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ミュージシャン、エリック・クラプトンが愛したパテック フィリップ

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エリック・クラプトンは、稀代のミュージシャンであると同時に、パテック フィリップ史にその名を刻む時計コレクターでもある。彼が特注したRef.5970は、通常モデルには存在しないブレゲ数字ダイヤルと“ブリック”ブレスレットを備えた、まさに唯一無二の永久カレンダー・クロノグラフだった。時を経て、そのホワイトゴールド製の一本は、世界屈指のコレクター“H”の腕へ。ウェイ・コーが、その時計に込められたクラプトンの美意識と、パテック フィリップの歴史をひも解く。。

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Eric Clapton’s Patek Philippe White-Gold 5970 with ‘Brick’ Bracelet”

ミュージシャン、エリック・クラプトンが愛したパテック フィリップ

エリック・クラプトンは、稀代のミュージシャンであると同時に、パテック フィリップ史にその名を刻む時計コレクターでもある。彼が特注したRef.5970は、通常モデルには存在しないブレゲ数字ダイヤルとブリックブレスレットを備えた、まさに唯一無二の永久カレンダー・クロノグラフだった。時を経て、そのホワイトゴールド製の一本は、世界屈指のコレクター“H”の腕へ。ウェイ・コーが、その時計に込められたクラプトンの美意識と、パテック フィリップの歴史をひも解く。

by Wei Koh . Jan 7, 2021

伝説の時計を受け継いだ男

 ここ2年ほどの間で、私にとってもっとも素晴らしかった出来事のひとつが、ある紳士との親しい友情を築けたことだ。彼はコレクターとして非常に著名な人物であるため、本稿では半匿名のままでいたいと望んでいる。 私たちは、アウロ・モンタナーリの紹介によってシンガポールで食事を共にし、すぐに意気投合した。

 彼は長身で洗練されており、肩の力が抜けたイタリア仕立てを、真のスタイルを持つ男だけができる自然さで着こなしていた。 彼は、世界でもっとも重要な時計コレクターのひとりである。だが、それだけではない。彼が手放した2本の伝説的時計、

・2016年に1100万スイスフランを記録したパテック フィリップ スティール製 Ref.1518

・2017年に500万ドル超で落札されたロレックス Ref.6062 “バオ・ダイ”

 これらは有名オークショニア、オーレル・バックスによって手掛けられ、フィリップスを世界最高峰のヴィンテージウォッチ・オークションハウスと押し上げた。

 この紳士がその場にいるだけで、時計に関する基準そのものが一段引き上げられる──そう言っても過言ではない。

2016年にフィリップスが開催したGeneva Watch Auction: FOURにおいて、ムーンフェイズ、アプライド・アラビア数字インデックス、タキメータースケール、そしてブレスレットを備えたステンレススティール製パテック フィリップ永久カレンダー・クロノグラフ Ref.1518が、1100万2000スイスフランで落札された(Image:Phillips.com)

ベトナム最後の皇帝が所有していたことで知られる、ブラックダイアルとダイヤモンドインデックスを備えた歴史的に重要なイエローゴールド製自動巻きトリプルカレンダー・ムーンフェイズ腕時計、ロレックス Ref.6062。この時計は2017年、フィリップス開催のGeneva Watch Auction: FIVEに出品され、506万6000スイスフランで落札された(Image:Phillips.com)

 本稿では、彼を“H”と呼ぶことにしよう。Hは時折、時計や服装に関する助言を私に授けてくれるのだが、私はいつも喜んで耳を傾けている。そんなHが、昨年シンガポールで開催されたパテック フィリップの“ウォッチアート・グランド・エキシビション”に現れるのを、私は心待ちにしていた。そして期待を裏切ることなく、Hはブレゲ数字インデックスと“ブリック”ブレスレットを備えた、素晴らしいホワイトゴールド製パテック フィリップ Ref.5970を着けて現れた。

 興味深いのは、この象徴的なレマニア2310系──すなわちCH 27-70搭載の永久カレンダー・クロノグラフに、ブレゲ数字仕様の通常生産モデルが存在しないという点だ。実はHの時計は、パテック フィリップの永久カレンダー・クロノグラフへブレゲ数字を持ち込んだ人物――ミュージシャンのエリック・クラプトンが所有していた個体なのである。

 クラプトンはかつて、パテック フィリップに、永久カレンダー・クロノグラフにブレゲ数字を組み合わせたモデルを特注した。この事実は、彼の素晴らしい審美眼とパテック フィリップの歴史への深い理解を物語っている。

 1941年にパテック フィリップがRef.1518として永久カレンダー・クロノグラフを初めて発表して以来、ブレゲ数字ダイアルを備えた永久カレンダー・クロノグラフは存在しなかった。 ブレゲ数字が再び登場するのは、後年のクロノグラフRef.5170、さらにスプリットセコンド・クロノグラフ Ref.5370になってからである。

 この種のダイアルは、ヴィンテージ・クロノグラフの最高峰とされるRef.130やRef.1463、さらにそのスプリットセコンド版であるRef.1436やRef.1563のなかでも、とりわけ希少かつ人気の高い仕様として知られている。そしてコレクターの世界では、ブレゲ数字ダイアルはこれらモデルにおける“もっとも美しいバリエーション”と広く考えられており、その存在は時計価値に非常に大きなプレミアムを与えるのである。

パテック フィリップ Ref.130 スティール製クロノグラフ、ブレゲ数字モデル(Image: John Goldberger)

パテック フィリップ Ref.1463 スティール製クロノグラフ、ブレゲ数字およびティファニー銘入りダイヤル仕様(Image: John Goldberger)

1947年製 パテック フィリップ Ref.1563 ゴールド製スプリットセコンド・クロノグラフ、夜光入りブレゲ数字ダイヤル仕様(Image: Christies.com)

 だからこそ、鋭い審美眼を持つクラプトンは、自身のユニークピースにこれらの数字を求めたのだ。しかし、彼のRef.3970やRef.5004では、ブレゲ数字は通常12時位置のみに限定されている。それはなぜだろうか? その理由は、これらの時計のケース径が36.7mmと小さいため、もともと文字盤上のスペースに余裕がないからである。

 さらにクラプトンは、通常生産のRef.3970やRef.5004には存在しないタキメーターを追加していたため、文字盤上の使用可能な空間はさらに制限された。ちなみに、このタキメーターの採用も考え抜かれている。というのも、それは史上もっともコレクタブルなパテック フィリップの永久カレンダー・クロノグラフとして知られる、Ref.1518および第1〜第2世代のRef.2499へのオマージュとなっているからである。

 しかし、ブレゲの12時数字とタキメーターを加えると、残されたスペースにはバーインデックス程度しか配置できない。あるいは、クラプトンが天才的な発想によって採用した、アプライドのドットマーカーが限界だった。なぜこれを“天才的”だと思うのか。それは、Ref.130やRef.1463といったヴィンテージのパテック フィリップ製クロノグラフを見るとわかる。一般的には、こうしたドットマーカーはローマ数字、とりわけ12時位置のローマ数字と組み合わせられていたからだ。

 だが、ブレゲの12時数字、ドットマーカー、そしてタキメーターという異例の組み合わせは、私に言わせれば、史上もっとも美しい文字盤デザインを生み出したのである。

元エリック・クラプトン所有、12時位置にアプライドのブレゲ数字を配した特別なサーモンダイヤルおよびタキメーターを備える、パテック フィリップ Ref.3970 ホワイトゴールド製永久カレンダー・クロノグラフ腕時計(Image: Phillips.com)

元エリック・クラプトン所有、12時位置にアプライドのブレゲ数字を配したシルバーダイヤルおよびタキメーターを備える、パテック フィリップ Ref.3970 ピンクゴールド製永久カレンダー・クロノグラフ腕時計(Image: Phillips.com)

上掲のユニークなピンクゴールド製パテック フィリップ Ref.3970の旧所有者が、唯一無二のエリック・クラプトンであることを記載した付属書類。

元エリック・クラプトン所有、12時位置にアプライドのブレゲ数字を配した特別なブラック・タキメーターダイヤル仕様の、パテック フィリップ Ref.5004 ピンクゴールド製永久カレンダー・スプリットセコンド・クロノグラフ腕時計。現在はアワーグラスの永久コレクションに所蔵されている(Image: Phillips.com)

元エリック・クラプトン所有、12時位置にアプライドのブレゲ数字を配した特別なブルー・タキメーターダイヤル仕様の、パテック フィリップ Ref.5004 プラチナ製永久カレンダー・スプリットセコンド・クロノグラフ腕時計(Image: Phillips.com)

 ハリウッドの大物エージェント、マイケル・オヴィッツも、自身のスペシャルオーダーウォッチに関しては明らかにクラプトンから影響を受けていた。

 基本的には同じ仕様の時計をオーダーしているが、12時位置のインデックスをローマ数字へ変更し、さらに夜光入りの針とインデックスを追加している。ただし、スペース上の制約から、その夜光マーカーはミニッツトラック部分にまで入り込むデザインとなっていた。

元ハリウッドの大物エージェント、マイケル・オヴィッツ所有。12時位置にアプライドのローマ数字を配した特別な夜光ブラックダイヤル仕様の、パテック フィリップ Ref.5004 イエローゴールド製永久カレンダー・スプリットセコンド・クロノグラフ腕時計(Image: Phillips.com)

 おそらくパテック自身も、これらのダイヤルを非常に気に入っていたのだろう。というのも、2015年のロンドン・ウォッチアート・グランド・エキシビションのために、わずか5本程度が製作されたと噂されるRef.3970にも、“エリック・クラプトン仕様”の構成が採用されているからだ。

 もっとも、その際に選ばれた仕様――ローズゴールドケースにブラックダイヤル、ブレゲの12時数字、アプライドのドットマーカー、そしてホワイトプリントのタキメーターという組み合わせ――は、過去のクラプトン所有Ref.3970には存在しなかった。

 しかしこのデザインは、前述したRef.5004には実際に採用されている。その時計は2016年に売却され、現在はシンガポールのアワーグラス永久コレクションに所蔵されている。

12時位置にアプライドのブレゲ数字を配し、特別なブラックダイヤルおよびブラックのタキメータースケールを備える、パテック フィリップ Ref.3970 ピンクゴールド製永久カレンダー・クロノグラフ腕時計。2015年のロンドン展のために、パテック フィリップがわずか5本のみ製作したモデル(Image: Phillips.com)

4本同時にオーダーされたクラプトンのRef.5970

 2004年にパテック フィリップ Ref.5970が登場すると、クラプトンの前に新たな可能性が開かれた。その鍵となったのは、40mmのRef.5970と、36.7mmのRef.3970、5004との間に存在した、ひとつの大きな違い――すなわち、文字盤上のスペースである。

 Ref.5970は先代モデルよりもはるかに広いダイヤル面積を備えていた。そのため、クラプトンはフルセットのアプライド・ブレゲ数字インデックスをオーダーできたのである。ここで言う“フルセット”とは、1、2、4、8、10、11、12時位置の数字を指す。3、5、6、7、9時位置はサブダイヤルによって占められるためだ。

 そしてクラプトンは、まさにその仕様を実現した。しかし今回は、1本だけでは終わらなかった。彼はブレゲ数字ダイヤルを備え、さらに同素材の“ブリックブレスレット”を装着したRef.5970を、4本まとめてオーダーしたのである。このブレスレットは、非常に人気のあるスペシャルオーダー仕様として知られている。

 パテックの永久カレンダー・クロノグラフの歴史において、“ブリックブレスレット”は単体販売されたことがなく、極めて重要な顧客のスペシャルオーダーとしてのみ提供されていた。実際、このブレスレットが通常生産モデルに採用されたのは、2016年のRef.5204、そして2018年のRef.5270になってからである。

 つまり2006年当時の感覚で言えば、ブリックブレスレット付きの時計を注文するには“特別な人物”でなければならず、特注ダイヤルを頼むには“伝説級の顧客”である必要があり、そして、ブレゲ数字ダイヤルにブリックブレスレットを組み合わせたRef.5970を4本同時に注文するには……まあ、要するに“エリック・クラプトン”でなければ不可能だったのだ。

 これらの時計の仕様は以下の通りだった。ホワイトゴールドケースに、シルバーダイヤル、ブラックロジウム仕上げのインデックスと針を組み合わせたモデル。そして、ピンクゴールドケースにホワイトダイヤルを組み合わせたモデル。なお、残る2本の仕様については現在も公には不明である。オークション市場に登場したのは、前述した2本のみだからだ。

元エリック・クラプトン所有、ブレゲ数字ダイヤルおよびブレスレットを備えるユニークなパテック フィリップ Ref.5970 ホワイトゴールド製永久カレンダー・クロノグラフ(月齢表示付き)に付属した書類。同時計は2018年、サザビーズ香港にて売却された(Image: Sothebys.com)

元エリック・クラプトン所有、ブレゲ数字ダイヤルおよびブレスレットを備えるユニークなパテック フィリップ Ref.5970 ホワイトゴールド製永久カレンダー・クロノグラフ(月齢表示付き)。同時計は2018年、サザビーズ香港にて売却された(Image: Sothebys.com)

元エリック・クラプトン所有、アプライドのブレゲ数字を備えるホワイトダイヤル仕様の、パテック フィリップ Ref.5970 ピンクゴールド製永久カレンダー・クロノグラフ腕時計(Image: sothebys.com)

 こうして考えてみると、クラプトンは2004年のRef.5970登場直後に、これらの時計をオーダーしたに違いない。つまり彼は、このモデルが持つデザイン上の可能性――自身が理想とする“夢のダイヤル”を実現できる可能性――を早い段階で見抜いていたことになる。しかも、そのアイデアに相当興奮していたのだろう。彼は一度に4本ものRef.5970を注文しているのである。

 なお、このブレスレットは着脱可能であり、クラプトン自身は、ここに掲載された写真のように、ストラップ仕様でもこれらの時計を着用していた。

ミュージシャンのエリック・クラプトン。アプライドのブレゲ数字を備えるユニークなパテック フィリップ Ref.5970Gを着用していると思われる。興味深いことに、この日はア ベイシング エイプのTシャツを合わせていた。写真は2010年9月11日、イタリア・モンツァのアウトドローモ・ナツィオナーレ・ディ・モンツァで開催されたF1イタリアGPで撮影されたもの(Photo by Mark Thompson/Getty Images)

エリック・クラプトン特注による、ブレゲ数字仕様のパテック フィリップ Ref.5970G(©Revolution)

エリック・クラプトン特注によるパテック フィリップ Ref.5970Gのダイヤルおよびブレゲ数字のクローズアップ(Image © Revolution)

エリック・クラプトン特注パテック フィリップ Ref.5970Gのケースサイドに備えられたクロノグラフプッシャー(Image © Revolution)

ブリックブレスレット仕様のエリック・クラプトン特注パテック フィリップ Ref.5970G(Image © Revolution)

バックより見たエリック・クラプトン特注によるパテック フィリップ Ref.5970G(Image © Revolution)

 ある時期から、クラプトンは所有する時計の一部を手放し始めた。ただし、どの時計を手元に残していたのかについては、現在もはっきりとは分かっていない。

 この4本セットのうち、ピンクゴールド製Ref.5970はサザビーズに出品されており、その落札価格は40万5000スイスフラン。一方、ホワイトゴールド製は2018年にサザビーズ香港で売却され、492万香港ドル(約63万5000米ドル)を記録している。

 だからこそ、私の友人である“H”が、まさにそのホワイトゴールド製Ref.5970を腕に着けて、パテック フィリップのウォッチアート・グランド・エキシビション会場へ現れたときの喜びは、言葉では表せないほどだった。私はこの素晴らしいRef.5970を間近で観察し、撮影する機会を得たため、この時計を中心に物語を組み立てることにした。

 まず衝撃を受けたのは、その圧倒的な美しさである。そして同時に、この時計が実際にクラプトンによって愛情を持って使い込まれていたことにも強く心を動かされた。

 フィリップスで売却されたRef.3970やRef.5004を見ると、それらは比較的“未使用に近い”印象を受ける。しかしこのRef.5970には、実際に着用されてきた痕跡が感じられたのである。

 さらに興味深かったのは、クラプトンのRef.5970に使われたブレゲ数字が、Ref.3970やRef.5004のものとはまったく異なっていたことだ。

 見ての通り、Ref.5970のブレゲ数字は、より背が高く細身である。一方、小径ケースのRef.3970やRef.5004に使われた書体は、よりコンパクトで太く、ややスクエアな印象を持っている。

 そして私は、この傑作を所有する人物として、友人“H”以上に相応しい人物は思い浮かばない。最終的にこの時計が彼のもとへ渡ったことを、私は心から嬉しく思っているのである。

クラプトンのRef.5970に用いられたブレゲ数字は、Ref.3970やRef.5004に採用されたものとはまったく異なっている。見ての通り、Ref.5970のブレゲ数字は、より背が高く細身である。一方、小径ケースの時計に使われた書体は、よりコンパクトで太く、ややスクエアな印象を備えている。

Brands:Patek Philippe

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