深海で真に求められる文字盤の色とは何か。水中の光の吸収特性や高コントラストの重要性を紐解き、ダイバーズウォッチの色彩の歴史を考察する。
The Watch Face: Dive Watch Dials
時計の表層:ダイバーズウォッチ・ダイヤル
深海で真に求められる文字盤の色とは何か。水中の光の吸収特性や高コントラストの重要性を紐解き、ダイバーズウォッチの色彩の歴史を考察する。
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by Adrian Hailwood . Sep 12, 2019 |
光はどこへ消えるのか?
「黒である限り、何色でも構わない」
ヘンリー・フォードが放った「T型フォード」の名句さながらに、ダイバーズウォッチ誕生から最初の30年間、その文字盤は黒の一択であった。パネライに始まり、ロレックス、ブランパンへと受け継がれたこのモノクロームの系譜に、ついに終止符が打たれたのは1967年のことである。ドクサ(Doxa)〈Sub 300〉による蛍光オレンジの文字盤が、暗闇に鮮烈な光を差し込んだのだ。
それ以降も市場の大半を黒が占め、ネイビーが時折マリンスタイルを主張する程度にとどまっている。なぜダイバーズウォッチにおいて鮮やかなカラー文字盤はこれほど稀であり、そして「オレンジ」には一体どのような秘密が隠されているのだろうか。
まず理解すべきは、どれほど透明に見えようとも、水は光を吸収するという事実である。水深300メートルを超えれば太陽光は一切届かなくなる。人工の光源を携行するか、あるいは時計の文字盤に蓄光塗料が施されていなければ、そこは完全なる暗黒の世界だ。
純粋な水は、光のスペクトル(色)を深度に応じて段階的に吸収していく。しかし、浮遊物や溶解物質、有機物などの不純物が混ざることで、その吸収特性は劇的に変化する。さらに、人間の目がすべての色を均等に認識できるわけではないという事実が、この現象をより複雑にしている。
純水において、まず水深5メートルで赤が姿を消し、20メートルでオレンジ、50メートルで黄色が失われる。緑は110メートルまで届き、青は275メートルまで到達する。不運なことに、人間の目が最も敏感に捉えられるのは赤、オレンジ、黄色であり、逆に緑や青は認識しにくい色なのだ。しかし、濁った水中に至っては状況が一変する。波長の短い緑や青の光は散乱してしまい、結果として視界不良の条件下では、逆説的に「オレンジ」が最も視認しやすい色として浮かび上がるのである。

濁った深淵からの誕生
この事実は、ドクサ〈Sub 300〉の誕生秘話とも見事に合致する。同社はヌーシャテル湖の水中でさまざまなカラーの文字盤をテストした結果、オレンジが最も高い視認性を発揮したと主張している。当時の同湖は汚染が進み、泥や有機物が大量に混ざり合っていた。つまり、この特殊な環境においては合理的な結論であったが、より透明度の高い美しい海においては、必ずしも当てはまらない可能性を示唆している。
こうした発見は、1967年に公開された米国海軍の報告書第503号「水中における色彩の視認性(The Visibility of Colors Underwater)」によっても裏付けられている。J.A.S.キニー、S.M.ルリア、D.O.ワイツマンらによるこの研究では、透明度の異なる様々な水質でテストが行われた。そして彼らもまた、透明度の高い水中においては、青と緑が最も優れた視認性を発揮することを確認している。
さらなる輝きを求めて
この報告書において最も衝撃的だったのは、蛍光塗料の有用性に関する記述である。蛍光とは、塗料が紫外線(UV)を吸収し、それを人間が感知できる色彩の光へと変換して放出する現象を指す。放出された光は、その色が本来持っている自然な反射光に上乗せされ、一種の「増幅効果」を生み出すのだ。
偶然にも、透明度の高い水中では、紫外線はオレンジ色の光よりも深くへと透過する。そのため、蛍光素材を塗布した文字盤は自らオレンジ色の光を放ち、より深い深度でも高い視認性を維持できる。当然ながら、オレンジは人間の目が捉えやすい色の一つであり、この効果をさらに高める結果となった。
事実、蛍光オレンジは、濁った水中における通常のオレンジを凌駕するだけでなく、透明度の高い水中の深部まで届く他の色彩をも圧倒する。深海かつ透明な水中で蛍光オレンジを上回るのは蛍光イエローと蛍光グリーンのみであり、浅瀬のクリアな水中においては、蛍光オレンジが不動のトップに君臨し続けるのである。では、なぜダイバーズウォッチの文字盤において、蛍光カラーのバリエーションが広がらないのだろうか。
ここ数年、オーデマ ピゲやビクトリノックスが一時的な盛り上がりを見せたものの、イエローやグリーンは依然として稀少なままである。その理由は、「勝者独占(ファースト・パスト・ザ・ポスト)」の思想に帰結するのではないだろうか。もし自社の時計を「プロフェッショナル向けツール」として打ち出すのであれば、最高の色、すなわちオレンジを選ぶべきであり、それ以外の選択肢は不要だからである。

漆黒への回帰
では、かつて主役であった黒文字盤の立場はどうなるのだろうか。1967年の米国海軍の報告書では、水中での視認性が高いと噂されていた「黒」について具体的に言及しているが、結果は皮肉にも、あらゆる色の中で最も見えにくいというものであった。
しかし、ここで重要となるのは「視認性(見えやすさ)」ではなく、「判読性(読み取りやすさ)」の問いである。水中で光が減衰し、すべての色彩が色褪せていく世界において、絶対的な正義となるのは「コントラスト」だ。
米国海軍は高コントラストな組み合わせとして「黒とオレンジ」を推奨しており、ドクサもまた、この配色に従って大きく無骨な黒い針を採用した。だが、白と黒以上のコントラストは存在しない。とりわけ、その「白」が、いかなる深度でも自ら光を放つ大きな蓄光塗料の塊であるならば、その効果は絶対的である。
文字盤の存在そのものを認識するためなら、オレンジは優れた選択肢かもしれない。しかし、ダイバーは救命ブイを探すかのように時計の行方を捜索しているわけではない。なぜなら、時計は常に自分の腕の先にあるからだ。
実際に刻まれた情報を正確に「読み取る」という目的において、白と黒で構成された文字盤の右に出るものは存在しないのである。

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