チタン製時計はいまや珍しくない。しかし、その可能性を半世紀以上にわたって追求し続けてきたブランドは多くない。1970年に世界初の純チタ
Citizen’s Titanium Mastery
チタンの王者たるシチズン―半世紀、磨き抜かれた技術とは?
チタン製時計はいまや珍しくない。しかし、その可能性を半世紀以上にわたって追求し続けてきたブランドは多くない。1970年に世界初の純チタン製腕時計を発表したシチズンは、独自の技術によって、その魅力を磨き上げてきた。
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by Troy Barmore.Jun 28, 2025 |
理想的な腕時計素材―チタン
間違いなく、腕時計において真っ先に目に飛び込み、そして印象を決定づけるのはケース素材である。色味や光沢、光がケースにどのように作用するか──光を吸い込むのか、反射するのか。その違いだけで、時計の表情は驚くほど変わる。
さらに時計に触れた瞬間、まず伝わってくるのもやはり素材だ。手にしたときの重量や密度、ヘアライン仕上げかポリッシュか、あるいはその組み合わせかといった質感の違い。加えて、素材が帯びる温度や、ブレスレットが指の間をすり抜けるときの音までもが、時計の第一印象を形づくっていくのである。

▲ “チタン・スポンジ”──インゴットへと再溶解される前段階の、スポンジ状の多孔質をしたチタン原料。その独特の海綿状の形状から、この名で呼ばれている。
腕時計との最初の“つながり”を生むのは、五感に訴えかける体験である。腕時計に触れるとき、人の好みはそれぞれだ。ずしりとした重みを好み、投じた金額を手首で感じたいという人もいる。
一方で、まったく逆の価値観を持つ人もいる。軽く、強く、腕に載せた瞬間に手首に溶け込むような、負担を感じさせない時計を求める人たちもいる。そうした軽快さを好む者にとって、数ある素材の中でもチタンほど多くの条件を高いレベルで満たす金属はない。形状・性能の両面において、時計製造に使われる金属の中でも、チタンはベストと呼べる素材の一つである。
耐久性や軽さを考えれば、日常使いではステンレススティールより優れている。また、高純度のチタン(合金やニッケルを含まない)を用いた場合、金属アレルギーを起こしにくいという利点もある。
世界には工業用チタンを生産する国が多数あるが、中国がシェアの30%を占める最大生産国となっている。しかし、品質という観点で言えば、世界最高レベルのチタンは日本で作られている。
そして現在、時計製造にチタンを用いるメーカーの中でも、シチズンは先進的な表面処理、そして一貫した品質管理の点で、ひとつ抜きん出た存在となっている。

▲ 今年5月、ニューヨークで行われたシチズンの展示会で紹介された、同社のチタン技術を解説するパネルの一部。
日本におけるチタン生産は1952年にまでさかのぼる。戦後まもない時期、チタンの用途は軍需から工業へと移行しつつあった。
その年、国内のチタン製錬事業者によって日本チタン協会が設立された。創設当初は10社の製錬所が加盟していたが、現存するのはわずか2社となっている。しかし、この再編によって、純度の高いチタン合金の製造が損なわれることはなかった。
チタンの多種多様な合金や製造方法については、論文がいくつも書けるほどである。時計の世界で高純度チタンとして用いられるのはグレード4とグレード5である。両者の主な違いは硬度、すなわち耐傷性にある。
いずれのグレードでも、出発点となるのは“スポンジチタン”と呼ばれる、粗く不揃いでまるでサンゴのような塊である。
スーパーチタニウム──日本の冶金技術の優位性
シチズンは自社コレクションに用いるチタンのグレードについて、公式には特定の種類を明らかにしていない。
これは、部品ごとに異なるグレードや種類、さらには複数のチタン合金を組み合わせて使用しているためだと考えられる。
とはいえ、同社の“スーパーチタニウム™”が、現代の時計製造において最も優れた耐久性と仕上げを誇る素材のひとつであることは疑いようがない。
その理由は、チタン本来の硬さに加え、シチズン独自のデュラテクトと呼ばれる表面硬化技術にある。
デュラテクトとは、コーティング方式と、チタニウムの素材自体を硬化させる方式、またそれぞれを組み合わせた独自技術であり、極めて高い硬度を生み出す。
その結果、スーパーチタニウムは通常のチタンをはるかに超える強さを持ちつつ、美しい外観仕上げを長く保つことができるのである。
いずれにせよ、このスーパーチタニウムが生命をスタートさせるのは、スポンジチタンからである。スポンジチタンは、四塩化チタンを800〜850℃でマグネシウム還元することで得られる。
反応の過程で金属チタンがスポンジ状に析出し、同時に生じた塩化マグネシウムは、高温真空処理によって除去される。こうして得られるのが、粗く不揃いな塊状のスポンジチタンである。その後、このスポンジを溶解し、純度の高いインゴット(鋳塊)へと再成形するのだ。
しかし、チタンはステンレススティールやゴールドなどの貴金属とは異なり、非常に扱いが難しい素材だ。溶解には超高温が必要で、専用の工具と高度な加工技術を要し、その過程ではさまざまな工業的課題が立ちはだかる。
それでも日本、そしてシチズンは、こうした難題に対処するための知識を持っているのである。

▲ UNITE with BLUEコレクションの一部として登場した、2000本限定のワールドタイム”CB0288-65L”。光発電エコドライブを搭載した電波時計である。
1970年、シチズンは世界で初めて純チタン製の腕時計〈X-8 クロノメーター〉を発表した。それから半世紀以上が経ち、同社の技術は大きく進化してきた。
ノウハウの蓄積にとどまらず、その製造を支える機械設備、工具、そして高度な加工技術までも磨き続けてきたのである。
その結果、シチズンは他の国やメーカーでは実現が難しい、あるいははるかに高額になり得る品質のチタン時計を、次々に生み出すことができるようになったのだ。
シチズン流、モノ作りの心
チタニウムと向き合って半世紀を超えた現在、シチズンはその取り組みをさらに深化させ、ラインナップの幅をいっそう拡大している。
2025年初めには、日本では1987年から展開してきた〈アテッサ〉コレクションを、初めて北米市場へ投入した。アテッサは日本国内では長い歴史を持つシリーズであるが、これまで世界市場ではほとんど知られてこなかった。

▲ 1987年に誕生した〈アテッサ〉コレクションが、今回初めてアメリカ市場に投入された。
このラインは、シチズンが作り得る最高峰だ。繊細で高度な仕上げ技術、スーパーチタニウム、複雑かつ革新的な文字盤処理、そして現行ラインナップで最上位に位置づけられるムーブメントが採用されている。
実際、シチズンが展開するチタン活用の幅は、一般的な時計ブランドで見られる種類をはるかに超えている。その代表例が”再結晶チタニウム”である。高温に加熱したチタンを急冷することで特殊な結晶構造が形成され、光を受けるときらめく独特の外観が生まれる。この黒く妖しい再結晶チタニウムは、これまで数多くの特別限定モデルに採用されてきた。
革新がアテッサだけに限られるわけではない。最近シチズンはまったく新しいシチズン xC(クロスシー)を発表している。これは気品ある金色のドレスウォッチで、白蝶貝ダイヤルを備えた上品な一本だ。だが、この控えめな外観以上に、その技術内容ははるかに高度である。
アンバーイエローと呼ばれる特有の黄金色を実現するために、シチズンはまったく新しいチタンの表面処理法を開発した。
一般的な金めっきに用いられるニッケルの代わりに、ニオブチタンという合金を用いるのだ。これにより、チタンそのものの硬さと仕上げの強度が確保され、一般的な金色コーティングの腕時計のように表面が摩耗して色が落ちる心配がない。

▲ シチズンが新たに開発したデュラテクトアンバーイエロー仕上げ。ニオブを含むチタニウム合金を用いた独自の表面処理である。
時計界に精通し、シチズンという企業を理解している人々にとって、同社が先端金属工学において数十年にわたる経験を持ち、きわめて革新的な企業であることは、もはや驚きではないだろう。
しかし、一般の時計ファンにとっては、必ずしもそうではない。シチズンは50年以上にわたり、チタンを活用し、革新してきたが、それを声高に主張することなく、むしろ控えめに行ってきたからだ。
これは、非常に日本的な気質と言える。技術、職人芸、そして完成度を追求することが目的であり、称賛は求めない。だが、まさにこの精神こそがシチズンというブランドの核であり、同社が長年にわたり独自の時計を生み出し続けてこられた理由である。
シチズンのモノ作りは、品質を追求する“瞑想的ともいえる献身”によって支えられている。この気質はアテッサ コレクションにもっとも色濃く現れており、スーパーチタニウムを用いたすべての時計にも共通して息づいている。
Brands:Citizen
