1996年に誕生した〈タンク フランセーズ〉は、ケースとブレスレットを一体の造形として仕立てた、モダンな〈タンク〉である。クラシックな長方形フォルムを受け継ぎながら、シャープなラグとブレスレットによって若々しく洗練された表情を獲得したこのモデルは、ダイアナ元妃をはじめ多くの女性たちにも愛されてきた。カルティエらしい優雅さと現代性を併せ持つ、その魅力を振り返る。
The Cartier Tank Française – A Historical Overview
ダイアナ妃に愛された時計、カルティエ〈タンク フランセーズ〉
1996年に誕生した〈タンク フランセーズ〉は、ケースとブレスレットを一体の造形として仕立てた、モダンな〈タンク〉である。クラシックな長方形フォルムを受け継ぎながら、シャープなラグとブレスレットによって若々しく洗練された表情を獲得したこのモデルは、ダイアナ元妃をはじめ多くの女性たちにも愛されてきた。カルティエらしい優雅さと現代性を併せ持つ、その魅力を振り返る。
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by Sheng Lee. Jan 17, 2023 |
〈タンク〉ファミリーの花
カルティエ〈タンク〉は、シンプルな長方形フォルムの腕時計のファミリーであり、1世紀以上にわたって時代を超えたエレガンスの象徴であり続けてきた。
タンクといえば〈タンク ルイ カルティエ〉や〈タンク アシメトリック〉を思い浮かべる人も多いが、その系譜はそれら20世紀初頭のモデルにとどまらない。
歴史の中で〈タンク〉は進化を重ね、現在では十数種に及ぶモデルが存在し、それぞれが固有のストーリーを持ち、メゾンが絶えず生まれ変わってきたことを物語っている。
クラシックが金字塔である一方で、〈タンク フォル〉、〈タンク アングレーズ〉といった比較的新しいモデルもまた、間違いなく〈タンク〉ファミリーだといえる。
これら新世代のモデルは、パリのメゾンがどのように進化してきたかを示すにもかかわらず、これまであまり語られてこなかった存在でもある。
なかでも特筆すべきが、1996年に登場したカルティエ〈タンク フランセーズ〉だ。ケースと一体としてデザインされたブレスレットを備えた初の〈タンク〉であり、それ以前のブレスレットが汎用的なものだったのに対し、このモデルではケースとブレスレットが一体の造形となっている。
1919年のオリジナル〈タンク〉と比べて、より角張ったケースとブレスレットを採用しており、独自の存在感を放っている。

その美しいデザインにとどまらず、〈タンク フランセーズ〉は、時計としても注目すべき数々の特徴を備えている。登場以来、多くの人々を魅了し続けており、故ダイアナ元妃のようなロイヤルファミリーに愛されたことでも知られる。
ここでは、〈タンク 〉の精緻なデザインと主要な特徴を掘り下げるとともに、複雑機構モデルやスペシャルエディションといったバリエーションにも目を向け、目の肥えたコレクターを惹きつける魅力を紹介する。さらに、このモダン・アイコンにまつわるエピソードについても触れていく。

▲ ダイアナ元妃がイエローゴールドの〈タンク フランセーズ〉を着用している姿。
女性から支持を集める腕時計
〈タンク フランセーズ 〉は1996年に正式発表されたが、1995年にジュネーブで先行披露されたともいわれている。〈タンク〉ファミリーの中では比較的新しいモデルに属し、そのデザインは歴代〈タンク〉の系譜を踏まえつつ、現代的な解釈が加えられている。
際立つのが、その角張ったディテールである。オリジナルの〈タンク〉が比較的プレーンなケースラインを持つのに対し、〈タンク フランセーズ〉は先端が鋭く尖ったラグを備え、ブレスレットのコマもエッジが効いている。これにより、従来の〈タンク〉とは異なる、シャープで立体的な印象を生み出している。
大胆な造形を備えながらも、〈タンク フランセーズ〉は決して無骨さを志向したものではない。カルティエの時計に求められるのは、あくまで洗練であるからだ。
実際、“Française”という名称自体がフランス語の女性単数形であることも、このモデルの性格をよく表している。若々しさと優雅さを併せ持つデザインは、カジュアルでありながらシックな女性向けアクセサリーのような佇まいを感じさせる。その印象を決定づけているのが、美しく設計された一体型ブレスレットである。
後述するように、〈タンク フランセーズ 〉はとりわけ女性たちから強い支持を集めてきたモデルなのである。
なぜ洗練されて見えるのか?
〈タンク フランセーズ〉は、オリジナルの〈タンク〉に比べて縦横比がやや詰められた長方形ケースを採用しており、よりスクエアに近い、どこか遊び心のある印象を与える。
それでも、〈タンク〉の本質はしっかりと受け継がれている。ケース両側に配された2本の直線的で平行なベゼルは、そのままラグを兼ねて外側へと伸びる構造であり、この縦方向のベゼルはカルティエでは“ブランカード”と呼ばれる。これは戦車を上から見たシルエットに由来する。
〈タンク フランセーズ〉では、このブランカードの先端が角ばった形状となり、スポーティなニュアンスが加えられている。
ブレスレットのエンドリンクは、ラグのラインをそのまま延長するように設計されており、その結果、全体としては長方形でありながら、どこか六角形的な印象を帯びた独特のフォルムを生み出している。

ブレスレットを構成する各コマもまたケースデザインを反映しており、先端が鋭く尖った形状となっている。ケースと連続するこの造形によって、時計全体が両端へと伸びていくかのような視覚的効果が生まれている。
〈タンク フランセーズ〉にはどこか軽やかで明るい印象があり、それが女性に支持される理由のひとつだと感じていたが、それを言葉にするのは難しかった。
改めて細部を観察してみると、この尖ったデザインがケースに動きを与え、全体をよりダイナミックに見せていることに気づく。こうした造形が、従来のタンクとは異なる独自のキャラクターを形づくっているのである。
フレンチシックなラグジュアリー
ここまで、シャープなラグやブレスレットといった〈タンク フランセーズ〉の特徴を見てきたが、ここからは素材や仕上げ、ムーブメントといった要素にも目を向けてみたい。
誕生以来、このモデルはステンレススティール、ゴールド、そしてスティールとゴールドのコンビネーションといった多様な素材で展開されてきた。なお、1996年の初登場時はイエローゴールドおよびコンビモデルが先行し、オールスティール仕様は翌年に追加されている。
ソリッドゴールドモデルの華やかさは言うまでもないが、スティールやコンビモデルにも十分な魅力が備わっている。とりわけベースメタル仕様は比較的手の届きやすい価格帯に設定されており、フレンチシックなラグジュアリーウォッチを求める若い世代にとって魅力的な選択肢となっている。
仕上げに関しては、全面ポリッシュ仕上げのものと、サテン仕上げとポリッシュ仕上げを組み合わせた仕様が存在する。なかでもベゼルにサテン仕上げを施したタイプは、ブレスレット仕様のホワイトメタル製〈タンク〉を思わせる、どこかリラックスしたヴィンテージ感を漂わせており、個人的に好ましい。

ムーブメントとコンプリケーション
〈タンク フランセーズ〉は1996年の登場時、サイズや素材、さらには機構のバリエーションに富んだフルラインとして展開されていた。しかし年月とともにコレクションは整理され、当初の幅広さは次第に絞り込まれていった。
初期モデルでは複数のサイズが用意され、最大サイズにはクロノグラフが設定される一方、それ以外は基本的にシンプルな2針または3針モデルで構成されていた。
小径のタイムオンリーモデルにはクォーツムーブメントが搭載され、最大のタイムオンリーモデルには自動巻きのカルティエ120が採用されていた。このムーブメントはETA 2000をベースとしたもので、ETA 2000は実質的にETA 2892を小型化した設計といえる。
直径19.4mm、厚さ3.6mmというコンパクトなサイズながら、日付表示、ハック機能、約40時間のパワーリザーブを備え、実用性の高いムーブメントであった。
なかでも特筆すべきはクロノグラフモデルだろう。クォーツ式であるにもかかわらず、そのレイアウトは非常にユニークで、ダイヤル下部に2つのカウンターを配し、12時位置に日付表示を置くという、他に類を見ない構成となっている。

▲ ピアジェ製キャリバーの採用により、〈タンク フランセーズ〉クロノグラフ は独特のダイヤルレイアウトを実現している。
〈タンク フランセーズ〉クロノグラフをとりわけ興味深い存在にしているのは、そのムーブメント、ピアジェ製キャリバー212Pにある。これは高級クォーツムーブメントでありながら、いくつもの意外な機能を備えている。
巧妙な時刻設定機構に加え、パーペチュアルカレンダー、さらにはスプリットセコンド・クロノグラフ機能まで搭載する。つまり、“パーペチュアルカレンダー付きスプリットセコンド・クロノグラフ”という、極めてユニークな存在である。
キャリバー212Pの操作は、一般的なクォーツクロノグラフとは一線を画し、やや戸惑いながらも楽しめるものだ。リューズは2段階式で、1段引きでは日付ではなく時針を1時間単位で進めるクイックセット機能を担い、2段引きで全体の時刻・カレンダー調整を行う。
さらに特徴的なのが高速設定機能で、リューズを素早く回すことで針と日付が自動的に高速で進み、リューズを押し戻すまで動き続ける。しかもこの操作は逆方向にも可能であり、クイックセット時針を備える時計にありがちな日付調整の煩雑さを解消している。
そして、このキャリバー最大の見どころがスプリットセコンド機構である。一般的な機械式ラトラパンテのように同軸の2本のクロノグラフ秒針を備えるわけではないが、クロノグラフ停止時に通常とは異なり下側のプッシャーを押すことでスプリット機能が作動する。これにより二つの出来事の間の経過時間が記憶され、再び上側のプッシャーを操作するとその計測結果が表示される仕組みだ。
機械式ほど構造的な華やかさはないものの、クォーツならではの発想で実現されたユニークな機能であり、このムーブメントの魅力を象徴するポイントといえる。
スペシャルエディション〈イヤーリング〉
〈タンク フランセーズ〉には、時代ごとにいくつかの特徴的なバリエーションが存在するが、その中でもよく知られているのが〈タンク フランセーズ〉イヤーリングだ。ワイドなベゼルと大型ケースを特徴とし、従来モデルとは異なる存在感を放っていた。
このシリーズには2つの仕様が用意され、XLはデイト付きのタイムオンリーモデル、XXLはクロノグラフとなっていた。いずれもブレスレットではなくレザーストラップ仕様で展開されていた。
なかでもクロノグラフは異彩を放つ。通常の3つの円形インダイヤルではなく、八角形のクロノグラフレジスターを採用し、さらに日付表示も扇形のウィンドウに変更されている。
2000年代初頭に登場したこのイヤーリングは、わずか約1年ほどしか生産されなかった短命なコレクションであり、事実上のワンオフに近い存在として、現在ではコレクターズピースとなっている。

▲カルティエ〈タンク フランセーズ〉イヤーリング
ファン・ダイヤル
イヤーリングがカルティエらしいクラシックなシルバーダイヤルを採用していたのに対し、〈タンク フランセーズ〉の他のスペシャルエディションでは、より遊び心に富んだカラーパレットが展開されていた。
代表的な例としては、ピンクのマザーオブパールのダイヤルに、リューズへピンクスピネルを組み合わせたモデルが挙げられる。
さらに印象的なのが、チェッカーボードパターンのダイヤルだ。単なる市松模様ではなく、カルティエのロゴとダイヤモンドを組み合わせることで構成されており、ユニークかつラグジュアリーに仕上げられている。
また、カルティエ創業160周年を記念し、文字そのものをモチーフとしてダイヤルに落とし込んだ特別仕様も存在する。

こうしたバリエーションを通して、コレクターは〈タンク フランセーズ〉の全体的なデザインとダイヤルの細部、その双方を味わうことができる。すなわち、カルティエの時計を所有する楽しみが、大きく広がるのである。
ファインジュエリーウォッチ
価格的にもっとも高いのがファインジュエリーウォッチである。〈タンク フランセーズ〉にも、ダイヤル、ケース、さらにはブレスレットに至るまで宝石をあしらったモデルが存在し、カルティエのデザイン力とジュエラーとしての技術が凝縮された一本となっている。
ファインジュエリーウォッチの中でも比較的控えめなのは、ベゼルのみにダイヤモンドやサファイアをセッティングし、それ以外は標準仕様を保ったモデルだ。
なかでも印象的なのが、オレンジサファイアのベゼルを備えたイエローゴールドの〈タンク フランセーズ〉で、シャンパンダイヤルとの組み合わせが温かみと爽やかさを同時に演出している。
もうひとつの注目例は、ダイヤモンドベゼルを配したホワイトゴールドモデルで、ダイヤルには異なる書体でブランド名が敷き詰められ、ライトグレーの色調と相まって独特の表情を生み出している。

(Image from Christie’s)
ベゼルのみを装飾した〈タンク フランセーズ〉の一段上に位置するのが、ダイヤルとベゼルの双方に宝石を配したモデルである。なかでも目を惹かれるのは、濃淡の異なるピンクサファイアを交互にセッティングしたダイヤルを備える仕様だ。
さらにファインジュエリーウォッチの世界で頂点に位置するのが、いわゆる“アイスドアウト”と呼ばれる全面に宝石を敷き詰めたモデルである。こうしたモデルには、比較的小ぶりなプリンセスカットのダイヤモンドを用いたものもあれば、より大粒でスクエアカットのダイヤモンドを採用したものも存在する。後者はバゲットカットを思わせつつも、より個性的で力強い。

(Image from Christie’s)
セレブに愛された時計
誕生からほどなくして、〈タンク フランセーズ〉は数多くのセレブリティに愛用されるようになった。ロイヤルファミリーや政治家など、さまざまな分野の人物に選ばれてきたことが、このモデルの存在感を高めてきた。
なかでも最も有名な着用者は、故ダイアナ元妃だろう。彼女はイエローゴールドの〈タンク フランセーズ〉(ブレスレット仕様)を愛用していたことで知られ、1990年代後半にはすでに着用している姿が確認されている。
つまり、このモデルを登場初期から所有しており、〈タンク フランセーズ〉のアイコン的存在として、そのイメージを決定づけた人物といえる。
ダイアナ元妃の〈タンク フランセーズ〉は、最終的に長男ウィリアム王子に受け継がれ、その後、弟ヘンリー王子とのあいだでサファイアリングと交換されたといわれている。
こうしたロイヤルの継承品はやがてそれぞれの妻たちのもとへ渡り、メーガン妃はオールゴールドの〈タンク フランセーズ 〉をたびたび着用している姿が確認されている。とりわけ、Netflixのシリーズ『ハリー&メーガン』(2022年〜)で、その姿を見ることができる。
また彼女は、ドラマ『SUITS/スーツ』シーズン3(2012〜2013年)の終了を記念して、コンビ仕様の〈タンク フランセーズ〉を自ら購入しており、裏蓋には「To MM from MM」と刻印されている(自分から自分へ、の意味)
さらに、アメリカ合衆国元ファーストレディのミシェル・オバマもまた、このモデルの愛用者のひとりだ。2009年に撮影されたホワイトハウスでの公式写真では、オールスティールの〈タンク フランセーズ〉を着用しており、ロングのブラックドレスとパールネックレスというエレガントな装いに見事に調和していた。
タンクには、〈タンク サントレ〉のように100年の歴史を誇るモデルも存在するが、その脇には、王道とはいえないが、実に魅力的なモデルが数多く揃っている。〈タンク フランセーズ〉は、まさにそうした存在の代表格といえるだろう。
クラシックな〈タンク〉の造形に現代的な解釈を融合させた〈タンク フランセーズ〉は、カルティエの持つ革新性と普遍性を体現した一本であり、他にはない独自の魅力を放っている。〈タンク〉のデザインを愛しながらも、現代風な一本を求める者にとって、このモデルはまさに愛すべき存在なのである。
Brands:Cartier
※記事内容は2023年1月当時のものです。
