ロレックス〈エクスプローラーII〉Ref.1655――地上の光が届かない場所で、今が朝か夜かを教えてくれた洞窟探検家のための一本。“フレッチョーネ”とも“スティーブ・マックイーン”とも呼ばれるこの時計は、発売当初こそ地味な存在だったが、ダイヤルとベゼルに刻まれた無数のディテールが、今なおコレクターを惹きつけてやまない。
Cool Tool: The Story of Rolex Explorer II
ロレックス〈エクスプローラーII〉Ref.1655を探検する
ロレックス〈エクスプローラーII〉Ref.1655――地上の光が届かない場所で、今が朝か夜かを教えてくれた洞窟探検家のための一本。“フレッチョーネ”とも“スティーブ・マックイーン”とも呼ばれるこの時計は、発売当初こそ地味な存在だったが、ダイヤルとベゼルに刻まれた無数のディテールが、今なおコレクターを惹きつけてやまない。
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by Ross Povey . Jun 23, 2021 |
地下へ潜るための時計
“ツールウォッチ”あるいは“プロフェッショナルウォッチ”という言葉は、憧れの腕時計を語る際によく用いられる。
ダイバーズウォッチは本来、回転ベゼルによって経過時間を示し、潜水時の下降・浮上時間を計測するために開発された。1960〜70年代において、この時計は単に見栄えのするアクセサリーではなく、人命を救う大事な安全装備であった。
GMT機構は、航空時代の到来につれて、パイロットや旅行者が二つのタイムゾーンを確認できるよう、実用目的で開発された。
クロノグラフもまた、レーシングドライバー、軍の指揮官、医師たちが職務の中で活用できるよう、さまざまな計測スケールを備えていた。
すなわち、サブマリーナー、GMTマスター、デイトナには、ツールウォッチとしての確かなルーツがあるのである。今回は、ロレックスのツールウォッチ・ラインにおける静かな名作のひとつ、〈エクスプローラーII〉に迫っていく。
ロレックスのスポーツラインに属する、やや通好みのモデル群―たとえば〈ミルガウス〉や〈ターノグラフ〉と同じく、〈エクスプローラーII〉もまた、1971年の発売当初は控えめな評価しか得られなかった。多くの人々にとって、この時計は派手すぎ、文字盤も情報過多に映ったため、販売は伸び悩んだのである。
しかし、今日の市場においては、非常に人気の高いモデルへと変貌を遂げている。必ずしも希少というわけではない(現行のヴィンテージ市場では、この言葉があまりに安易に使われすぎている)
だが、〈サブマリーナー〉や〈GMTマスター〉のように、優れたコンディションの個体を見つけるのは容易ではない。
当時販売が低調であった理由のひとつは、24時間針と24時間ベゼルを備えていたにもかかわらず、そのベゼルが固定式であった点にある。すなわち、2つのタイムゾーンを同時に追うことができず、厳密な意味でGMT機能とは言えなかったのである。
だが、この時計はまぎれもなくツールウォッチであった。そしてその本質を理解するには、より深く潜らねばならない。地下深く、地球の秘められた裂け目へ―真の洞窟探検家たちのように。

▲ ロレックス〈エクスプローラーII〉は洞窟探検用の時計として開発された。
洞窟学(スペレオロジー)は、洞窟を研究対象とする学問である。19世紀後半以降、地理学や地質学とは異なる独自の学問領域として発展してきた。これに対し、余暇として洞窟を探検する行為は“ケイビング”と呼ばれる。
もっとも、洞窟構造の実地調査や研究の多くが、こうした愛好家たちによって担われてきたため、文脈によってはこの活動自体がスペレオロジーと呼ばれることもある。
気の弱い人には到底向かない世界だ。ケイバーたちは、時に身体がようやく通るほどの狭い部分を進み、洞窟の内部で長時間を過ごさなければならない。しかも洞内では時間感覚を失いやすく、自分が今いるのが午前なのか午後なのかさえ曖昧になりかねない。
そこで登場するのが、〈エクスプローラーII〉の24時間針と固定ベゼルである。洞窟学者やケイバーのために設計されたこの時計は、大きく夜光塗料を施した24時間針によって、現在が午前か午後かを判別できるようにした。
きわめて狭い用途ではあるが、自然光から長時間切り離される人々にとっては、確かに実用的な機能だった。また、白夜や極夜が続く地域で活動する探検家にとっても、有効な装備となった。

▲ MK3ダイヤルを備えたロレックス〈エクスプローラーII〉Ref.1655
エクスプローラーIIの初代Ref.1655(1971~1984年)には、GMTマスターRef.1675と同じ26石のキャリバー1575 GMTが搭載されていた。これはキャリバー1570をベースに改良したムーブメントで、キャリバー1575には日付表示機能が加わり、そこから派生したキャリバー1575 GMTには当然ながら24時間針が追加された。
ムーブメントは自動巻きで、時刻合わせのためリューズをいっぱいまで引き出すと秒針が停止するハック機能を備え、さらに約48時間のパワーリザーブを誇った。
クロノメーター認定を受けたこのムーブメントは、リューズガード付き39ミリのステンレススチール製ケースに収められ、ベゼルは固定式で回転せず、24時間表示が刻まれていた。偶数はアラビア数字、奇数はバー状の目盛りで示されている。
マックイーン・ビッグアロー
ヴィンテージ・ロレックスの収集家たちは、時計に愛称や通称を与えることを好む。現在もっとも有名な例は、ポール・ニューマン・デイトナだろう。
時計収集文化を牽引したのはイタリア人たちだったとも言われ、その影響から今日のヴィンテージウォッチ用語にはイタリア語由来の表現が数多く残っている。
たとえば、1950年代の大型バブルバックを指す“オヴェットーネ(大きな卵)”、Ref.8171ムーンフェイズに付けられた“パデローネ(大きなフライパン)”、そしてインデックスに小さな星を配したモデルを意味する“ステッリーネ(小さな星)”などがそうだ。
面白いことに、エクスプローラーII Ref.1655には二つの愛称がある。“フレッチョーネ(大きな矢印)”と“スティーブ・マックイーン”である。
前者は、大きく鮮やかな24時間針に由来し、後者は名優スティーブ・マックイーンがしばしば着用していたとされることから生まれた。
もっとも、彼がよく着けていたことで知られるのは、マットダイヤルのロレックス サブマリーナー Ref.5512であり、彼はRef.1655はまったく着用していなかったという説もある。それでもRef.1655にマックイーンの名は定着した。
近年、マックイーンが自身のスタントマンへ贈った個体がフィリップスで出品されたことで、5512とマックイーンの結びつきはいっそう強まった。そうした経緯もあり、このモデルについては、私はむしろフレッチョーネという呼び名のほうが自然だと感じている。

▲ エクスプローラーIIの初代Ref.1655(1971~1984年)。 “フレッチョーネ(大きな矢印)”または“スティーブ・マックイーン”の愛称で呼ばれる。

▲マックィーンが多く着用していたのはサブマリーナーのほうであった。
神は細部に宿る――この場合、その細部とはダイヤル、ベゼル、そして秒針にある。まずはダイヤルから見ていこう。
Ref.1655の製造期間中に用意されたダイヤルは、実に7種類存在した。うち5種類はスターン製、残る2種類はベイラーが製造したサービス交換用ダイヤルである。後者の2種類は生産終了後に供給されたもので、その後何十年にもわたり整備対応できるよう在庫として確保されていた。
ここで重要なのは、ロレックスが現在のような完全一貫生産体制のマニュファクチュールだったわけではない、という点だ。当時は部品製造の一部を外部メーカーへ委託していた。そのため、供給されたダイヤルやベゼルのロットごとに細かな差異が見られるのである。
ダイヤルの違い MK1〜MK5
ここではサービスダイヤルではなく、主に通常生産分に焦点を当てたい。これらは一般にマーク1からマーク5まで、すなわち「MK1〜MK5」と呼ばれている。
ダイヤルには12時位置に大きな三角インデックス、6時と9時位置には長方形のインデックスが配される。それ以外の時間表示はミニッツトラック内に収まり、太く強調された分目盛りのような意匠となっている。
ダイヤル外周部には24時間表示が点在し、全体の印象をより複雑で賑やかなものにしている。この非常に個性的なデザインは、点滅する四角い照明パネルが並ぶ1970年代のディスコフロアを思わせることから、一部のコレクターに“ディスコダイヤル”と呼ばれてきた。
それぞれのマークは、ダイヤル上に印字された文字の違いによって判別される。

MK1
最初期仕様であるMK1は、横幅のある王冠マークを備え、ROLEXの「R」の脚部が丸みを帯びているのが特徴だ。ダイヤル下部には、トリチウム夜光を示す「T SWISS T」の表記が入る。

MK2
第2世代にあたるMK2は、全体としてMK1によく似ている。しかし王冠マークはやや左右に開いた形状となり、先端の丸点も大きめである。この独特の意匠から、コレクターの間では「フロッグフット」と呼ばれている(同様の王冠マークはロレックス エクスプローラー Ref.1016にも見られる)。
もうひとつの大きな違いは、「PERPETUAL」の文字間隔にある。MK1より横幅が詰まっており、「L」の上端がROLEXの「X」の右下の線とほぼ揃う配置になっている(MK1では、PERPETUALの「A」が「X」の真下に位置する)。
MK2でも、ダイヤル下端にはトリチウム使用を示す「T SWISS T」が記されている。

MK3
MK3は、コレクターの間で“レールダイヤル”と呼ばれる仕様によって、ひと目で判別できるほど前世代と異なる。王冠マークもMK2とは違い、横に広く、輪郭が明瞭で、左右対称に整った形状となっている。ダイヤル外周下部の表記は引き続き「T SWISS T」である。
MK3を見分ける最大の手掛かりは、ダイヤル下半分に配された「SUPERLATIVE CHRONOMETER OFFICIALLY CERTIFIED」の2行表記にある。CHRONOMETER と CERTIFIED、それぞれの語頭にある「C」が上下で垂直に揃っており、その結果、2行の文字列の中央に明確な縦の隙間が生まれている。
この2本の文字列がレールのように見えることから、レールダイヤルの名で知られている。同様の仕様は、Ref.1665 シードゥエラーの一部個体にも見ることができる。

MK4
MK4でまず目を引く違いは、王冠マークである。従来より細身で、やや縦に伸びたような形状となっている。興味深いことに、「PERPETUAL」の文字配置における「L」の位置関係はMK2と同じ仕様である。
そして最大の特徴は、ダイヤル下端の表記変更にある。ここでは「T SWISS < 25 T」と、セリフ体の書体で印字されている。これは、夜光インデックスに塗布されたトリチウムの放射量が25ミリキュリー未満であることを示す表示であった。

MK5
1655の通常生産ダイヤルとして最後を飾るのがMK5である。ダイヤル下端には引き続き「T SWISS < 25 T」の表記が入るが、MK4とは異なり、書体はセリフ(文字の先端につく突起)のないサンセリフ体へ変更されている。
また、王冠マークもより細身となり、下部の楕円形ベース中央の開口部が大きく取られているのが特徴だ。この意匠は、サブマリーナーRef.5513のマキシダイヤルに見られる王冠マークを思わせる。
ベゼルの違い

先にも触れたように、製造期間中にはベゼルにも仕様の違いが存在した。通常生産品だけでも4種類が確認されており、さらにサービス交換用ベゼルも存在する。分類は以下のとおりである。
MK1 太めの書体が特徴で、数字の外縁がステンレス製ベゼル内周の縁ぎりぎりに配置されている。MK1およびMK2ダイヤル搭載個体に用いられた。
MK2 こちらも太字系の書体だが、数字はベゼル上で中央寄りに整然と配置される。MK1ダイヤルの一部個体にも見られるが、主としてMK3およびMK4ダイヤル搭載個体に装着された。
MK3 数字の書体は細身となり、配置は中央寄り。MK3ダイヤル搭載個体の一部に見られるほか、主にMK4ダイヤル搭載個体で使用された。
MK4 MK5ダイヤル搭載個体に見られる最終仕様のベゼル。数字は細身の書体だが、従来とは字体にいくつか明確な変更がある。なかでも最も分かりやすい特徴は、「1」の先端に長く伸びたフック状の返しが付いている点である。
秒針の違い

Ref.1655について最後に触れておくべき点は、秒針の違いである。生産初年度のごく初期個体には、ストレート秒針が装着されていた。針は白く塗装され、全体としてきわめて簡潔な意匠でまとめられている。
いわゆるストレート秒針とは、細く長く伸びた、針状のセンターセコンドを指す。その後ロレックスは比較的早い段階で、先端近くに夜光塗料入りの丸いバブルを備えた、いわゆるロリポップ秒針へと切り替えた。
初期仕様として理想的なエクスプローラーIIを求めるコレクターは、一般にMK1ダイヤル、MK1ベゼル、そしてストレート秒針を備えた個体を狙う。
というわけで、エクスプローラーII Ref.1655という魅力的な一本と、そのプロフェッショナルな来歴を駆け足で振り返ってきた。
ロレックスには海をテーマにしたシードゥエラーがあるのだから、このモデルもいっそ“ケーブドゥエラー”と名づけてくれていたら面白かった。そうなっていたら、実に最高だったに違いない。
