シルヴァン・ベルネロンが新作〈ミラージュ 38 ミロワール〉を発表した。最大の特徴は、従来のキャリバーを単純に反転させるのではなく、オリジナルを鏡像のように再構築した新開発の手巻きキャリバー283だ。さらに、ケースからブレスレットまで18Kゴールドで仕立てた7連ブレスレットも用意される。〈ミラージュ〉ならではの変形ケースと薄さを保ちながら、機構そのものをダイアルへと転化させた意欲作である。。
Berneron Introduces the Mirage 38 Miroir
異形・反転ムーブを搭載したベルネロン〈ミラージュ 38 ミロワール〉
シルヴァン・ベルネロンが新作〈ミラージュ 38 ミロワール〉を発表した。最大の特徴は、従来のキャリバーを単純に反転させるのではなく、オリジナルを鏡像のように再構築した新開発の手巻きキャリバー283だ。さらに、ケースからブレスレットまで18Kゴールドで仕立てた7連ブレスレットも用意される。〈ミラージュ〉ならではの変形ケースと薄さを保ちながら、機構そのものをダイアルへと転化させた意欲作である。
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by Cheryl Chia. Sep 1, 2026 |
オリジナルのキャリバーを鏡像化
シルヴァン・ベルネロンが手がける〈ミラージュ〉は、近年登場した時計の中でもひときわ洗練された、そして不思議なデザインを持つ。一方、機構や性能にも一切の妥協がない。2023年の初代〈ミラージュ〉を皮切りに、ベルネロンは毎年1本の新作を発表してきた。その後、〈ミラージュ 34mm〉、〈カンティエーム・アニュエル〉と続き、2026年9月に登場したのが〈ミラージュ 38 ミロワール〉である。
最大の特徴は、オリジナルのキャリバーを“鏡像”として再構築した、新たな反転ムーブメントだ。そして今回も、徹底してゴールドが使われている。ホワイトゴールドとイエローゴールドの2種類が用意され、ケース、針、地板、ブリッジ、さらにはバネ棒に至るまで18Kゴールド製。さらに今回は、ケースと同素材のフルゴールド・ブレスレットも選択できるようになった。

▲ ベルネロン〈ミラージュ 38 ミロワール〉18Kイエローゴールド(左)、18Kホワイトゴールド(右)
反転ムーブメントを採用した時計は、近年ひとつの潮流となっている。ただし、その多くは視認性という点で難しさを抱える。インデックスを省いた結果、時計全体として設計されたというよりも、ムーブメントの上に針を載せただけのように見えてしまうことも少なくない。
しかしベルネロンは、この問題にも持ち前の緻密さで向き合った。〈ミラージュ 38 ミロワール〉は、一見した以上にムーブメントと表示が一体化している。香箱受けに施されたセクター状のギヨシェと、独立した輪列受けが11時から6時までのアワーマーカーの役割を果たすよう設計されているのだ。
さらにダイヤル左側では、地板に設けられた段差が残りの時刻を示し、テンプ受けの両端に配されたネジが7時と10時の位置を示す。専用のインデックスを追加するのではなく、ムーブメントの構造そのものを時刻表示として機能させることで、反転ムーブメントとダイアルデザインをひとつにまとめ上げている。

ケース形状はフィボナッチ数列から
ケースサイズは従来と変わらず、38×34mm、厚さはわずか7mm。腕に載せると、〈ミラージュ〉はまるで手首に溶け込むように収まる。 あらためて説明すると、この非対称ケースの形状はフィボナッチ数列をもとに導き出されたものだ。個人的にも、これまで見てきた時計デザインの中で最も印象的な試みのひとつであり、その設計思想には相当な工夫が凝らされている。
フィボナッチ数列とは、直前の2つの数を足して次の数を作っていく数列だ。
たとえば、0、1、1、2、3、5、8、13、21、34、55……と続く。
ベルネロン〈ミラージュ〉では、この数列をケースの輪郭やムーブメント内部の配置を決める設計ルールとして使っている。数列に従って決められた複数の円によって、ケースの輪郭だけでなく、第4車の軸位置までが決定されている。一見すると自由に描かれたように見えるフォルムだが、実際には、そのどこにも偶然はないのだ。

〈ミラージュ 38 ミロワール〉は、初代モデルの特徴をそのまま受け継いでいる。そのひとつが、通常とは上下関係を逆転させた時分針の配置だ。ケースをより薄く仕上げるため、一般的な時計とは反対に、時針を分針の上側に配置している。
時針は分針より短いため、その先端の位置から風防をベゼルに向かって傾斜させることができる。これによってムーブメント側に無理な妥協を強いることなく、ケース全体を薄く仕上げることが可能である。
この構造を実現するために、輪列も再設計され、ムーブメントの裏側へと移された。通常の時計では、分針を支える筒カナがセンターホイールの軸を取り囲み、その外側に時針を支える時車の筒が重なる。結果として、分針が時針より上に位置する。
しかし〈ミラージュ〉では、分針を支える筒カナを長く設計し、その内側を時車の筒が貫通してさらに上方へ伸びる構造とした。これにより、時針を分針の上に配置するという、通常とは逆の針のスタッキングを実現している。


イチから設計し直したムーブメント
新開発のキャリバー283は、従来のキャリバー233と同じ30×28mmというサイズを維持しながら、厚さはわずか2.83mm。従来より若干厚くなったとはいえ、依然として極めて薄型のムーブメントである。主要スペックも共通しており、パワーリザーブは72時間、テンプの振動数は毎時2万1600振動。慣性モーメントは7mg・cm²とされ、限られた容積の中で高い性能を引き出す設計となっている。テンプはチタン製で、慣性ブロックによって調整するフリースプラング方式を採用する。
ここで重要なのは、キャリバー283が既存ムーブメントを単純に裏返したものではないという点だ。オープンワーク・ムーブメントに、既存キャリバーを肉抜きして作るものと、最初からスケルトンとして設計されるものがあるのと同様に、反転ムーブメントにも既存設計を転用する方法と、最初から反転構造として設計する方法がある。
一般的なムーブメントであれば、本体を反転させたうえで補助輪列を追加し、新たなダイヤル側へ動力を伝達すると同時に針の回転方向を修正することも可能だ。しかし〈ミラージュ〉の場合、ケースもムーブメントも非対称形状であるため、その方法ではオリジナルのケース形状と輪列配置の関係が崩れてしまう。そこでベルネロンは、オリジナルを鏡像のように再構成した新たなムーブメントを一から開発した。
仕上げにも初代との違いが見られる。特に目を引くのが、ホワイトゴールド製ブリッジに設けられた鋭い内角だ。薄型ムーブメントでありながら、素材と仕上げの使い分けによって立体感を生み出している。
地板とガンギ車受けにはイエローゴールドを用い、表面はフロスト仕上げ。ホワイトゴールド製ブリッジにはCNC加工によるギヨシェが施され、その模様は放射状のコート・ド・ジュネーブを思わせる。
一方、香箱の角穴車には松ぼっくりをモチーフとしたレーザー彫刻が入る。これもフィボナッチ数列へのオマージュで、松ぼっくりの鱗片が描く左右の螺旋の本数には、しばしば隣り合うフィボナッチ数が現れるためだ。
テンプ受けだけはスティール製で、サーキュラーグレイン仕上げ。イエローゴールド、ホワイトゴールド、スティールという異なる素材と仕上げを組み合わせることで、わずか2.83mmのムーブメントに豊かな奥行きを与えている。


完全に一体化したブレスレット
すべての機構をダイヤル側へ移したことで、〈ミラージュ 38 ミロワール〉のケースバックはソリッドゴールド仕様となり、そのまま同素材のゴールドブレスレットへとつながっていく。
そもそもブレスレットの設計は簡単ではない。ましてや、これほど薄く、しかも非対称なケースに自然につなげるとなれば、難易度はさらに高まる。ベルネロンは7連リンク構造を採用し、細身のケースにふさわしいしなやかさを与えた。
また、一般的な直線状のエンドリンクではケースとの間に不自然な隙間が生じてしまうため、エンドリンク自体をケース形状に合わせて成形。ケースバックに設けられた段差へぴったりと収まるよう設計されている。これにより、ブレスレットは完全にケースと一体化したデザインとなっている。

クラスプは片側が開いた構造で、工具を使わずに3段階のサイズ調整が可能だ。ただし、装着したまま瞬時にサイズを変えられる、いわゆるオン・ザ・フライ式ではない。そうした機構を採用すれば、クラスプそのものが厚くなってしまうためだ。
サイズ調整は、反対側のブレードに設けられた3つのスロットのいずれかにロッキングバーを合わせ、セーフティタブで固定してからクラスプを閉じる仕組み。薄さを優先しながら、実用性も確保している。
7列のリンクは、サテン仕上げとポリッシュ仕上げを交互に組み合わせたもの。ブレスレット1本の仕上げだけで150時間を要するという。見た目は細身だが、重量は約125gとしっかりしており、実際に手に取って確かめたくなる存在感がある。
このブレスレットは新作〈ミラージュ 38 ミロワール〉専用ではなく、既存の〈ミラージュ 38〉プルシアンブルーおよびシエナにも後付け可能。さらに34mmの〈ミラージュ〉用ブレスレットも、2028年初頭に登場する予定だ。


率直に言えば、異形ケースの時計に反転ムーブメントを組み合わせて、これほど自然に成立するとは予想していなかった。ましてや、ムーブメントの装飾や高低差そのものをアワーマーカーとして機能させるという発想は、容易には思いつかない。細部のひとつひとつまで考え抜く、ベルネロンらしい設計思想をあらためて示す新作である。
価格はレザーストラップ仕様が7万2500スイスフランから、フルゴールドブレスレット仕様は13万250スイスフラン。ブレスレットの追加価格は5万7750スイスフランと、ストラップ仕様の価格の約80%に相当するかなり大きな上乗せとなるが、18Kゴールド無垢の構造と、膨大な手作業による仕上げを考えれば、その理由は理解できる。
生産体制はこれまでと同様で、限定モデルではない。各カラー年間36本を10年間製造し、その後に段階的なアップデートが施される予定だ。

Tech Specs
ベルネロン〈ミラージュ 38 ミロワール〉 ムーブメント:手巻きキャリバー283、パワーリザーブ72時間、3Hz(毎時2万1600振動) 機能:時・分表示、露出した第4車を秒表示として使用 ケース:18Kイエローゴールドまたは18Kホワイトゴールド、38×34mm、厚さ7mm、30m防水 ストラップ:グレイン仕上げのカーフレザー、または18Kゴールド製フルブレスレット 価格:レザーストラップ仕様:7万2500スイスフラン(付加価値税別)、ブレスレット仕様:13万250スイスフラン(付加価値税別) 生産:各カラー年間36本を10年間生産(シリーズA) 初回デリバリー:2027年10月予定
Brands:Berneron・
