時計の世界はいずれ、「リシャール・ミル以前」と「リシャール・ミル以後」に分けられる。彼は無限の創造性と革新によって時計界に大きな変化をもたらした。
Richard Mille – 20 Years On
リシャール・ミル:時計界を変えた男―その20年間の軌跡
時計の世界はいずれ、「リシャール・ミル以前」と「リシャール・ミル以後」に分けられる。彼は無限の創造性と革新によって時計界に大きな変化をもたらした。
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by Wei Koh . Jul 8, 2021 |
究極の反逆児にして天才
この20年間、私は耳を傾けてくれるすべての人にこう語ってきた。時計の世界はいずれ、「リシャール・ミル以前」と「リシャール・ミル以後」に分けられる時代が来る、と。ブランド創業20周年を迎えた今、その真実は、ルネ・デカルトが神の存在を論証したかのように、自明のものとなったと確信している。
現代の時計史において、創業者がいまだに生存しているブランドで、これほど世界的な影響を及ぼした例はない。それは時計製造の枠を超え、現代カルチャーそのものにまで及んでいる。変化は地殻変動のように巨大で、広範で、そして不可逆的だった。
その原動力となったのは、ひとりの男の比類なきビジョンである。彼は既存の美意識、技術、素材に関する常識や決まりごとをすべて否定した。究極の反逆児にして天才―それがリシャール・ミルだ。
かつて丸型だった時計は、彼の手によって、静止していてもスピード感を感じさせるトノーケースへと姿を変えた。隠されていた機構は透明化された。重厚であることが価値とされた時代は終わり、腕時計は驚くほどの軽量さを手に入れた。
それでもミルが守り抜いたものがある。それは、仕上げと品質へのこだわりだ。その上で、この偶像破壊者は既成概念を徹底的に揺さぶった。素材使い、デザイン、さらには価格設定に至るまで……。
今日、あらゆるブランドが何らかの形でリシャール・ミルの影響を受けていると言っても過言ではない。

▲ 2001年に発表された〈RM 001〉は、時計業界に衝撃を与える技術的・美学的アプローチを提示した。
重要なのは、リシャール・ミルの時計が、単なるタイムピースという枠を超えた存在になったことだ。ミルの時計は、より大きなものの象徴となった。すなわち、自由な人生、溢れる夢、情熱、逆境への強さ、あらゆる状況下でのパフォーマンス、そして恐れを知らぬ精神である。
数え切れないほど多くの楽曲でその名が歌われている理由もそこにある。リシャール・ミルを所有することは、多くの人にとって手の届かないものでありながら、誰もが夢見る成功の象徴となったのだ。言い換えれば、それは“羨望される栄光”となったのである。
リシャール・ミルは単なる時計ではない。それは人々が憧れる夢であり、成功した証、そして“そのクラブの一員になった会員証”でもある。
もちろん、時計自体が極上の技術工芸品であることが、その価値の土台となっている。だが、最後の晩餐で水がワインへと変わったように、リシャール・ミルの時計は、私たちにとって時計以上のものになったのである。
著名な時計ジャーナリスト、ニック・フォルクスはこう語る。
「現代のリシャール・ミルは、1920年代の読者にとってのF・スコット・フィッツジェラルドの小説『グレート・ギャツビー』と同じくらい刺激的です。リシャール・ミルを身に着けることは、計り知れない富と成功の表現なのです」
リシャール・ミルは「会員証」?
WristCheck.com創業者のオーステン・チューはこう語る。
「西洋だけでなく、中国でも同じですが、リシャール・ミルの時計は夢を実現するための奮闘する精神を体現しています。だからこそ、とりわけ起業家たち、自分自身の力で成功を掴んだ人々にとって、ニューヨークであれ上海であれ、ロサンゼルスであれ香港であれ、彼らのシンボルになったのです。いわば会員証ですね」
10年前、私は『リシャール・ミル ― ビリオネアたちの秘密の握手』という記事を、デクラン・クインというペンネームで書いた。これは、私のリシャール・ミルを借りた主人公デクランが、その時計を身に着けることで新しい世界へ足を踏み入れ、常識外れで派手な出来事に次々と巻き込まれていくというストーリー仕立ての記事だ。私はこれを“リシャール・ミル効果”と呼んだ。
たとえば、銀座でも屈指の高級寿司店で、同じくリシャール・ミルを着けた、見知らぬ人物に勘定を支払ってもらったことがある。また、リシャール・ミルを着けた中国人女性富豪から、アッシャーのプライベートコンサートに招かれ、そのままボルドーへ葡萄畑を買いに行かないかと誘われたこともある(これらはすべて実話である)
当時は、ただリシャール・ミルを腕に着けているだけで、世界でもっとも享楽的な会員制クラブへ迎え入れられるなど、多くの人は信じないだろうと思っていた。
それから10年。変わったのは、リシャール・ミルに対する世間の認知度だ。10年前、この時計は超富裕層コミュニティにおける、秘密めいたステルス会員証だった。だが今や、秘密でも何でもなくなった。
(もっとも、念のため言っておくと、私もリシャール・ミルを所有してはいるが、経済的にはこのコミュニティの誰よりも下である)
今日、リシャール・ミルはカルチャー的にも頂点にある。Netflixシリーズ『Formula 1: 栄光のグランプリ』を見れば、チームがリシャール・ミルと提携しているか否かにかかわらず、ドライバー、チーム代表、オーナーたちが、誇らしげにリシャール・ミルの時計を腕に着けているのがわかる。
さらに、リシャール・ミルはラップミュージックの中で最も多く名前を挙げられたブランドでもある。ガンナの楽曲『Richard Millie Plain』のミュージックビデオは、YouTubeで1,400万回再生を記録している。
同時にリシャール・ミルは、陸上競技、テニス、ゴルフ、スキー、バイアスロン、F1、ラリーなど、あらゆる競技の第一線で戦うトップアスリートたちにとって、最も憧れられ、着用される時計となった。今夏のオリンピックで金メダルを狙う卓球選手たちも、夜な夜なリシャール・ミルのアンバサダー契約を夢見ているに違いない。
最初は皆が信じられないと目を疑った。テニス界のスター、ラファエル・ナダルが、2010年に世界最軽量の機械式時計〈RM 027〉を着け、ローラン・ギャロスのクレーコートに現れたときのことだ。
これを見たジョン・マッケンローは、「50万ドルの時計を腕に着けてテニスをするなんて信じられない」と口にした。
だが今では、ナダルがそれなしでプレーする姿は想像できない。そしてマッケンローにひと言添えるなら、その同じ時計は現在、二次市場で100万ドルを超える価格となっている。
この11年間で、ナダルは2015年と2016年を除く毎年、リシャール・ミルを着けて全仏オープン男子シングルスを制してきた。つまり、腕に〈RM 027〉を着けたまま9度の優勝を果たしたことになる。
この特別なパートナーシップからは5つのバリエーションモデルが誕生した。そのいずれも耐衝撃性能と軽量化を追求しており、極細ケーブルでムーブメントを吊るす機構や、ケース一体型のカーボンファイバーブリッジの採用など、革新の歴史を刻んでいる。

▲ 左:2010年5月31日、パリ――全仏オープン9日目、男子シングルス4回戦でブラジルのトマス・ベルッチと対戦したスペインのラファエル・ナダル。ポイントを奪い、喜びを表すナダルの腕には、彼のために製作された〈RM 027〉が着けられていた。(Photo by Clive Brunskill/Getty Images) 右:たった20グラムのリシャール・ミル〈RM 027〉
今日、リシャール・ミルは、多くのセレブリティたちに愛用されている。ジェイ・Z、ファレル・ウィリアムス(自身の名を冠した限定モデルあり)、ケヴィン・ハート、エド・シーランらがその代表例だ。
実際、2019年のNAACPアワードでは、ジェイ・Zが小売価格250万米ドルの一点物、ブルーサファイア製〈RM 056〉を着用して登場し、SNSを騒然とさせた。なお、その時計の現在の市場価値について言えば、その数字を倍にして考えればよい。
このように、リシャール・ミルは現代カルチャーのあらゆる場所で輝きを放っている。その一方で、決して大量に流通しているわけではない。ゆえに需要は供給を大きく上回っている。
結果として、二次市場では、ほぼすべてのリシャール・ミルに、英国の田園地帯にある魅力的な一軒家が買えるほどのプレミアムが上乗せされている。念のため言っておくと、その家が買えるのは“時計本体”ではなく、“プレミアム分だけ”の話である。
こうした成功の背景には、素材革新、耐衝撃性、軽量化、そして装着性へのこだわりがある。さらにこの10年で、ブランドには芸術的かつ詩的な要素も加わった。
たとえば見事なマイクロスカルプチャーが特徴の〈RM 57-03 トゥールビヨン サファイア ドラゴン〉、複数の挑発的なメッセージを表示できる〈RM 69 エロティック トゥールビヨン〉などがその例だ。後者は“真に官能的な時計の魅力は時間表示よりも知性に宿る”というミルの思想を体現している。
私がリシャール・ミル本人について驚くのは、その驚異的な成功とカリスマ性を持ちながらも、なお温かく、情熱的で、謙虚で、そして親切な人物であり続けていることだ。

▲ ラッパーであり起業家でもあるジェイ・Z。腕には“Blueprint”の異名を持つ一点物のブルーサファイア製〈RM 056〉を着けている(Image: Shutterstock)

▲ 腕にリシャール・ミル〈RM 52-05 トゥールビヨン ファレル・ウィリアムス〉を着けたファレル・ウィリアムス(Image: Robert Jaso)
時計製造の画期的ビジョン
この20年間におけるミルの偉業を要約するなら、こうなる。第一に、彼は美意識の革命を起こし、きらめくモダニズムの象徴のような時計を世に送り出した。時計界において、その衝撃は、イタリア未来派の彫刻家ウンベルト・ボッチョーニの作品《空間における連続性の唯一の形態》が美術界にもたらした革命に匹敵するものとして、永く語り継がれるだろう。
ミルは航空機とフォーミュラ1にインスパイアされた時計を生み出した。しかしある意味では、その時計はそうした参照元さえ凌駕し、超複雑機械芸術という新たな表現領域へ到達した。
第一に、徹底した透明性である。ムーブメントそのものを時計の美的シグネチャーとして見せるという考え方だ。彼のムーブメントにはチタン、アルミニウム・リチウム、カーボンファイバーといった、それまで時計には用いられなかった素材が採用された。
さらに建築から着想を得た梁構造のスケルトンや、レーシングカーのチューブラーフレームを思わせる構造など、まったく新しい製法も導入された。
こうしてミルは、20世紀初頭に腕時計が誕生して以来、初めて本当に現代的で独創的な時計をもたらしたのである。

▲〈RM 001〉初期デザインスケッチ。
第二に、耐衝撃性能である。独創的なフォルムのすべては、耐ショック性を飛躍的に高めるために設計された。初期のころ、ミルは〈RM 001〉を腕から外し、床に投げつけて、その性能を実演してみせたという。
また、リシャール・ミルは、価格の高さが話題になるが、彼は技術的な分岐点に立つたびに、たとえコストが増大するとしても、常に新しい道を選んできたという。かつてのインタビューで彼は笑いながらこう語っている。
「もし私が財務責任者だったら、とっくに自分をクビにしていただろうね」
その結果として生まれたのは、一切の妥協を排した時計だった。機械式時計における耐衝撃技術の最も急進的な実例である。
エラストマーをベースにし、極細ケーブルで吊り下げられたムーブメント。さらには優れた衝撃吸収性を持つカーボンやチタン製のムーブメントなど、常識を覆す構造が次々と実現された。
そして何より、時計は軽ければ軽いほど衝撃に強くなるという本質を、ミルは理解していた。ミルは、高級時計の世界に“軽さ”という概念を持ち込んだ。
自動車レースや自転車競技などのパフォーマンススポーツでは、軽さこそが最優先事項である。しかしリシャール・ミル登場以前の時計業界では、金やプラチナのような貴金属で作られた重い時計こそ価値があるとされていた。
ミルはその価値観を一変させた。時計を快適性、耐衝撃性のために極限まで軽量化したのである。その到達点が、先にも触れたラファエル・ナダルのために作られた、世界最軽量の機械式時計〈RM 027〉だった。
さらにミルは、ナダルやゴルファーのバッバ・ワトソン、そして現在のF1グリッドに並ぶドライバーたちのようなトップアスリートが、実際の競技中に時計を着用するという“快挙”を初めて実現させた人物でもある。
カーボンやクオーツ TPTといった素材を採用し、人間工学と軽量性を徹底追求したことで、選手たちは時計に妨げられることなく最高のパフォーマンスを発揮できた。
ミルは、最も複雑な高級機械式時計であっても、テニス、陸上競技、バイアスロン、F1、ゴルフなど、あらゆるスポーツに耐えうることを証明した。
そしてもうひとつの偉業がある。ミルは腕時計の価格そのものを変えてしまった。莫大な開発費と極めて少ない生産本数ゆえに、彼の時計はそれまでの業界ではあり得なかった価格で販売される必要があった。
だが市場は即座にそれを受け入れた。実際、その需要はあまりに高く、二次市場での価格は、ただでさえ高額な定価を大きく上回っている。

▲ 左:バッバ・ワトソンは2012年、2014年とマスターズで優勝した。腕には、リシャール・ミル〈RM 038 トゥールビヨン バッバ・ワトソン〉を着けている(Image: richardmille.com) 右:ハースF1レーシングチームのドライバー、ロマン・グロージャン。

▲ 左:アルファロメオ・レーシングのキミ・ライコネンは、〈RM 50-04 トゥールビヨン スプリットセコンド クロノグラフ キミ・ライコネン〉を着用している。 右:リシャール・ミルのために撮影されたミック・シューマッハ。〈RM 016 オートマティック エクストラフラット〉を着用している(Image: richardmille.com)

▲ ノルウェーのバイアスロン選手、ヨハネス・ティングネス・べー。

▲ 左:2019年9月27日、ドーハのハリファ国際スタジアムで行われた2019年IAAF世界陸上競技選手権大会、男子100メートル予選に出場したジャマイカのヨハン・ブレイク(Photo credit should read JEWEL SAMAD/AFP via Getty Images) 右:2016年8月14日、ブラジル・リオデジャネイロ――2016年リオ夏季オリンピック、オリンピックスタジアムで行われた男子400メートル決勝で、43秒03の世界新記録を樹立して優勝し、喜びを表す南アフリカのウェイド・バンニーキルク(Photo By Brendan Moran/Sportsfile via Getty Images)

▲ カタールの走高跳選手、ムタズ・エサ・バルシム。〈RM 67-02 オートマティック ムタズ・エサ・バルシム〉を腕に着け、軽やかにバーを越える。

▲ 左:2016年ツール・ド・フランス第5ステージのスタート直前、マーク・カヴェンディッシュに激励の言葉をかけるリシャール・ミル(Image: Bill Springer) 右:2016年ツール・ド・フランス出場中、マーク・カヴェンディッシュの腕に着けられた〈RM 011〉のクローズアップ。

▲ 2016年ツール・ド・フランス第14ステージで、この大会4勝目となるステージ優勝へ向けてスプリントするマーク・カヴェンディッシュ。腕には、リシャール・ミル本人から特別に貸与されたカーボンTPT製〈RM 011 フェリペ・マッサ〉を着けている。

▲ 左:2021年ツール・ド・フランス第1ステージを制し、フィニッシュラインに姿を見せるフランスのジュリアン・アラフィリップ(Image: cyclist.co.uk) 右:UAEチーム・エミレーツのタデイ・ポガチャル。2020年のツール・ド・フランス覇者であり、2021年大会ではマイヨ・ジョーヌをまとって先頭を走る(Image: Getty)

▲ 英国人サイクリストのマーク・カヴェンディッシュ。前回出場した2018年大会では制限時間内にゴールできず、2017年大会では落車によりリタイアしたが、2021年ツール・ド・フランスではここまで3度のステージ優勝を挙げ、通算ステージ33勝として、エディ・メルクスの最多記録34勝に急速に迫っていた(Image: eurosport.com)
ミルは究極のコミュニティを築き上げた。リシャール・ミルを身に着けることは、超富裕層の会員証を持つのと同じだ。しかし、そのコミュニティは経済的に恵まれているだけでなく、温かさと親しみやすさ、そして陽気さに満ちた集まりでもある。
リシャール・ミルのコミュニティは、創業者の人柄が反映されているのだろう。ミルは、自ら築いた華やかな世界とは裏腹に、驚くほど気さくな人物だ。
私がノルマンディーの彼の城を訪ねた際には、私とカメラマンをキッチンへ案内し、自らスパゲッティ・アーリオ・オーリオを作ってくれた。そしてそれを庭で一緒に食べた。
これほどの成功を収めながらも、人間味を失っていない。その点を私は心から尊敬している。
さて、その話はひとまず脇に置いて、ミルの名作時計の数々を見ていこう。現在、多くのコレクターはリシャール・ミル創業初期の10年間を“クラシック期”と見なしている。
とりわけ、世界初のカーボンファイバー製ベースプレートを採用した〈RM 006〉、〈RM 027〉登場以前に世界最軽量の機械式時計だった〈RM 009〉、そしてベースプレートを廃しパイプ構造を採用した〈RM 012〉などは、その価格が劇的に高騰している。
私は過去20年にわたりリシャール・ミルの歩みを追ってきた。そして、現在のミルの時計は、将来の時計史におけるマイルストーンになると確信している。
付け加えておきたいのは、今年がブランド創業20周年にあたるにもかかわらず、リシャール・ミル本人はこの節目を祝うことに否定的だったということだ。彼にとってブランドは過去ではなく未来に属するものだからである。

▲ 彼の時計は複雑だが、リシャール・ミル本人は、ごくシンプルな物事を愛する。たとえば、イタリア・オペラを口ずさみながら、来客のためにスパゲッティ・アーリオ・オーリオを振る舞うような人だ(Photo by Thomas Lavelle for Revolution)

▲ 2005年に発表された〈RM 006〉は、ベースプレートにカーボンナノファイバーを採用した世界初の腕時計だった(Image: antiquorum.com)

▲ 左:〈RM 006〉のカーボンナノファイバー製ベースプレート 右:29グラムの〈RM 009 トゥールビヨン フェリペ・マッサ〉(Image: sothebys.com)

▲ 左:素材を削ぎ落とした〈RM 009〉のスケルトンムーブメント 右:サファイアクリスタル製ケースバック越しに見ることができるキャリバーRM 009は、時計史上初となるアルミニウム・リチウム製ベースプレートを備えている。
革命的エクストラフラット〈RM 67-02〉5年の歩み
2010年、ミルはテニス界屈指のハードヒッター、ラファエル・ナダルの腕に〈RM 027〉を装着させ、時計界のゲームチェンジャーとなった。〈RM 027〉は、当時世界最軽量の機械式時計だった。ミルはこう語る。
「ラファに時計を着けてもらうよう説得するのは簡単ではありませんでした。彼は試合で着るもの、使用する道具に対して非常にこだわりがあったのです。時計は気が散るし、不快だと思い込んでいました。最終的に、スペイン国王フアン・カルロスの勧めもあって、ようやく私に会い、時計を試してくれることになりました。実際に着けた彼は、その軽さと快適さに驚いていましたよ。そして、彼がリシャール・ミルを着けた最初の年に、全仏オープン、ウィンブルドン、そして全米オープンを制したのです。それ以来、この時計は彼の幸運のお守りになりました」
〈RM 027〉、そしてノントゥールビヨン版である〈RM 035 ラファエル・ナダル〉は、極限の実験の舞台となった。テーマは、軽量化、耐衝撃性、そして装着感である。ミルはこう続ける。
「目的はシンプルでした。ラファに時計を着けていることを忘れさせる一本です。私たちはカーボンファイバー、カーボンTPT、クオーツTPTなど、さまざまなケース素材を試しました。ムーブメントをあらゆる外部衝撃から隔離する方法を見つけ、ベルクロ式から、コレクターたちが“ループ”と呼ぶスポーツバンドまで、新しいタイプのストラップも生み出しました」

▲ リシャール・ミル 〈RM 035 ラファエル・ナダル〉、通称“ベイビー・ナダル”(2011年)
2010年から2020年にかけて、リシャール・ミルは機械式時計を究極のスポーツパフォーマンスツールへと変貌させた。そして私が近年もっともゲームチェンジャー的な一本だと考えるのが、2017年に発表された〈RM 67-02〉である。
リシャール・ミルの最初の10年が、チタン、カーボンファイバー、セラミックス、そしてクオーツTPTの導入によって、高級素材の常識を変えたとするなら、次の10年では、さらに過激な形で伝統的な腕時計の変革が進んだ。
RM 67-02は、カテゴリーそのものを超越した、究極のハイパーラグジュアリー・スポーツウォッチである。
あまりにも軽く、あまりにも自然に着けられるため、私はこれをスポーツウォッチと呼ぶことすらためらう。私にとって〈RM 67-02〉は、むしろスポーツバンド、あるいはスポーツブレスレットに近い存在だ。
ただそこに、美しいデザインの時計ヘッドが付いており、たまたま時刻も表示できる――そんな感覚なのである。
RM 67-02を本当に理解するには、実際に腕に載せてみる必要がある。すると、ほとんど重さを感じず、スウェットバンドしか着けていないように感じるだろう。
だが視線を落とせば、鮮烈な多色使いのクオーツTPTと、攻撃的なカーボンTPTが、強烈な存在感を放っている。

▲ 左:リシャール・ミル〈RM 67-02 オートマティック ムタズ・エサ・バルシム ハイジャンプ 〉(2017年) 右:カタールのムタズ・エサ・バルシムは、2019年10月4日、ドーハのハリファ国際スタジアムで行われた2019年IAAF世界陸上競技選手権大会・男子走高跳決勝に出場。腕には〈RM 67-02 オートマティック ムタズ・エサ・バルシム ハイジャンプ〉を着用している(Photo by KIRILL KUDRYAVTSEV / AFP via Getty Images)

▲ 左:リシャール・ミル〈RM67-02 オートマティック ウェイド・バンニーキルク スプリント〉(2017年) 右:リシャール・ミル〈RM 67-02 アレクサンダー・ズベレフ エディション〉(2018年)

▲ 左:リシャール・ミル〈RM 67-02 アレクシ・パンテュロー〉(2018年) 中:リシャール・ミル〈RM 67-02 フェルナンド・アロンソ〉(2018年) 右: リシャール・ミル〈RM 67-02 セバスチャン・オジェ〉(2018年)
2017年にこのモデルが登場した際に表現された、重要なデザイン要素をいくつか見ていこう。
まず注目すべきは、幅38.7mm、厚さ7.8mmという、クラシックなサイズ感へ回帰した初期のRMモデルのひとつであったことだ。全長は47.52mmあるが、ラグを持たないため、装着感はアップルウォッチと比べてもそれほど大きく感じない。
また、RM 67-02は登場当時、世界最軽量の自動巻き腕時計として知られていたことも忘れてはならない。その重量はわずか32グラム。A4用紙7枚ほどと変わらない、驚異的な軽さである。
〈RM 67-02〉のムーブメントは、まさに息をのむような芸術作品だ。キャリバーCRMA7は、グレード5チタン製のベースプレートとブリッジを全面スケルトン化し、さらにカーボンファイバー製アームとホワイトゴールド製ウェイトで構成された可変慣性ローターを備えている。
アーム部分が非常に軽く、外周のウェイトとの重量差が大きいため、このローターは極めて効率的に巻き上げられる。さらにカーボン製アームは衝撃吸収性にも優れ、ローター機構を守る役割も果たしている。
ムーブメントは毎時2万8800振動(4Hz)で、フリースプラング式テンプを備え、約50時間のパワーリザーブを確保している。
文字盤は時計のベースプレートと一体化しているため、内部機構のすべてを視覚的に楽しむことができる。7時位置にはガンギ車、6時位置やや左にはテンプ、そして12時位置にはスケルトン仕様の香箱が配置されており、内部の機械部品すべてを見ることができ、そこから主ゼンマイの巻き上げ状態も確認できる。
こうした美意識は今日では広く浸透しているが、現代的なスケルトン表現を初めて持ち込んだのがリシャール・ミルであったことは忘れてはならない。
とりわけ、中空フレーム状のアルミニウム・リチウム製ブリッジで構成されたムーブメントを備えた〈RM 009〉は、その先駆けとなったモデルである。

▲ 幅38.7mm、厚さ7.8mmの〈RM 67-02〉は、リシャール・ミルがクラシックなサイズ感へ回帰した初期のモデルのひとつである。全長は47.52mmだが、ラグを持たないためアップルウォッチとほぼ同じ大きさで、重量はわずか32グラムに抑えられている。

▲ 左:RM 67-02は文字盤が時計のベースプレートと一体化しているため、7時位置のガンギ車、6時位置やや左のテンプ、そして主ゼンマイの巻き上げ状態も確認できる12時位置のスケルトン香箱など、内部の機械要素を余すところなく見ることができる。右:内部にはキャリバーCRMA7を搭載。グレード5チタン製のベースプレートとブリッジを全面スケルトン化し、さらにカーボンファイバー製アームとホワイトゴールド製ウェイトで構成された可変慣性ローターを備えている。
時計のケースは、ベゼルとケースバックを留めるスプラインスクリューの周りを、挑戦的に張り出した建築的エクステンションを備えるミルV3ケースを採用している。この意匠は、人気の高い〈RM 11-03〉で初めて見られたものだ。ベゼルとケースバックにはクオーツTPTまたはカーボンTPTを用い、ミドルケースはカーボンファイバー製となる。
〈RM 67-02〉には、〈RM 27-03 〉ラファエル・ナダルに採用された伸縮式ストラップが組み合わされており、驚くほど快適な装着感を誇る。
〈RM 67-02〉は、2017年ロンドンで開催されたIAAF世界選手権(現在の世界陸上競技選手権)で発表された。南アフリカのスプリンター、ウェイド・バンにはグリーン×イエローのクオーツTPT、カタールの走高跳選手ムタズ・エサ・バルシムにはレッド×ホワイトのクオーツTPTが用意された。
競技中にノルウェー国旗カラーの特別仕様RM 67-02を着用した、世界王者でありオリンピック王者でもあるノルウェーのバイアスロン選手、ヨハネス・ティングネス・ベーはこう語る。
「私が身に着ける時計はこれだけです。私にとって重要なのは、この時計がいかに薄く、人間工学的に優れているかという点です。私の競技では、時計がライフルのストラップに引っかかったり、動きを妨げたりしてはいけません。この超薄型のプロファイルは完璧ですし、32グラムという軽さも理想的です。私の競技では時間が極めて重要で、67-02を着けていればそれを確認できます。そして正直に言いましょう。世界で最もクールな時計を腕に着けているはいいものです」
プロアスリート以外からも、〈RM 67-02〉は、その快適性によって高い支持を集めている。インスタグラムで@santa_lauraの名で知られるシンガポール有数の時計コレクターはこう話す。
「時計好きなら誰でもそうだと思いますが、私もリシャール・ミルに惹かれました。そしてやがて67-02に集中するようになりました。なぜか? 着けた瞬間、着けたことを忘れてしまう数少ない時計だからです。とにかく快適で、自然に着けられる。スポーツにも最高ですし、週末にも、リゾートでの休暇にもぴったりです。このモデルにはさまざまなカラーがあるのも魅力で、私はそれらをすべて集めています」

▲ @santa_lauraの、32グラムの 〈RM 67-02〉 オートマティック エクストラフラット コレクション。3つのバリエーションが揃う(©Revolution)
ニック・フォルクスはこう語る。
「〈RM 67-02〉は、ほとんど時計ではないと言いたくなるほど魅力的なモデルです。あまりにも軽く、驚くほど着けやすいからです。私は当初、その個性を、ロレックスのキング・マイダスのような、“時計であると同時にブレスレットでもある”モデルの現代版だと捉えていました。ところが息子たちに言わせれば、これは音楽フェスのバックステージ用ジュエリーブレスレットに近い。たまたま時刻を表示し、運よく12万米ドル超で手に入る、というだけの話です。もっとも、これを着けていれば、ほぼどこのバックステージに入れてくれるでしょう。世界のバックステージにさえね」
2018年には、〈RM 67-02〉にさらに4つのバージョンが加わった。ドイツ国旗を思わせる赤・黒・黄のモデル、ラリードライバーのセバスチャン・オジエのために用意されたブルースポーツストラップ付きブラックカーボンTPTモデル、スキーヤーのアレクシ・パンチュローのためのブルーストラップ付きホワイトクオーツTPTモデル、そしてF1ドライバーのフェルナンド・アロンソのための、黄と赤のデザイン要素をあしらったブルークオーツTPTケースにブルーストラップを組み合わせたモデルである。
最初の2モデルと合わせると、〈RM 67-02〉には計6種類のカラーバリエーションが存在し、蒐集する楽しみを十分に与えてくれる。

▲ 〈RM 67-02〉の厚さは、驚異的な7.8mmである。
〈RM 67-02〉について語るうえで欠かせないスペックのひとつが、厚さ7.8mmという数値である。スポーツウォッチとしては見事なまでに薄い。実際、パテック フィリップのRef.5711やオーデマ ピゲのRef.15202よりも薄い。
ミルの超薄型時計への取り組みは、2007年の〈RM 016〉にまでさかのぼる。ブルガリがオクト フィニッシモを発表する実に7年前、すでにミルは、超薄型時計こそ未来の潮流であることを喝破していた。
常に時代の空気を読み切ってきたミルは、市場全体がその結論にたどり着くはるか以前から、超薄型時計への関心の高まりを見抜いていたのである。
初のエクストラフラット・トノーウォッチ〈RM 67-01〉
〈RM 67-02〉の直接の前身にあたるのが、2016年に初登場した〈RM 67-01〉である。シンガポールで開催されたリシャール・ミルのイベントで私が出会ったこのモデルのオーナー、テッド・ファングはこう語る。
「〈RM 67-01〉を初めて見た瞬間、心を奪われました。私が愛するリシャール・ミルのデザインコードをすべて備えながら、驚くほど気軽に、そして自然に着けられるのです。購入した当初、人々は興味を示しながらも、なぜRM 011を買わなかったのかと尋ねてきました。ところが今では、誰もが手首に載せたときの素晴らしい装着感を口にします。リシャールは、コレクターたちが再び薄型時計へ回帰すると分かっていたのでしょう。ただ、市場の大多数より先にそこへ到達していただけです。それがリシャールという人物です。常に道を切り拓く存在なのです」
〈RM 67-01〉は実に見事なタイムピースである。ミルにとって初の仕様となるトノーケースモデルであり、新開発の自社製自動巻きムーブメント、プラチナ製ローターを備えたCRMA6を搭載していた。このムーブメントの厚さは3.6mmに抑えられている。
この時点ですでにリシャール・ミルは、デザインが持つ力強さを損なうことなく、よりエレガントなサイズ感が求められていることを見抜いていた。そうして誕生した〈RM 67-01〉のケース厚は、わずか7.75mmである。

▲〈 RM 67-01〉は、リシャール・ミル初の仕様のトノーケースウォッチであり、新開発の自社製自動巻きムーブメント、プラチナ製ローターを備えたCRMA6を搭載する。ムーブメント厚は3.6mm、時計全体の厚さは7.75mmに抑えられている。
多くの意味で、〈RM 67-01〉は、ミルの新作〈RM 72-01〉 ライフスタイル クロノグラフの先駆けでもあった。より洗練され、装着しやすく、そしてジェンダーニュートラルな存在だったからである。
ミルは、人々が従来の男性向け、女性向けといった時計観に縛られなくなる時代を見越していた。結局のところ、デイトナは男性用時計であると同時に、女性用時計でもある。ミルもまた、自身の時計が性別に関係なく、あらゆる人を惹きつける存在であってほしいと考えたのだ。
〈RM 67-01〉を見れば、少なくとも彼のトノーケースウォッチにおいて、この思想への最初の転換点となったモデルであることが見て取れる。
もっとも実際には、ミルはそれ以前にも、超薄型モデルを3本発表していた。その筆頭が〈RM 033〉である。
2011年に初登場した〈RM 033〉は、二つの理由で驚きをもって迎えられた。
第一に、45.7mmケースがラウンド型だったこと。第二に、時計自体が超薄型で、内部に搭載された厚さ2.6mmの美しいRMXP1マイクロロータームーブメントにより、ケース厚わずか6.3mmという驚異的な薄さを実現していたことである。
このムーブメントは、グレード5チタン製の地板とブリッジを用いたフルスケルトン仕様だった。文字盤には、放射状に配されたローマ数字インデックスを備えていた。ケースはラウンド型ながら、ミルの他の作品と同様、人間工学に基づいた緩やかなカーブを描き、手首に完璧にフィットさせることができた。

▲ 2011年に登場した〈RM 033〉は、45.7mmラウンド型ケースであった。搭載された厚さ2.6mmのRMXP1マイクロロータームーブメントにより、ケース厚わずか6.3mmという薄さも実現していた。
2015年、ミルは〈RM 33-01〉を発表した。これは先代モデルをさらに進化させた仕様で、ケースサイズは直径45.7mm、厚さ9.2mm。ラグはよりシャープで角張った造形となり、文字盤には拡大されたミル独自のアラビア数字インデックスが配された。
さらにデイト表示とスモールセコンドも備え、洒脱なタイムオンリーウォッチだった初代RM 033とは異なる個性を与えられていた。
続いて2019年には、〈RM 33-02〉が登場する。ケース幅41.7mm、厚さ8.8mmというサイズで、より小ぶりで薄く、着けやすいタイムピースを求める顧客のために作られた。
カーボンTPT製とケースバックに、レッドゴールド製ミドルケースを組み合わせている。初代〈RM 033〉と同じく、こちらもタイムオンリー仕様であった。
重要なのは、この3モデルすべてが快適で、真にジェンダーニュートラルな存在である点だ。
45.7mmという数字は大きく聞こえるかもしれないが、ミルのケースはすべて人間工学に基づいて設計されており、実際の装着感は格段にいいのである。
2007年にさかのぼるリシャール・ミルの〈RM 016〉について私が驚くのは、このモデルがいかに先進的だったかということである。しかし、当時の多くのコレクターはこの時計をどう受け止めてよいのか戸惑っていた。
それまでリシャール・ミルのモデル、たとえば〈RM 001〉、〈RM 004〉、〈RM 008〉などは、美しいトノーケースを採用し、比較的厚みのある時計だった。
しかしRM 016は、幅38mm、縦49.8mmの湾曲したレクタンギュラーケースでありながら、厚さはわずか8.25mmしかなかった。コレクターたちが戸惑ったのも無理はない。なにしろ、それは彼らが期待していた“ミルらしい時計”ではなかったからだ。
だが私に言わせれば、これはケース厚を抑えることで装着性を飛躍的に高めようとした、リシャール最初の実験だった。〈RM 67-02〉は、この思想に、〈RM 027〉や〈RM 035〉から生まれた超軽量性、耐衝撃性、素材革新の実験成果を融合させたモデルである。そして〈RM 016〉という重要なマイルストーンなくして、今日の〈RM 67-02〉は存在しなかっただろう。

▲ 左:リシャール・ミル〈RM 016〉は、幅38mm、縦49.8mmの湾曲したレクタンギュラーケースを備え、厚さはわずか8.25mmに抑えられている。右:リシャール・ミル〈RM 17-01 トゥールビヨン〉は、〈RM 017〉を再解釈したモデルであり、美しいトノー型ケースがキャリバーを際立たせていた。
リシャール・ミルは、自身のハイコンプリケーションもまた超薄型化の実験対象となり得ることを示すべく、2010年に〈RM 017 トゥールビヨン エクストラフラット〉を発表した。
ケースは一見するとRM 016譲りの、人間工学に基づく湾曲したレクタンギュラー型だが、その内部には厚さわずか4.65mmのスケルトン仕様トゥールビヨンムーブメントを搭載していた。これにより、ケースサイズ49.8mm×38mmでありながら、厚さは8.7mmに収められていた。
今日では、さらに薄いトゥールビヨンや自動巻きトゥールビヨンも存在する。しかし2010年当時――超薄型時計復興のはるか以前――このモデルはパイオニアであり、既成概念を打ち破るタイムピースだった。
さらに言えば、これは私が最も愛するリシャール・ミルのムーブメントのひとつでもある。スレンダーで、極限までスケルトン化された意匠を、驚くべき美しさでまとめあげているからだ。
そのため、厳密には超薄型とは言い難いものの、ここで〈RM 17-01〉にも触れずにはいられない。
これは同じムーブメントを、ローズゴールドのアクセントを添えた標準サイズのカーボンTPT製トノーケースに収めたモデルで、わずか10本のマイクロエディションとして登場した。さらに昨年には、ホワイトセラミックス版とブラックセラミックス版も発表されている。
なぜこれらの時計が2020年になって突如姿を現したのか、私には見当もつかない。おそらくRM本社の引き出しを誰かが開け、残っていたムーブメントを数個見つけたのだろう。とはいえ、これが私にとって史上もっとも好きなリシャール・ミルのひとつであることに変わりはない。
カーボンTPTケースとミニマルなムーブメントのおかげで、48.15mm×40.1mm×13.8mmというサイズながら、ナポリ人が仕立て服を評するように、「ヴェスヴィオ山を吹き抜ける風のように軽い」のである。
初の自社製クロノグラフ〈RM 72-01〉
リシャール・ミルとモーターレーシングとの結びつきを思えば、クロノグラフがブランドを象徴する複雑機構になったのは自然な流れである。
ミルのクロノグラフへの挑戦は、2004年にオーデマ ピゲ ルノー・エ・パピ(APRP)との協業によって誕生した〈RM 004 スプリットセコンド クロノグラフ〉、そして基本構造を共有しつつ強力なトゥールビヨンを備えたRM 008から始まった。
この2本は、私にとって常にお気に入りのモデルであり、ムーブメントの完成度、そして時計の造形美という両面において、傑作と呼ぶべき存在である。
いずれも手巻きモデルで、パワーリザーブ表示に加え、より重要ともいえる主ゼンマイのトルク状態を示すインジケーターまで備えていた。
ミル初の自動巻きクロノグラフは、2007年に登場し、いまや伝説的存在となった〈RM 11〉である。この大型で筋肉質なモデルは、〈RM 005〉で初採用されたヴォーシェ製ムーブメントをベースキャリバーとして搭載していた。
このムーブメントの特徴は、可変慣性ローターを採用していた点にある。ローター巻き上げ機構に接続された小さなウイングの位置を調整することで、巻き上げ効率を高くも低くも設定できたのだ。余談ながら、このアイデアを考案したのは、実はジュリオ・パピの父親であり、一部エルメス資本下にあったヴォーシェで働いていた人物だった。
ミルはこのムーブメントに、デュボア・デプラ製モジュールを組み合わせた。そこにはクロノグラフ機構に加え、30日と31日の月を自動補正するアニュアルカレンダーも備わっていた。
〈RM 011〉はその後、ミルを代表するフラッグシップモデルのひとつへと成長した。なかでも〈RM 11-03〉の一部仕様、たとえばブルークオーツTPTのジャン・トッド版などは、定価を実に250%も上回る価格で取引されたほど、熱狂的な人気を誇っている。

▲ 左:リシャール・ミル〈RM 004 スプリットセコンド クロノグラフ〉(2003年)(Images: christies.com) 中:リシャール・ミル〈RM 008 トゥールビヨン スプリットセコンド クロノグラフ〉(2005年)(Images: christies.com) 右:リシャール・ミル〈RM 011 オートマティック フライバック クロノグラフ フェリペ・マッサ〉(2007年)(Image: sothebys.com)
〈RM 72-01〉で印象的だったのは、サイズをやや抑えながらも、視覚的には圧倒的な存在感を放っていたことだ。実際、このモデルには、私たちが愛してやまないミルのアイコンが余すところなく盛り込まれている。
トノー型ケース、前後を貫くスプラインスクリュー、F1マシンのエアインテークダクトを思わせる巨大なシュラウド内に埋め込まれたラバーコーティングの大型プッシャー、そしてオーバーサイズのラバーコーティングリューズである。
文字盤には、伝統的なクロノグラフレイアウトを見事に進化させた意匠が採用されている。常時秒針、60分積算計、24時間表示をそれぞれ独立したサブダイヤルに配置し、さらに色分けとラベリングによって抜群の視認性を確保している。
時刻表示とクロノグラフはカラーコード化がなされており、これが実用的であると同時に力強い印象を与えている。この思想は、新作〈RM 65-01 オートマティック スプリットセコンド クロノグラフ〉でさらに高次元へと押し上げられている。
〈RM 72-01〉は100メートル先からでもわかる未来的マシンである。男性の手首に着ければ、まさに迫力ものである。そして女性の手首に載せれば、眩いばかりのオーラを放つのだ。

▲ 2020年後半に発表された〈RM 72-01〉は、100メートル先からでもわかるオーラを放つ(©Revolution)

▲ レッドゴールド仕様〈RM 72-01 ライフスタイル クロノグラフ〉の、リューズおよびクロノグラフプッシャー(©Revolution)

▲〈RM 72-01ライフスタイル クロノグラフ〉左:レッドゴールド仕様 右:チタン仕様。

▲ 〈RM 72-01〉の文字盤は、伝統的なクロノグラフレイアウトを見事に進化させている。常時秒針、60分積算計、24時間表示をそれぞれ独立したサブダイヤルに配し、すべて色分けとラベリングが施すことで、抜群の視認性を実現。時刻表示とクロノグラフ表示を視覚的に切り分けるカラーコードは、実用的であると同時に力強い印象を与えている(©Revolution)

▲リシャール・ミルによる〈RM 72-01〉のローンチキャンペーンでは、この時計が男性にも女性にも自然に溶け込む存在として打ち出された。

▲ 手首に載せた〈RM 72-01ライフスタイル クロノグラフ〉
驚異的な〈RM 72-01〉の内部で鼓動するムーブメントCRMC1(Caliber Richard Mille Chronograph 1)は、現代屈指のクールなクロノグラフキャリバーである。
ミルがテクニカルディレクターに迎えたサルバドール・アルボナは、その開発にあたり、従来のクロノグラフが抱えてきた問題点を解決しようと考えた。
まず、一般的なクロノグラフの仕組みを見てみよう。時計は、巻き上げられたゼンマイを収めた香箱を動力源として作動する。いわば時計にとっての燃料タンクであり、そこから減速歯車列を通じて、脱進機へと動力が送り込まれ、最終的に調速機へ伝わる。
ガンギ車のひとつ手前に位置する歯車が4番車、すなわち秒車である。その名のとおり1分で1回転し、秒表示を担っている。
伝統的なクロノグラフでは、この秒車がクラッチレバーと連結されている。秒車と同軸上、通常はそのレバー上に、いわば“もうひとつの秒車”ともいうべき歯車が載っている。この歯車が、同じギア比を持つドライブホイールへ動力を伝える。
クロノグラフを作動させると、クラッチレバーが移動し、ドライブホイールが中央に配置されたクロノグラフ秒針車と噛み合う。すると文字盤側ではクロノグラフ秒針が回転を始める。そして1回転するごとに、クロノグラフ車が機構を作動させ、分積算計を1目盛り進めるのである。

▲ 〈RM 72-01〉を駆動するのは、キャリバーCRMC1。リシャール・ミル完全自社製ムーブメントであると同時に、世界初の機構を持つクロノグラフムーブメントでもある。(©Revolution)

▲ 左:リシャール・ミル、ムーブメント部門のテクニカルディレクターを務める、サルバドール・アルボナ。右:キャリバーCRMC1のオシレーティングピニオン。このキャリバーは2つのオシレーティングピニオンを組み込んだ世界初のクロノグラフムーブメントとなった。
ブランドの自社製ムーブメント開発を統括するサルバドール・アルボナは、こう語る。
「クロノグラフという機構は、きわめて“寄生的”な装置です。大量のエネルギーを消費するうえ、パワーリザーブが減少し始めると主ゼンマイのトルク変動をいっそう顕著にしてしまう。つまりクロノグラフを作動させたままにしておくと、テンプの振り角が低下し、ひいては時計本来の計時性能にも悪影響が及ぶのです。こうした問題への対策として、垂直クラッチなどの方式も採用されてきましたが、それはより大型で工業的な用途に向いた解決策です」
実際、垂直クラッチ式ムーブメントでは、オーバーホール時にクラッチ部分を取り外し、交換することも珍しくない。アルボナは続ける。
「そこで私たちは、オシレーティングピニオンと呼ばれる別の解決策を採用しました。これには大きく3つの利点があります。第一に、より直接的でシンプルなシステムであること。秒車からクロノグラフ車へ、歯車付きピニオンを介して直接エネルギーが伝達されます。第二に、構造が簡潔なぶん、占有スペースが少なく、より小型のムーブメントを設計できること。第三に、時計の計時性能へ影響を及ぼしにくいことです。もっとも、そこには但し書きがあります。まさにその理由から、私たちのムーブメントは、2つのオシレーティングピニオンを備えた世界初のクロノグラフとなったのです」

▲キャリバーCRMC1は、2つのオシレーティングピニオンを組み込んだ世界初のクロノグラフムーブメントである。
「クロノグラフが動力を失う要因は、秒車が分積算計を駆動する仕組みにあります」
この問題を解決するため、アルボナは香箱から直接減速歯車を介して動力を取り出し、分積算計を駆動するピニオンへ伝える構造を考案した。
「この方式では、最も強いトルクを生み出す香箱からの動力が3方向に分配されます。ひとつは時刻表示機構へ――これはクロノグラフ秒針の駆動も兼ねます。もうひとつはクロノグラフの分積算計へ。そして減速歯車を介して、直接時積算計へも送られます。時積算計は非常にゆっくり回転するため、そこにオシレーティングピニオンを設ける必要はありません。結果として、このシステムははるかに“寄生性”が低く、ムーブメント本来の計時性能に影響を及ぼしにくいのです」
私がもっと語られるべきだと思うのは、リシャール・ミルのムーブメントデザインがいかに見事かという点である。CRMC1はその好例だ。
現代的なスケルトンキャリバーの構造美に多くのブランドが刺激を受け、業界全体にその影響が広がっている。しかし、ミルほどの想像力と洗練をもってそれを成し遂げるブランドは他にない。
たとえばCRMC1を見てほしい。グレード5チタン製ブリッジに施された、見事な手磨きの面取りも圧巻である。
ローターの仕上げにも注目したい。そこには、リシャール・ミルがオート・オルロジュリーの伝統技術を今なお継承していることが表れている。
その結果として生まれたのが、驚くべきデザインと確かな技術を兼ね備えた、きわめて革新的かつ想像力豊かな時計なのである。
〈RM 65-01 スプリットセコンド クロノグラフ〉の超高精度

▲〈RM 65-01 オートマティック スプリットセコンド クロノグラフ〉。リシャール・ミルで最も複雑な自動巻きタイムピース(©Revolution)
リシャール・ミルはこう語る。
「私はスプリットセコンド クロノグラフが大好きです。なぜなら、あれこそ最も技術的な複雑機構だからです。しかし、その完成には並外れた困難が伴います。〈RM 65-01〉では、耐久レース中のレーシングカーのコクピットでも、自転車に乗っているときでも使える、真のスポーツウォッチとしてのスプリットセコンド クロノグラフを作ろうと思いました。さらに、10分の1秒単位まで計測できる性能を備え、信頼性において比類なき一本を目指しました。そのためには、ゼロから新しいムーブメントを作る必要があると分かっていました」
スプリットセコンド クロノグラフは、その調整と完成の難しさにおいて、ミニッツリピーターに次ぐ複雑機構と見なされることが多い。
だからこそミルは、2003年に発表した最初のクロノグラフ〈RM 004〉に、あえてこの機構を採用したのである。当時の時点で、自身のブランドに不可能はないことを示すためだった。
そのムーブメントは、ミルとAPRPとの協業によって誕生し、その後も数々の象徴的モデルに搭載された。外観は驚くほど現代的だった一方で、手巻きかつ水平クラッチ式という点では、なお伝統的な構成でもあった。
やがて超高性能・超高精度の時計を開発する段階になると、ミルのチームはヴォーシェとの協業によって究極のムーブメントを生み出すことになる。
ミルは当初から、F1の世界に着想を得ていた。F1マシンのエンジンが最高のメーカーから供給されるように、時計においても最良のパートナーと組むという考え方である。その結果が、APRPとの協業であり、ヴォーシェとの長期的パートナーシップでもあった。
2018年、ヴォーシェは業界でも屈指の新型クロノグラフムーブメント、VMF 6710を発表した。ゼニスのエル・プリメロを除けば、毎時36,000振動=5Hzで駆動する、自動巻き・コラムホイール作動式クロノグラフとして唯一無二の存在である。
しかもこのムーブメントは、エル・プリメロの水平クラッチとは異なり、垂直クラッチを採用していた。垂直クラッチであれば、クロノグラフを常時作動させても、時計本来の精度に悪影響を与えにくい。
さらにこのムーブメントは革新の宝庫でもあった。たとえばフリースプラングテンプを支えるブリッジは、脱進機との完璧な噛み合わせを実現するため、微細に上下調整が可能となっていた。
そしてリシャール・ミルのチームは、このベースキャリバーの潜在力を見抜くと同時に、自らの仕様へ全面的に再設計・再構築することで、さらに高い次元へ引き上げられると考えた。こうして誕生したのがRMAC4ムーブメントである。
RMAC4は、ベースムーブメントから大きく進化している。スプリットセコンド機能、125回のプッシュで香箱をフル巻き上げできる高速巻き上げプッシャー、着用者の運動量に合わせて最適化できる可変式ローターを備えている。
さらに、すべてのブリッジをグレード5チタンで製作したうえで全面的にスケルトナイズし、ムーブメント重量を極限まで軽量化している。

▲ ヴォーシェのVMF 6710は、5Hz、すなわち毎時36,000振動で駆動する、自動巻き・コラムホイール作動式・垂直クラッチ採用クロノグラフムーブメントとして、唯一無二の存在である(Image: vauchermanufacture.ch)

▲ 百聞は一見に如かず。RMAC4はVMF 6710をベースとしながら、その面影はまったく感じさせない。スプリットセコンド機能、125回のプッシュで香箱をフル巻き上げできる高速巻き上げプッシャー、着用者の活動量に応じて調整可能な可変慣性/可変ジオメトリーローターを備える。さらに、すべてのブリッジはグレード5チタン製とされたうえで全面的にスケルトナイズされている(©Revolution)
〈RM 65-01〉のケースは巨大かつ力強い。サイズは実質的に〈RM 011〉と同等で、全長50mm、幅44.5mm、厚さ16.1mm。実際、この2モデルはストラップに「RM 11-03」と刻印された同一規格のラバーストラップを採用しており、互換性があることからも、その近似したサイズ感が分かる。
登場時の〈RM 65-01〉は、カーボンTPT製ケースを採用した。今日では多くのブランドがカーボンファイバー製時計、とりわけ積層模様がダマスカス鋼を思わせる不規則なパターンのカーボン素材を用いているが、この領域をいち早く切り拓いたのはミルであり、2013年にノース・シン・プライ・テクノロジー(NTPT)仕様のRM 011でその先鞭をつけている。
文字盤側では、〈RM 65-01〉は〈RM 72-01〉で見られたカラーコードの概念をさらに押し進めている。
時針・分針、アワーインデックス、スモールセコンドはすべてイエロー。9時位置の12時間積算計と3時位置の30分積算計、さらにクロノグラフ秒針はオレンジで統一されている。そしてそのクロノグラフ秒針の上に重なるように、ブルーのスプリットセコンド針が配されている。右下にはギアセレクター、左上には日付表示。
さらに注目すべきはボタン類の配置だ。右上がスタート/ストップ、右下がリセット。左上がスプリットセコンド用プッシャーで、左下には鮮やかなレッドのクイックワインディングボタンが置かれ、125回押すことで香箱をフル巻き上げできる。
実際に時計を始動し、スプリットセコンド針を作動させてみると、まず気づくのは、リシャール・ミルがこの機構の最適化に注いだ膨大な努力である。スプリットセコンド針を停止させればラップタイムを計測でき、左上のボタンを押すと、“ラトラパンテ”すなわち追い付き動作によって、針が、猛烈な速さでクロノグラフ秒針へ追従する。その追従スピードと精度は実に見事だ。
ブラックカーボンTPTケースに映える多彩な色使いは強烈な視覚的インパクトを放つが、リシャール・ミルの時計はもともと控えめな人のためのものではない。リシャール本人が好んで語るように、それは“強い個性を持つ人々のための時計”なのである。
もちろん、ミルは今後も、100万ドル級の〈RM 50-03トゥールビヨン スプリットセコンド クロノグラフ マクラーレンF1〉(世界最軽量のトゥールビヨン スプリットセコンド クロノグラフ)のような超絶モデルには、〈RM 004〉で初採用した手巻きスプリットセコンドキャリバーを使い続けるだろう。
だが〈RM 65-01〉は、スプリットセコンド クロノグラフというカテゴリーに、日常使いに適した素晴らしい実用性をもたらした。そしてそれ自体が、見事な新作タイムピースでもあるのだ。

▲ 〈RM 65-01〉のケースサイズは、全長50mm、幅44.5mm、厚さ16.1mmである。

▲ 〈RM 65-01〉の文字盤では、時針・分針、アワーインデックス、スモールセコンドをすべてイエローで統一。9時位置の12時間積算計と3時位置の30分積算計、さらにクロノグラフ秒針にはオレンジが用いられている。そのクロノグラフ秒針の上には、ブルーのスプリットセコンド針が重ねられる。右下にはギアセレクター、左上には日付表示を備える(©Revolution)

▲ 左:〈RM 65-01〉では、右上にスタート/ストップボタン、右下にリセットボタンを備える。(©Revolution) 右:左上のプッシャーがスプリットセコンド用、鮮やかなレッドの左下ボタンがクイックワインディング用で、125回のプッシュで香箱をフル巻き上げできる(©Revolution)
リシャール・ミルのファミリー
リシャール・ミルは、いまだに反骨精神に満ち、革新を愛するエネルギーが、ブランドに全体にみなぎっている。違うのは、ミルに世界が追いつき、受け入れ、熱狂的にリシャール・ミルを求めるようになったことだ。
その結果、リシャール・ミルは単なる時計ブランドを超えた存在となった。成功、楽観主義、そして恐れを知らぬ精神を象徴する究極のシンボルとなったのである。
時に人々は、リシャール・ミルを誤解している。時計そのもの、あるいはそれを身に着ける人物を称賛するのは、価格が少なくとも50万ドルはするからではない。
称賛されるのは、この時計が21世紀初のアイコンウォッチであり、時の試練に耐え、歳月を経るごとにいっそう存在感を増してきたからだ。
そして、それを着ける男性や女性たちに敬意を抱くのは、リシャール・ミルを身に着けられるだけの人生を築き上げてきたからである。
たとえば、かつてジャッキー・チェンの映画でバイクごと走行中の列車へ飛び移ったミシェル・ヨー。彼女も献身的なリシャール・ミル アンバサダーのひとりでもある。
かつてシンガポールで、アジアのパートナーであるデイヴ&エディ・タン兄弟が主催したリシャール・ミルのイベントでのこと。誰かが私の肩を軽く叩いた。振り向くと、ミシェル・ヨーがいて、私のワイングラスを見ながらこう言った。
「飲み干して。私たちは楽しむのが好きなの。これがリシャール・ミル ファミリーよ」
そこにこそミルが築き上げたファミリーの最も魅力的な面がある。そこには米国のパートナー、ジョン“アンクル・ジョン”シモニアン、そして欧州のピーター・ハリソンも名を連ねている。

▲ 左:リシャール・ミル・アジアPte Ltd エグゼクティブディレクターのブライアン・タンと、同社CEOを務める父デイヴ・タン。右:米のリシャール・ミル販売パートナー、ウエストタイムのオーナー兼CEO、ジョン・シモニアン。

▲左から:ザウバー・モータースポーツAG CEOのフレデリック・バスール、リシャール・ミル・アジアのデイヴ・タン、F1ドライバー キミ・ライコネン、デイヴ・タンの息子ブライアン・タン、そして台湾人歌手ジミー・リン。2019年9月18日、シンガポールで開催されたリシャール・ミル〈RM 50-04 キミ・ライコネン〉発表会にて(Image: Getty Images)

▲ ジョン・シモニアンと息子のグレッグ。
リシャール・ミルでは、次の世代へとリーダーシップが受け継がれつつある。現在、リシャールの4人の子どもたちがブランドで働いている。
アレクサンドル・ミルはコマーシャルディレクター、ディミトリ・ミルはブランドアイデンティティ&デジタルコーディネーター、ギヨーム・ミルはオーディオビジュアルコーディネーター、そしてアマンダ・ミルはブランドおよびパートナーシップ関連業務を統括している。
リシャールのパートナーであるドミニク・ゲナの娘、セシルもまた、クリエーション&ディベロップメントディレクターとして加わっている。
アメリカでは、リシャールのパートナーは伝説的存在のジョン・シモニアンであり、その息子グレッグはウエストタイムの社長として父と肩を並べて働いている。
ジョン・シモニアンはこう語る。
「リシャールとの20年にわたる歩みは、情熱と友情に支えられた、人生を変えるほどの素晴らしい経験でした。20年前に彼と出会ったことは、47年に及ぶ私のキャリアにおける大きな転機でした。リシャールの次の望みは、若い世代が会社に加わり、私たち皆で築き上げてきたものを継承していくことにあります」

▲左:リシャール・ミルでコマーシャルディレクターを務める、アレクサンドル・ミル。右:リシャール・ミルでマーケティング・ディレクターを務める、アマンダ・ミル。

▲ 左:リシャール・ミルでクリエイション&ディベロップメント・ディレクターを務める、セシル・ゲナ。右:リシャール・ミル共同創業者兼共同社長、ドミニク・ゲナ。

▲リシャールミルジャパン代表取締役社長、川﨑圭太。
グレッグ・シモニアンはこう語る。
「リシャール・ミルは、この20年で最大のゲームチェンジを起こしたブランドです。しかし、その巨大な文化的影響力がどこまで及んでいるのか、私たちはようやく今になって理解し始めたところです。ここアメリカでは、特別なエリート顧客層にとって、究極のコミュニティ・シンボルとなっています。彼らは他の時計を身に着けようとしません。なぜなら、彼らにとってリシャール・ミルを着けることは、ひとつのファミリーに属しているという証だからです」
シンガポールでは、アジアにおけるリシャールのパートナーであるデイヴ・タンと弟エディが、いまやそのリーダーシップの継承を、デイヴの息子で有能なブライアン・タンへと進めている。
ブライアンはこう語る。
「私と同世代の層において、ここアジアのリシャール・ミル・コミュニティは驚くほど結束が強く、絶えず成長を続けています。このアジア全域に広がるコミュニティこそ、現在そして未来にわたる私たちの顧客層です」
2007年に初のブティックを開いたリシャールミルジャパン代表取締役社長、川﨑圭太はこう付け加える。
「リシャール・ミルの時計は、身に着けられるアート作品であり、価値を生み出し続けています。2011年から慈善活動にも情熱を注いでおり、今後も継続していきます」
リシャール・ミル欧州・中東・アフリカ統括CEO、ピーター・ハリソンはこう語る。
「私たちはビジネスパートナーになる以前から友人でしたから、すでに信頼関係がありました。当時、彼は競争の激しい業界で非常にエクスクルーシブなブランドを作ろうとしていました。そして、私はすぐに心を奪われました。そして20年後の今もなお、ともに歩み続け、この分野を牽引するブランドとして繁栄しています」
要するに、このブランドが成し遂げた成層圏級の成功にもかかわらず、関わる人々は皆、驚くほど地に足が着いており、何より本当に感じがよい。
彼ら自身も顧客たちも、それぞれの国で最も成功した人々に数えられるかもしれない。だが誰もが、大成功を収めながら、なお謙虚さと優しさを失わないリシャール本人に倣っている。
時計業界の進路を決定的に変えてから、20年が経った。ブランドとしてのリシャール・ミル、そして本人とチームは、いま創造力の絶頂にある。そう考えると、次の20年は、この世界をすでに不可逆的に変えてしまった過去20年を、さらに上回るものになるかもしれない。
Brands:Richard Mille
※記事内容は2021年7月のものです。
