ジェイコブ&コーを象徴する〈アストロノミア〉が、さらなる限界を突破した。4軸で回転するトゥールビヨンに、高振動のルモントワール、常に正立を保つ時刻表示、そして輝く宝石を組み合わせた3つの新作を発表。機構と視覚表現の双方で、現代の「ハイパーウォッチ」の最先端を行くモデルである。
Jacob & Co.’s Gem-Set Astronomia Four-Axis Tourbillon
ジェイコブ&コー、現代ハイパーウォッチの最先端を行く
〈アストロノミア フォーアクシス トゥールビヨン〉
ジェイコブ&コーを象徴する〈アストロノミア〉が、さらなる限界を突破した。4軸で回転するトゥールビヨンに、高振動のルモントワール、常に正立を保つ時刻表示、そして輝く宝石を組み合わせた3つの新作を発表。機構と視覚表現の双方で、現代の「ハイパーウォッチ」の最先端を行くモデルである。
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by by Cheryl Chia. Aug 28, 2026 |
複雑時計の地平〈アストロノミア〉シリーズ
現代の時計製造において興味深いのは、技術的に最も大胆な時計が、かつて誰もそのような革新を予想していなかったブランドから生まれていることだ。
現在では大胆で華やかな時計づくりで知られるジェイコブ&コーだが、創業者のジェイコブ・アラボは、もともと「ジェイコブ・ザ・ジュエラー」として名を知られた人物だった。ヒップホップ界のスターたちのために、個性的なオーダーメイドジュエリーを数多く手がけてきたのである。
しかし、この20年ほどでジェイコブ&コーは、複雑時計の分野でも高い評価を確立してきた。31日間のパワーリザーブを備える〈クエンティン〉、ミニッツリピーターと音楽機構を組み合わせた〈オペラ ゴッドファーザー ミニッツリピーター〉、オイルポンプの動きを再現するオートマタ〈オイル ポンプ〉、超複雑時計〈ツイン ターボ フューリアス〉、そして高度なクロノグラフ機構を備える〈ジャン・ブガッティ トゥールビヨン クロノグラフ〉など、その作品は多岐にわたる。
だが、ジェイコブ&コーというブランドを象徴する存在となったのは、やはり〈アストロノミア〉だろう。絶えず回転するサテライト機構の上にマルチアクシス・トゥールビヨン、自動的に正立を保つ時刻表示、回転する地球儀を配し、それらすべてを巨大なサファイアドームの下に収める。その圧倒的な構成によって、〈アストロノミア〉は今や「現代のハイパーウォッチ」を代表する存在となっている。

▲ 今年の〈アストロノミア フォーアクシス トゥールビヨン〉は、宝石をあしらった3つのモデルで登場する。
2014年に登場した〈アストロノミア〉は、その後も複雑で大胆な進化を重ねてきた。これまでには恒星時表示やカリヨン・ミニッツリピーター、さらには実際に作動するルーレットまで組み込まれている。
基本構造そのものも、大きく進化してきた。初代〈アストロノミア〉では、中央のキャリアが1回転するのに20分を要していたが、その後のモデルでは10分に短縮。さらに2023年の〈アストロノミア レボリューション〉では、1分で1回転するまで高速化された。これは一般的なトゥールビヨンと同じ回転速度であり、その動きをそのまま秒表示として利用できる。
さらにこのモデルでは、高振動のルモントワールも導入された。これはエネルギーをより安定して供給するための高度な機構である。

▲ ジェイコブ&コー〈アストロノミア トゥールビヨン〉(2014年)

▲ ジェイコブ&コー〈アストロノミア レボリューション〉(2023年)
正立する時刻表示の秘密
2025年、〈アストロノミア〉誕生10周年を記念して、ジェイコブ&コーはそのコンセプトをさらに進化させ、世界初の4軸トゥールビヨン・ウォッチ〈アストロノミア フォーアクシス トゥールビヨン〉を発表した。
コンセプト社が開発したこのトゥールビヨンは、従来の2軸ではなく3軸で回転。さらに機構全体がダイヤル上を1分で1周するため、合計4つの軸による立体的な動きを実現している。

▲ ジェイコブ&コー〈アストロノミア フォーアクシス トゥールビヨン〉(2025年)
今年登場したのは、宝石をふんだんにあしらった3つの新作だ。従来モデルで見られた彫刻的なローズゴールドのベースに代わり、今回は無色、グリーン、レッドのファセットカットされたクリスタルが一面に敷き詰められている。いずれも限定6本だ。
〈アストロノミア〉は大きなサファイアドームの下で四方が開かれた構造になっているため、ほぼあらゆる方向から光が差し込む。半透明のクリスタル越しに、その下にあるムーブメントの一部ものぞき、立体感のある華やかさを生み出している。その存在感の前では、時刻を知るという時計本来の役割は、もはや脇役に思えてくる。

▲ 〈アストロノミア フォーアクシス トゥールビヨン〉は、トゥールビヨン自体が3軸で回転し、さらに中央のキャリアが回転することで、4つ目の軸が加わる構造となっている。
ケースサイズは直径47mm、厚さ27mmと、かなりの存在感がある。これほど複雑なマルチアクシス・トゥールビヨンを収めるには、必然ともいえる大きさだ。ただし、実際に腕に着けた印象は、数字ほど威圧的ではない。
ケースの大部分をサファイアクリスタルが占め、ベゼルもほとんど存在しないため、見た目には意外なほど軽やかだ。さらに短く下向きに設計されたラグが手首に沿うため、装着感も良好。大量のサファイアを使用しながら、30mの防水性能も確保している。
搭載するキャリバーJCAM54は、2本のアームを備えたサテライトキャリアを採用しており、従来の〈アストロノミア〉よりも開放感のある構成となっている。
一方で、このシリーズを特徴づける要素はしっかりと受け継がれている。常に正立を保つ時分表示のサブダイヤルと、1/6秒ごとに作動する高振動ルモントワールを備えたマルチアクシス・トゥールビヨンである。
時分を表示するサブダイヤルは、オープンワークされたポリカーボネート製ディスクで構成されている。中央のキャリアは時計の中心を1分で1周するが、その間もサブダイヤルは常に正しい向きを保ち、数字が傾くことはない。
一見するとごく自然な動きだが、その裏には巧妙な機構が隠されている。もしサブダイヤルがキャリアに固定されていれば、キャリアの回転とともにサブダイヤルも回り、数字の向きも絶えず変化してしまう。
そこで、キャリア上に設けられたピニオンが、サブダイヤルをキャリアとは反対方向へ、まったく同じ速度で回転させる。2つの回転を打ち消し合うことで、サブダイヤルは常に正立した状態を保つのである。

ただし、本当の難しさは、サブダイヤルを常に正立させることではない。針を独立させ、時刻合わせをできるようにすることだ。そのためジェイコブ&コーは、ダブル・ディファレンシャル機構を採用している。
通常時には、このディファレンシャルがダイヤルを成立させ、表示全体が時計の中を回転していても、針とインデックスが正しく保たれる。
一方、ケースバックにある折りたたみ式の時刻調整用タブを操作すると、ディファレンシャルが時刻表示機構の連結を解除し、針だけを独立して動かせるようになる。時刻合わせが終わると再び両者が連結され、サブダイヤルは正立したまま周回を続ける。
見た目には、ダイヤルがいつも自然に正しい向きを保っているだけに見える。しかしその裏では、ピニオン、固定歯車、そしてディファレンシャルが複雑に連携している。身につける人には見えないその機構こそが、この一見シンプルな表示を成立させているのだ。
4軸トゥールビヨン
この時計で最も技術的に野心的な機構が、トゥールビヨンである。構造そのものは3軸だが、中央のキャリア全体が回転することで、4つ目の回転軸が加わる。
最も内側のケージには、脱進機とテンプが収められている。そのケージは傾斜した軸を持つ第2のケージの中に組み込まれ、さらにそれ全体を、直交する軸上で回転する第3のケージが支えている。

マルチアクシス・トゥールビヨンは、複雑に回転する見た目に目を奪われがちだが、その内部には非常に高度な技術が詰め込まれている。複数のケージは、それぞれ内側の機構を支えながら、次のケージへ正確に動力を伝えなければならない。しかも、異なる方向へ回転し続けるなかで、歯車の噛み合いや軸の位置を常に正確に保つ必要がある。
〈フォーアクシス トゥールビヨン〉を構成する3つのケージには、それぞれ内側のケージを支えるアームが設けられている。このアームによって各回転軸の間に必要なスペースが生まれ、入れ子になったケージ同士がぶつかることなく回転できる。
さらに、アームの大きさや重さも細かく調整されている。3つのケージが常に向きを変えながら回転しても、機構全体のバランスが崩れないようにするためだ。

▲ 〈アストロノミア フォーアクシス トゥールビヨン〉は3つのカラーバリエーションで展開され、それぞれ限定6本。
動力は、固定歯車と駆動歯車を組み合わせながら、外側から内側へ順番に伝えられていく。各ケージには駆動歯車が備えられ、それが外側のケージに固定された歯車と噛み合うことで、複数の軸がそれぞれ回転しながら、最終的に脱進機へ動力を届ける仕組みだ。
そもそもトゥールビヨンは、機械式時計の精度が姿勢によって変化するという問題に対応するために生まれた。時計は向きが変わると重力のかかり方も変わり、テンプのわずかな偏りやヒゲゼンマイの形状、軸の摩擦、振り角の変化などによって、進み遅れに差が生じる。
ブレゲが考案した解決策は、テンプ、ヒゲゼンマイ、脱進機をひとつの回転ケージに収めることだった。調速機構をひとつの姿勢にとどめるのではなく、連続して回転させることで、さまざまな姿勢で生じる誤差を平均化し、より安定した精度を狙うという考え方である。
マルチアクシス・トゥールビヨンは、その考え方をさらに発展させたものだ。一般的なトゥールビヨンはひとつの軸を中心に回転するが、腕時計は実際には腕の動きによって、常にさまざまな角度を向いている。そこで回転軸を増やし、テンプをより多くの姿勢へ連続的に動かすことで、装着時に生じる姿勢差をより幅広く平均化しようというわけだ。
〈アストロノミア フォーアクシス〉では、中央のキャリアと最内側のケージがそれぞれ1分で1回転する。一方、第3のケージは15秒、第2のケージは18秒で1回転。4つの回転が組み合わさることで、トゥールビヨンは絶えず異なる姿勢を取り、その動きのパターンが同じ状態に戻るまでには3分を要する。
ただし、これほど複雑な機構を動かすには大きなエネルギーが必要になる。そのためジェイコブ&コーは、2つの主ゼンマイ香箱を採用している。しかし、その強いトルクを繊細な脱進機へ直接伝えることはできない。
そこで搭載されるのが、ルモントワール・デガリテ(コンスタントフォース)だ。この機構が、強いトルクを持つ輪列と脱進機の間でクッションの役割を果たし、主ゼンマイの力の変化をならしながら、脱進機には少量の安定したエネルギーを一定に供給する。これによって、複雑な4軸構造を動かしながらも、調速機構への動力供給を安定させている。
コンスタントフォース
ルモントワール・デガリテ(コンスタントフォース)は、香箱と脱進機の間に設けられた小さなエネルギーの蓄積装置のことだ。主ゼンマイの力を直接脱進機へ伝えるのではなく、一定の間隔で中間の小さなゼンマイを巻き上げ、そこから調速機構へほぼ一定の力を送り出す仕組みだ。これにより、主ゼンマイの巻き上げ量が変化しても、脱進機には安定したトルクを供給できる。
一般的なルモントワールでは、この小さなゼンマイを1秒ごとに巻き直す。その間にゼンマイは少しずつほどけ、再び巻き上げられる。この「ほどける→巻き直す」という動作を繰り返すことが、ルモントワール特有の断続的な動きを生み出している。

▲ ジェイコブ&コー〈アストロノミア フォーアクシス トゥールビヨン〉グリーン。
ジェイコブ&コーのルモントワールも、基本的な考え方は一般的なものと同じだ。ただし、ゼンマイを巻き直す仕組みに独自の工夫がある。
香箱から伝わった力で、輪列とトゥールビヨン・ケージの間にある小さなゼンマイを巻き上げる。このゼンマイは、脱進機へ安定した力を送るための“中継役”だ。
ポイントは、そのゼンマイをいつ巻き直すかを決めるロック機構にある。同じ軸の上に2本のレバーを重ね、それぞれに2本ずつアームを設けることで、合計4つのロックポイントを作っている。
駆動歯車に取り付けられた星形のストップホイールが一定の間隔でアームを解放すると、巻き上げ歯車のロックが一瞬だけ外れる。その短い間に香箱の力でゼンマイが巻き直され、すぐに再びロックされる。
2本のレバーを使うことで、ストップホイールを小さくできるのも特徴だ。これにより、部品同士が接触したときの衝撃を減らし、調速機構への影響をできるだけ抑えている。
さらに、このルモントワールは巻き直しの回数も非常に多い。一般的なものが1秒に1回程度なのに対し、この機構ではテンプが振動するたび、つまり1秒間に6回、ゼンマイへ少しずつ力を補充する。
そのため、主ゼンマイの残量が減っても、調速機構にはより安定した力を送り続けることができる。大きなエネルギーを必要とする4軸トゥールビヨンを動かしながら、精度への影響を抑えるための重要な仕組みなのである。
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美学的にも機械的にも、〈アストロノミア フォーアクシス トゥールビヨン〉は、現在人気を集めるクラシックでシンプルな時刻表示だけの時計とは、ほとんど正反対の存在だ。しかし皮肉なことに、この時計自体も機能だけを見れば“時刻表示のみ”の時計である。
ジェイコブ&コーが際立つのは、自らのアイデアを薄めることなく、徹底して独自の方向性を貫いているからだ。見た目だけなら、まさに時計仕掛けの花火のような圧倒的スペクタクルである。だが、その派手さに目が慣れたあとにも、機械好きのコレクターを惹きつける要素が数多く残っている。
絶えず回転する表示の奥には、極めて難しい技術的課題と、それを解決するための巧妙な仕組みがいくつも隠されている。〈アストロノミア〉を本当に魅力的な時計にしているのは、華やかな見た目だけではなく、その裏側にある高度なエンジニアリングなのである。
Tech Specs
ジェイコブ&コー〈アストロノミア フォーアクシス トゥールビヨン〉 ムーブメント:ジェイコブ&コー専用手巻きキャリバー JCAM54、パワーリザーブ約36時間 機能:オフセンター時分表示、コンスタントフォース機構、4軸トゥールビヨン ケース:直径47mm × 厚さ27mm、18Kローズゴールド、ワンピース構造のサファイア製ケースバンド、30m防水 ダイヤル:無色、レッド、またはグリーンのジェムストーン。レッドまたはグリーンのポリカーボネートを用いたスケルトン仕様のサブダイヤル、5Nゴールド製アプライドインデックス ストラップ:アリゲーターレザー、18Kレッドゴールド製フォールディングクラスプ限定数:各モデル6本限定 ¥139,755,000
Brands:Jacob & Co.
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