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世界をリードした、セイコーの革新的クロノグラフ物語

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1964年の〈クラウン クロノグラフ〉から、1969年のCal.6139、そして世界初のクォーツ腕時計〈クオーツ アストロン〉へ。セイコーが1960〜70年代に生み出した革新的クロノグラフと、その技術革新の歩みを振り返る。

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The Story of Seiko’s Innovative Chronographs

世界をリードした、セイコーの革新的クロノグラフ物語

1964年の〈クラウン クロノグラフ〉から、1969年のCal.6139、そして世界初のクォーツ腕時計〈クオーツ アストロン〉へ。セイコーが196070年代に生み出した革新的クロノグラフと、その技術革新の歩みを振り返る。

by by Felix Scholz. Mar 24, 2021

第18回オリンピック競技大会

 セイコーというブランドは、知れば知るほど奥深く、興味深さを増していく存在である。表面的には、手頃な価格帯でクオリティの高い時計を提供するメーカーとして知られている。

 しかし少し踏み込んで見ていくと、この日本ブランドが20世紀を代表する最重要メーカーの一つであることがわかる。

 その理由は、製造してきた時計の幅広さと多様性、そしてその革新性にある。セイコーは、あらゆる分野において、新技術・新製法・新素材のフロントラインに立ってきた。クロノグラフも例外ではない。

 ここでは、腕時計型ストップウォッチとしての最初期モデルから、1980年代にクォーツへ移行する直前に生み出されたムーブメントまで、セイコーのクロノグラフ黄金時代を振り返る。

左:1964年東京オリンピックの公式計時を務めたセイコーは、大会で使用するため1,278台の計時機器を開発した。右:1964年東京オリンピックのために製作された、スプリットセコンド機能付きセイコー製ストップウォッチ(Image: Bonhams)

 クロノグラフ機構がスポーツ向けの機能であることを考えれば、セイコー初のクロノグラフが1964年=東京オリンピックの年に登場したのは、きわめて自然なことであった。この大会は、セイコーにとっても、日本全体にとっても、新時代の象徴となる出来事であった。

 オリンピック開催は、どの国にとっても極めて重要な国家的イベントである。しかし東京にとって1964年のオリンピックは、まさに大きな転換点となった。それは、日本が先進国として世界の舞台へ復帰し、東京が高度な技術都市として飛躍するきっかけとなったのである。

 1964年大会をきっかけに、都市インフラ整備は爆発的に進んだ。その一つが、有名な新幹線である。大会開催に要した総費用は、当時の日本の国家年間予算全体に匹敵したともいわれている。

 この急成長と工業化の一翼を担っていたのがセイコーである。積極的な国内マーケティングと、それに伴う製品開発・技術革新によって事業を拡大していた。1960年には、時計メーカーの最高級ブランドとして初代グランドセイコーが登場した。

 その数年後には、若者たちに長く支持されたモデル、セイコー〈スポーツマチック 5〉を発表する。当時の最先端技術が使われており、高効率な“マジックレバー”自動巻き機構、耐久性に優れたゼンマイ、ダイヤショック機構、防水ケース、そして実用的なデイデイト表示を備えていた。

 1964年以前から日本ブランドとして順調な成長を続けていたセイコーだが、東京オリンピックによってその期待値はさらに高まった。

 セイコーは第18回オリンピック競技大会の公式計時を担当し、大会のために36種類、1,278台もの計時機器を開発。特別な訓練を受けたセイコースタッフのもとで運用された。

 特筆すべきは、1964年大会で世界初となるクォーツ制御ストップクロック(携帯型水晶時計)が使用されたことである。卓上型の装置ではあったが、クォーツ時代を予見させるものであった。

 セイコーはこの成果を誇りとし、大会で使用された計時機器や、その用途を解説するパンフレットなどを刊行している。

〈クラウン クロノグラフ〉

 こうした矜持は、もう一つの形でも表現された。それが、日本初の腕時計型クロノグラフ、Cal. 5719A-45899である。

〈クラウン クロノグラフ〉の名で知られるこのモデルは、ケースバックにオリンピック聖火が誇らしげに刻印されている。ムーブメントは手巻き式 Cal.5719を搭載し、コラムホイール制御のモノプッシャー・クロノグラフであった。

 諏訪精工舎が開発したこのムーブメントは、多くのセイコー製キャリバーと同様、装飾を抑えた実直な仕上げと堅実な性能を兼ね備えていた。

 12リーニュサイズのムーブメントは毎時18,000振動(5振動/秒)で作動し、クロノグラフ作動時でも約38時間のパワーリザーブを確保していた。

セイコー初のクロノグラフ〈クラウン クロノグラフ〉Cal.5719A-45899(Image: SEIKO)

 クロノグラフとして見ると、この時計の機能は限定的であった。計測できるのは最長60秒までであり、長時間の計時には対応していなかったからである。

 しかしセイコーは巧みな解決策を用意していた。それが、分表示目盛り付きベゼルである。初期モデルではプラスチック製であったが、後期モデルではより耐久性に優れた金属製の両方向回転ベゼルへと改良された。

 このベゼルにより、着用者はおおよその経過分数を把握することができた。

1969年―革命的な年

 1969年は、あらゆる意味で激動の年であった。カウンターカルチャーの時代であり、ウッドストック、ビートルズ、ストーンウォール暴動、さらには『セサミストリート』の誕生もこの年のことである。

 インターネットの起源が生まれ、コンコルドが初飛行し、人類が月面着陸を果たした年でもあった。

 世界中が変化に揺れていたこの年、時計業界――とりわけセイコーの時計技術者たち――は、まったく別の革命に取り組んでいた。

 セイコーは初期のクロノグラフ開発から間を置かず、1969年にセイコー初の自動巻きクロノグラフ、Cal.6139 を発表する。

 1969年に登場した自動巻クロノグラフの“三強”としては、ゼニスのエル・プリメロ、そしてプロジェクト99連合によるクロノマチック(キャリバー11)がよく語られる。

 それに対し、セイコーのCal.6139は、やや控えめだったかもしれない。だがこれは、6振動駆動の設計に、コラムホイールと垂直クラッチを備えた極めて先進的なムーブメントであった。

左:コラムホイールと垂直クラッチを備えるCal.6139を搭載した世界初の量産型自動巻クロノグラフ、セイコー〈5スポーツ スピードタイマー〉(1969年) 右:量産型自動巻きクロノグラフ Cal.6139(Image: Bonhams)

1969年12月、セイコーは世界初のクォーツ腕時計〈クオーツ アストロン〉を発表した。

 もちろん、振り返ってみれば、1969年のセイコーには自動巻きクロノグラフ以上に重要なモデルがあったことがわかる。

 1969年12月25日、セイコーは10年にわたる研究開発の成果として、世界初のクォーツ腕時計〈クオーツ アストロン〉を発表した。

 この小さな腕時計は、その後数十年にわたり世界に計り知れない影響を与えた。それは、クォーツ革命の幕開けだったのだ。

Cal. 6139系ムーブメント

 クォーツ技術の本格的な影響が時計業界全体に及ぶまでには、まだしばらく時間を要した。その間、セイコーはCal. 6139とCal. 6138の両ムーブメントを軸に、自動巻きクロノグラフを積極的に展開していく。

 セイコーらしく、そのラインアップには実に多くのモデル、リファレンス、バリエーションが存在する。ここでは主要な流れに絞って見ていきたい。まず取り上げるのは、Cal.6139系列である。

 一部の日本国内向けモデルで文字盤に「Speed-Timer」と表記されていたことから、このシリーズは一般にスピードタイマーの名で知られている。

 多くの愛好家にとって、これこそがヴィンテージ・セイコー・クロノグラフの典型であり、その評価には十分な理由がある。

 時計のデザインも時代を色濃く反映していた。固定式アルミニウムベゼル、厚みのあるクッションケース、短いラグ、ケースに沈み込んだ巻真リューズ、そしてシンプルなプッシャーを備え、スピードタイマーは強い個性を放っていた。

 その魅力は外装だけではない。文字盤デザインや表記には多くのバリエーションがあったが、共通点として3時位置の日付・曜日表示、6時位置の30分積算計、そして愛らしくも実用性にはやや疑問の残るインナーベゼルが挙げられる。

 文字盤カラーは、ブラック、ブルー、シルバー、イエローが用意された。

左:セイコー 5スポーツ スピードタイマー Cal.6139(Image: Craft+Tailored) 右:ステンレススティール愛称“角目”スピードタイマー クロノグラフ Cal.6138(※セイコーから販売していたモデルはメタルバンド)

 数あるバリエーションの中でも、最も際立つ存在はイエローダイヤルで、おそらくコレクターの間でもっとも有名なモデルである。

Cal. 6138系ムーブメント

 Cal. 6139系とCal. 6138系ムーブメントは2年の間に登場しており、機械的にも非常によく似た設計であった。ただし、大きな違いがある。

 Cal.6139が1つ目の積算計を備えるシングルレジスター仕様だったのに対し、Cal.6138は2つ目の積算計を備えるダブルレジスター仕様であった。

 Cal. 6138にも二つのバリエーションが存在し、Cal. 6138AとCal. 6138Bに分かれている。

 A・Bともに直径27.4mm、厚さ7.9mmで、毎時21,600振動で作動した。構造面では6139と同様に、コラムホイール制御と垂直クラッチを採用し、曜日・日付表示も備えていた。

Cal.6138系クロノグラフの中でも、特に高い人気を誇るモデルの一つが愛称“パンダ”である。

セイコー Cal. 6138搭載 愛称“UFO”(Image: Craft+Tailored)

 Cal. 6139系がひと目でそれと分かる明確なシルエットで知られるのに対し、Cal.6138系には特定の単一スタイルというものが存在しない。

 このムーブメントは実に多彩なケースデザインへ展開され、今日では数多くの愛称で呼ばれている。

 クロノグラフプッシャーが上部に配置されるよう、ムーブメントを45度回転させた“ブルヘッド”。角形インダイヤルを備える“角目(Kakume)”。ラグを持たず、空飛ぶ円盤のような“UFO”などである。

 中でも、とりわけ人気が高いのが“パンダ”である。1970年代らしい個性と普遍的な魅力が絶妙に調和したモデルで、名の通り、シルバーダイヤルに2つのブラックレジスターを備えている。

 Cal.6138系の中で1本選ぶなら、狙うべきはこのモデルである。

7017・7018・7016 キャリバー

セイコー Cal.7016搭載モデル(※海外のみで展開、セイコーからはメタルブレスレットで販売されたようだ)(Image: Bonhams)

 セイコーのクロノグラフの中でも、7017と7018は比較的知られていない存在である。

 1970年に登場した Cal.7017は、厚さわずか6.15mmという薄型設計であった(Cal.6139が6.5mm、Cal.6138が7.9mmであるのと比較すると、その薄さが際立つ)。

 機能面ではCal.6139に近いものの、小型化された設計と部品点数の削減により、先行機とは異なる性格のムーブメントとなっていた。

 翌1971年に発表された Cal.7018 も、この薄型路線を踏襲しながら、30分積算計を追加した仕様であった。

 そして、1990年代に機械式ムーブメントへの関心が再燃するまで、セイコーが製造した最後の機械式クロノグラフ・キャリバーとなったのが、1972年に発表されたと考えられる Cal.7016 である。

 このキャリバーもまた、セイコーらしく非常に先進的な内容を備えていた。フライバック機能に加え、6時位置の単一レジスター内に積算時針と積算分針を同軸配置していたのである。

 今日では、はるかに高価なスイス製時計で見られる仕様だが、当時としては極めて先進的であった。

 どの観点から見ても、Cal.7016は印象的なムーブメントである。それにもかかわらず、現在なお過小評価されている面がある。

 理由としては、生産期間が短かったこと、さらに1970年代らしい大仰なデザインのモデルに多く搭載されたため、人気が限定されたことが挙げられる。

一つの時代の終焉

映画『エイリアン2』(1986年)でシガニー・ウィーバーが着用したとされる、セイコー クォーツ Cal.7A28-7000。

 1970年代後半、セイコーは機械式クロノグラフ・ムーブメントの生産を終了し、その後1983年には主力クロノグラフとして、クォーツ式アナログクロノグラフムーブメント Cal. 7A28 を投入した。

 セイコーが再び機械式クロノグラフへ回帰するのは、1990年代後半に登場したCal. 6S系ムーブメントを待たねばならなかった。

 その頃には、ブランドの関心はすでに新たな領域へ向かっており、スプリングドライブや、第2世代アストロンといった技術に注力していた。

 それでもなお、1960〜70年代に生み出された先駆的ムーブメント群が時計界に残した足跡は大きい。現在においても、セイコーのクロノグラフは、コレクターや愛好家にとって、探究しがいのある宝石であり続けている。

Brands:Seiko

Brand:Tiffany
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