Revolutionは、オメガ Cal.321―レマニア2310としても知られる、史上最高のクロノグラフ・ムーブメントに心からのオマージュを捧げる。
The Best There Ever Was — Omega Calibre 321, the #MoonCalibre
なぜオメガCal.321は、史上最高のムーブメントなのか?
Revolutionは、オメガ Cal.321―レマニア2310としても知られる、史上最高のクロノグラフ・ムーブメントに心からのオマージュを捧げる。
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by Wei Koh . Jul 20, 2019 |
史上最高と呼ばれる存在
映画のセリフのなかでも、これは屈指の名文句だろう。
映画『ナチュラル』(1984年)でロバート・レッドフォードが演じた天才野球選手ロイ・ホブスは、こう語る。
「街を歩けば、人々はこう言うだろう。『あれがロイ・ホブスだ。この競技で史上最高の男だ』と」
つまり彼の夢は、ただ成功することではなく、自らの競技で“史上最高”と認められることだったのだ。だが、史上最高と呼ばれる存在が現れることは、そう頻繁にあるものではない。
歴史を振り返れば、平凡な時代が長く続いたかと思うと、まるで地中深くに蓄積された巨大なマグマが地殻の裂け目から噴き出すかのように、突如として並外れた人物が現れ、私たちのあらゆる期待を超越していく。
そして幸運にも、その瞬間を目撃できた者たちは、人間の持つ可能性に圧倒される。
ベトナム戦争への兵役拒否を理由に政府からボクシング活動を禁じられながらも、復帰後に無敵と目されたジョージ・フォアマンを打ち破ったモハメド・アリの崇高な偉業……。
あるいは1998年6月14日、35歳のマイケル・ジョーダンが、残り20秒でカール・マローンからボールを奪い、1点ビハインドの状況から残り9秒で決勝ジャンプシュートを沈めてシカゴ・ブルズに6度目の優勝をもたらした、あの神話的ともいえる瞬間……。
こうした出来事は私たちを高揚させ、人類全体に新たな希望とインスピレーションを与えるのである。
時計ムーブメントに関して言えば、私はオメガ Cal.321に同じ思いを抱いている。なぜなら、そこに真の偉大さが宿っているからだ。だから私はしばしば、近くにいる時計愛好家に身を乗り出してこう語りかける。
「これがオメガ Cal.321だ。時計界における“史上最高”のムーブメントだよ……」
もちろん、技術的な点だけで見れば、もっと優れたムーブメントは存在するだろう。より高振動であったり、瞬時に切り替わる積算計を備えていたり、あるいは駆動輪とクロノグラフ輪の噛み合いに、超微細なLIGA製ホイールを使っていたりするものもある。
だが、それらはいずれもCAD/CAMによる設計と生産の自動化が当たり前となった、現代に生まれたムーブメントである。
一方、Cal.321には、それらとはまったく異なる魅力がある。その設計には揺るぎない純粋さがあり、さらに時計史上もっとも豊かな物語を背負ったムーブメントでもある。
NASAのアポロ13号ミッションにおいて宇宙飛行士たちの命を救い、彼らを無事に地球へ帰還させた、唯一無二のクロノグラフなのである。

▲ 2019年に復活を遂げたオメガ Cal.321。ブリッジとメインプレートには、セドナ™ゴールドをイメージした色調のPVD仕上げが採用されている(©Revolution)
1898年 ― オメガ19”’CHRO
伝説的なオメガ Cal.321の物語に入る前に、まずはオメガとクロノグラフの長く輝かしい歴史を振り返ってみたい。
オメガが初めて開発したクロノグラフムーブメントは、19”’CHRO(19リーニュ・クロノグラフ)である。このムーブメントは1898年に登場し、当時のクロノグラフ懐中時計に搭載された。
※「”’(リーニュ)」は、スイス時計業界で用いられていた伝統的なサイズ単位で、19”’は約42.9mmに相当する。

▲ 2019年にオメガ125周年を記念して復活した歴史的に重要な19ライン“オメガ”キャリバー。

▲ オメガの19”’キャリバーを搭載したクロノグラフ懐中時計(©Revolution)
1906年 ― オメガ18”’CHRO
1906年には、その後継機となる18”’CHROが登場した。この18”’CHROは、スタート、ストップ、リセットのすべてを6時位置の単一プッシュボタンで操作するモノプッシャー式クロノグラフの懐中時計用ムーブメントである。
そして1913年、オメガはこのムーブメントを用いて、世界初の腕時計型クロノグラフを製作した。
2018年7月、オメガは自社の精密計時の歴史を称える特別なモデルとして、18 CHROを18本限定で発表した。それぞれの時計には、オメガのアーカイブから発見された実際の95年前の18”’CHROムーブメントが搭載されていた。
オメガ・ミュージアムで開催された発表会で、オメガ社 社長兼CEOであるレイナルド・アシェリマンは次のように語っている。
「18”’CHROは、オメガが腕時計用クロノグラフの歴史において“本流”であることを示す存在です。なぜなら、世界初の量産クロノグラフ腕時計に搭載されたムーブメントだからです。この伝統は現代にも受け継がれています。〈スピードマスター〉は世界で最もアイコニックなクロノグラフです。NASAから宇宙探査用として認定された最初の時計としてその地位を確立しています」

▲オメガ ミュージアムのアーカイブで長年保管されていた状態そのままの18”’CHROキャリバー。

▲オープン仕様のハンターケースバックを備えた〈ファースト オメガ リストクロノグラフ リミテッド エディション〉。内部の18”’CHROキャリバーを鑑賞することができる。

▲ 1913年製18”’CHROキャリバーを搭載する〈ファースト オメガ リストクロノグラフ リミテッド エディション〉。製作数はわずか18本だった。
1942年 ― Cal.321の前身27 CHRO C12p
18”’CHROに続き、1929年には39”’CHROが登場し、1940年まで使用された。
1932年、オメガはレマニアおよびティソとともにSSIH(Société Suisse pour l’Industrie Horlogère)を結成する。この提携から、レマニアのCH13およびCH15をベースとする28.9”’CHROと33.3”’CHROが誕生した。
1940年代初頭になると、SSIHはまったく新しい革新的なクロノグラフムーブメントの開発に着手する。その新ムーブメントには、薄型(6.74mm)、直径27mm、大きなパワーリザーブ、高精度、そして優れた安定性が求められていた。
この開発を任されたのが時計師アルベール=ギュスターヴ・ピゲだった。新しいクロノグラフムーブメントは、2カウンター仕様の27 CHRO 17pと、3カウンター仕様の27 CHRO C12pの2種類として製造された。そして、このムーブメントは四半世紀後のオメガの偉業によって、スイス時計史上で最も伝説的なムーブメントへと成長していくことになる。
なお、Cal.321の直接的な祖先とされるのは、CH27のなかでもC12p仕様である。このモデルは、従来の30分積算計に加え、12時間積算計を備えていた。長時間に及ぶ計時において、この機能は後のオメガにとって極めて重要なものとなった。
1945年にはインカブロック耐震装置が追加され、1946年には分積算計に調整式ジャンパースプリングが採用された。
そして、これら二つの重要な改良を備えたバージョンが、1949年にオメガ Cal.321と名付けられたのである。
1957年 ― 〈スピードマスター〉CK2915とCal.321の出会い


▲ 2019年7月にサザビーズが開催したOmega Speedmaster: To the Moon and Back ― Celebrating 50 Years Since Apollo 11オークションに出品された、1958年製〈スピードマスター〉Ref.CK2915-1“ブロードアロー”。Cal.321が搭載されている(Image: sothebys.com)
さらに、ピゲが設計したこのムーブメントは、クロノグラフ史上最も美しく、最も識別しやすいレイアウトを備えた設計のひとつでもあった。
CH27から発展したレマニア Cal.2310は、その後、パテック フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ブレゲ、ロジェ・デュブイといった名門メゾンに採用されることになる。
今日では、世界で最も人気の高い複雑時計のいくつかにおいて、そのベースムーブメントとして用いられている。とりわけパテック フィリップRef.5970パーペチュアルカレンダー・クロノグラフや、さらにスプリットセコンド機構を加えたRef.5004はその代表例だ。
そして、これらの時計の美しさとコレクターズアイテムとしての価値の中心には、半世紀以上前にピゲが考案した基本設計が存在しているのである。
しかし、ピゲのムーブメントが最大の名声を手にしたのは、その美しい姿を見せる場ではなかった。それは、このムーブメントを搭載したスピードマスターのソリッドケースバックの裏側だったのである。
オメガ Cal.321は、1950〜60年代を代表する最も美しく、しかも過小評価されているドレスクロノグラフのひとつである〈シーマスター クロノグラフ〉にも搭載された。
だが、このムーブメントの真の伝説が始まったのは、1957年にスピードマスターというオメガのスポーツクロノグラフに採用されてからだった。
そして、その後に続く物語は、今や人類史において最も有名なエピソードのひとつとなっている。
1957年、スピードマスターRef. CK2915は、〈シーマスター 300〉および〈レイルマスター〉とともに、オメガのプロフェッショナル・コレクションの一員として誕生した。
2017年、オメガはこのオリジナルの3モデルにオマージュを捧げる50周年記念モデルを発表した。復刻にあたっては、オリジナルの時計を3Dスキャンし、その仕様を細部に至るまで忠実に再現している。
1962年 ― 宇宙に行った最初の〈スピードマスター〉Ref. CK2998

▲1962年10月3日、マーキュリー計画の宇宙飛行士ウォルター“ウォリー”・シラーは、マーキュリー・アトラス8(シグマ7)ミッションで地球周回飛行を行った。アメリカによる5回目の有人宇宙飛行において、シラーは〈スピードマスター〉Ref. CK2998を着用していた。写真は、回収艦USSキアサージの船上で電話をしているシラーの姿で、腕の内側に装着された時計をはっきりと確認することができる(Image: NASA)
1962年10月3日、NASAの宇宙飛行士ウォリー・シラーは、宇宙飛行の際にオメガ スピードマスター Ref. CK2998(CK2915の後継モデル)を着用した。この時計にはオメガ Cal.321が搭載されていた。
このスピードマスターはシラーの私物だったが、この頃からNASAの宇宙飛行士たちは、高精度な腕時計を公式装備品とし、ミッション中に着用できるよう求めていた。
NASAが求めた宇宙対応クロノグラフ

▲NASAのジェミニ計画において〈スピードマスター〉Ref.105.003を認定した文書より。“本報告書により飛行資格要件を満たしていることが確認され、オメガの腕時計はジェミニ宇宙船での使用を承認する”(Image: Omega)
1964年、NASAのエンジニアだったジェームズ・レーガンは、ロンジン、ロレックス、ハミルトン、オメガの米国輸入代理店に対し、見積書と試験用サンプル時計の提供を要請した。
テストは1964年10月21日から1965年3月1日にかけて実施された。その内容は苛烈なものだった。
NASAは各時計に対し、11ミリ秒間の40G衝撃を6回与えたほか、333秒間で1Gから7.3Gまで加速する試験や、華氏0度から200度までの温度変化に耐える試験を課した。レーガンは、文字どおり時計を徹底的に痛めつけようとしたのである。
そして最終的に生き残ったのは、オメガ スピードマスターだけだった。具体的にはRef.105.003であり、その卓越したCal.321の完璧な性能が大きく貢献した。
こうしてスピードマスターはNASA宇宙飛行士の公式装備時計として採用されることになる。
それから半世紀以上が経った現在でも、ニール・アームストロングとバズ・オルドリンによる月面着陸から、アポロ13号の乗組員による奇跡的な生還に至るまで、スピードマスターとNASAの偉業は切っても切れない。
そのすべてを可能にしたのは、Cal.321という並外れたムーブメントだったと言えるかもしれない。

▲ブリッジと地板にガルバニック処理が施された初期のCal.321。
時計を愛する者にとって、オメガ Cal.321はまさにムーブメント界の“聖杯”である。その美しさは鑑賞に値するものでありながら、同時に同種のクロノグラフムーブメントのなかで最も信頼性と耐久性が優れた存在でもある。
Cal.321は、いわゆる“プレムーン”期のスピードマスターすべてに搭載されていた。そして、Cal.861が導入されたRef.145.022-69までの全モデルに採用されている。
両ムーブメントの主な違いは、Cal.861がより高い振動数を採用したこと、平ヒゲゼンマイの終端曲線を備えていたこと(Cal.321はブレゲ式オーバーコイルを採用)、そしてクロノグラフ機構の制御にコラムホイールではなくスイッチングカムを用いたことにある。
NASAの認定を受けた3つのスピードマスター リファレンス、すなわちRef.105.003、Ref.105.012、Ref.145.012のすべてに搭載されていたのもCal.321だった。
また、Cal.321はコレクター垂涎のヴィンテージ スピードマスターの多くにも採用されている。CK2915やCK2918はもちろん、特徴的な長いオレンジ色のクロノグラフ秒針を備えたRef.145.012-67“ウルトラマン”もその代表例である。
Cal.321の3世代
『Moonwatch Only』によると、Cal.321には大きく分けて3つの世代が存在する。
・第1世代(1957〜1963年)
・トランジショナル世代(1963〜1964年)
・第2世代(1964〜1969年)
第2世代のムーブメントは、左右非対称のクラッチブリッジによって容易に見分けることができる。一方、第1世代とトランジショナル世代は、ともに左右対称のクラッチブリッジを備えている。
ただし、トランジショナル世代には、第2世代で採用されたより大型のレギュレーターインデックスが組み合わされている。
NASAの認定を受けた3つのスピードマスターに搭載されていたのは、いずれも第2世代のCal.321だった。そのため、オメガが復刻にあたって再現を目指したのも、この第2世代のムーブメントだったのである。

▲左:1958年製〈スピードマスター〉Ref. CK2915-1“ブロードアロー”に搭載された第1世代のCal.321 右:1965年製Ref. 105.003-64に搭載された第2世代のCal.321(Image: sothebys.com)

▲左:左右対称のクラッチブリッジを備えた第1世代Cal.321 右:左右非対称のクラッチブリッジを備えた第2世代Cal.321。
月面着陸50周年を記念する取り組みの一環として、オメガは2019年1月、伝説的なCal.321を復活させることを発表した。
オメガのレイナルド・アシェリマンはこう語っている。
「スピードマスターのコレクターたちに夢を尋ねたところ、その大多数がCal.321の復活を望んでいました。そこで私たちは、もし実現するならば、正しい方法で行わなければならないと考えたのです」
つまり、同じスウォッチ グループ傘下の姉妹ブランドであるブレゲが使用しているレマニア2310の既存エボーシュを流用するのではなく、オメガはオリジナルのCal.321を完全かつ正確にリバースエンジニアリングし、細部に至るまで忠実に再現したのである。

▲ 2019年に発表された新生オリジナルCal.321。ブリッジと地板には、オメガ独自のセドナ™ゴールドを思わせる色調のPVD処理が施されている(Image © Revolution)
この実現にあたっては、アシェリマン率いるオメガのチームが、スウォッチ グループの取締役会に嘆願しなければならなかったことも記しておくべきだ。なぜなら、純粋に財務的な観点から見れば、キャリバー321を復活させることに意味はなかったからである。
ましてや、オメガが意図した方法はなおさらだった。そこには、宇宙飛行士ジーン・サーナンが月で着用し、現在はオメガ ミュージアムに収蔵されている実物のST 105.003に搭載されたムーブメントを、スライスごとに3Dトモグラフィー・スキャンする作業が含まれていた。このスキャンだけで、費用は100万スイスフランを超えたという。
さらにオメガは、非常に特殊なガードピンを備えた正確なアンクルを再現するため、ニヴァロックスに依頼し、この部品を作り直させた。
「この驚くべきムーブメントと、その熱心な愛好家たち、そしてスピードマスターの歴史に情熱を注ぐ無数のファンに対して、私たちが敬意を見せる唯一の方法は、こうした細部にまで忠実に、キャリバー321を完全な形で蘇らせることでした。オメガにとって、それこそが唯一の道だったのです」
アシェリマンはこう言って、大きく胸を張った。
Brands: Omega
