時を刻む道具から、感情を紡ぐ芸術へ。ヴァン クリーフ&アーペルが時計に吹き込む「詩情」の真髄
Watchmaking, According to Van Cleef & Arpels
ヴァン クリーフ&アーペル流、詩情が紡ぎ出す時計作り
時を刻む道具から、感情を紡ぐ芸術へ。ヴァン クリーフ&アーペルが時計に吹き込む「詩情」の真髄。
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by Felix Scholz . Jan 13, 2026 |
詩情が精度を超えていくとき
時計メーカーが自らの創作物について語る際、その物語は得てして、精度や機能、あるいは実用性といった要素を、ロマンティックな魅力に置き換えて語られることがほとんどだ。
しかし、ヴァン クリーフ&アーペルは、その稀有な例外の一つといえる。このメゾンは、あえて精度や実用性を脇に置き、純粋なロマンティシズムそのものに焦点を当てる道を選んだのだ。
ヴァン クリーフ&アーペルが掲げる独自のビジョン、“ポエトリー オブ タイム(詩情が紡ぎだす時)”。それは単に人々の耳に心地よく響くマーケティング用の言葉ではない。他とは一線を画す、彼らの時計制作へのアプローチを極めて的確に言い表した言葉なのである。
宝飾品という至宝と詩がいかに共鳴するかを熟知する、カトリーヌ・レニエ プレジデント兼CEO以上に、この哲学を語るにふさわしい人物はいないだろう。
「時は、当然ながら詩的なものです。では、それが私たちにとって何を意味するのでしょうか。それは感情であり、物語であり、インスピレーション、および人生の豊かな瞬間のことなのです。例えば、メゾンの象徴である〈 ポン デ ザムルー ウォッチ〉が語るのは『愛』です。
一方で、私たちは自然のサイクルからも多大なインスピレーションを得ています。花が開閉することで時刻を告げる〈ユール フローラル ウォッチ〉をご存じかもしれませんね。そこには常に、単なる精度を超えた、人生の瞬間やサイクルに寄り添う時の捉え方があるのです」

▲ヴァン クリーフ&アーペル プレジデント兼CEO カトリーヌ・レニエ
レニエは続けて、詩的な原動力の背景にある、この1世紀で時計界が遂げた大きな進化について次のように語る。
「時計制作は、より広範な進化を遂げてきました。前世紀において、時計は時刻を知り、旅をするための必要な道具であり、技術的な卓越性の追求そのものでした。超薄型キャリバーに代表されるように、精度を通じて独創性を表現してきたのです。暗闇でも時刻を知るために作られたミニッツリピーターなど、必要に迫られて生まれた発明は数多く存在します。
しかし、新しいテクノロジーの登場により、現代の時計はかつてのような『道具としての物体』である必要はなくなりました。それは感情や情熱を象徴する対象へと進化したのです。今もなお技術的な卓越性は求められますが、それはむしろ工芸としての価値や、歴史と遺産への敬意、それらをいかに継承していくかという点に重きが置かれています。
そうした背景において、ヴァン クリーフ&アーペルのタイムピースは非常に自然な形で存在しています。私たちの時計もまた、技術的な専門知識や革新を必要とし、完成までに何年もの歳月を要します。
しかし、それらは時計がかつて持っていた『実用的な道具』という枠組みを超え、ダイヤルの上に感情や物語、およびクラフツマンシップを付け加えているのです。他の時計ブランドにおいても、私たちの時計と同じような物語はないかもしれませんが、もはや精度や実用性の目的のためだけではなく、デザインや時計制作の表現と専門性を示すために創作を行っています。
こうした世界的な進化の中で、私たちのタイムピースは重要な役割を担っていると考えています。なぜなら、それらは時に対する別の見方を提示し、感情、美、およびクラフツマンシップの表現を通じて、所有者と時計の間に新たな意味のある関係を築く方法を提案しているからです」
ラブストーリー
この「詩情」が最も鮮やかに表現されているのが、2025年初めに発表された〈レディ アーペル バル デ ザムルー オートマタ ウォッチ〉である。これは、かつて発表された、名作〈ポン デ ザムルー ウォッチ〉が描く「かけがえのない愛で結ばれた、橋の上の恋人たち」の物語を進化させたものだ。
ウォッチメイキング部門 研究開発ディレクターを務めるライナー・ベルナールは、この稀有な時計がいかにメゾンの『物語から始まる時計制作』を象徴しているかを解説する。
「2010年に誕生した〈ポン デ ザムルー ウォッチ〉は、私たちの時計の中でもおそらく最も有名なラブストーリーでしょう。私たちは今こそ新しい章を開く時だと考え、この〈レディ アーペル バル デ ザムルー オートマタ ウォッチ〉を創り上げました。
今回の舞台は、19世紀パリで流行したテーブルが並び音楽やダンスを楽しめる河辺のカフェ、ギャンゲット。人々が集う心地よい空間です。そこで出会う恋人たちの背景には、時刻を示す二つの星が輝いています。この時計の開発には4年の歳月を費やしました。

▲ウォッチメイキング部門 研究開発ディレクターライナー・ベルナール

▲ヴァン クリーフ&アーペル〈レディ アーペル バル デ ザムルー オートマタ ウォッチ〉
あらゆるものを突き動かすのはストーリーです。これは単なるマーケティング用の言葉ではありません。私たちは真にストーリーから着手するのです。
例えば、このモデルでは、恋人たちが手を取り合って踊り、背景の星が時刻を告げるというコンセプトから始まりました。まさにここが起点です。そこからクリエイティブ・チーム、技術面を担う時計師、およびメティエ・ダール(芸術的職人技)の担当者が集まり、いかにこの物語を表現するかを練り上げていきます。
目的は、共働して何かを創り出すこと。誰か一人の役割が突出することなく、互いの専門分野に敬意を払い、調和させることで初めて、メゾンとしての表現が可能になるのです。

それは、完成した時計を見れば一目瞭然です。例えばムーブメント。非常に複雑であることはもちろん、仕上げの装飾のためのスペースを確保するために、可能な限り小型化することが求められました。
ダイヤルの上には、空、星、雲、建物、ゴールドの石畳、および恋人たちといった多くの物語の要素が存在します。これらはすべてスペースを必要とするため、機械的な側面を凝縮し、他の要素に場所を譲る。そうすることで、オート オルロジュリー、ハイジュエリー、およびメティエダールの完璧な融合を目指したのです」
〈レディ アーペル バル デ ザムルー オートマタ ウォッチ〉が歴代のモデルと同様に人々を魅了してやまないという事実、このアプローチに確かな価値があることを物語っている。そしてそれは、決して容易に成し遂げられることではない。
揺るぎなき名作(Locked In)
ヴァン クリーフ&アーペルの系譜において、もう一つの輝ける星が〈カデナ〉である。この独特なジュエリーウォッチは、〈レディ アーペル バル デ ザムルー オートマタ ウォッチ〉のような直接的な叙事詩とは異なるかもしれないが、それでもやはり、注目すべき詩的な作品だ。ライナー・ベルナールは、この南京錠にインスパイアされたタイムピースの歴史と象徴性について、次のように語っている。
「誕生は1935年。当時、メゾンの創業者夫妻の娘であり、アーティスティック ディレクターを務めていたルネ・ピュイサンによって生み出されました。そのため、今日まで制作し続けられているこの時計を通じて、創業者たちの想いを今もなお間近に感じ取ることができるのです。
当時、彼女はパリで起きている事象、つまりアール・デコの終焉と『モダニズム』の始まりに強いインスピレーションを受けていました。それはマルセル・デュシャンが、日常生活の中にある品々を『レディメイド』として芸術に昇華させていた時代です。その精神が、私たちのインスピレーションの源となりました。

▲ヴァン クリーフ&アーペル〈カデナ〉
〈カデナ〉を見れば、その大胆なフォルムに気づくでしょう。長方形、傾斜したダイヤル、チェーン、バックル。これらすべてがモダニズムの言語を語っています。傾斜したダイヤルは、当時のデザインにおいて重要であった『スピード』を象徴し、チェーンは『工業化』の歴史を物語ります。
この時計は、常にモダンであり続けるスタイルを備えているのです。長年にわたり、レザーバンドや、1970年代にはウッドを用いたものまで、多彩なバリエーションを制作してきました。もちろん、異なる石をセットしたものもあれば、鏡のような質感の大きな四角いブレスレットを備えたモデルも存在します。
あるとき、私たちはこの根本的なデザインを現代化しようと試みました。チェーンのサイズや厚み、寸法を変え、数ヶ月に及ぶテストとプロトタイプ制作を繰り返したのです。ようやく納得のいくものができたと思い、その新しいバージョンをオリジナルの〈カデナ〉と比較してみたところ、私たちは結局元の場所に戻っていたことに気づきました。本質的には、全く同じだったのです。

結局、私たちは何も変えませんでした。唯一本当に行ったのは、バックルを閉じるための機械的なシステムを、より控えめで洗練されたものにアップデートしたことだけです。これは、技術を舞台裏に隠すという私たちの手法の一環でもあります。この『変わらない性質』こそが、この時計の美しさなのです」

南京錠とチェーンにインスパイアされたジュエリーのようなタイムピース〈カデナ〉が、90年経った今もなお、誕生時と変わらぬ魅力を放ち続けている。これこそが、ヴァン クリーフ&アーペルが提唱する、時とデザインに対する詩的なアプローチの力を証明しているといえるだろう。

Tech Specs
ヴァン クリーフ&アーペル 〈レディ アーペル バル デ ザムルー オートマタ ウォッチ〉 ムーブメント: ダブルレトログラード機能を備えた自動巻き機械式ムーブメント、オートマタ機構搭載、パワーリザーブ36時間 機能: レトログラードによる時・分表示、オンデマンド アニメーション ケース: 38mm、18Kホワイトゴールド、ダイヤモンドセッティング、30m防水 ダイヤル: グリザイユ エナメル、カラーグリザイユ エナメル、ロジウムコーティングを施した人物 ストラップ: インターチェンジャブルなシャイニーブルーのアリゲーターストラップ、ダイヤモンドをセットした18Kホワイトゴールドのピンバックル 価格:¥28,512,000

Tech Specs
ヴァン クリーフ&アーペル〈カデナ ウォッチ〉 ムーブメント: スイス製クォーツ 機能: 時・分表示 ケース: 14mm × 26mm、18Kイエローゴールド、プリンセスカットサファイア、スノーセッティングのラウンドカットダイヤモンド、30m防水 ダイヤル: ダイヤモンドをセットした18Kホワイトゴールド(ロジウムコーティング) ストラップ: 18Kイエローゴールドのスネークチェーンブレスレット 価格: ¥32,604,000
Brands:Van Cleef & Arpels
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