ロレックス〈エアキング〉は、長らく“入門機”と見なされてきた。しかしその歴史をたどれば、第二次世界大戦のパイロットたちを称える「Air」シリーズに始まり、名作Ref.5500、企業ロゴ入りダイヤル、そして現代のスポーツロレックスへと進化してきた奥深いモデルである。唯一生き残った“キング”の歩みと、いま再評価される理由を追う。。
The King is Dead – Long Live The King!
理想的プロポーションで再評価―ロレックス〈エアキング〉
ロレックス〈エアキング〉は、長らく“入門機”と見なされてきた。しかしその歴史をたどれば、第二次世界大戦のパイロットたちを称える「Air」シリーズに始まり、名作Ref.5500、企業ロゴ入りダイヤル、そして現代のスポーツロレックスへと進化してきた奥深いモデルである。唯一生き残った“キング”の歩みと、いま再評価される理由を追う。
![]() |
by Ross Povey. Jul 3,2020 |
始まりは「Air」シリーズ
ロレックス〈エアキング〉は、私にとって常に特別な存在である。Ref. 5500のエアキングは、私が初めて手にしたヴィンテージ・ロレックスであり、今でも大切に所有し、定期的に着用している時計だ。
かつてエアキングは、ロレックスの世界への入門機と見なされることが多かった。しかしここ数年で、その評価は大きく変わった。コレクターたちは、このモデルをクラシックなプロポーションを備えたオイスターケースの理想形のひとつとして再評価しているのである。
また、エアキングは非常に長い歴史を持つモデルであり、その過程で多彩な文字盤バリエーションが登場した。そのため収集対象としても奥深く、コレクターにとっては尽きることのない魅力がある。
そして多くの愛好家は、現行のエアキングについても、いずれ将来のクラシックモデルとして語り継がれるだろうと考えているのである。
エアキングの名が初めて使用されたのは1945年のことである。そして2014年に一度生産終了となるまで、約70年にわたりロレックスのラインナップに名を連ね続けた。
その長い歴史によって、エアキングはロレックスでもっとも息の長いモデルのひとつとなった。
この「Air」シリーズを考案したのは、ロレックス創業者のハンス・ウイルスドルフだった。その目的は、第二次世界大戦中のバトル・オブ・ブリテンで活躍した勇敢なパイロットたちを称えることにあった。
シリーズには、〈エアライオン〉、〈エアジャイアント〉、〈エアキング〉といったモデルが存在し、チューダーでは、〈エアタイガー〉の名も用いられた。
しかし最終的に生き残ったのはエアキングだけだった。
特徴的なロゴ書体を受け継ぎながら、数十年にわたって多彩な文字盤バリエーションを展開し、ダブルネーム・ダイヤルを生み出し、ときにはスポーツロレックスの領域にまで踏み込むなど、独自の進化を遂げてきた。
まさにその名の通り、“キング”だけが生き残ったのだ。

▲左から:ロレックス〈エアジャイアント〉、ロレックス〈エアキング〉、チューダー〈エアタイガー〉
最も長く生産されたRef.5500
もっとも長く生産されたリファレンスはRef. 5500である。1957年に登場し、1990年までカタログに掲載され続けたことから、その生産期間は実に30年以上に及んだ。
Ref. 5500は一貫して「Precision」または「Super Precision」の表記が与えられたモデルで、搭載ムーブメントにはCal. 1520、後にはCal. 1530が採用された。
34mm径のステンレススティール製ケースにスムースベゼルを組み合わせたその姿は、エアキングのスタンダードを確立した存在といえる。
また1960年代には、一時的にギルトダイヤルのエクスプローラーに酷似した仕様も存在した。これらの時計はエアキングと同じRef. 5500を共有していたことから、コレクターの間では“エアキング・エクスプローラー”と呼ばれている。
現在では極めて人気が高く、希少なコレクターズアイテムとして取引されている。
ただし、このモデルには注意も必要だ。市場ではエアキングに後年製作されたダイヤルや針を組み合わせ、あたかもオリジナルのエアキング・エクスプローラーであるかのように販売されている個体が少なくない。
言い換えれば、アフターマーケット製――つまり偽造品のパーツを組み込んだ時計が流通しているのである。
そのため、本物のエアキング・エクスプローラーを探す際には、文字盤や針だけでなく、ケースやムーブメントを含めた来歴と整合性を慎重に確認することが不可欠だ。

Ref. 5500の時代以降、エアキングは企業向けの記念品や褒賞時計として数多く採用された。ロレックスのラインナップのなかでは比較的手の届きやすい価格帯だったこともあり、文字盤に企業ロゴをあしらったエアキングが数多く存在する。
そのため、ヴィンテージ市場では通常モデルだけでなく、さまざまな企業との関わりを示す特別な個体を見つけることができる。
2008年にアンティコルムにて開催された、本誌Revolutionとのコラボレーションによるオークションは、その好例だ。このロレックスのみで構成されたテーマオークションは、スポーツロレックスに焦点を当てた内容だったが、そのなかには特別なエアキングのセクションも設けられていた。
そこでは、ロレックスのスポーツモデルの進化においてエアキングが果たした役割を示すモデル群が紹介され、その一環として企業ロゴ入りの希少なエアキングも出品された。
具体的には、ウィン・ディキシー(米国のスーパーマーケットチェーン)、プール・インテアドリル(リビアの石油関連企業)、ドミノ・ピザといった企業のロゴを文字盤に配したモデルが含まれていた。
こうしたロゴ入りエアキングは、今日では単なるノベルティウォッチではなく、企業文化とロレックスの歴史が交差したユニークなコレクターズアイテムとして評価されているのだ。

▲ドミノ・ピザのロゴがダイヤルにプリントされたエアキング。
Ref.14000〜大型化へ
1991年、長きにわたって生産されたRef. 5500は、その後継となるRef. 14000へとバトンを渡した。サファイアクリスタル風防を採用したRef. 14000は、34mmケースとスムースベゼルという伝統的なスタイルを維持しながら、新たにCal. 3000を搭載していた。
その後、エンジンターンドベゼルを備えたRef. 14010もラインナップに加わる。
さらに2001年にはムーブメントがCal. 3130へと刷新され、リファレンス末尾に「M」が付くRef. 14000MおよびRef. 14010Mへと進化した。
2007年にはRef. 114200系が登場する。
この世代でエアキングは初めてCOSC認定クロノメーターとなり、長年文字盤に記されてきた「PRECISION」の表記は、ついに「SUPERLATIVE CHRONOMETER OFFICIALLY CERTIFIED(SCOC)」へと置き換えられた。
このシリーズには、エンジンターンドベゼルを備えたRef. 114210や、ホワイトゴールド製フルーテッドベゼルを採用したRef. 114234も存在した。
また、一部にはアワーマーカーの外周にダイヤモンドをセッティングした希少なモデルも登場した。
まさに“キング”は、かつてないほど華やかな装いを手に入れたのである。
しかし、すべての良いものには終わりが訪れる。2014年、エアキングはその歴史上初めてカタログから姿を消した。
もっとも、それは真の終焉ではなかった。
ラザロの復活を思わせる形で、エアキングは2016年に、これまで以上に大きく、力強い姿となって帰ってきたのである。
とはいえ、2016年の新型エアキングが置かれた状況は決して容易ではなかった。
なにしろ同年には、世界中の時計ファンが待ち望んでいたセラクロムベゼルを備えるステンレススティール製コスモグラフ〈デイトナ〉が発表されたのだ。これに目を奪われないほうが難しい。
私もその年のバーゼルワールドに足を運んでいたが、新型デイトナが展示されたショーケースの前は人だかりで近づくことさえ困難だった。
それでも私の心を引きつけたのは、新生エアキングだった。
世間的な注目度こそそれほど高くなかったが、このモデルは熱心なエアキングファンに強烈な印象を残したのである。
34mmケースとクラシックなオイスターのスタイルは姿を消し、その代わりに登場したのは40mmケースだった。
実質的にはミルガウスと共通のケースであり、文字盤もそれまでのエアキングとはまったく異なるものだった。
この時点でエアキングは、もはや疑いようのないスポーツロレックスとなっていた。ある意味では、1960年代のエアキング・エクスプローラーへの回帰とも言えるだろう。
そして最も話題となったのは、やはり文字盤だった。
そのデザインは、ロレックスが製作したブラッドハウンド・スーパーソニックカー(英国で開発が進められていた超音速自動車)の計器類から着想を得ている。
エクスプローラー譲りのアプライド仕様による3・6・9のアラビア数字を備えながら、5分刻みのミニッツ表示をペイントで配した、前例のないレイアウトだった。
さらに、王冠ロゴは鮮やかなイエロー、ROLEXロゴは目を引くグリーンで彩られ、その色は秒針にも反復されている。
しかし、その大胆なデザインのなかにも変わらないものがあった。
文字盤下部のCOSC表記の上には、1950年代以来受け継がれてきたクラシックな書体による「Air-King」の文字が鎮座していたのである。
変わるものもあれば、決して変わらないものもある。エアキングの歴史を貫く一本の糸は、そこに確かに残されていた。
〈エアキング〉購入ガイド
長い歴史を持つモデルだけに、エアキングには実に多くのバリエーションが存在する。現在の市場を見渡しても、コレクターが検討できるリファレンスは豊富だ。
ここでは、歴代エアキングのなかから特に魅力的なモデルをいくつか取り上げ、それぞれの見どころを紹介していく。
Ref. 14010

オイスターケース・ロレックスへの入門機を探しているなら、エアキングはまさにその筆頭候補と言えるだろう。そして、その魅力は単なる“入門機”という言葉だけでは語り尽くせない。
時代を超えて受け継がれてきた「Air-King」のロゴ書体、そしてクラシックな34mmケースの絶妙なプロポーションは、最初のロレックスを求める人にとって理想的な選択肢となる。
なかでもRef. 14010は、COSC認定取得以前の「PRECISION」表記を備えたモデルであり、特徴的なエンジンターンドベゼルも大きな魅力だ。
ソリッドリンク仕様のオイスターブレスレットは、スポーツウォッチ用ブレスレットの完成形とも言える存在である。バーでの一杯からヨットのデッキ、そしてパーティまで、あらゆるシーンに似合うはずだ。
サーモンダイヤル

流行は移り変わるものだ。しかし、スタイルは決して色褪せない。
そして今、あらためて注目を集めているタイムレスなデザインのひとつが、サーモンダイヤルである。もっとも、状態の良い個体を見つけるのは決して容易ではない。
クラシックなエアキングにひねりを加えたこのモデルは、人とは少し違う選択を求める目の肥えた愛好家にこそふさわしい一本だろう。
すっきりとしたスムースベゼルを好む人にも、よりドレッシーな印象のエンジンターンドベゼルを好む人にも選択肢は用意されている。
スポーティでありながら洗練されたサーモンダイヤルのエアキング。その個性的な魅力は、十分に選ぶ価値のあるものと言える。
Ref. 114234

ロレックスとダイヤモンドの関係は長く、そして輝かしい歴史を持っている。オイスターケースの世界に少しでも興味を持つ時計愛好家であれば、ウイルスドルフの名門が手掛けてきた数々のジェムセッティングモデルに馴染みがあるだろう。
しかし、ダイヤモンドを楽しむ方法は、必ずしもレインボー〈デイトナ〉や全面に宝石を敷き詰めた〈デイデイト〉のような華やかなモデルだけではない。
ときには“控えめな美しさ”こそが真の魅力となる。
ホワイトゴールド製フルーテッドベゼルを備えたエアキングRef. 114234は、その好例だ。文字盤にはさりげなくダイヤモンドのアワーマーカーが配されているが、クラシックな34mmオイスターケースのバランスは損なわれていない。
むしろ、その控えめな煌めきが文字盤に上質な個性を与え、この時計を一段上の存在へと引き上げているのである。
・
