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大胆かつ挑発的、カルティエ〈タンク サントレ〉完全ガイド

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時計販売店は数多く存在する。しかし、ティファニーは別格だ。Revolutionは、時計ブランドが自社の文字盤にティファニーの名を許してきた理由を探る。

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The Cartier Tank Cintrée — A Complete Guide

大胆かつ挑発的、カルティエ〈タンク サントレ〉完全ガイド

20世紀初頭に誕生した時計の中で、これほど大胆で先進的、かつ独創性に富んだモデルは他にない。ここでは〈タンク サントレ〉の全歴史をひもとく。

by Wei Koh . Mar 22, 2021

その源流は〈タンク〉から

 それは時計デザイン史における、まさに地殻変動級の出来事だった。20世紀初頭に生み出された時計の中で、ルイ・カルティエの〈タンク サントレ〉ほど大胆で、挑発的で、完全に独創的かつ先進的なモデルは存在しない。

 その誕生の背景には、1904年にカルティエがフランス系ブラジル人飛行家アルベルト・サントス=デュモンのために〈サントス デュモン 〉を製作したことに始まる、創造性に満ちた時代があった。

 カルティエは1911年にこの時計を商品化し、革新的な腕時計デザインの伝説が幕を開ける。そして〈タンク サントレ〉は、その中でも最も異端的な存在だった。従来の時計デザインの常識をことごとく打ち破ったのである。

 その源流には、カルティエ〈タンク〉によって切り拓かれた道があった。

飛行中でも容易に時刻を確認したいという友人、飛行家アルベルト・サントス=デュモンのために特別に製作された〈サントス〉には、ルイ・カルティエの先見性が見て取れる。ルイは、「時計は手首に着けるべきものだ」と信じていた。そして彼は、その考えを誰よりも早く世に示したのである。実際、懐中時計が本格的に姿を消すのは1940年代半ばになってからだった。カルティエ パリ〈サントス=デュモン〉(1912年) イエローゴールド、ピンクゴールド、サファイアカボション、レザーストラップ、ケースサイズ:3.42 × 2.48cm Studio Gérard © Cartier

ルイ・カルティエによって考案された〈タンク〉は、クラシックとモダンの完璧なバランスを持つ腕時計である。時表示には17世紀の時計に由来するローマ数字を採用しながら、一方でスクエアケースは徹底してモダンだ。〈タンク〉は時代を超越した存在であり、その成功は揺るぎないものとなった。ルドルフ・ヴァレンティノやゲイリー・クーパーといったハリウッドスターから、カトリーヌ・ドヌーヴのような洗練された人物に至るまで、多くの人々が自由とスタイルの象徴としてこの時計を身につけた。カルティエ パリ〈タンク〉(1920年)プラチナ、ゴールド、サファイアカボション、レザーストラップ ケースサイズ:2.96 × 2.30cm© Cartier

  〈タンク〉は、第一次大戦の戦車から着想を得て1917年に誕生した。最初のプロトタイプはジョン・パーシング将軍に贈られ、1919年には量産化される。

 しかし1921年に発表された〈タンク サントレ〉(フランス語で“湾曲したタンク”の意)は、過去とは完全に異なる存在だった。それは当時、世界各地で起きていた芸術や文化のダイナミックな変化を象徴する時計だったのである。

 そして誕生から100年を経た今なお、この時計は現代的で、人を惹きつけてやまない魅力を放っている。この事実こそが、カルティエの卓越したデザインセンスを雄弁に物語っている。

〈タンク サントレ〉革命的な腕時計

1924年製の見事な〈タンク サントレ〉。プラチナとイエローゴールド製ケースに、サファイアカボションとレザーストラップを備える。ムーブメントはラウンド型のルクルト製〈Cal.123〉で、コート ド ジュネーブ装飾、ロジウム仕上げ、8姿勢調整、18石、スイスレバー脱進機、バイメタルテンプ、ブレゲ式ヒゲゼンマイを採用。ケースサイズは4.63 × 2.30cm © Cartier

  1921年、腕時計は突如として爆発的な人気を獲得する。だが、そのわずか10年前まで、腕時計は“どこか怪しげな人物”の象徴と見なされていた。とりわけ保守的だったアメリカ中西部ではそうだった。

 1914年5月、『アルバカーキ・ジャーナル』紙は、こう書いている。

“腕時計を着けている男は、レース付きの下着を身につけ、夜には髪を編んで寝ていると思われても仕方がない”

 しかし、この記者は理解していなかった。腕時計はすでにボーア戦争を戦った英国兵たちに採用されていたのである。彼らは、銃を撃ちながら懐中時計を取り出すほどヒマではなかったのだ。

 そして第一次世界大戦が、腕時計に対する認識を完全に変えた。アメリカ軍の通信将校には腕時計の着用が義務づけられた。機械化戦争の轟音で、塹壕の将校たちに声による命令が届かなくなり、腕時計を使って攻撃のタイミングを合わせる必要に迫られたのだ。

 時計メーカーもすぐに反応し、壊れやすいミネラルガラス風防を守るヒンジ付きガードを備えた“トレンチウォッチ”を次々と製作した。

 戦争が終わる頃には、腕時計への移行は決定的だった。しかし、それらの多くは依然として懐中時計のデザインを引き継いでいた。

 しかし、カルティエだけは違った。

 カルティエのコレクターであり著名作家でもあるニック・フォルクスはこう語る。

「20世紀初頭の文脈で言えば、ほとんどのブランドは懐中時計を腕時計化していただけでした。しかし、ルイ・カルティエはまったく別の道を選びました。彼は独自のデザイン感覚で、人間の手首のために設計された、身体のラインに美しく調和する時計を作ろうとしたのです。〈タンク サントレ〉はその思想を極限まで推し進めた一本でした。ケースを手首の形状に沿って湾曲させた最初期の時計だったのです。1921年当時、これは完全にラディカルな発想でした」

 実際、ルイ・カルティエの〈タンク サントレ〉は細く引き伸ばされ、曲面が組み合わされた、驚くほどモダンなケースを備えていた。それは、それまで誰も見たことのない形だった。

 フォルクスは続ける。

「私はこれは、ルイ・カルティエにしか生み出せないものだったと思います。あまりにも挑発的で大胆だったのです。この湾曲し、信じられないほど薄いフォルムを見れば、“どうやってムーブメントをこの中に収めたのか?”という疑問が自然と湧いてくるでしょう」

 また、伝説的ジャーナリスト、フランコ・コローニは著書『カルティエ 伝説の時計タンク』(1998年)の中でこう述べている。

“20世紀に入り腕時計が普及し始めると、ケース構造の改良は人間工学的観点から追求されるようになった。時計は手首の曲線にフィットする必要があったのである。カルティエは1906年の〈トノー〉ですでにその実験を行っていた。ケースをわずかに湾曲させ、「これは手首に着けるために設計された時計である」ことを示したのである。〈タンク サントレ〉における自然なカーブは、スタイルの進化を象徴するものだった。それは時計製造が、なお広大な探求の余地を持つ世界であることを示していたのである”

1930年代頃の〈タンク サントレ〉の文字盤。ケースに収められていない状態で、その湾曲した形状がよく分かる© bonhams.com

  抗いがたいほどスタイリッシュだった〈タンク サントレ〉は、やがて時代を代表するプレイボーイたちに愛用されるようになる。

 その中には伝説的色男ポルフィリオ・ルビロサ(現在でもイタリア料理店の巨大なペッパーミルは“ルビロサ”と呼ばれることがある)や、THE RAKEの異名を持つ20世紀最高の洒落者、ジャンニ・アニェッリも含まれていたという。

 美意識――とりわけ自らの“ベラ・フィグラ(イタリア語で「美しい姿」)”を重視する人物にとって、〈タンク サントレ 〉以外の選択肢はあり得なかったのである。

 スティーブ・マックイーンが、映画『華麗なる賭け』(1968年)で、犯罪の天才にしてプレイボーイである主人公トーマス・クラウンのスタイルを考えた際、彼が選んだのは、ダグラス・ヘイワードによるダブルブレストのウエストコートとフィッシュテールカフを備えたスリーピーススーツ、そしてカルティエ〈タンク サントレ〉だった。

 著名コレクターのアーメッド“シャリー”・ラーマンはこう語る。

「〈タンク サントレ〉は徹底して美的感覚を追求した時計だったからこそ、完璧な美意識に執着する人々に響いたのです。フランス語で言う“ブールヴァルディエ”や“フラヌール”――つまり、美しいものに囲まれて生きることを人生最大の喜びとする人にとって、究極の時計でした。そのメッセージは、いまなお時計の中に強烈に刻み込まれているように感じられます」

 洒脱なカルティエ愛好家たち

ニューヨーク州ベッドフォードの自邸で撮影されたラルフ・ローレン。ジャケットの袖口からカルティエ〈タンク〉が覗いている(Image: Bruce Weber, 1998)

映画『華麗なる賭け』のプロモーション写真で、カルティエ〈タンク サントレ〉を着用するスティーブ・マックイーン。

 〈タンク サントレ 〉の大きな魅力が、ルイ・カルティエが生み出した“時計的な錯視”の効果である。

 カルティエ・コレクター、時計専門家のエリック・クーはこう語る。

「この時計は本当にラディカルでした。1920年代のディナーパーティーで、誰かが〈タンク サントレ〉を着けていたところを想像してみてください。きっと衝撃を受けたはずです。この時計の驚くべき錯視効果は、極端に湾曲したフォルムにあります。ケースバック自体はフラットですが、ムーブメントをケース内部に沈み込むように配置したことで、腕に着けられているのを見ると、“どうやってムーブメントを収めているんだ?”と思わずにはいられない。人々は20世紀初頭の建築的偉業としてエンパイア・ステート・ビルを語りますが、私にとって〈タンク サントレ〉も同じくらい重要です。美しさのためにケース構造そのものを根本から再考したのです。だから私はカルティエを愛しているのです」

 この時計のために、カルティエは特別なムーブメントを必要としていた。そこで頼ったのが、友人であり卓越した時計技術者でもあったエドモンド・ジャガーである。

 ジャガーは、このデザインを可能にするため、ごく薄いムーブメントを設計した。カルティエでの名称はCal.123。ラウンド型で、18石、スイスレバー脱進機、ブレゲ式オーバーコイルヒゲゼンマイを備えている。

 しかし〈タンク サントレ〉の湾曲した文字盤の裏側に収まる様子を見ると、そのスペースにはほとんど余裕がないことが分かる。極端にカーブしたケース内部へ、まさにギリギリで収められているのだ。

 その後、カルティエとジャガーはムーブメント製造会社EWC(ヨーロピアン・ウォッチ・アンド・クロック・カンパニー)を設立する。〈タンク 〉に搭載された多くのムーブメントには、EWCの略称が記されている。

1930年代頃の〈タンク サントレ〉裏面。湾曲した文字盤側の窪みに沿うように、ムーブメントが収められている© bonhams.com

〈タンク サントレ〉のデザインは、すでに絶大な人気を誇っていた〈タンク〉を発展させたものだった。〈タンク〉は、ルドルフ・ヴァレンティノのような銀幕スターや、上流階級の人々に選ばれる時計となっていた。

 ヴァレンティノは映画『シークの息子』(1925年)の撮影中、腕時計がまだ存在しない時代設定だったにもかかわらず、愛用の〈タンク〉を外そうとしなかったという。

 この逸話こそ、20世紀初頭に時計デザインを一変させた〈タンク〉の魅力を物語っている。

アールデコを象徴する時計

〈タンク サントレ〉のデザインは、〈タンク ノルマル〉をベースにしていた。文字盤には視覚的なノイズとなるスモールセコンドは存在せず、〈タンク〉と同様にシュマン・ド・フェール(レイルウェイトラック)式のミニッツトラックを備えていた。

 しかしここで、通常の〈タンク〉から大きく踏み出した点が現れる。ミニッツトラックは10時から1時、そして5時から7時にかけて弧を描くように湾曲しているのだ。

 同時に、縦長で長方形のケースにおいて、インデックスとケースの間に生まれる余白を美しく埋める役割も果たしている。

 インデックスには細長く引き伸ばされたローマ数字が採用され、針はブレゲ針となっている。もし〈タンク サントレ〉のローマ数字をじっくり見たことがないなら、ぜひ観察してほしい。

 例えば7時のタイポグラフィの脚部が、ミニッツトラックの角に合わせて鋭角に処理されている。まさにディテールへのこだわりである。それは当時、最盛期を迎えていたアールデコ様式のデザインでもあった。

7時位置インデックスの脚部がミニッツトラックの角に合わせて鋭角を形成している(© Revolution)

 アールデコは、パブロ・ピカソのようなキュビストや、アンリ・マティスらフォーヴィストたちに強く影響を受けたデザイン様式だった。ときに異質なものを衝突させ、古代と現代を恐れず融合させるスタイルであり、アールヌーヴォーに見られた過剰な装飾性からは距離を置いていた。

 つまり〈タンク サントレ〉を腕に着けるということは、アールデコの傑作を身につけることを意味していたのである。この時計は、とにかく目立ったのだ。

 著名コレクターでありカルティエ研究家でもあるアウロ・モンタナーリはこう語る。

 「〈タンク サントレ〉のもうひとつのラディカルな側面は、1920年代という時代におけるそのサイズです。これは“巨大”としか言いようがありません」

 このケースサイズは小さな時計が主流だった当時としては衝撃的だった。全長44.7mm、幅23mmという寸法は破格だった。

 厚さは6.7mmと比較的薄型だが、それはリューズと一直線上の部分の数値であり、湾曲したプロファイルによって実際の印象はさらに薄く見える。その姿は、まるで流線型デザインの父、レイモンド・ローウィがカルティエと手を組み、生み出したモダンなオブジェのようだった。

 そして、それこそが〈タンク サントレ〉の本質だったのである。過去との決定的な断絶を生み出し、20世紀における最初の、時計デザイン革命となったのだ。

1935年にカルティエ ニューヨークがルイーズ・ヴァン・アレン(後のムディヴァニ公妃)のために制作した〈タンク サントレ〉腕時計のデザイン画(©Cartier)

 それはまさに“狂騒の20年代”のシンボルだった。第一次世界大戦後から1929年の世界恐慌まで続いた、繁栄と平和の時代である。

 フランスでは“レザネ・フォル(狂乱の時代)”、ドイツでは“黄金の20年代”と呼ばれた。この時代、ニューヨーク、パリ、上海など、世界の大都市では、文化が劇的な変化を遂げていた。

 電話、自動車、航空機が急速に普及し、世界はかつてないほど結びつきを強めていった。映画は黄金期を迎え、ラジオは各家庭に普及し、ジャズは新たな音楽として花開いた。

 タマラ・ド・レンピッカ、エドヴァルド・ムンク、サルバドール・ダリらは絵画の世界を革新し、アメリカでは禁酒法によってギャングが台頭した。

 ジョー・ケネディのように密造酒で巨万の富を築く者も現れた。F・スコット・フィッツジェラルドは、この時代を象徴する小説『華麗なるギャツビー』を著した。

〈タンク サントレ〉は、そんな大きな変化と熱気のただ中で誕生したのだ。

コレクションとしての〈タンク サントレ〉

 近年、時計専門サイトA Collected Manは“100 Years of the Cartier Tank Cintrée”という優れた記事を公開している。

 この記事では、〈タンク サントレ〉を搭載ムーブメントのサイズによって3種類に分類しており、それぞれ7リーニュ、8リーニュ、9リーニュと呼ばれている。

 リーニュとは時計ムーブメントのサイズを示す古い単位で、1リーニュは2.25mmに相当する。逆に1mmは約0.44リーニュとなる。

 もっとも大型の9リーニュムーブメントは、全長46.5mmにも達するヴィンテージモデルに搭載されていた。

リーニュとは時計ムーブメントのサイズを表す単位で、1リーニュは2.25mmに相当する。逆に1mmは約0.44リーニュとなる。近年の研究では、〈タンク サントレ〉には搭載ムーブメントのサイズに応じて3種類のサイズバリエーションが存在したと考えられており、上の比較図はそれを示したものだ(図版はacollectedman.comをもとに再制作)

アウロ・モンタナーリ所有の〈タンク サントレ〉コレクション。カルティエのボックスに収められたその姿から、このモデルの変遷を見ることができる(©Revolution)

 私がこれまで見てきた中でも最高峰の〈タンク サントレ〉コレクションを所有するアウロ・モンタナーリは、こう語る。

「私は〈タンク サントレ〉を3つのサイズすべてで収集していますが、もっとも象徴的だと思うのは、44.7〜46.5mmほどの大型ケースです。時計に十分な長さがあることで、このモデル特有のカーブがより際立つからです。その結果、とても強いスピード感が生まれる。細長く伸びたフォルムになればなるほど、まるでコンスタンティン・ブランクーシの彫刻のように、非常にダイナミックな存在感を放つ時計になるのです」

 さて、近年では比較的新しい限定版〈タンク サントレ〉ですら、二次市場で驚くほど高額で取引されるようになっている。そこで本稿では、この象徴的なタイムピースが歩んだ100年の歴史を総覧するとともに、主要リファレンスごとのコレクタビリティについても解説していきたい。

 私はよく、「将来コレクターズアイテムになる時計は何だと思うか」と尋ねられる。そのたびに「現代のカルティエ、とりわけ〈タンク サントレ〉のような象徴的フォルムと重要リファレンスを持つモデルだ」と答えることにしている。

ダイヤル・デザインのいろいろ

 〈タンク サントレ〉の歴史を通じて、ダイヤル・デザインには大きく分けて3つの主要なスタイルが存在する。それぞれを以下に紹介しよう。

ローマ数字インデックスとシュマン・ド・フェール・ミニッツトラックを備えたダイヤル(©Revolution)

  この最初のデザインは、基本的にはクラシックな〈タンク ノルマル〉の意匠を発展させたものだ。シュマン・ド・フェール(レイルウェイ)式のミニッツトラックと、美しく引き伸ばされたローマ数字インデックスを備えている。

 当初はブレゲ針が採用されていたが、後年になると、よりモダンなソードハンドへと変化していった。私にとって、これこそがもっともクラシックな〈タンク サントレ〉のデザインである。

 これらのローマ数字インデックスについては、個体によってより細長く伸びて見えるものと、そうでないものがあるという議論もある。しかし私自身は、これはインデックスの違いというより、時計そのもののサイズによるものだと考えている。

 7リーニュや8リーニュムーブメントを搭載した小型モデルではインデックスも短くなり、9リーニュムーブメントを搭載した大型モデルでは、より長く伸びたインデックスとなる。これもまた、モンタナーリが大型モデルを特別に愛好する理由のひとつだろう。

 そして私が〈タンク サントレ〉のダイヤルで特に魅力的だと感じるのは、その意匠がまるで手描きのように見える点である。カルティエのロゴですら、手でサインしたような雰囲気を漂わせている。

 これは1920年代から1970年代頃までのヴィンテージモデルで特に顕著だ。その後は、おそらく生産の工業化が進んだためだろう、現代のダイヤルにはやや“手描き感”が薄れているものもある。しかし私は、カルティエにはぜひこの魅力を取り戻してほしいと思っている。

 完璧さが当たり前になった現代だからこそ、こうした人間味のある表現は、いっそう強く心を惹きつけるのである。

アラビア数字インデックスとシュマン・ド・フェール式ミニッツトラックを備えたダイヤル(©Revolution)

  実のところ、私はこのデザインを独立したダイヤルバリエーションとして扱うべきか少し迷っていた。おそらく、カルティエが2004年にアラビア数字インデックスとミニッツトラックを備えた素晴らしい限定版〈タンク サントレ〉を発表していなければ、そうはしなかっただろう。

 このモデルはプラチナ製が50本、イエローゴールド製が150本限定で製作された。

 だが、このデザインでもっとも有名なのは、やはり1929年製のカルティエ ロンドンによる〈タンク サントレ〉である。これはフレッド・アステアが友人で競走馬調教師のフェリックス・リーチ・ジュニアへ贈った時計として知られている。

 フレッド・アステアの〈タンク サントレ〉が特別なのは、単にアラビア数字を採用しているだけではない。その数字には夜光ラジウム塗料が施され、さらにラジウム入りのカテドラルハンドが組み合わされている点にある。

 私の知る限り、アラビア数字とこのスタイルの針が〈タンク サントレ〉に採用されたのは、これが初めてだった。“数本だけ存在した”という説もあるが、私はこの個体以外を見たことがない。

 神話的ともいえるフレッド・アステアの〈タンク サントレ〉は、先述した2004年限定モデルの着想源となった。

 しかし、新作ではアラビア数字こそ採用されたものの、夜光仕様ではなかった。また、カテドラルハンドの代わりに、両モデルともブルースチール仕上げのブレゲ針が用いられていた。

1929年製のカルティエ ロンドンによる〈タンク サントレ〉。フレッド・アステアが友人で競走馬調教師のフェリックス・リーチ・ジュニアへ贈ったもので、アラビア数字インデックスとシュマン・ド・フェール式ミニッツトラックを組み合わせたダイヤルを備える。現在はカルティエ コレクションに所蔵されている(©Revolution)

やや異色の存在ともいえる〈タンク サントレ〉。アラビア数字インデックスとシュマン・ド・フェール式ミニッツトラックを備えたダイヤルを持ち、ケースには「EJ」の刻印と「21082」「1246」「27631」の番号が打たれている。ムーブメントには「European Watch and Clock Co. Inc.」の署名が入り、ケース内部には「JC」の刻印と、1936年のグラスゴー輸入ホールマークが確認できる。2011年、クリスティーズにおいて3万2500スイスフランで落札された(Image:christies.com)

  次にアラビア数字インデックスが採用されたのは、2018年に登場した新しい〈タンク サントレ〉のダイヤルである。このダイヤルは実に印象的で、それまで一度も見られなかった意匠を採用していた。

 アラビア数字の「12」と「6」に、バトンインデックス、そしてソードハンドを組み合わせたデザインである。その仕上がりは、実に見事だった。

ミニッツトラックを持たない、引き伸ばされたローマ数字インデックスのダイヤル(©Revolution)

  この大胆に引き伸ばされたローマ数字インデックスは〈タンク サントレ〉のダイヤルにおける、もうひとつの大きなデザイン転換と言える。この意匠は1960年代のカルティエ ロンドンで誕生し、〈タンク サントレ〉だけでなく、より直線的で湾曲の少ないロングケースの〈タンク〉にも採用された。

 1960〜70年代のカルティエ ロンドンは創造性の絶頂期にあり、時代に合わせて、よりモダンで、アールデコ色を抑えた〈タンク サントレ〉を生み出そうとしていた。

 モンタナーリのブランクーシの彫刻になぞらえた表現を借りるなら、この大胆に引き伸ばされたローマ数字インデックスは、強烈なスピード感を生み出している。

 文字盤中央から現れた数字が、そのままケース外周へ向かって疾走していくようなのだ。その効果は見事で、ダイヤル全体に直感的なエネルギーと高揚感をもたらしている。

 このデザインにブレゲ針はクラシックすぎた。そのためカルティエ ロンドンは、シンプルなブルースチール仕上げのソードハンドを選択し、このクリーンでモダンなデザインを引き立てた。

 私がこのダイヤルでもっとも魅力的だと思うのは、ローマ数字の足元が文字盤中央で明確な長方形を形作っている点である。その静かで整然とした空間が、外へ向かって伸びるスピード感あふれるローマ数字のエネルギーと鮮烈な対比を生み出しているのだ。

 〈タンク サントレ〉100年の軌跡を振り返る  Ref. WGTA0057(2021年)

イエローゴールド製、大型ケース仕様、手巻き機械式ムーブメントを搭載した150本限定の〈タンク サントレ〉は、2021年1月初旬にほとんど告知されることなくひっそりと発表され、顧客向けに直接販売された。そして現在では、すでに完売している。ムーブメント:手巻き式 Cal.9780 MC(ジャガー・ルクルト Cal.849ベース) ダイヤル:アイボリーダイヤルを備えたイエローゴールドケース ケース:46.3×23×6.03mm 販売本数:150本限定 二次市場価格:定価を上回る水準 コレクタビリティと投資価値:非常に高い。

 2021年初頭にひっそりと発表されたこの150本限定モデルは、〈タンク サントレ〉誕生100周年を記念するタイムピースである。そのデザインは、1921年に時計界へ衝撃を与えた最初期モデルを想起させるものだ。

 ケースにはイエローゴールドを採用し、ダイヤルには、長い年月を経てわずかに酸化したヴィンテージの〈タンク サントレ〉特有の温かみある色調を思わせるアイボリートーンが与えられている。この演出は、実に魅力的だ。

 私が愛するシャンパーニュ・メゾン、ジャック・セロスは、熟成によって生まれる二次的な風味を思わせる、シェリーのようなニュアンスをシャンパーニュに取り入れた先駆者だった。

 このダイヤルを眺めていると、まさにセロスのシャンパーニュを飲んでいるときの感覚を思い出す。つまり、ノスタルジーを感じさせながらも、同時に現代的で高性能なのである。

〈タンク サントレ〉100年の歴史を通じて製作されたモデルの中でも、この2021年モデルと2004年の限定モデルは、史上もっとも薄型の〈タンク サントレ〉として知られている。

 その理由は、かつてケース厚6.7mmを実現していた歴史的なCal.123ではなく、カルティエがCal.9780 MCを採用したためだ。このムーブメントは、1990年代初頭に誕生したジャガー・ルクルトの極薄ムーブメントCal.849を再設計したものである。

 厚さわずか1.85mmのこのムーブメントは、2013年に発表されたジャガー・ルクルト〈マスター・ウルトラスリム・ジュビリー〉(ケース厚4mm)や、2020年の〈マスター・ウルトラスリム・キングスマン・ナイフ〉(ケース厚4.25mm)を可能にしたことで知られている。

 その結果、この〈タンク サントレ〉はスリークでしなやか、そしてエレガントな存在となった。ただし、〈タンク サントレ〉のケース厚については重要なポイントがある。

 この時計は、ケース全体が均一な厚みではなく、ラグ付近で最も薄く、そこから緩やかなドーム状を描きながら中央部で6.4mmに達し、その後再び鋭く薄くなっていく構造を採用している。

 つまり、実際に6.4mmとなるのはリューズと一直線上にある一点のみであり、それ以外の部分はかなり薄い。これにより、腕に載せた際には驚くほど薄く感じられる。

 湾曲ケースと相まって、ボタンを留めたドレスシャツの袖口にも自然に収まる。有機的で邪魔にならない装着感を生み出している。

 一方で、46.3mmという全長と23mmのケース幅によって、腕上での存在感は非常に強い。つまり〈タンク サントレ〉は、明確な主張を持つステートメントピースでありながら、驚くほど快適に装着でき、まるでブレスレットのように腕へ馴染むのである。

 私が思いつく限り、この感覚に近い時計はリシャール・ミルの極薄モデル〈RM 67-02〉くらいしかない。しかしデザイン面では、リシャールは〈タンク サントレ〉とはほとんど対極に位置している。

 エリック・クーはこう語る。

「私はこの2021年アニバーサリーモデルを愛しています。なぜなら、これはカルティエによる1921年モデルへの究極のオマージュだからです。ケースはわずかに長くなっていますが、その差はほとんど判別できません(46.3mm対44.7mm)。幅は同じです。しかし、ほんのわずかに薄型化され、素晴らしいジャガー・ルクルト製ムーブメントを搭載している点に強く惹かれます。特に、ダイヤルに採用された温かみのあるクリーム調の色味が、完璧な状態で保存されたヴィンテージピースのような印象を与えているのです」

 そのほかのディテールも、1921年モデルの意匠を忠実に継承している。インデックスとケース端の間を埋めるように描かれた、美しいカーブを持つミニッツトラック。ブルースティールのブレゲ針。オリジナルモデルをより忠実に想起させる、ややシャープな輪郭のブルーサファイア・カボション。これらすべてが見事に仕上げられている。

 一方で、このモデルの価格については議論もあった。2018年のイエローゴールド製〈タンク サントレ〉限定モデルと比較すると、本作は約50%高価だったからである。ただしカルティエ側としては、ムーブメントのみならずケース構造そのものが異なる点を価格差の理由としているのだろう。

 2018年モデルはケース厚7.2mm(実際の装着感はかなり薄い)で、スナップバック式ケースバックを採用し、30m防水性能も備えていた。一方、この2021年モデルは6.4mmへ薄型化され、防水性能は持たない。

 つまり2021年アニバーサリーモデルは、オリジナルの〈タンク サントレ〉の構造を可能な限り忠実に再現することを目的として製作されたのである。そのためケースバックの取り付け方法も異なり、防水時計としては設計されていない。

 コレクタビリティの観点から見ても、この時計は重要な存在だ。量産規模で製作された限定〈タンク サントレ〉としては史上3作目にあたり、なおかつオリジナルデザインを忠実に踏襲した唯一のモデルでもある。そのため、非常に強力なコレクターズピースになるだろう。

〈タンク サントレ〉Ref. WGTA0026〜28(2018年)

2018年発表の〈タンク サントレ〉 アラビア数字の「12」と「6」、そしてバーインデックスを備えたモデル(©Revolution) カボション:ゴールドモデルはブルー、プラチナモデルはレッド。 ムーブメント:手巻き Cal. 8971 MC(ジャガー・ルクルト製Cal. 846ベース) 文字盤:プラチナケースはグレーダイヤル/イエローゴールドケースはシャンパンダイヤル/ローズゴールドケースはブラックダイヤル  ケース:46.3×23×6.9mm 価格:US$20,400(イエローゴールド・ローズゴールド)、US$23,500(プラチナ) 二次流通市場価格:定価を上回る。 コレクタビリティと投資価値:非常に高い。 流通量:プラチナは100本限定、イエローゴールドおよびローズゴールドは1年間限定生産。

  私がこの時計を愛する理由は、〈タンク サントレ〉が“セミクラシック”なスタイルで復活したからだ。このアイコニックなモデルは、2004年以来カルティエのラインナップから姿を消していた。

 そして、この時計の登場の背景にあるのは、カルティエ前CEO、シリル・ヴィニュロンの卓越した手腕だと私は思っている。長年にわたり、ニック・フォルクスや私を含む多くの人々が、カルティエに対してCPCP(コレクション プリヴェ カルティエ パリ )の復活を求めてきた。

 CPCPとは、メゾンを象徴するシェイプケースに機械式ムーブメント、時には複雑機構まで組み合わせた特別なコレクションである。

 フォルクスはこう語っている。
「しかし、シリル・ヴィニュロンが成し遂げたことは、それ以上だった。彼はメゾン全体をCPCP化したんだ。つまり、すべてのモデルがアイコンになったということだ」

 長年、多くのコレクターが新しい〈タンク サントレ〉を夢見ていた。2017年には非常に興味深いスケルトン仕様が登場したものの、私たちが本当に望んでいたのは、この伝説的な美しいフォルムを持つ〈タンク サントレ〉そのものだった。

 ヴィニュロンは、まさにそれを与えてくれた。ただし、そこには巧みなひねりが加えられていた。それが完全新設計のダイヤルだ。

 前述の通り、〈タンク サントレ〉にアラビア数字を採用する例は珍しく、さらにバーインデックスと組み合わせるという発想は、従来のサントレのダイヤルデザインから大きく踏み出したものだった。しかし、その仕上がりは驚くほど魅力的である。

カルティエの時計製造を導き、魅力的なタイムピースを生み出してきたカルティエ前CEO、シリル・ヴィニュロン。

▲ 2018年発表のアラビア数字とバーインデックスを備えた〈タンク サントレ〉3モデル(©Revolution)

  この時計の構造は、2021年のアニバーサリーモデルや2004年の限定モデルとは異なる点を指摘しておくべきだろう。ケースサイズ自体は46.3mm × 23mmで共通しているが、厚みは6.9mmとなっており、他の2モデルの6.03mmより厚くなっている。その理由は2つある。

 第一に、この構造によってカルティエは〈タンク サントレ〉に30mの防水性能を与えることができた。30mという数値は大したことがないように聞こえるかもしれないが、私に言わせれば必要十分どころか、必要以上である。

 これによって、もしそういうタイプの人なら、ブラックタイ姿のまま思いつきでプールへ飛び込む自由さえ手に入る。このケースはスナップ式のケースバックを採用している。

 もうひとつの理由は、ムーブメントにある。このモデルは、ジャガー・ルクルトの極薄Cal. 849をベースとしたCal. 9780 MCではなく、〈レベルソ〉などにも使用されるジャガー・ルクルト製Cal. 846をベースとしたCal. 8971 MCを搭載しているため、わずかに厚みが増しているのだ。

 さらに、2018年版〈タンク サントレ〉は非常に魅力的な価格設定だった。価格はゴールドモデルが2万400ドル、プラチナモデルが2万3500ドル。

 ケース構造をやや厚めにした判断が、この価格設定に関係していたのかもしれない。しかし理由が何であれ、この時計がリーズナブルだったことは間違いない。

 最後に、このタイプのケースを持つ時計のオーナーとして言っておきたいのは、厚さ7.2mmという数字に惑わされないでほしいということだ。

 前述の通り、この数値はあくまで時計でもっとも厚い部分を示しているに過ぎず、ケースの大部分はそれよりかなり薄い。そして実際に腕に載せると、この時計は驚くほど自然にフィットする。

〈タンク  サントレ〉スケルトンRef. WHTA0008〜9(2017年)

2017年の〈タンク サントレ〉スケルトン ムーブメント:手巻きCal. 9917 MC ケース:46.3×23×9mm/ピンクゴールドまたはプラチナ 価格:US$56,000(ピンクゴールド)、US$62,000(プラチナ) 二次市場評価:割安感あり。 コレクタビリティ・投資価値:将来的な上昇余地あり。 生産数:ピンクゴールド、プラチナともに各100本限定。

  2017年の〈タンク サントレ〉スケルトンは、カルティエにとって実に大胆なモデルだった。それまでのすべての〈タンク サントレ〉は、小さなムーブメントを、湾曲したケースの中心に収めていた。

 しかしこのモデルでは、ムーブメント自体が細長く、ケース全長を占めている。さらに驚くべきことに、そのムーブメントもケース形状に合わせて湾曲しているのである。

 この驚異的なCal. 9917 MCを開発したのは、傑出したムーブメントデザイナーであるキャロル・フォレスティエだ。彼女は〈タンク アシメトリック〉スケルトンや〈クラッシュ〉スケルトンのムーブメントも手掛けている。

 いわば“形態が機能に従う”というバウハウス思想を逆転させた、“機能が形態に従う”設計といえる。しかし、それこそがカルティエの真骨頂であり、技術革新はあくまで美と優雅さを実現するためのものなのだ。

 本作では、〈タンク サントレ〉特有のミニッツトラックが、オープンワーク ムーブメントのブリッジへと転化されている。そして12時位置に香箱、6時位置にテンプを配置する構成も維持されている。

 ケースサイズは縦46.3mm、横23mm、厚さ9mm。ただし、この厚みは最も厚い部分での数値に過ぎず、実際にはケース全体が大きく湾曲しているため、装着感は極めてエレガントだ。

 特に素晴らしいのは、この時計が通常の〈タンク サントレ〉とは異なり、湾曲したケースバックを備えている点である。これはムーブメント自体がカーブしているためだ。

 もっとも、この時計は従来の〈タンク サントレ〉からあまりに大胆に逸脱しており、加えて価格もかなり高価だったため、現時点ではクラシカルなサントレほど熱狂的コレクター人気を獲得しているわけではない。しかし個人的には、まさに今こそ注目すべき一本だと思う。

 なお本作は、2017年の〈タンク〉誕生100周年記念の一環として製作され、プラチナ、ピンクゴールドともに各100本限定で展開された。

〈タンク サントレ〉CPCP Ref. 2718 & Ref. 2760

これは、カルティエの黄金期復刻ラインCPCP(Collection Privée Cartier Paris)で2004年に登場した〈タンク サントレ〉 ムーブメント:手巻き Cal. 9780 MC ダイヤル:プラチナケースはシルバーダイヤル/イエローゴールドケースはホワイトダイヤルケース:46.3×23×6.4mm。イエローゴールドケースはブルーカボション、プラチナケースはブラックカボション 二次流通価格:リテール価格を上回る。 コレクタビリティおよび投資価値:希少 生産数:プラチナ50本、イエローゴールド150本の限定生産。

 この時計の価値は劇的に上昇している。わずか3年前には、50本限定のプラチナモデルの1本がサザビーズで25万香港ドル、現在の為替レート換算で約3万7000米ドルで落札されていた。

 しかし現在では、150本限定のイエローゴールド仕様のフルセットに対して、ディーラーが10万ドルの価格を提示している。では、なぜこの時計は突如として“聖杯”級の存在へと昇格したのだろうか。

 理由はいくつかある。

 まず第一に、カルティエ全体の評価が大きく高まったことが挙げられる。前CEOであるシリル・ヴィニュロンのもとで、メゾンの価値に対する市場の評価は飛躍的に向上した。

 第二に、〈タンク サントレ〉そのものへの関心が非常に高まっている。あらゆるカテゴリー──現行、新中古、ヴィンテージを含めても、〈クラッシュ〉に次いで最も求められているカルティエウォッチだと言っていいだろう。

 第三に、このモデルは〈タンク サントレ〉史上、アラビア数字インデックスを備えた文字盤を量産モデルとして採用した唯一の存在である。20世紀を通じて、アラビア数字を採用したスペシャルオーダーの個体は存在したが、シリーズ生産された例はこれ以外にない。

 そして第四に、この時計がCPCPモデルであることだ。現在、市場はCPCP(コレクション プリヴェ カルティエ パリ )がいかに特別なコレクションであったかを再認識し始めている。

1926年製のフランス製〈タンク サントレ〉。シルバーケースに細長く引き伸ばされたアラビア数字インデックスを備えた、おそらくピースユニーク(一点物)と考えられる個体。ムーブメントにはヨーロピアン・ウォッチ製キャリバーを搭載する。アウロ・モンタナーリのプライベートコレクションより(©Revolution)

 そして最後に、このモデルは2021年の新作と並び、Cal. 9780 MCの採用によって史上最薄の〈タンク サントレ〉となっている。厚さはわずか6.4mmで、1921年の初代〈タンク サントレ〉ですら6.7mmだったことを考えると、さらに0.3mm薄い。

 もっとも、こうした理由をすべて抜きにしても、この時計を実際に見れば、その息を呑むほど魅惑的な美を感じ取れるはずだ。

 両モデルに採用されたブルースティールのブレゲ針によって、この〈タンク サントレ〉はヴィンテージテイストを帯び、いっそう美しさを増している。

〈タンク サントレ〉デュアルタイム

1990年製のイエローゴールド製カルティエ〈タンク サントレ〉デュアルタイム。2018年にフィリップスで8,750スイスフランで落札された(Image:phillips.com) ムーブメント:手巻き ETA Cal. 2412 ダイヤル:プラチナケース/イエローゴールドケースともにホワイトダイヤル。 ケース:46.3×23mm。両モデルともブルーカボションを採用。

  さて、1990年の〈タンク サントレ〉デュアルタイム は、ある意味で極めて異色な存在だ。というのも、この時計は実質的に“1つのケースに2本の時計”を収めた構造になっているからである。

 より正確に言えば、カルティエは46.3×23mmの〈タンク サントレ〉ケース内に、ETA Cal. 2412をベースとした2基のムーブメントを収めている。そのため、それぞれの表示を独立して調整でき、任意の時刻にセットすることが可能だ。

 もちろん、この〈タンク サントレ〉デュアルタイムを所有するなら、2つの小型ムーブメントをほぼ毎日手巻きしなければならない。しかし、まさにその点こそが、私がこの時計を心から愛してやまない理由なのだ。

 私にとってこれは、カルティエのデザイン的創意工夫が最も美しく表れた時計のひとつであり、マルチタイムゾーンウォッチというテーマを、実に詩的な方法で表現した作品でもある。

 この時計はインドのような30分単位の時差を持つタイムゾーンにも対応できる、数少ない時計である。数あるコンプリケーションの中でも、これほど遊び心に富んだものはそう多くない。

 なお、通常の〈タンク サントレ〉に見られるビーズ状リューズと細長いカボションの代わりに、このデュアルタイムでは〈タンク アメリカン〉に似たファセット入り八角形リューズを2つ採用している。

 カボションもよりフラットな形状となっており、これはおそらく巻き上げや時刻調整を容易にするためだろう。

1998年頃に製造された、プラチナケースのCPCP〈タンク サントレ〉デュアルタイム。50本限定モデル。2015年、サザビーズにて9,375米ドルで落札された(Image:sothebys.com)

 この〈タンク サントレ〉には、いくつか異なるバージョンが存在する。中でも注目は、ギヨシェ装飾を施したサーモンダイヤルに、ローマ数字とアラビア数字の両方を組み合わせたプラチナモデルで、50本限定で製作された。

 このモデルでは、同じデュアルタイム機構を備えたCPCP〈トノー〉デュアルタイムのように、それぞれのダイヤル中央から独立してギヨシェが広がるのではなく、ダイヤル全体の中心から発したギヨシェが、ふたつの時刻表示を横断するように流れている。

 また、上側のダイヤルにローマ数字、下側のダイヤルに漢字インデックスを配したアジア市場向け100本限定モデルも存在した。

 これらの時計はいずれも非常に魅力的で、〈トノー〉系を含め、この複雑機構の全バリエーションをひとつのコレクションとして揃えるコレクターが現れたなら、実に素晴らしいことだと思う。

2004年製、18Kホワイトゴールドケースのカルティエ〈タンク サントレ〉デュアルタイム。手巻きCal. 060MCを搭載した100本限定モデル。2018年、フィリップスにて32,500スイスフランで落札された(Image:phillips.com)

ロンドン カルティエの黄金期

1969年製、9リーニュムーブメントを搭載したカルティエ  ロンドンの〈タンク サントレ〉。この時計のダイヤルは、セリフ付きローマ数字がまるでダイヤル中央から爆発するかのように広がり、ケース外周へ向かって伸びていくデザインを特徴としており、実にスリリングな躍動感を生み出している。アウロ・モンタナーリのプライベートコレクションより(©Revolution)

 〈タンク サントレ〉は1921年以来、基本的にクラシックな仕様で途切れることなく製作されてきた。したがって、どの年代の個体が見つかっても、それ自体は特別珍しいことではない。

 とはいえ、1960〜70年代のカルティエ ロンドンは、驚くほどクリエイティブな場であった。

 カルティエを象徴するフォルムとモダンなダイヤルデザインを結びつけ、史上でもっとも魅力的な〈タンク サントレ〉がいくつも誕生したのである。

 カルティエ  ロンドンの全盛期は1960年代であった。それらはフランコ・コローニ著『The Cartier Tank Watch』に掲載されている。

 そこに見られるのは、セリフ付きローマ数字がダイヤル中央から爆発するかのように広がり、ケース外周へ向かって伸びていくデザインであり、実にスリリングな躍動感を生み出している。

 さらに、ローマ数字の足元部分がダイヤル中央に矩形を形成しており、それがインデックス全体の激しいダイナミズムに対する、静かな避難所のような役割を果たしている。

 このダイヤルは、カルティエ  ロンドン製〈タンク サントレ〉のさまざまなサイズに採用されたが、もっとも美しいのは、9リーニュムーブメントを搭載した大型ケースのモデルである。

 また、当時のカルティエ  ロンドンの広告には、ラインアップされた時計群の中に、より小型の〈サントレ〉も確認できる。

 おそらく7リーニュムーブメント搭載モデルと思われるが、このサイズになると、ローマ数字が空間へ伸びていく余地が減るため、先述のダイヤルデザイン特有のダイナミズムはやや弱まる。それでもなお、美しい時計であることに変わりはない。

1970年製、希少なホワイトゴールドケースを備えた、9リーニュムーブメント搭載のロンドン・カルティエ〈タンク サントレ〉。アウロ・モンタナーリのプライベートコレクションより(©Revolution)

 このダイヤルには、サンセリフ版も存在する。〈タンク は、よりモダンな印象を与える。

 カルティエコレクターのロニ・Mは、実際にこのスタイルのインデックスを用いた特別注文の現代版〈タンク サントレ〉を製作している。

 彼のデザインの秀逸な点は、インデックスのスケールに変化を与えたことにある。12時と6時位置の数字を大きく、3時と9時位置を小さくすることで、視覚的なリズムと緊張感を生み出しているのだ。

 さらに時計をより刺激的なものにするため、ロニはバトンインデックスも組み合わせた。その結果生まれたのは、これまで製作された〈タンク サントレ〉の中でも、もっともユニークで美しい一本のひとつである。

もっとも美しいアイコン

1928年製、オリジナルの7連プラチナブレスレットを備えたプラチナ製〈タンク 。アウロ・モンタナーリのプライベートコレクションより(©Revolution)

1930年製、フランス製のプラチナ製〈タンク 。ミディアムサイズで、オリジナルのプラチナ製7連ブレスレットを備える。アウロ・モンタナーリのプライベートコレクションより(©Revolution)

1951年製、オリジナルのイエローゴールド製ブレスレットを備えたイエローゴールド製〈タンク サントレ〉。アウロ・モンタナーリのプライベートコレクションより(©Revolution)

 これこそがアイコンである。もし誰かが「1920〜30年代のヴィンテージ〈タンク サントレ〉以上に魅力的なモノは存在しない」と言ったとしても、私はまったく異論はない。

 もっとも、これらの時計は極めて希少である。たとえば1932年に製作された〈タンク サントレ〉は、わずか6本に過ぎなかった。

 1930年代以降、この時計はややアールデコ色が強すぎると見なされたためか、一時的に人気が落ちたようにも見える。

 しかしその一方で、優れた審美眼を持つ男たちが、この特別なタイムピースを変わらず注文し、身につけ続けていたことも事実である。

 もし本当にこの時計が、ルビロサ、アニェッリ、さらにはモナコ公レーニエ3世のような“リヴィエラのレイク”たちに愛されていたのだとすれば、〈タンク サントレ〉は世界最高峰のプレイボーイたちの象徴であったと言えるだろう。

 また忘れてはならないのは、この時計がパリ、ロンドン、ニューヨークというカルティエ各拠点で独立して製作されていたという点だ。

 アウロ・モンタナーリはこう語っている。

「これらの時計の構造は時代ごとに異なるものの、基本的なデザインは共通しています。そして、同素材のブレスレットを備えたモデルも非常に美しいのです」

 おそらく究極の〈タンク サントレ〉とは、ゴールドあるいはプラチナケースに、同素材のブレスレットを組み合わせたモデルだろう。

 膨大な数の〈タンク サントレ〉を所有するモンタナーリは、さらにこう続ける。

「カルティエがジュエラーであったことを忘れてはいけません。彼らにとって、美しく独創的なブレスレットを作ることは、ごく自然なことだったのです。もっとも一般的なのは7連ブレスレットやミラネーゼメッシュですが、編み込みのヘリンボーンブレスレットも存在します。私は大型ケースの〈タンク サントレ〉を好むと述べてきましたが、8リーニュや9リーニュムーブメントを搭載したモデルは、こうしたブレスレットとの組み合わせが実に見事なのです」

 そして〈タンク サントレ〉は、CPCP時代の到来以前、1990年代に至るまで継続して製作され続けたのである。

筆者ウェイ・コー特注、プラチナケースのカルティエ〈タンク サントレ〉。サーモンダイヤルにボルドーカラーのローマ数字を配し、フェデリコ・デ・ペッポ(Huitcinq1988)製のバーガンディ・リザードストラップを組み合わせている(©Revolution)

 カルティエは常に顧客と強い直接的関係を築いてきたメゾンである。そして、このメゾンは特別注文部門を持っている。

 そこでは、特別なダイヤルや、場合によっては特別仕様のケースさえ依頼することができる。もちろん、そのデザインはカルティエのヘリテージディレクターであり、驚異的な知識の泉とも言うべきピエール・レネロの承認を得なければならない。

 私はよく「どうすればカルティエのスペシャルオーダー顧客になれるのか?」と尋ねられる。しかし私の答えはいつも同じだ。そこに近道は存在しない。カルティエとの関係性を築いていく必要がある。

そして、もうひとつ私が勧めたいのは、とてもシンプルなことだ。

「ただ、感じよく接すること」

 少なくとも私がシンガポールやパリで出会ってきたカルティエの人々は、非常に温かく、誠実で、知的な人たちだった。

 地域統括マネージングディレクターのセシル・ナウア、シンガポールのマネージングディレクターであるアン・イツハコフ、シンガポールのマーケティング&コミュニケーションディレクターであるイマン・ラーサール、そしてコマーシャルディレクターのグレゴリー・アラクなどは、まさにそうした人物だ。

 彼らは自分たちの仕事を愛しており、しかも非常に優秀だ。そしてこれは、シリル・ヴィニュロンのリーダーシップによる部分が大きいと思う。

 現在のカルティエには、自社に対する深い知性と理解があり、それがブランド全体に浸透している。

1929年製、ヨーロピアン・ウォッチ製ムーブメントを搭載した、カルティエ  パリのプラチナ製〈タンク サントレ〉。この個体は1990年代半ばにパリで特注されたブルーダイヤルとホワイトローマ数字へ変更されており、現在のダイヤルは1929年当時のオリジナルではない。アウロ・モンタナーリのプライベートコレクションより(©Revolution)

 では、スペシャルオーダープログラムは実際にはどのように進むのだろうか。

 まず、あなたはこのプロセスを統括する人物と会うことになる。シンガポールでは、それがヘイゼル・シーだ。彼女のメゾンに対する知識は本当に驚異的である。

 そこで、まずアイデアについて話し合い、彼女が一定の方向性を示してくれる。その助言には耳を傾けるべきだ。

 なぜなら彼女は素晴らしい審美眼を持っているだけでなく、同時進行している他のスペシャルオーダー・プロジェクトをすべて把握している唯一の人物だからである。

 彼女は、よりユニークで、カルティエのコードを美しく体現する方向へ導こうとしてくれる。そして、そのアイデアはパリへ送られる。

 この段階で、ピエール・レネロ自身が提案内容に目を通し、それがカルティエの価値観に適合しているかを判断するのである。

 たとえば、私は以前、一度チタニウム製の〈クラッシュ〉をリクエストしたことがあった。しかし返ってきた答えは、「この金属は〈クラッシュ〉には適していない」というものだった。

 私は、その説明に納得せざるを得なかった。

 もちろん私は少し運試しをしてみたわけだが、彼らの説明は実に理にかなっていたのである。

1996年製、1本のみ製作されたプラチナ製カルティエ パリ〈タンク サントレ〉。ファセット加工を施したサファイア付きリュウズを備える。ダブル仕様のホワイトゴールド製ダイヤルには、ホームタイム側にローマ数字、ローカルタイム側にアラビア数字を配し、ブルースティール製のグレイブ針を組み合わせている。ムーブメントは、ロジウム仕上げを施した6 3/4リーニュの2基のムーブメントを搭載し、Cal. 067を採用。アウロ・モンタナーリのプライベートコレクションより(©Revolution)

  2018年、タトゥーアーティスト、モー・コッポレッタと私は、この壮大な旅とも言うべき体験に挑み、2本の〈タンク サントレ〉をスペシャルオーダーする機会を得た。

 私はまず、プラチナケースにサーモンダイヤル、そしてボルドーカラーの数字を組み合わせた時計というアイデアからスタートした。これは私にとって初めての〈タンク サントレ〉だったため、分目盛りを備えた伝統的なローマ数字仕様を選択した。

 針については、当初ブルースティールのブレゲ針を考えていた。しかしそれでは色数がひとつ増え、時計全体が少し過剰に感じられた。

 そこで最終的に私は、グレーのソードハンドを選択した。これによって時計には、魅力的な現代的表情が加わったと思っている。

 時計には当初バーガンディのアリゲーターストラップが付属していたが、現在は同色のリザードストラップへ交換している。これは友人であり、素晴らしいレザークチュール職人であるフェデリコ・デ・ペッポによるものだ。

 彼のブランド、Huitcinq1988は、私が大いに気に入っているレザーアクセサリーや時計ストラップを製作しているメーカーである。

 Huitcinq1988のストラップは、すべて最初から最後まで彼自身の手によって製作されており、私はその点を評価しているのである。

 さて……、映画『アンタッチャブル』(1987年)のショーン・コネリーの言葉を借りるなら、「これにて講義終了」である。

 確かなことがひとつある。カルティエはいま大きな上昇局面にあり、100周年を迎えた〈タンク サントレ〉は、その中でももっとも重要なアイコンのひとつだということだ。

 この文章を、私が書くことを楽しんだのと同じくらい、皆さんにも楽しんで読んでいただけたなら嬉しい。今後もさらに多くのカルティエ・コンテンツをお届けする予定なので、ぜひ楽しみにしていてほしい。

 Brands:Cartier

※記事内容は2021年3月のものです。人名・役職は当時のものとなります。

Brand:Cartier
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