ベトナムの伝統漆芸「ソン・マイ」を、現代の時計製造へと取り込むフランスの独立系ブランド、AWAKE。その代表作〈ソン・マイ フロステッド・リーフ〉に、「ブラッド・ムーン」「ストーム」「ラグーン」の3色が加わった。天然漆、天然顔料、純銀箔を幾層にも重ね、研磨によって光と奥行きを演出。伝統工芸とコンテンポラリーなデザインが交差する、AWAKEならではのメティエ・ダールである。
AWAKE Brings the Art of Vietnamese Sơn Mài Lacquer to the Wrist
ベトナム漆「ソン・マイ」の魅力——AWAKE〈フロステッド・リーフ〉
ベトナムの伝統漆芸「ソン・マイ」を、現代の時計製造へと取り込むフランスの独立系ブランド、AWAKE。その代表作〈ソン・マイ フロステッド・リーフ〉に、「ブラッド・ムーン」「ストーム」「ラグーン」の3色が加わった。天然漆、天然顔料、純銀箔を幾層にも重ね、研磨によって光と奥行きを演出。伝統工芸とコンテンポラリーなデザインが交差する、AWAKEならではのメティエ・ダールである。
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by Revolution Japan . Sep 2, 2026 |
▲AWAKE 〈ソン・マイ フロステッド・リーフ〉の新作3本。左から:ブラッド・ムーン、ストーム、ラグーン。
AWAKEというブランド、その特徴
2019年に設立されたフランスの独立系ウォッチブランド、AWAKE(アウェイク)は、少し変わった立ち位置にいるブランドだ。複雑機構を競うわけでも、歴史的なアーカイブを掘り起こすわけでもない。AWAKEが中心に据えているのは、「メティエ・ダール」、すなわち伝統工芸と時計製造との融合である。
世界各地に受け継がれてきた技法や素材、そしてそれを担う職人たちに光を当て、それらを直径わずか数センチの文字盤へと凝縮する。それがブランドのアイデンティティとなっている。
AWAKEを語るうえで、とりわけ重要なのがベトナムの漆工芸「Sơn Mài(ソン・マイ)」だ。2025年に発表された〈ソン・マイ フロステッド・リーフ〉では、天然漆と天然顔料、さらに純銀箔を幾重にも重ね、研磨することで、一般的な塗装文字盤とはまったく異なる奥行きと光の反射を生み出した。
そして2026年、AWAKEはその世界をさらに広げる3つの新作、「ブラッド・ムーン」「ストーム」「ラグーン」を発表した。

ベトナム独自の漆芸、「ソン・マイ」とは?
漆そのものは、もちろんベトナムだけに存在する工芸ではない。中国、日本、朝鮮半島、東南アジアには古くから漆文化が存在し、樹液を精製して塗布し、硬化させることで、耐水性や耐久性に優れた表面を作り上げてきた。漆は幾層にも塗り重ねることができ、研磨や彫刻、金銀や螺鈿の象嵌など、多様な装飾技法と組み合わされる。
そのなかで、ベトナム独自の発展を遂げたのが「ソン・マイ」である。ベトナム語の「Sơn」は漆、「Mài」は磨く、あるいは研ぐことを意味する。つまりソン・マイという名称そのものが、漆を塗っては磨き、さらに塗っては磨くという技法の本質を表している。
もともとベトナムで漆は、寺院や宗教彫刻、木製品などを保護・装飾するために用いられてきた。しかし20世紀前半になると、その性格は大きく変化する。1930年代、ハノイのインドシナ美術学校を中心として、ベトナム人芸術家とフランス人教師、さらに伝統的な漆職人たちが協働し、漆を単なる装飾素材から「絵画」へと発展させたのだ。
グエン・ザー・チーをはじめとする芸術家たちは、塗り重ねた漆を研磨することで下層の色や素材を再び露出させ、平面的な表面の中に独特の深度を生み出していった。こうしてソン・マイは、現代ベトナム美術を象徴する技法のひとつとなったのである。
ソン・マイは単に「漆を塗る技法」ではない。層を作り、その一部を再び削り、下に隠れていた色や金属、模様を浮かび上がらせる。つまり作品は、「加えること」と「取り去ること」の両方によって完成していくのだ。実は時計の文字盤に、これほど相性のいい工芸も珍しい。

銀箔を“隠してから、浮かび上がらせる”秘法
AWAKEの〈フロステッド・リーフ〉では、そのソン・マイに純銀箔が組み合わせられている。ベースとなるのは、ベトナム北部で採取された天然漆だ。そこへ天然顔料を加え、さらに純銀箔を重ねていく。AWAKEによれば、漆と顔料、銀箔はミルフィーユのような多層構造となり、その各工程で職人が研磨を繰り返す。
まず濃いブラックの顔料と漆で下地を作り、その上に1層目の銀箔を置く。これを手作業で研磨した後、再び顔料を重ねる。そして通常のソン・マイ文字盤とは異なり、〈フロステッド・リーフ〉ではさらにもう一度銀箔の層を加える。これが、このコレクション特有の霜が降りたような金属質の光を生み出すという。
ここで銀箔は、単なる「銀色の装飾」ではない。ある部分では漆の奥深くに沈み込み、別の部分では研磨によって表面近くに現れる。見る角度や光の強さによって、銀色が強く輝いたり、顔料の奥へと消えたりする。
文字盤1枚の製作に約15時間を要するという。最終研磨には職人自身の指も使われ、内部に隠れている模様や凹凸を少しずつ浮かび上がらせていく。結果として、同じモデルであっても完全に同一の文字盤は存在しない。

「ブラッド・ムーン」「ストーム」「ラグーン」
今回の3モデルはいずれも、自然が見せる一瞬の現象をテーマとしている。
「ブラッド・ムーン」は、皆既月食の際に月が赤く染まる現象から着想を得たモデルだ。ブラックと深いレッドを組み合わせ、銀箔の光沢をその間から覗かせることで、闇の中に浮かぶ赤い月の妖しさを表現する。
「ストーム」は、嵐の暗闇を切り裂く稲妻がモチーフ。ブラックを背景にオレンジと銀色の反射が走り、突然放出される自然のエネルギーを描いている。
「ラグーン」は、水と光を表現したモデルだ。半透明感を持つグリーンがかったブルー、ターコイズ、コバルトブルー、そして銀色を帯びた淡いブルーを重ね、光が漆と銀箔の層を通過することで、水面が揺らぐような視覚効果を生み出している。

より完成度を高めた38mmケース
今回、時計そのものも大きくアップデートされた。ケース径は38mm。ポリッシュ仕上げのコンケーブベゼル、わずかに膨らみを持たせたサファイアクリスタル、丸みを帯びたラグを組み合わせることで、1960年代的な柔らかなプロポーションを意識しているという。
リューズも新たにねじ込み式となり、防水性能は10気圧/100mへ向上した。文字盤上のAWAKEロゴも手書き風の新デザインへ変更されている。
針とインデックスにはスーパールミノバ BGW9を採用。AWAKEが「コワフ」と呼ぶ独自構造によって夜光を柔らかく拡散させる「キアロスクーロ」シグネチャーも継続されている。暗所では柔らかな光のハローが文字盤上に浮かび、漆や銀箔の質感を引き立てる仕組みだ。
搭載するムーブメントはラ・ジュー・ペレ製の自動巻きキャリバー G101。約68時間のパワーリザーブを備える。シースルーバックから見える専用タングステンローターには、ポリッシュ、ブラッシュ、ビーズブラストと複数の仕上げが施される。
ストラップはフランス・ジュラ地方のメゾン・ブーヴレ製ヌバックカーフ。モデルに合わせてレッド、オレンジ、ブルーが用意され、約60もの工程を経て仕立てられるという。

伝統工芸を時計の構造へ組み込む
伝統工芸を文字盤に取り入れた時計は、決して珍しいものではない。だがAWAKEの〈フロステッド・リーフ〉が興味深いのは、単に「ベトナム漆を使った」という物語にとどまらず、ソン・マイという技法そのものを文字盤表現へと昇華している点にある。
漆を塗り、重ね、研ぎ、その下に隠れていた色や模様を再び浮かび上がらせる。ソン・マイならではの工程に銀箔を組み合わせることで、光の角度や強さによって表情を変える、奥行きのあるダイヤルが生み出される。同じ時計でありながら、ふとした瞬間ごとに異なる景色を見せるのである。
アジアの漆芸には古くから、金銀や螺鈿といった素材を取り入れてきた歴史がある。しかしAWAKEは、その伝統を単に時計のサイズへ縮小したわけではない。ソン・マイの核心ともいえる「研磨によって隠れた層を露わにする」という特性を活かし、自然の光景や現象を、色彩と反射によって表現する文字盤へと再構築している。
時計の文字盤は、わずか数センチの小さな世界だ。けれど、漆を幾層にも重ね、その内側に色と銀箔を封じ込め、最後に研ぎ出すことで、そこには実際の寸法を超えた深度が生まれる。ブラッドムーン、嵐、ラグーン――AWAKEはその小さな円の中に、雄大な自然が見せる一瞬の美しさを凝縮している。
Tech Specs
AWAKE〈ソン・マイ フロステッド・リーフ〉 ケース:316Lステンレススティール ケース径:38mm 厚さ:11.5mm(風防含む) 防水性能:10気圧/100m ムーブメント:自動巻きキャリバー G101 パワーリザーブ:約68時間 文字盤:ソン・マイ漆芸、天然顔料、純銀箔 ストラップ:メゾン・ブーヴレ製ヌバックカーフスキン 展開:ブラッド・ムーン、ストーム、ラグーン 生産数:各モデル年間約100本 ¥649,000(予価)
Brands:Awake
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