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リーボック「Pump」を腕に──H.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ〉

Editorial

1989年に登場し、1990年代のスニーカーカルチャーを象徴する存在となったリーボック「Pump」。そのアイコニックなオレンジ色のボタンと空気を送り込むという操作体験を、H.モーザーが機械式時計へと大胆に翻訳した。新作〈ストリームライナー・ポンプ〉は、8時位置のボタンを押すことで主ゼンマイを巻き上げ、1プッシュにつき約1時間のパワーリザーブを蓄えるというユニークな機構を搭載。スニーカー史に残る発明が、H.モーザーらしい遊び心あふれるタイムピースとして生まれ変わった。。

Editorial

How Moser’s new Streamliner Pump translates a sneaker icon into watchmaking reality

リーボック「Pump」を腕に──H.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ〉

1989年に登場し、1990年代のスニーカーカルチャーを象徴する存在となったリーボック「Pump」。そのアイコニックなオレンジ色のボタンと空気を送り込むという操作体験を、H.モーザーが機械式時計へと大胆に翻訳した。新作〈ストリームライナー・ポンプ〉は、8時位置のボタンを押すことで主ゼンマイを巻き上げ、1プッシュにつき約1時間のパワーリザーブを蓄えるというユニークな機構を搭載。スニーカー史に残る発明が、H.モーザーらしい遊び心あふれるタイムピースとして生まれ変わった。

by Revolution. Aug 21, 2026

 時計製造の世界において、真に新しいイノベーションは決して多くない。時計との付き合い方そのものを変えてしまうような革新となれば、なおさらだ。新しい脱進機や素材は、クロノメーター性能をさらに高めることはできても、時計を身に着ける体験そのものを根本から変えるわけではない。

 だが、H.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ〉は違う。1990年代のスニーカーという意外なインスピレーション源から、腕時計との新しいインタラクションを生み出している。

H.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ〉ブラック&ホワイトの2色展開。

 1980年代、アスレチックシューズの世界でベンチマークとなったのが、ナイキの「エア」テクノロジーだった。空気を封入した軽量かつクッション性の高いソールは、軽快で反発性のある履き心地を実現し、伝説的な〈ナイキ エア テイルウィンド〉への採用以来、本格的なスポーツシューズに求められる性能の基準を打ち立てていた。そして、リーボックもまた、自らの答えを必要としていた。

 そこで、リーボックとデザイナーのポール・リッチフィールドが考案したのが、「ポンプ」だった。あらかじめ空気を封入したクッションを使うのではなく、シューズ内部に隠されたエアバッグへ空気を送り込む小型ポンプを搭載するというものだ。

 画期的だったのは、履く人自身が、自分の好みに合わせてフィット感を調整できることだった。こうして1989年、リーボック〈ザ・ポンプ〉が誕生した。

▲ 1989年の初代リーボック〈ザ・ポンプ〉

 この革新的なシューズが真のアイコンとなったのは1991年のことだった。舞台は、4人の選手が審査員を前にダンクの技を競うNBAスラムダンクコンテスト。ボストン・セルティックスのガード、ディー・ブラウンは、自分の出番を迎える直前、全米生中継のカメラの前でひざまずき、シューズの象徴であるオレンジ色のボタンを押してポンピングした。そして、そのままコンテストを制した。

 こうして伝説が生まれた。リーボック公式HPも、この1991年のパフォーマンスが〈ポンプ オムニ ゾーンII〉の大ヒットにつながったと紹介している。リーボック〈ポンプ〉シリーズは1990年代を席巻し、ナイキを販売面で上回るほどの成功を収めた。

 しかし、フットウェアのテクノロジーが進化するにつれ、小型ポンプとエアクッションを組み合わせたシステムは次第に時代の先端ではなくなっていった。それでも、この象徴的なシューズはスポーツウェア史における重要な存在であり、世界中のスニーカー愛好家にとって憧れの一足であり続けている。

 そして驚いたことに、2026年、その〈ポンプ〉は時計として生まれ変わった。H.モーザーの新作〈ストリームライナー・ポンプ〉である。これはリーボックの「ポンプする」動作を機械式時計へ置き換えたモデルなのだ。

  H.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ〉ホワイトモデル。

 スポーツと時計製造の世界は、これまでにもたびたび交差してきた。ポロのために考案された反転式ケースの腕時計から、ゴルフをテーマにGフォースを計測する複雑機構まで、その例は少なくない。だが、あるアイデアをここまで文字通り時計へ落とし込んだ例は、H.モーザーのこの一本以外にはほとんどない。

 仕組みそのものは比較的シンプルだ。一般的なリューズを使って通常どおり巻き上げることに加え、8時位置に配された大きなオレンジ色のボタンを押すことでも、主ゼンマイにエネルギーを蓄えることができる。

 このボタンはもちろん、リーボック〈ザ・ポンプ〉を象徴するオレンジ色のポンプをモチーフにしたものだ。ボタンを押す力は直接主ゼンマイへと伝えられ、効率よく巻き上げると同時に、ムーブメントの動きを指先で感じられる操作体験を生み出している。

H.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ〉ブラックモデル。

8時位置に配された大きなオレンジ色のボタン。リーボック〈ザ・ポンプ〉を象徴するオレンジ色のポンプをモチーフとしている。

 この新しい巻き上げシステムの性質上、ムーブメントは必然的に手巻き式となった。ベースとなったのはH.モーザー自社製のキャリバーHMC 500で、これを再設計し、自社製手巻きキャリバーHMC 103へと仕立てた。振動数は毎時2万1600振動、パワーリザーブは74時間を確保する。

 ボタンを1回押すごとに、およそ1時間分のパワーリザーブが加わる。もっとも、この大きなオレンジ色のボタンを押す感触は実に心地よく、1日に20回程度では物足りなく感じるかもしれない。

 幸い、ムーブメントには巻き上げ過ぎを防ぐ機構が備わっているため、巻き上がった後もポンプの操作感だけを楽しむこともできる。

自社製キャリバーHMC 103。

 スポーツから着想を得たこの先進的なキャリバーには、H.モーザー〈ストリームライナー〉のケースがぴったりだ。その滑らかなクッション型のフォルムは、マット仕上げのフォージドクォーツファイバーで形成されている。

 この先進素材は、クォーツファイバーを細かく切断して型に入れ、圧縮したうえで樹脂を注入することで作られる。軽量かつ高強度で、斑模様とモアレ調の独特な表情を持っている。 性質としてはフォージドカーボンに似ているが、大きな違いがひとつある。それは、着色できることだ。

 だからこそH.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ〉には、深みのあるブラックと、鮮やかなホワイトという2色のバージョンが用意されている。

▲ H.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ〉

 ラバーガスケットを備えたねじ込み式リューズによって100m防水を確保し、さらにムーブメントを衝撃から守るチタン製のインナーケースを採用。H.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ〉は、単にスポーツから着想を得ただけではなく、実際にスポーツで使うことを想定して作られている。

 人間工学に基づく40mm径のケースは、サファイアクリスタルを除けば厚さ9.7mm。ブラックまたはホワイトのケースに合わせ、文字盤も同色のポリッシュ仕上げラッカーダイヤルで統一されている。

 装飾は極めて抑えられ、細身で控えめなバーインデックスと、ムーブメントのパワーリザーブを示す鮮やかなオレンジ色のアーチのみが目立つ。H.モーザーの〈コンセプト〉シリーズとは異なり、ブランドロゴも配されているが、透明ラッカーによってほとんど見えないほど控えめだ。

 そして何より主役となるのが、この目を引くパワーリザーブ表示である。オレンジ色のボタンを押すたびにインジケーターが少しずつ上昇し、時計をポンピングしながら満タンへ近づいていく様子を目で楽しむことができる。

鮮やかなオレンジ色のパワーリザーブ表示。

 文字盤が徹底したミニマリズムを貫いている一方で、ケースバックはその正反対だ。大きく開かれたシースルーバックからは、新開発のキャリバーHMC 103を存分に眺めることができる。

 ブリッジにはアンスラサイトカラーのコーティングを施し、ゴールドカラーの真鍮製ホイールと人工ルビーを鮮やかに浮かび上がらせている。H.モーザーを象徴するダブルストライプと、手作業による面取り仕上げも施され、ブランドが培ってきた伝統的なオート・オルロジュリーの技術が披露されている。

 さらに、一部をスケルトン化したブリッジの下からポンプ機構を覗かせることで、ムーブメントは視覚的にもいっそう魅力的なものとなった。文字盤側から見ても、ケースバック側から見ても、主ゼンマイへ直接エネルギーを伝えるこの独創的な仕組みを、目で確認し、指先で感じることができる。

 〈ストリームライナー・ポンプ〉のスポーティなキャラクターを仕上げるのが、コレクションでおなじみのメタルブレスレットに代えて採用された、ケース一体型のラバーストラップだ。快適な装着感をもたらすだけでなく、汗にも強い。

 H.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ〉はブラックとホワイトの2モデルを展開し、それぞれ250本限定。さらに、各モデルにはリーボックの新作〈ポンプ〉のオリジナルの限定エディションがセットで付属する。ついに、腕時計とスニーカーを完璧にコーディネートできるというわけだ。

H.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ 〉ケースバック。新開発キャリバーHMC 103を鑑賞することができる。

 1991年にディー・ブラウンがスニーカー史にその名を刻んで以来、リーボック〈ザ・ポンプ〉はスポーツシューズを象徴する存在であり続けてきた。革新的であると同時に、使うこと自体が楽しいシステムだったからだ。

 H.モーザー〈ストリームライナー・ポンプ〉のポンプは極めて効率的な巻き上げ機構であり、印象的なメカである。しかし、それだけではない。この時計の一番の魅力は、オート・オルロジュリーには欠けがちな「遊び心」なのである。

Brands:H. Moser & Cie.

Brand:H. Moser & Cie., Rolex

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