1970年4月、月をめざしたアポロ13号は、酸素タンクの爆発により探査ミッションから一転、生還をかけたサバイバルへと姿を変えた。乗組員とヒューストンの管制チームが一丸となって導き出した軌道修正、そしてその精密な噴射時間を計り続けたのは、乗組員の手首にあった一本のオメガ〈スピードマスター〉だった。宇宙飛行士の技量と地上の頭脳、そして一つの時計が織りなした奇跡の生還劇を振り返る。
Apollo 13… a close call for NASA… and Omega
アポロ13号 ― オメガ〈スピードマスター〉が救った危機一髪
1970年4月、月をめざしたアポロ13号は、酸素タンクの爆発により探査ミッションから一転、生還をかけたサバイバルへと姿を変えた。乗組員とヒューストンの管制チームが一丸となって導き出した軌道修正、そしてその精密な噴射時間を計り続けたのは、乗組員の手首にあった一本のオメガ〈スピードマスター〉だった。宇宙飛行士の技量と地上の頭脳、そして一つの時計が織りなした奇跡の生還劇を振り返る。
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by Adrian Hailwood. Jul 18, 2019 |
不穏な船出
1970年4月11日19時13分(GMT)、アポロ13号はケネディ宇宙センターの発射施設39Aから打ち上げられた。目的地は月のフラ・マウロ高地である。
しかし、打ち上げまでの道のりは順調とは言えなかった。司令船操縦士のケン・マッティングリーは、麻疹に感染した人物と接触していたにもかかわらず免疫を持っていなかったため、直前になって交代を余儀なくされた。
また、月着陸船のヘリウムタンクには断熱不良の疑いがあり、点検を行うため飛行計画の変更も必要となった。 打ち上げからわずか5分30秒後には、S-II段の中央エンジンが予定より2分早く停止してしまう。これにより宇宙船を軌道へ投入するため、残るエンジンは予定より長時間燃焼を続けなければならなかった。
それでも、こうした問題を除けばミッション最初の2日間はおおむね平穏に進んだ。そのため、当直のNASA通信担当ジョー・カーウィンは乗組員にこう伝えている。
「われわれの見る限り、宇宙船の状態は非常に良好です。こちらは退屈で涙が出そうなくらいですよ」

▲アポロ計画に使われた NASAのサターンVロケットの打ち上げ。
時限爆弾
機械船には、文字どおりの“時限爆弾”が積まれていた。それが酸素タンク2号である。このタンクはもともとアポロ10号に搭載されていたが、改修のため取り外された際に損傷を受けていた。その後、修理と試験が工場で行われ、さらに宇宙センターでも再検査されたものの、タンク内の液体酸素が正常に排出されないことが判明した。
そこで、タンクに残った液体酸素を内部ヒーターで蒸発させる“ボイルオフ”が実施された。しかしNASAは、その長時間に及ぶ作業によってヒーターの発熱体が損傷していたことに気づいていなかった。
飛行開始から46時間後、このヒーターが致命的となった。ヒーターは、タンク内の酸素を攪拌して正確な圧力測定を行うためのスターラーとともに作動された。飛行開始から55時間54分53秒後、地球からおよそ20万マイル(約32万km)離れた地点で、酸素タンク2号が爆発した。その衝撃で酸素タンク1号も失われた。
ジャック・スワイガートは、後に語り継がれる有名な言葉を発した。
「ヒューストン、問題が発生したようです(‘I believe we’ve had a problem here’)」(実際には映画などで広く知られる表現とは少し異なる)
それに続き、ジム・ラヴェルはこう報告した。
「ヒューストン、こちらで問題が発生しました(Houston, we’ve had a problem)」
司令船は電力、照明、そして水を失った。この瞬間、ミッションは探査からサバイバルとなった。

▲1970年4月17日、分離後に撮影されたアポロ13号機械船。深刻な損傷を受けていたことが確認できる(Image: NASA)
チームプレー
宇宙開発の初期には、宇宙船の各モジュールは主に地上の管制チームによって遠隔操作されており、宇宙飛行士はほとんど乗客同然だった。テストパイロットのチャック・イェーガーは、これを皮肉って“缶詰のスパム”と呼んでいる(ただ缶に詰められて打ち上げられるだけを揶揄して)
宇宙飛行士自身の操縦技術の重要性が初めて示されたのは、1963年のマーキュリー・アトラス9号に搭乗したゴードン・クーパーのケースだった。壊滅的な電気系統の故障に見舞われたクーパーは、手動操縦によって宇宙船を無事帰還させた。
ゴードン・クーパーはこう振り返っている。
「私は時間を測るのに腕時計を使い、高度は窓の外を見て判断した。そして適切なタイミングで逆噴射ロケットを作動させ、空母のすぐ近くへ着水したんだ」
当時クーパーはオメガ CK2998とブローバ〈アキュトロン・アストロノート〉の両方を着用していたため、実際にどちらの時計を使ったのかはわかっていない。
アポロ13号の時代になると、宇宙船の運用は乗組員とミッションコントロールによる共同作業となっていた。飛行記録の交信記録を読むと、両者が互いに連携しながら問題解決にあたっていたことがよくわかる。
危機的状況が明らかになると、多くの非番の技術者たちが職場へ戻り、考え得る解決策を検討した。そしてそれらを地上のシミュレーターで検証したうえで乗組員へ伝え、実行に移させたのである。

▲地球への帰還途中のアポロ13号月着陸船(LM)内部。地上管制スタッフの指示に従って組み立てられた応急的な生命維持装置の一部が写っている(Image: NASA)

▲アポロ13号ミッション最終24時間のミッションコントロール(Image: NASA)
ロケット噴射
時計の観点からも、そして映画的な観点からも、このミッションの最大の見せ場となるのが、オメガ〈スピードマスター〉を主役に据えた14秒間の軌道修正噴射である。
しかし、物語ではこの噴射に焦点が当てられるものの、実際にはミッション中に合計5回の噴射が行われており、そのうち4回は事故発生後のもので、いずれも乗組員の生還に不可欠だった。
アポロ13号は打ち上げ後、まず安全確保のため、月の裏側を回ってそのまま帰還できる“フリーリターン軌道”に投入された。しかし月面着陸を行うため、飛行開始30時間後に4秒間のエンジン噴射を実施し、その軌道から離脱した。
そして爆発事故発生後、最初に行われた対応はアポロ13号を再びフリーリターン軌道へ戻すことだった。そのために月着陸船の降下推進システム(Descent Propulsion System)を用いた35秒間の噴射が実施された。
次の課題は帰還速度だった。そのままの軌道では帰還まで155時間を要し、限られた酸素と水しか残されていない乗組員にとっては生存限界に近かった。幸い月着陸船のロケットを使用できたため、より迅速な帰還の可能性があった。
理論上は118時間で帰還することもできたが、その場合は軌道修正用の推進剤がまったく残らない。133時間で帰還する案もあったが、その場合は南大西洋への着水となり、回収艦隊を太平洋から移動させる時間がなかった。最終的に選ばれたのは、143時間後に中部太平洋へ着水するプランだった。そのためには月着陸船のエンジンを4分24秒間噴射し、帰還速度を高める必要があった。
そして3回目の噴射こそが、最も有名なものとなった。これは大気圏再突入時の進入角を修正するための小規模な軌道修正噴射である。進入角が浅すぎれば宇宙船は大気圏で跳ね返され、逆に深すぎれば燃え尽きる危険があった。
ミッションコントロールは、宇宙船が本来の軌道からおよそ60〜80海里ずれており、進入角も浅すぎると判断した。その修正には14秒間の噴射が必要だった。
ジム・ラヴェルがロケットを操作し、地球の地平線を目印に姿勢を維持した。フレッド・ヘイズは宇宙船が横滑りしないよう監視し、ジャック・スワイガートは自身のスピードマスターで噴射時間を計測した。

▲アポロ13号から見た地球(Image: NASA)
着水のわずか5時間前、最後の軌道修正噴射が月着陸船の姿勢制御システムを用いて実施された。 この噴射は22秒間続き、その結果、司令船は回収艦USSイオー・ジマからわずか1マイル以内の地点へ降下した。
こうして、疲労し、脱水状態に陥り、寒さに耐え続けていた3人の宇宙飛行士は、無事に地球へ帰還したのである。

▲ 太平洋へ着水するアポロ13号の司令船(Image: NASA)
もしも……?
NASAの事故調査報告書は、何が失敗だったのか、そして何が成功だったのかという両面において、非常に興味深い内容となっている。
なかでも、小さな不具合として記録されたひとつの事例は、オメガが後に手にすることになる英雄的な役割を奪っていたかもしれないという、「もしも」の可能性を示している。
アポロ13号には、“コマンドモジュール・インターバルタイマー”が搭載されていた。これは簡単に言えば、NASAが承認した高性能かつ頑丈なキッチンタイマーのようなもので、ロケット噴射時間の計測などに使用されていた。
ところが、飛行開始から55時間後の爆発事故が発生する以前、このタイマーを使用しようとした乗組員は、操作ノブが手の中で外れてしまうというトラブルに遭遇する。 固定用ネジはロックタイトで固定されていたが、飛行中の振動によって緩んでしまっていたのである。
この事実はNASAの報告書にも記録されており、その後のアポロ14号では、ノブの固定方式は割りピン式へと変更された。 もしこのタイマーが正常に作動していたならば、その後も使用され続け、手動で行われたすべての軌道修正噴射の時間計測には、真っ先にこの装置が使われていただろう。
そう考えると、〈スヌーピー スピードマスター〉のオーナーたちは、その栄誉をアポロ13号の勇敢な乗組員やNASA地上管制チームの卓越した技術力だけでなく――壊れた操作ノブにも感謝すべきなのかもしれない。

▲ アポロ12号に搭載されたコマンドモジュール・インターバルタイマー。ケース素材はステンレススチール(Image: NASA)
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