カルティエの魅力は、過去の名作をただ復刻することではなく、その精神を現代にふさわしい姿で蘇らせる力にある。メゾンを象徴するアイコンの誕生と進化をたどりながら
Cartier: An Origin Story
カルティエの原点、メゾンを象徴するアイコンの誕生と進化
カルティエの魅力は、過去の名作をただ復刻することではなく、その精神を現代にふさわしい姿で蘇らせる力にある。〈サントス〉、〈サントス デュモン〉、〈パシャ〉、そして〈タンク アシメトリック〉。メゾンを象徴するアイコンの誕生と進化をたどりながら、カルティエがなぜ時代を超えて愛され続けるのかを探る。
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by Wei Koh . Mar 18, 2026 |
〈サントス〉と〈サントス デュモン〉
まず最初に、混同がないよう整理しておこう。〈サントス〉、あるいは〈サントス ドゥ カルティエ〉とは、ベゼルとブレスレットの両方にビスを配したブレスレット仕様の時計を指す。
このモデルは、ルイ・カルティエが友人である飛行家アルベルト・サントス=デュモンのために製作した、世界初の高級男性用腕時計〈サントス デュモン〉をルーツとしている。
しかし実際に現代的な〈サントス〉を構想したのは、1975年から1998年までカルティエCEOを務めた伝説的経営者、アラン=ドミニク・ペランであった。
当時のカルティエは、クォーツショックに加え、OPECオイルショック、そして1973〜75年の世界的不況という激動の時代の只中にあった。そうした状況を理解していたペランは、従来の発想にとらわれない改革が必要だと考えたのである。

▲ 1975年から1998年までカルティエCEOを務め、メゾンにとって創造性あふれる黄金時代を築いたアラン=ドミニク・ペラン(Image: theconnectedtable.com)

▲ 1904年、ルイ・カルティエは、有名なブラジル人飛行家アルベルト・サントス=デュモンの「飛行中でも時間を確認したい」という願いを叶えた。こうして誕生した世界初の高級紳士用腕時計〈サントス デュモン〉は、ふたりの先駆者の友情の証ともなった。ここに写るのは1916年製の個体で、1911年から一般販売されていたモデルである(Image: quillandpad.com)

▲ ベゼルとブレスレットの両方にビスを備えた、現行ステンレススティール製〈サントス ドゥ カルティエ〉。ケースサイズは39.8mm、厚さは9.38mm。このモデルは2018年に発表された(Image:Vincent Wulveryck © Cartier)
1977年にスタートし、大ヒットを記録した普及ライン〈レ マスト ドゥ カルティエ〉の成功を受け、アラン=ドミニク・ペランは翌1978年、新たな世代へカルティエを届けることを目的に、革新的な腕時計〈サントス〉を発表した。
ペランが目指したのは、カルティエの歴史において極めて大胆な試み――すなわち、スティール製の時計をつくることだった。
しかし同時に彼は、その時計にカルティエらしい華やかさも宿したいと考えていた。そして、控えめながら効果的にゴールドを使うことで、時計の高級感を高めるだけでなく、一目で分かる個性を与えようと考えた。
そこで彼は、スティールケースにゴールドベゼルを組み合わせ、そこへスティール製ビスを配置。ブレスレット側では逆にスティール製リンクへゴールドビスを組み合わせた。
この大胆なデザインによって、ツートーン・ドレスウォッチの時代が幕を開けたのである。

▲ 1978年、アラン=ドミニク・ペランの主導のもとカルティエが発表したツートーンの〈サントス〉。ゴールド製ベゼルにスティール製ビスを組み合わせるというアイデアは彼によるものであり、さらに見事なデザイン上の一手として、ブレスレット側では逆にスティール製リンクへゴールド製ビスを配した。こうしてこの時計は、ツートーン・ドレスウォッチという時代を切り開く存在となった。
その結果、この時計はカルティエにとって空前の成功作となり、時計史に名を残す名作となった。1987年、なおもアラン=ドミニク・ペランがメゾンを率いるなか、カルティエは〈サントス ガルベ〉を発表する。 “ガルベ”とは文字通り、「曲線を描いた」「優美なフォルムを持つ」といった意味であり、このモデルではケースサイズがわずかに拡大されると同時に、ケースのエッジが柔らかく整えられ、より官能的で魅力的なフォルムが与えられた。
このイエローゴールドの〈サントス ガルベ〉こそ、映画『ウォール街』でマイケル・ダグラスが着用していた時計である。熱狂の1980年代において、富とスタイルの象徴となったのだ。
映画が公開されたのは1987年であることを考えると、製作陣は正式発売よりかなり前の段階でプロトタイプを入手していたことになる。
私はこの映画のプロデューサーであるアレクサンダー・キットマン・ホーのもとで働く機会に恵まれたが、彼はこう語っていたことを覚えている。
「映画に登場するすべてのものは、オリバー・ストーンによって徹底的に選び抜かれていた。葉巻はダビドフだったが、しかもキューバ産ダビドフでなければならなかった。スーツは素晴らしいアラン・フラッサーによる仕立て。そして時計は、当然カルティエでなければならなかった」
映画側がどのようにして発売前のプロトタイプを手に入れたのか、その経緯はいまなお謎に包まれている。しかしイエローゴールドの〈サントス ガルベ〉は、今日に至るまで私にとって最も好きなメンズ・ドレスウォッチのひとつであり続けている。
2018年、カルティエが新世代〈サントス〉を発表した際も、私はそれを愛さずにはいられなかった。
この新世代モデルは、私の愛する〈サントス ガルベ〉へオマージュを捧げつつ、ケースサイズを拡大し、現代の顧客ニーズに合わせたアップデートを遂げていた。

▲ 1987年に発表されたカルティエ〈サントス ガルベ〉

▲ 1987年の映画『ウォール街』で、マイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーが着用していた、イエローゴールド無垢のカルティエ〈サントス〉
前述の続きとなるが、〈サントス デュモン〉という時計は、1904年に誕生したオリジナルの時計へと連なる存在であり、デザイン的にも通常の〈サントス〉とは異なる。これはあくまでドレスウォッチであり、オリジナル同様、常にレザーストラップを備えている。
〈サントス デュモン〉は〈サントス〉よりも薄型であり、ベゼル形状も異なる。たとえるなら、スポーティシックな性格を持つ〈サントス〉に対し、こちらはフラヌール、あるいはブールヴァルディエのための時計である。つまり、街を優雅に歩き、洗練された生活を楽しむ人物のためのタイムピースだ。
驚くべきなのは、100年以上前に誕生したデザインでありながら、その造形が現代においてもまったく古びていないことだ。誕生当時と同じモダニティを、いまなお備えているのである。
また〈サントス デュモン〉は、その後の数々のカルティエ名作の原型ともなった重要作でもある。たとえば1978年の〈サントス〉、あるいは1983年の〈パンテール〉は、この時計から派生した存在だ。
実際〈パンテール〉は、リューズガードを追加し、美しいブリックリンクブレスレットを採用した以外は、ほとんど〈サントス デュモン〉そのものと言っていい。
〈サントス デュモン〉は1911年、ルイ・カルティエによって商品化された。当時はジャガー製ムーブメントを搭載し、やがて世界で最もエレガントな男たちの“クラブ会員証”のような存在となっていく。
デザイン面では、エッフェル塔のリベットに着想を得た露出ベゼルを特徴としていた。この意匠は、1996年に遅れて発表された90周年記念モデル、さらに1998年からのCPCPコレクションにも受け継がれている。
なかでも特筆すべきなのが、サーモンダイヤル、ブレゲ針、プラチナケース、そして36mm×27mmケースを備え、わずか90本のみ製造された90周年記念モデルだ。これは“胸を締めつけるほど”美しい時計だと言える。
〈サントス デュモン〉は2019年にアップデートされ、まずクォーツムーブメント搭載モデルとして復活した。そして2020年1月、同じデザインの時計が再び登場するが、今度は手巻き機械式ムーブメントを搭載していた。
2019年以降に再導入された〈サントス デュモン〉では、ベゼルに用いられているのが従来のリベットではなく、小型のビスになっている。

▲ 1996年、90本限定で発表された〈サントス デュモン〉90周年記念モデル。プラチナケース、サーモンダイヤル、ブルーのブレゲ針(Image: mrwatchley.com)

▲ 2019年発表のカルティエ〈サントス デュモン〉。ケースサイズは31.4×43.5mm、ステンレススティール製ケースを採用し、クォーツムーブメントを搭載している。興味深いことに、2019年の再導入以降、〈サントス デュモン〉のベゼルには、従来のリベットではなく小型のビスが用いられている(©Revolution)
では、なぜここまでカルティエの歴史を振り返ってきたのか。それは、カルティエはもともと偉大な歴史を持つメゾンである一方で、優れたリーダーに率いられたとき、とりわけ強い輝きを放つブランドだということを伝えたいからである。
2016年以降にカルティエが発表してきた時計を見ると、当時のCEOが優れた美的感覚を持っていることは明らかだ。
〈サントス〉、〈パンテール〉、〈サントス デュモン〉、〈パシャ〉まで、カルティエは、どのモデルも見事に現代的に蘇らせているからである。
実は、前CEOのシリル・ヴィニュロンは、ホロヴィッツによるリスト《ハンガリー狂詩曲第2番》の演奏について語ることもできれば、コシュ・デュリのワインが持つ酸味と果実味のバランスについても深く話すことができる人物だ。
つまり彼は、“美しさのディテール”を理解できる人なのである。だから2020年に、彼とカルティエのチームが、完成度が高く、美しく、そして商業的にも魅力的な時計コレクションを作り上げたことは、決して偶然ではない。
特に印象的だったのは、ブラジル人飛行家あるベルト・サントス=デュモンの航空機にちなんだ新しいエクストララージサイズの限定版〈サントス デュモン〉、再解釈された〈タンク アシメトリック〉、そして名作〈パシャ〉の復活である。

▲ カルティエを率いたCEOシリル・ヴィニュロン。
〈サントス デュモン〉の話題が続いているので、まずは2020年の新作から見ていこう。物理的にも最大サイズとなるモデルが〈サントス デュモン「ラ ドゥモワゼル」〉である。
このモデルは46.6mm×33.9mmのプラチナケースを採用し、アイボリーカラーの文字盤には、サントス=デュモンが愛用していたパナマ帽から着想を得たギヨシェ装飾が施されている。
また、ブラックのブレゲ針、ブラックのシュマン・ド・フェール分目盛り、そしてモデルの特徴であるローマンインデックスを備える。
さらに印象的なのが、大型リューズにセットされたルビーのカボションだ。このリューズで巻き上げるのは、厚さわずか2.1mmのピアジェ430Pをベースとした手巻きCal.430 MCである。
このムーブメントを採用したことで、ケース厚はわずか7.5mmという、非常に薄くエレガントな仕上がりとなっている。
〈ラ ドゥモワゼル〉は30本限定で製造され、パナマ帽の編み込み模様を思わせるファブリックストラップも付属する。価格は4万1600スイスフラン。
この限定版〈サントス デュモン〉には、さらに3種類のバリエーションも用意されている。いずれもケースサイズは43.5mm×31.4mm。
100本限定の〈サントス デュモン「ル ブレジル」〉は、プラチナケースにスレートグレー文字盤を組み合わせ、アリゲーターストラップとルビーのカボションを備える。価格は1万7,800スイスフラン。
300本限定の〈サントス デュモン「ラ バラドゥーズ」〉は、イエローゴールドケースにシャンパンダイヤルを合わせ、グリーンのアリゲーターストラップを装着。価格は1万3,600スイスフラン。
500本限定のツートーン仕様〈サントス デュモン「N゜14 ビス」〉は、ブラックダイヤルを備え、価格は6,850スイスフラン。

▲ プラチナケースを採用した〈サントス デュモン「ラ ドゥモワゼル」〉 エクストララージモデル。ケースサイズは46.6mm×33.9mm、30本限定で製造された。ケースバックには、第一次世界大戦開戦前、サントスの飛行家としてのキャリアの最後を飾った単葉機「ラ ドゥモワゼル」の姿が刻まれている。

▲ プラチナケースにルビーのカボションリューズを備えた〈サントス デュモン「ル ブレジル」〉ラージモデル。ケースサイズは43.5mm×31.4mm、100本限定で製造された。ケースバックには、サントス=デュモン最初の気球デザインを表現したエングレービングが施されている。

▲ 18Kイエローゴールドケースにサファイアのカボションリューズを備えた〈サントス デュモン「ラ バラドゥーズ」〉ラージモデル。ケースサイズは43.5mm×31.4mm、300本限定で製造された。ケースバックには、サントス=デュモンが操縦した動力飛行船を描いたエングレービングが施されている。彼はこの飛行船で、パリの大通りの上空を屋根すれすれの高さで飛行し、ときにはカフェに昼食をとるため着陸したこともあった。

▲ ステンレススティールケースに18Kイエローゴールド製ベゼル、スピネルのカボションリューズを備えた〈サントス デュモン「N゜14 ビス」〉ラージモデル。ケースサイズは43.5mm×31.4mm、500本限定で製造された。ケースバックには、サントス-デュモンが操縦し、アエロ・クラブ・ド・フランスおよび国際航空連盟によって、ヨーロッパ初の公認動力飛行を成し遂げた航空機〈14-bis〉を描いたエングレービングが施されている。
〈サントス〉の話題ついでに、2020年に登場したオールブラック仕様のカルティエ〈サントス〉にも軽く触れておきたい。こちらはメタルブレスレットを備えた、いわゆるスポーティシックな〈サントス〉であり、私はこのモデルをとても気に入っている
コシュ・デュリのワインに見られる緊張感のように、このモデルにはどこか“ステルス”的な魅力があるのだ。メタルブレスレットのデザインを忠実に再現したラバーブレスレットがいい。特徴的なビスの意匠までしっかり再現されているのだ。
この時計にはアリゲーターストラップも付属する。しかし、それでもこれは〈サントス デュモン〉ではなく、あくまで〈サントス〉である。
ケースサイズは47.5mm×39.5mm、厚さ9.38mm。自動巻きムーブメントを搭載し、ADLC(アモルファス・ダイヤモンド・ライク・カーボン)モデルの価格は7,600スイスフランとなる。

▲ オールブラックのADLCコーティングを施したステンレススティール製〈サントス ドゥ カルティエ〉。ラバーブレスレットを装着しており、そのデザインは、特徴的なビスの意匠に至るまで、メタルブレスレットの外観を忠実に再現している(Image:Vincent Wulveryck © Cartier)
〈パシャ ドゥ カルティエ〉
〈サントス〉について語ったところで、次は新しい〈パシャ ドゥ カルティエ〉へ話を移そう。1985年に登場したオリジナルの〈パシャ ドゥ カルティエ〉はジェラルド・ジェンタがデザインに関与したといわれている。
“パシャ”という名は、モロッコ・マラケシュの太守、タミ・エル・グラウイに由来する。彼は“アトラスの王”とも呼ばれ、1930年代当時、世界でも有数の富豪だった人物である。
彼の父はモロッコ中部テロエのカイド(地方有力者)だったが、母は奴隷だったという。兄の早逝によって地位を継承した彼は、フランス鉱山会社などへの出資によって莫大な財産を築いた。その資産は当時で5000万ドル、現在価値ではおよそ8億8000万ドルにも相当したという。
1932年、彼はルイ・カルティエに対し、プールで着用できる防水時計を依頼した。そして1933年、カルティエはその時計を完成させた。
しかし、ここからが謎である。オリジナルのその時計は現在所在不明となっており、どのようなデザインだったのかさえ、はっきり分かっていないのだ。
さて、ここで1980年代へ話を戻そう。当時、アラン=ドミニク・ペランは創造性の絶頂期にあった。そして市場では、防水性を備えたラグジュアリーウォッチが求められていた。エベル〈1911 クラシックウェーブ〉が人気を集め、金無垢のロレックス〈サブマリーナー〉が強い存在感を放っていた時代である。
そこでカルティエは、“パシャ”という神話的存在をベースに、ジェラルド・ジェンタへ新たな時計のヴィジョンを求めたとされている。そして1985年、〈パシャ ドゥ カルティエ〉が誕生する。
それは38mmという当時としては大型のケースを持ち、厚みのあるフォルム、独特なセンターラグ、そして防水性を確保するためのねじ込み式キャップ付きリューズを特徴としていた。
この構造は、1930年代の防水軍用時計に由来するものであり、極めて巧みなデザインアイデアだった。
〈パシャ〉はもちろん大ヒットとなり、その後さまざまなバリエーションへ展開していく。
ジェンタ製ムーブメントを搭載した〈パシャ パーペチュアルカレンダー〉、回転ベゼルを備えた〈パシャ シータイマー〉、〈パシャ ゴルフ〉、そして私個人のお気に入りである〈パシャ グリッド〉などである。
〈パシャ グリッド〉は、1930年代の軍用時計に着想を得た、クリスタル保護用グリッドを備えるモデルである。特にイエローゴールド製“フィガロ”ブレスレット仕様は、豪奢で退廃的な美しさに満ちた傑作だった。

▲ 1947年に撮影された、マラケシュ太守アル=ハッジ・タミ・エル・グラウイの肖像写真(Photo by -/AFP via Getty Images)

▲ 1985年の〈パシャ ドゥ カルティエ〉(Image: Marian Gérard, Collection Cartier © Cartier)

▲ フィガロブレスレットを備えたグリル付き〈パシャ〉(Image: George Cramer)
つまり私が言いたいのは、〈パシャ〉には参照すべき歴代モデルが数多く存在していた、ということだ。
「実際、私たちはアーカイブ保管庫へ行き、歴代〈パシャ〉をすべて並べて検討しました」とシリル・ヴィニュロンは語る。
「私たちが重視したのは、1985年のオリジナルモデルの精神を最も強く受け継ぐ時計でした。アラビア数字、丸型ケースの中で大胆に配置されたスクエア型ミニッツトラック、そして特徴的なブルースティールのソード針です」
新しい〈パシャ〉は、まさにその思想を体現したモデルである。象徴的かつ本質的なデザインを受け継ぎながら、ケースサイズは41mmへ拡大され、現代的な実用性へ配慮し、日付表示も追加された。
さらに、ブレスレットとストラップを簡単に交換できるクイックチェンジ機構を採用し、ステンレススティールとイエローゴールドの両仕様が用意された。
ムーブメントは自動巻きCal.1847 MCを搭載。価格はスティールモデルが6300スイスフラン、イエローゴールドモデルが1万6500スイスフランとなる。
また、スケルトン仕様も非常に魅力的だ。スクエア型ミニッツトラックとアラビア数字が、そのままムーブメントの機能的ブリッジとなっている。私はこのデザインをとても気に入っている。
このスケルトンモデルには、手巻き・時刻表示のみのスティール仕様が用意され、価格は2万6000スイスフラン。さらに、ピンクゴールド製フライングトゥールビヨンモデルが9万4500スイスフラン、ダイヤモンドをセットしたホワイトゴールド製フライングトゥールビヨンモデルが13万6000スイスフランとなる。

▲ 新しい〈パシャ ドゥ カルティエ〉コレクションは、ステンレススティール、イエローゴールド、ピンクゴールドの各素材で展開され、2種類のケースサイズが用意される。ストラップはアリゲーターレザー仕様、またはブレスレット仕様から選択可能。

▲ 41mmケースを採用した〈パシャ ドゥ カルティエ〉。アラビア数字を形成するスケルトンブリッジによって時・分表示を行うモデルで、自動巻き機械式ムーブメントCal.9624 MCを搭載する。フルーテッドリューズにはサファイアをセット。ブルースティールのダイヤモンドシェイプ針を備える。ブレスレット、ストラップともに、「クィックスイッチ™」交換可能システムに対応している。左:ステンレススティール製。中:18Kローズゴールド製。右:ダイヤモンドをセットした18Kホワイトゴールド製。
〈タンク アシメトリック〉
1930年代は政治的・経済的混乱に陥った時代だったが、ルイ・カルティエにとっては創造力が大きく花開いた時代でもあった。
1936年、彼はドライバーのための時計として〈タンク オブリーク〉を生み出す。
平行四辺形型のケースには、斜めに傾いた文字盤が組み合わされていた。これは、ハンドルを9時と3時の位置で握った際にも、文字盤が正しい向きで読めるよう考えられたデザインである。
この時計は後に〈タンク アシメトリック〉へと改名され、その独創的なデザインによって、カルティエを代表する人気の高いタイムピースとなった。

▲ 1936年に誕生したオリジナルの〈タンク オブリーク〉。この時計は後に〈タンク アシメトリック〉へと発展していく。
1996年、〈タンク アシメトリック〉はCPCP(Collection Privée Cartier Paris)によって復活を果たした。これは現在ブシュロンCEOを務めるエレーヌ・プリ=デュケーヌが主導したプロジェクトで、カルティエの歴史的アイコンにオマージュを捧げることを目的としていた。
このとき発表されたのは、アラビア数字インデックスを備えた、プラチナ製100本限定モデルと、イエローゴールド製300本限定モデルである。
これらの時計はオリジナルモデルのプロポーションを忠実に踏襲しており、現代の感覚からするとかなり小振りだった。また、オリジナル同様、センターラグは備えていなかった。
続く1999年、カルティエはマカオ返還を記念し、左利き用と右利き用、2種類の〈タンク アシメトリック〉を製作した。
それぞれ99本限定で、小型ケースにローマンインデックスを組み合わせていたが、アラビア数字の“9”の上に18Kゴールド製の“9”を重ねることで、“99”を表現していた。これらのモデルはいずれも23mm×32mmのケースサイズを採用している。
そして2006年、カルティエは新たなCPCP版〈タンク アシメトリック〉を発表する。イエローゴールド製150本限定で、今度はローマンインデックスを採用し、ケースサイズも大型化。さらにセンターラグが追加された。私は個人的にこの仕様を好んでいる。
なお、この構成では少数のプラチナ製ユニークピースも存在した。現在、これらCPCP時代の〈タンク アシメトリック〉は、カルティエ愛好家のあいだで熱心に収集されている。

▲〈タンク アシメトリック〉は、CPCP(Collection Privée Cartier Paris)によって復活を果たした。これは現在ブシュロンCEOを務めるエレーヌ・プリ=デュケーヌが主導したプロジェクトで、カルティエの歴史的アイコンへオマージュを捧げることを目的としていた。モデルは、アラビア数字インデックスを備えたプラチナ製100本限定仕様と、イエローゴールド製300本限定仕様の2種類で展開された。写真はイエローゴールドモデル(Image: Christies.com)

▲〈1936年オリジナルモデルを忠実に再解釈し、1996年に復刻された〈タンク アシメトリック〉。ケースサイズは幅23mm、縦33mm。カルティエはこの復刻版を18Kイエローゴールド300本、プラチナ100本の限定で製造した。ここに掲載されている個体は、100本中008番のプラチナモデルで、2018年春にジュネーブで開催されたフィリップスのオークションに出品され、3万6250スイスフランで落札された(Image: Phillips.com)

▲〈1999年、カルティエはマカオ返還を記念し、左利き用と右利き用、2種類の〈タンク アシメトリック〉を製作した。それぞれ99本限定で、ケースサイズは23mm×32mm。ローマンインデックスを採用しながらも、アラビア数字の“9”の上に18Kゴールド製の“9”を重ねることで、“99”を表現していた。写真はリューズを右側に備えたモデル。

▲ リューズを左側に備えたモデル。
2020年、カルティエは〈タンク アシメトリック〉を復活させた。ただし今回は、47.15×26.2mmという新しいエクストララージサイズで登場している。
オリジナル同様、文字盤にはアラビア数字インデックスが配されている。そもそもこの時計の存在理由が“運転中の視認性”にあるのなら、アラビア数字こそ理にかなっている。
これらのモデルはいずれも手巻きCal.1917 MCを搭載。ピンクゴールド、イエローゴールド、プラチナの3素材で展開され、それぞれ100本限定で製造された。
価格はピンクゴールドおよびイエローゴールドモデルが2万7200スイスフラン、プラチナモデルが3万800スイスフランとなる。

▲ それぞれ100本限定で製造された、2020年の〈タンク アシメトリック〉ケースサイズは47.15×26.1mm。左:プラチナ製。中:イエローゴールド製。右:ピンクゴールド製。

▲それぞれ 100本限定で製造された、2020年の〈タンク アシメトリック〉スケルトン。ケースサイズは47.15×26.1mm。左:ダイヤモンドセット・プラチナ製。中:プラチナ製。右:ピンクゴールド製 。
また、スケルトン仕様も展開されている。ここでも、スクエア型のミニッツトラックとインデックスが、そのままムーブメントのブリッジとして機能している点が特徴だ。
素材はピンクゴールド、プラチナ、そしてダイヤモンドをセットしたプラチナの3種類。
価格は、ピンクゴールドモデルが6万500スイスフラン、プラチナモデルが6万8500スイスフラン、ダイヤモンドセット・プラチナモデルが9万6000スイスフランとなる。
以上が、2020年におけるカルティエの新作群である。ブランドの歴史との優れたつながりを感じさせながら、現代的なサイズ感を巧みに取り入れた、実に魅力的なコレクションである。
Brands:Cartier
※記事内容は2021年1月当時のものとなります。
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