン(現地税込)

Nominee #4——MING × J.N. Shapiro 37.06 Lightning
ミン × J.N.シャピロ〈37.06 ライトニング〉
写真家としても知られるミン・テインが2017年に立ち上げた独立系時計ブランド、ミンと、ロサンゼルスを拠点に伝統的なギヨシェを追求する時計師ジョシュ・シャピロ。Alternative Horological Alliance(AHA)の創設メンバーでもあり、長年の友人でもあるふたりが、「それぞれの手仕事をひとつのダイアルに持ち寄ったら、何が生まれるのか」という発想から生み出したのが、ミン × J.N.シャピロ〈37.06 ライトニング〉だ。
製作はまず、シャピロのロサンゼルスの工房から始まる。グレード2チタン製のダイアルに、伝統的なローズエンジン旋盤を用いて「ライトニング・ギヨシェ」と呼ばれるパターンを一枚ずつ手作業で刻む。
そのダイアルは次にクアラルンプールへ送られ、ミン・テイン自身がブタントーチで熱処理を施す。ブルー、パープル、オレンジイエローへと移ろう色彩は、チタンを熱することで生まれる自然な発色だ。わずかな加熱時間の違いや素材の結晶構造によって仕上がりが変わる。ダイアルは、二つとして同じ表情を持たない。
一枚ずつギヨシェを刻むシャピロと、一枚ずつ熱で色を与えるミン・テイン。そのふたりの手仕事そのものが生産数を決めるという意味で、〈37.06 ライトニング〉は極めてパーソナルなコラボレーションウォッチである。

Tech Specs
ミン × J.N.シャピロ〈37.06 ライトニング〉 ケース素材:ステンレススティール ストラップ:レザーバックルピンバックル ダイアル:熱処理による独自の発色を施したチタン製ギヨシェダイアル 防水性能:100m ケース径:38mm ケース厚: 10.9mm ムーブメント:手巻き機械式 パワーリザーブ:約42時間 振動数:28,800振動/時 機能:時、分 リファレンス37.06 発表時期2026年6月 価格:6,250スイスフラン(税込)

Nominee #5——OTSUKA LOTEC No.8
大塚ローテック〈8号〉
大塚ローテックは、プロダクトデザイナーとして自動車や家電などを手掛けてきた片山次朗が立ち上げた日本の独立系時計ブランドだ。片山は2008年頃、卓上旋盤を使って独学で時計製作を始め、2012年から作品の販売を開始。鉄板や鋳物、ネジ、レバーといった工業製品の質感や、少し昔の機械が持つアナログな佇まいをデザインの源泉としている。2023年には〈7.5号〉が技術的価値を認められ、国立科学博物館の科学・技術史資料として保存。さらに2024年には〈6号〉がジュネーブ・ウオッチメイキング・グランプリ(GPHG)のチャレンジ賞を受賞し、片山自身も同年、厚生労働省の「現代の名工」に選出された。
新作〈8号〉は、ミキシングコンソールを思わせる表示機構が特徴だ。毎正時、ジャンピングアワーが瞬時に切り替わると同時に、フライホイールと連動した分表示のフェーダーが60から0へ帰零。上部では秒ディスクが90秒で1回転する。MIYOTA 90S5をベースに62個の部品からなる自社製モジュールを搭載し、ミネベアミツミ製の外径1.5mmという世界最小のボールベアリングも採用。大塚ローテックらしい「機械が動くことそのものの面白さ」を、視覚的に表現した一本である。

Tech Specs
大塚ローテック〈8号〉 ケース素材:ステンレススティール ストラップ:ラバー バックル:ピンバックル ダイアル:ラッカー仕上げ 防水性能:30m ケースサイズ:31 × 47.8mm ケース厚:10.8mm ムーブメント:自動巻き機械式 パワーリザーブ:約30時間 振動数:28,800振動/時 機能:時、分、秒、レトログラード分表示、ジャンピングアワー、スローリターン機構 リファレンス:P08 発表時期:2026年1月 価格:4,900スイスフラン(税込)

Nominee #6——TAG HEUER TAG Heuer Monaco Chronograph
タグ・ホイヤー〈モナコ クロノグラフ〉
タグ・ホイヤー〈モナコ クロノグラフ〉が、新たな世代へと進化した。誕生から50年以上を経ても、スクエアケース、左側に配されたリューズ、モーターレーシングと深く結びついたDNAという象徴的な要素はそのままに、ケース設計、装着感、パフォーマンスを現代的にアップデートしている。
スティーブ・マックイーンが着用した伝説的モデルを思わせるオパーリンブルーのダイアルには、シルバーのサブダイアルとレッドのアクセントを組み合わせる。39mmのスクエアケースはグレード5チタン製で、軽量化に加え、よりシャープなラインと立体的な造形によって存在感を高めた。サファイアクリスタルやケースバックも再設計され、腕へのフィット感も向上している。
搭載するのは、自社製自動巻きクロノグラフのキャリバーTH20-11。伝説的なキャリバー11の系譜を受け継ぎながら、約80時間のパワーリザーブを確保する。左右に配したサブダイアル、左側のリューズ、6時位置の日付表示によって、モナコらしい個性を現代的に再構築した一本だ。

Tech Specs
タグ・ホイヤー〈モナコ クロノグラフ〉 ケース素材:チタン ストラップ:レザー バックル:フォールディングバックル ダイアル:ブルーオパーリン 防水性能:100m ケースサイズ:39 × 47.8mm ケース厚:14mm ムーブメント:自動巻き機械式 パワーリザーブ:約80時間 振動数:28,800振動/時 機能:時、分、秒、日付、クロノグラフ リファレンス:CDW2181.FC8360 発表時期:2026年4月 コレクション:モナコ 価格:8,800スイスフラン(税込)
Revolution Japanの予想
今年のプティット・エギーユ部門は、6本すべてが価格以上の内容を持つ激戦区だ。「もし買うなら」という個人的嗜好を反映しやすい部門だけに、審査員の票も分かれるはずだ。だからこそ最後に差がつくのは、スペック以上に「その時計にしかない何か」があるかどうかだろう。
クリストファー・ウォード〈ロコ クラシック〉は144時間パワーリザーブ、自社製キャリバーと実力十分。この1本が選ばれたとしても、何の不思議もない出来栄えだ。ただし、同ブランドは、2023年に〈C1 ベルカント〉でこのカテゴリーをすでに制している。審査員が新たな才能やブランドに光を当てようと考えた場合には、逆風となる可能性もある
フレデリック・コンスタント〈クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール〉も完成度は高い。今年の顔ぶれでは最も優等生だろう。
タグ・ホイヤー〈モナコ クロノグラフ〉は個性的といえば、これほど個性的な時計もなく、かつメジャー・ブランドならではの安心感もある。
しかしながら、完成度だけでなく「目を楽しませ、人に語りたくなる時計」という観点から見ると……、これから紹介する3本が、僅差で上回っているように思われる。
◎本命
大塚ローテック〈8号〉
〈8号〉は99万円(税別)ながら、62部品からなる自社製モジュールに、ミネベアミツミ製の世界最小1.5mmボールベアリングを採用するなど、価格を超えた技術投入が光る一本だ。だが何より魅力的なのは、その“動き”である。複数の表示が連動する様子は、どこか不思議な玩具を眺めているようで、思わずワクワクする。人を童心に帰らせる時計だ。
大塚ローテックは2024年、〈6号〉でGPHGチャレンジ賞をすでに受賞。昭和レトロを思わせる独特のデザインが、海外でも通用することを証明した。ウエイ・コーをはじめ、時計ギークが揃う今回の審査員との相性もよさそうだ。革新性、そして機械としての面白さは文句なし。エレガンスやステイタス性については、見る人によって評価が分かれるだろう。
○対抗
マッセナ ラボ × ラウル・パジェス〈ノクトグラフ〉
見た目は地味。だが、中身が強い。マッセナ ラボは、時計好きが何に惹かれるのかを知り尽くしている。キャリバーM660のブリッジやプレートには、手作業によるアングラージュ、コート・ド・ジュネーブ、ペルラージュが施され、審査員が実機を裏返した瞬間に「ほうっ」と評価が上がるタイプの時計だ。「自分で買って長く使うならこれ」と考える人も少なくないだろう。
マッセナ ラボは2024年のGPHGでクロノグラフ賞を受賞。一方のラウル・パジェスも、同年に第1回ルイ・ヴィトン ウォッチ プライズを制している。いま勢いのある二者が組んだという点も、大きな強みだ。
▲穴
ミン × J.N.シャピロ〈37.06 ライトニング〉
ひと目で強烈な印象を残す一本だ。ジョシュ・シャピロがグレード2チタンのダイアルにローズエンジンで一枚ずつギヨシェを刻み、さらにミン・テイン自身が熱処理によって色を与える。
デザイナー、写真家でもあるブランド・オーナー自身が、時計の仕上げに関わっているという事実は、高く評価されるだろう。伝統的な手仕事、独創性、そして現代的なデザイン。その3つが高い次元で融合している。
弱点を挙げるなら、ムーブメントがミン専用仕様とはいえ、セリタSW210.M1をベースとしていることだろう。
このカテゴリーで重要なのは総合スペックや、マニュファクチュール的要素以上に、「この価格で何を実現したか」である。過去のプティット・エギーユ賞を見ても、トリローブ(2022年)、クリストファー・ウォード(2023年)、クドケ(2024年)、M.A.D. Editions(2025年)と、強烈な個性を持つ独立系ブランドが続いている。その点でも、これらの3ブランドは強いと思うのである。
※本稿の予想はRevolution Japan編集部による独自の見解であり、GPHGの審査結果とは一切関係ありません。
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