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クロノグラフ完全史、その魅力のすべて―1940〜1980年代

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クロノグラフは、機械式時計のなかでも最も複雑で、最も人を惹きつける機構のひとつである。

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The Complete History of the Chronograph Movement 1940-1980’s

クロノグラフ完全史、その魅力のすべて―1940〜1980年代

クロノグラフは、機械式時計のなかでも最も複雑で、最も人を惹きつける機構のひとつである。戦後の手巻きコラムホイール式から、1969年の自動巻きクロノグラフ誕生、そしてクォーツ危機を経た合理設計の時代へ。1940年代から1980年代までの名キャリバーをたどれば、時計産業そのものの進化が見えてくる。

by Cheryl Chia . Mar 4, 2021

〈手巻き、コラムホイール、水平クラッチの時代〉

 21世紀に入り、“マニュファクチュール”は本格時計ブランドの象徴とされ、多くの時計メーカーが自社製ムーブメントの開発へ投資した。その結果、今日では数え切れないほどのインハウス・ムーブメントが存在している。

 しかし、クロノグラフは完成度を高めるのが難しく、製造コストも高い。これは独立系時計師の世界ではさらに顕著である。時計製造の限界を押し広げてきたこの分野においてさえ、クロノグラフは依然として稀少である。

 しかも、自社製であることに加え、クラシカルな意匠、手巻き、コラムホイール、水平クラッチという条件まで求めれば、選択肢は数えるほどとなり、価格は一気に跳ね上がる。

 そのため、往年の手巻きクロノグラフムーブメントは、堅牢さ、実用性、そして造形美によって今なお高く評価されている。なかでも20世紀前半から中盤にかけて生まれたムーブメント群は別格と言える。

 第二次世界大戦後の数十年間、クラシックなコラムホイール式クロノグラフは黄金時代を迎えた。実際、この時代に生まれた時計こそ、今日オークション市場で並外れた熱狂を巻き起こしているモデル群である。

 クォーツショック以前、ブランド各社が外部製ムーブメントを採用することはごく普通のことであり、自社生産にこだわるメーカーは少数派だった。

 中価格帯から高級ブランドまで、ロレックス、パテック フィリップ、ホイヤー、ブライトリングなど多くのブランドが、4大クロノグラフ専門メーカー――バルジュー、レマニア、ヴィーナス、ランデロン――の供給するムーブメントに依存していた。

 特に後者のランデロンは1940年という早い時期から、カム切替式クロノグラフの製造を開始していた。

ロレックス Ref. 4113(Image: Phillips)

バルジュー 72(1938〜1974年)

 1938年に誕生したバルジュー 72は、史上最も称賛されたクロノグラフキャリバーのひとつである。製造終了となる1974年まで、グリシン〈エアマン SST〉からロレックス〈コスモグラフ デイトナ〉に至るまで、幅広いモデルに搭載された。

 サイズは13リーニュで、同機はバルジュー 23と同じ設計思想を共有していた。このバルジュー 23自体も、もともと懐中時計向けに開発された14リーニュのバルジュー 22をルーツとしている。

 これらと同様に、バルジュー 72も水平クラッチとコラムホイールを備えていた。この仕様は、のちに業界全体で進んだコスト削減の波のなかで次第に姿を消していくことになる。

 そして何より重要なのは、バルジュー 72で6時位置に12時間積算計が導入されたことだ。これは後に、クロノグラフ機構における理想的レイアウトの原型となった。

ロレックス デイトナ Ref. 6262には、改良型のバルジューCal.727が搭載された。

 そのほかの仕様としては、振動数が2.5Hzであった点が挙げられる。これは1960年代以前においてはほぼ標準的なビートレートであり、計測精度は5分の1秒単位だった。

 また、これらのムーブメントは各ブランドの要求仕様に応じて、簡単な構造変更や仕上げを加えたうえで供給されていた。

 なかでも最も注目すべき派生型は、間違いなくロレックスのCal.72B、すなわちバルジュー 722だろう。これはロレックス デイトナに搭載され、Ref.6234に用いられていたバルジュー 72Aに代わって採用された。

 1966年に登場したCal.72Bは、ブレゲひげゼンマイとフリースプラング式の可変慣性テンプを備えていた。さらに1960年代後半には、改良型の722-1が登場し、時積算計ホイールの噛み合いをより滑らかにするため、新型のコンベヤースプリングが組み込まれた。

 これらのムーブメントの多くには、ひげゼンマイがスタッドホルダー上をずれてしまうのを防ぐため、金属製ガードが装着されていた。

 そして1969年、ついにバルジュー Cal.727が登場する。振動数は2.5Hzから3Hzへ引き上げられたが、この改良は決して小規模なものではなく、全体で約15点もの部品交換を伴う本格的なアップデートだった。

1969年に登場したバルジュー Cal.727は、振動数を2.5Hzから3Hzへと引き上げた。この改良は決して小規模なものではなく、全体で約15点もの部品交換を伴う本格的なアップデートだった。

 こうした構造上の改良にとどまらず、バルジュー 72は、主ゼンマイが高トルクだったため、カレンダー機構の追加も可能にした。

 1946年には、フルカレンダー機構を備えたバルジュー 72Cが登場し、ドクサ、ゾディアック、ギャレット、ジラール・ペルゴなどに採用された。

 その系譜の頂点に位置するのが、伝説的存在として知られるロレックス“ジャン=クロード・キリー”トリプルカレンダー クロノグラフである。

ロレックス “ジャン=クロード・キリー” トリプルカレンダー クロノグラフ。

  本質的に、バルジュー 72とその同系機は、堅牢で平面的なレバーやスプリングを用い、クラッチ機構も単一平面上で作動する、いわば“二次元的クロノグラフ”である。

 細く、高く、複雑なブリッジやレバーで構成される現代のクロノグラフと対照的に、バルジュー 72では機構全体がひと目で把握できるほど明快にレイアウトされている。そのため調整や整備がしやすく、実用面でも優れた設計だった。もっとも、今日では交換部品の確保が容易ではないが。

 レマニア 2310/CH 27(1942〜1968年)

 バルジュー 72と比較されるのが、1942年に“27 CHRO C12”として開発されたレマニア 2310、またはCH 27である。
 このムーブメントは、月に行ったオメガ スピードマスターに搭載されたオメガ Cal.321、パテック フィリップ Ref.3970に搭載されたCal.CH 27-70 Q、そして後継のパテック フィリップ Ref.5070と同じ基本設計である。

 27 CHRO C12は、27mm(12リーニュ)径のコラムホイール制御クロノグラフであり、12時間積算計を備えていた。
 名高いオメガ Cal.321は、オリジナルの27 CHRO C12ムーブメントと比べると、主な違いは分積算計用ジャンパースプリングにあった。

 バルジュー 72と同様、CH 27は17石仕様で、振動数は2.5Hzであった。CH 27の派生機に施された改良や進化は数多く、その完成形のひとつがパテック フィリップ CH 27-70 Qである。

 このムーブメントは、仕上げが明らかに優れているだけでなく、駆動輪上で作動するフルサポート式クロノグラフクラッチを備える。

 さらに、技術的に優れたジャイロマックス テンプを採用し、側面のネジで固定された簡素な三角形スタッドキャリアに代えて、より精巧な腎臓形スタッドホルダーとなっている。

パテック フィリップ CH 27-70 Q 

 バルジューと同様に、レマニアもやがて、より低コストで製造でき、大量生産に適したムーブメントの開発へと舵を切った。

 その結果、レマニア 2310は、1968年にカム切替式クロノグラフムーブメントであるレマニア 1872へと置き換えられた。

ヴィーナス 175 / 178 ファミリー(1940〜1960年代)

 三大ムーブメントメーカーの一角に数えられながら、ヴィーナスは今日ではやや不遇な境遇にある。

 ポール・ニューマンが着用していたわけでもなく、月へ到達した実績も持たないため、やや地味な存在なのである。

 しかし、スプリットセコンド仕様のヴィーナス 179およびヴィーナス 185へと連なるヴィーナス 175 / 178系クロノグラフムーブメントは、他社製に比べ、決して見劣りするものではない。

 これらのムーブメントは、今日では忘れ去られた数多くのブランドに採用されたが、有名どころといえば、ブライトリングである。

 当時のブライトリングの多くのモデルに搭載されており、代表例としては以下が挙げられる。

ブライトリング〈トップタイム〉

ブライトリング〈クロノマット〉

ブライトリング〈ナビタイマー〉

ブライトリング〈ユニタイム〉

ブライトリング〈デュオグラフ〉

 ほかにも多数のモデルに採用され、1940〜60年代のブライトリングを支えた重要な基幹ムーブメントであった。

ヴィーナス 178キャリバーを搭載したブライトリング〈トップタイム〉

 1942年から1960年頃まで生産されたヴィーナス 175 ファミリーには、バルジューやレマニアの同時代機とは異なる、いくつかの特徴があった。

 第一に、このムーブメントは9本柱ではなく、7本柱のコラムホイールを採用していた。

柱の数が少ないほど、作動はより堅牢かつ信頼性の高いものになる。

 一方で、柱の数が多ければ、作動時に必要な回転力は小さくて済むため、プッシャー操作はより軽く滑らかなものとなる。

ヴィーナス 175(Image: Urdelar.se)

  第二に、ヴィーナス 175はドロップハンマー式の設計を採用していた。

 バルジュー系では、下側のプッシャーを押してクロノグラフをリセットする際、ハンマーをハートカムへ押し下げるため、大きな押圧力を必要とする。

 これに対しヴィーナスでは、スタートボタンを押した時点でハンマーが起こされ、スプリングテンションが掛かった状態でピンによりロックされる。リセットボタンを押すとそのロックが解除され、ハンマーが滑らかにハートカムへあたり、クロノグラフ針はゼロ位置へ復帰する。

 このキャリバーファミリーには、日付表示、ムーンフェイズ、時間積算計を備えたヴィーナス 184、そしてスプリットセコンドクロノグラフのヴィーナス 185などが含まれていた。だが、そのすべての基礎となったのはヴィーナス 175である。

 これは17石、振動数2.5Hzのクロノグラフムーブメントであった。ヴィーナス 175は2つ目のインダイヤル仕様であり、ヴィーナス 178以降では時間積算計が追加された。

 1940年代後半、より廉価なクロノグラフへの需要が高まると、ヴィーナスもまた、カム切替式クロノグラフであるヴィーナス 188、ヴィーナス 200、ヴィーナス 210の生産を開始した。

 しかし競争は激しく、ヴィーナスは資金確保のため、Cal.175の権利と製造設備を天津時計工場へ売却した。同工場はその17石ムーブメントを独自に改良し、19石仕様のST19へと発展させた。そしてこのムーブメントは、今日なお生産が続けられている。

ヴィーナス 175をルーツとするシーガル ST19ムーブメント(Image: Kaminsky Blog)

 しかし1960年代半ばになると、自動巻きや防水性能を備えた三針時計への関心が高まり、クロノグラフ人気は徐々に下降線をたどり始めた。

 ヴィーナスは1966年、ついにその歴史に幕を下ろし、資産はライバルであったバルジューに吸収された。

 バルジューはコラムホイール式ムーブメントの生産を終了し、ヴィーナス Cal.188を改称したカム切替式のバルジュー 7730系へと注力していくことになる。

〈スプリットセコンド・クロノグラフ〉

 クロノグラフ機構の頂点に位置するのが、スプリットセコンド(ラトラパンテ)である。これは、同時にスタートした2つの事象について、それぞれ別々のゴールタイムを測定できる機構である。

 たとえば、陸上競技で2人の選手が同時に走り始め、1着と2着が異なるタイミングでゴールした場合、通常のクロノグラフでは先にゴールした1人のタイムしか読み取れない。だがラトラパンテなら、1本の針を途中で止めて1着のタイムを記録し、もう1本の針は動かし続けて2着のタイムも測定できる。

 機械的には、基本構造は通常のクロノグラフと同じだが、その上にスプリットセコンド用の追加ホイールをクロノグラフ秒輪へ重ねて備える。このホイールにはスプリング荷重を受けたレバーが取り付けられており、下側のクロノグラフ秒輪に固定されたハートカムへ作用する構造となっている。

 スプリットセコンド機構を作動させると、スプリットセコンド輪を挟むピンサー(はさみ状クランプ)が閉じ、スプリット秒針のみを停止させる。一方で、その下にあるクロノグラフ秒輪は回転を続ける。

 再び機構を解除すると、停止していた針は瞬時に追いつき、2本の針が再び重なる。これがスプリットセコンド特有の動きである。

 この複雑機構はモジュール性を備えており、ベースとなるクロノグラフムーブメントに追加することも可能である。

▲ ロレックス Ref.4113に搭載されたバルジュー 55(Image: Phillips)

 バルジュー 55(1940年代後半〜1950年代)

 20世紀半ばのスプリットセコンド・クロノグラフの設計難度は、現代の基準で見ても驚異的である。

 なので、ヴィンテージ市場における評価は高まるばかりだ。そこへブランド力と個体数の少なさが加われば、価格は天井知らずとなる。

 その代表例が、オークションで200万スイスフラン超を記録したロレックス Ref.4113であり、15万スイスフランを超のユニバーサル・ジュネーブ HA-1 ラトラパンテ“A. Cairelli”である。

 これら2本はいずれも、バルジュー 55を搭載していた。これは、もともと懐中時計向けに設計されたバルジュー 54をベースとするスプリットセコンド仕様である。

 そのため、直径39mm(17.3リーニュ)という非常に大型のムーブメントであり、同時代のラトラパンテとして最大級であった。ゆえに現代においても、きわめて高い人気を誇っている。

ロレックス Ref.4113(Image: Phillips)

直径39mm(17.3リーニュ)のバルジュー 55は、当時のスプリットセコンド・ムーブメントとして最大級の存在であり、そのことが現代における高い人気につながっている。代表例としては、オークションで200万スイスフラン超を記録した伝説的なロレックス Ref.4113、そして15万スイスフランを超える価格帯に達したユニバーサル・ジュネーブ HA-1 ラトラパンテ “A. Cairelli”が挙げられる(Image: Phillips)

超大型のバルジュー 55。

  ロレックス Ref.4113の製造数はわずか12本に過ぎなかった。

 さらに、搭載されたバルジュー 55も標準仕様とは大きく異なっていた。通常の2プッシャーではなく、3つのプッシャー構成を採用していたのである。

・上側プッシャー:スプリットセコンド操作用

・リューズ同軸プッシャー:スタート/ストップ用

・下側プッシャー:リセット用

 きわめて特異な設計を備えた、ロレックス史上でも例外的な存在であった。

 ヴィーナス 179 / 185 / 190 ファミリー(1940〜1950年代)

 ヴィーナスのクロノグラフにおける技術は、1940〜50年代において、スプリットセコンド仕様のヴィーナス 179、ヴィーナス 185(時間積算計付き)、そしてヴィーナス 190(時間積算計、日付、ムーンフェイズ付き)において頂点に達した。

 これらのキャリバーは、ヴィーナス 175と基本構造を共有しつつ、その上にスプリットセコンド機構を追加したものである。とりわけブライトリング〈デュオグラフ〉に搭載されたことで知られている。

ブライトリング〈デュオグラフ〉 Ref.764(Image: Phillips)

パテック フィリップ 13-130 CCR(1938〜1971年)

 スプリットセコンド・クロノグラフで先駆的なブランドのひとつが、パテック フィリップである。

 Ref.1436は1938年から1971年にかけて製造され、同社初の量産型スプリットセコンド・クロノグラフとして知られる。

 その内部に搭載されたのが13-130 CCRである。このムーブメントは、Ref.130に用いられた13リーニュのクロノグラフムーブメントをベースとしており、その元をたどれば大幅な改良が加えられたバルジュー 23に由来するものであった。

1938年から1971年にかけて製造されたRef.1436は、パテック フィリップ初の量産型スプリットセコンド・クロノグラフであった。

スプリットセコンド Cal.13-130 CCR(Image: Phillips)

 バルジュー 23(12リーニュ)の構造をベースとしているため、このムーブメントは驚くほどコンパクトに仕上げられている。

 改良点としては、上側第四輪上で作動するフルサポート式クロノグラフクラッチ、コラムホイール軸上に設けられたキャップ、さらにスワンネックレギュレーターの採用が挙げられる。

 そしてスプリットセコンドの究極形とされるのが、パテック フィリップ Ref.2571である。これはスプリットセコンド・クロノグラフに永久カレンダーを組み合わせたモデルであり、現代のRef.5004の原点ともいえる存在である。

 1955年にわずか3本のみ製造されており、スプリットセコンド・クロノグラフのなかでも、まさに聖杯的存在とされている。

〈フライバック・クロノグラフ〉ロンジン

 20世紀におけるクロノグラフムーブメントの中でも、スプリットセコンドを除けば、とりわけ優れたものの多くはロンジンによって生み出された。

 同社は、1930年代前半に懐中時計用キャリバーに依存しない初のクロノグラフムーブメントである13.33ZNをリリース。

 1935年、同社はフライバック機構の特許を出願し、1936年には伝説的な13ZN、さらに1947年にはその後継である30CHを誕生させた。

 13.33ZNは、瞬時にジャンプする分積算計(インスタントジャンピングミニッツ)を備えていた。この複雑機構は本来懐中時計に見られるもので、現代においても極めて稀である。ランゲ ダトグラフやパテック フィリップ Ref.5170など、ごく限られたモデルにしか搭載していない。

 一般的な腕時計用クロノグラフでは、クロノグラフ秒輪に取り付けられたフィンガーが60秒ごとに分積算計を進める。この際、分針はゆっくりと前進しながら次の目盛りへ移行する。

 これに対し、瞬時ジャンプ式では60秒ごとに分針が一気に切り替わるよう設計されている。その後、この複雑でコストの高い機構は、13ZNや30CHに見られる、より簡略化されたセミ・インスタント方式へと移行していった。

▲ 伝説的なロンジン 13ZN。

 1936年に登場したフライバック機構付きのロンジン 13ZNは、17石、直径29.8mm(13.2リーニュ)、厚さ6.05mmのムーブメントである。振動数は2.5Hzで、ブレゲ式ヒゲゼンマイを備えていた。

 長らくこの13ZNは、フライバック機構を備えた最初のクロノグラフであると考えられてきた。しかし近年、一部の13.33ZNにすでにフライバック機構が組み込まれていたことが判明している。

 これにより、一部の13.33ZNに見られる“瞬時ジャンプ分積算計+フライバック”という組み合わせが、最高とされるようになった。

 13ZNの重要なバリエーションとして、13ZN-12が挙げられる。これは中央分積算計を備えるよう再設計されたモデルであり、製造数は約500個だという。ロンジンが製造したクロノグラフの中でも、最も希少なもののひとつである。

中央分積算計を備えたロンジン 13ZN-12搭載クロノグラフは、2016年にフィリップスのオークションで87,500スイスフランで落札された(Image: Phillips)

 13ZNは、1947年に30CHへと発展的に置き換えられた。

 30CHの基本スペックは13ZNとほぼ同一であるが、大きな違いはムーブメントのレイアウトが反転している点にある。

 通常、クロノグラフムーブメントでは、ケースバック側から見たときテンプは6時位置に配置されることが多い。ところが30CHでは、テンプが12時位置に配置されている。

 一見すると些細な違いに見えるが、この変更は単なる配置替えでは済まない。ブリッジ、歯車、レバーなどのすべてを再設計する必要があり、ムーブメントを根本から作り直すに等しい改変であった。

レイアウトを反転させた30CH。

 たとえばクラッチホイールはテンプの上に張り出す配置となっており、切替機構も同様に反転されている。この設計は唯一無二ではないが、比較的珍しいアプローチである。

 また、コラムホイールへとつながるレバーが30CHでは短くなっているため、プッシャーの操作感にわずかな違いが生じるものの、このレイアウト変更自体は実用上ほとんど影響を及ぼさない。

 それでも、なぜロンジンがこのような構造へ移行したのかは、興味をそそる点である。

 30CHは、低価格クロノグラフへの需要が高まる中で、ロンジンが製造した最後の自社製クロノグラフムーブメントとなった。

〈自動巻きクロノグラフの登場〉

 1960年代半ばになると、クォーツ振動子という脅威を前に、従来の2.5Hzという振動数から脱却する必要性が高まっていた。

 そこでファブリック・ダソルティマン・レユニ(現ニヴァロックス)は、従来の15歯に対して21歯を持つ改良型スイスレバー脱進機、いわゆるクリナジック21の開発に着手した。

 この新しい脱進機により、ムーブメントはそれまで主流であった2.5Hzや3Hzに代わり、4Hzや5Hzといった高振動での駆動が可能となった。

 この脱進機は1966年に実用化され、高振動ムーブメント時代への道を開く重要な技術革新となった。

▲ 1969年のクリナジック21脱進機の広告。

  世界初の自動巻クロノグラフをめぐる競争は、最終的に1969年に結実することとなった。もっとも、その研究はすでに1940年代のレマニアによってなされていた。

 レマニアCH27の登場から5年後、このコンパクトなクロノグラフは“バンパー式”ローターの実験機として用いられ、CH27 C12 Aへと発展した。

 しかしこの試みは、最終的には実用に至らず、計画は中止されている。

 そして自動巻きクロノグラフの実用化をめぐっては、三者による競争が繰り広げられた。すなわちセイコー、そしてデュボア・デプラ、ビューレン、ブライトリング、ホイヤーによる共同開発チーム、さらに1960年にクロノグラフ専業のマーテルを買収したゼニスである。

 誰が最初に完成させたのかについては議論の余地が残るが、面白いのは、それぞれのムーブメントが直面した問題と、それに対する解決策の違いである。

 セイコー 6139 スピードタイマー(1969〜1979年)

 セイコー 6139は、垂直クラッチを採用した初の自動巻きクロノグラフであった。垂直クラッチは当時主流であった水平クラッチに比べて構造的には複雑であるが、耐久性と機能性の両面で優れていた。

 とりわけ、作動時の振り角低下を抑え、クロノグラフ秒針のスタート時に発生する“針飛び”を防ぐという大きな利点を持つ。

 セイコーの先進性は、その後の動向を見るとわかる。例えば、ロレックスがデイトナに自動巻きムーブメントを採用するまでには、そこから約20年を要し、その際には水平クラッチのエル・プリメロに依存することとなった。

 さらに同社が自社製の垂直クラッチ式自動巻きクロノグラフを完成させるまでには、もう約10年を要している。

 すなわち、セイコー 6139は、機械式クロノグラフの進化において時代を先取りした存在だったのだ。

セイコー 6139 スピードタイマー。

 驚くほどコンパクトな設計を誇るセイコー 6139は、直径27.4mm(12.1リーニュ)、厚さ6.5mmのムーブメントである。振動数は3Hzで、ボールベアリング支持のフルローターを備え、同社独自のマジックレバーと組み合わされている。

 このマジックレバーは、Y字型レバーと爪を用いたコンパクトかつ効率的な両方向巻き上げ機構である。

 しかしながら、このムーブメントは1979年に生産終了となった。そのため、同じ1969年に登場し、今日まで強い人気を維持している他の2つのクロノグラフと比べると、知名度が低くなっている。

“プロジェクト99”クロノマチック/Cal.11(1969〜1970年代)

 クロノマチック Cal.11は、デュボア・デプラ、ビューレン、ブライトリング、ホイヤーによる共同開発チームによって発表された自動巻クロノグラフムーブメントである。

 その構造は、レバー&カム制御のデュボア・デプラ 8510クロノグラフモジュールを、超薄型のビューレン イントラマチックムーブメントの上に重ねたモジュール式クロノグラフであった。

 このクロノマチックは、1969年に登場した3系統の自動巻きクロノグラフの中で唯一のモジュール構造であったが、ベースとなるイントラマチック自体が優れた設計であったため、モジュール構造でありながら全体の厚さは抑えられていた。

 ムーブメントのサイズは、厚さ7.7mm、直径31mm(13.75リーニュ)で、振動数は2.75Hz、パワーリザーブは約42時間を備えていた。

クロノグラフモジュールを除いたクロノマチック Cal.11。

ゼニス エル・プリメロ(1969年〜現在)

 そして最後に、ゼニスはエル・プリメロを発表した。これは5Hz(毎時36,000振動)という高振動を実現した唯一の自動巻きクロノグラフであり、クリナジック21脱進機の採用によって、1/10秒単位での計測精度を可能にした。

ローターを取り外したゼニス エル・プリメロ 3019キャリバー(1969年)

  その後の展開はよく知られている通りである。エル・プリメロは、コラムホイールと水平クラッチを備えた完全統合型クロノグラフであった。

 とりわけ注目すべきは、約50時間のパワーリザーブを確保していた点である。高振動テンプを維持しながらこの駆動時間を実現していることは、スペース効率に優れた設計の賜物であり、非常に完成度の高いムーブメントであることを示している。

 一般にパワーリザーブを延ばすと、テンプの駆動力が犠牲になりがちなのだ。

 たとえば、クロノグラフの基準ともいえるバルジュー 7750は、4Hzの振動数と約44時間のパワーリザーブという現実的なバランスを取っている。

 これに対しエル・プリメロは、振動数・パワーリザーブの両面でこれを上回り、さらに厚さも6.5mmと、バルジュー 7750の7.9mmよりも薄型に仕上げられている。

 ここまで見れば、エル・プリメロがいかに優れたムーブメントであるかは明らかである。長きにわたり自動巻きクロノグラフの指標であり、その後のMEMS技術やシリコン素材の導入による新世代ムーブメントの登場まで、ひとつの到達点であり続けたのである。

〈自動巻きクロノグラフ第二の波〉

 3つの自動巻きクロノグラフが登場した後、クォーツ技術の台頭が視野に入りつつある中で、第二世代の自動巻きムーブメントが続々と登場することとなった。

セイコー 7017(1970年〜1970年代後半)

 セイコーは先駆的な自動巻きクロノグラフである6139からわずか1年後に、新たな自動巻きクロノグラフであるCal.7017を発表した。これはコラムホイールと垂直クラッチを備えたフライバック・クロノグラフである。

 このムーブメントは分積算計を持たず、6139と同様に、スモールセコンド(常時運針の秒表示)も備えていない。

 その本質は、ゼロリセット機能を備えた三針時計に近い構成であった。

セイコー 5スポーツ スピードタイマー “フライバック”(Cal.7017搭載)(Image: hubcityvintage.com)

 しかし、このような設計においては垂直クラッチ式クロノグラフが理にかなっている。常時運針の秒表示(ランニングセコンド)が存在しないため、クロノグラフ秒針を常に動かしておく合理性があるからである。

 垂直クラッチは同軸構造であり、クロノグラフを作動させていない状態でも第四輪が独立して回転することで、内部にわずかな摩擦が生じる。そのため、クロノグラフ秒針を常時運針の秒針として用いることで、無用な摩耗を抑えることができる。

▲ 分積算計および時積算計を一体表示するCal.7016を搭載したセイコー 自動巻きフライバック・クロノグラフ。

 そのミニマルな構造の結果、Cal.7017の厚さはわずか6.4mmに抑えられ、わずか1年前のセイコー 6139の7.9mmに比べて大幅に薄型化が実現されている。

 この7017は、その後の派生として、30分積算計を備えたCal.7018、さらに分・時積算計を一体化したCal.7016へと発展していった。

 これら一連のムーブメントは、振動数3Hz、パワーリザーブ約40時間を備え、手巻き機構は持たない仕様となっている。

シチズン 8100A / 8110A(1972年〜1980年代初頭)

 シチズンは、セイコーに続くかたちで1972年に自動巻きクロノグラフを発表した。Cal.8100AおよびCal.8110Aは、薄型かつ高振動(4Hz)で、手巻きも可能なフライバック・クロノグラフという先進的な仕様だった。

 8100Aは30分積算計を持ち、8110Aではさらに12時間積算計が追加されている。

 厚さは8110Aで6.9mm、8100Aではわずか5.82mmに抑えられており、フレデリック・ピゲ 1158が登場するまでの間、当時最薄の自動巻きクロノグラフであった。

シチズン 自動巻きフライバック・クロノグラフ(Cal.8100搭載)(Image: Mitka.co.uk)

レマニア 1340(1972〜1975年)

 1972年、レマニアはCal.1340を開発し、これは後にオメガによってCal.1040およびCal.1041として採用された。

 このムーブメントは、水平クラッチ+カム切替式の自動巻きクロノグラフであり、当時の実験精神を反映した独特のレイアウトを持っている。

 最大の特徴は、クロノグラフの秒針と分針がともにセンター配置されている点である。これにより経過時間の読み取りは直感的となり、同時にダイヤル上のスペースを他の表示に割り当てることが可能となった。

6時位置:12時間積算計

9時位置:スモールセコンド兼昼夜表示

3時位置:日付表示

 この独創的な設計は、搭載された時計の外装にも影響を及ぼしている。たとえばオメガ 〈スピードマスター 125〉は、トノー型ケースと一体型ブレスレットという個性的なデザインである。

 ムーブメントは4Hzで作動し、パワーリザーブは約44時間。

 レマニア 1340とオメガ 1040の主な違いは仕上げに加え、後者では9時位置のスモールセコンドに24時間表示が追加されている点である。

 また、オメガ 1040は同社初の自動巻きクロノグラフムーブメントであり、オメガ 1041は世界初のCOSC認定クロノグラフとして知られている。

世界初のCOSC認定自動巻きクロノグラフであるCal.1041を搭載したオメガ〈スピードマスター 125〉

レマニア 5100(1974年〜2000年代初頭)

 レマニア 1340は、1974年に5100へと置き換えられた。両者のダイヤルレイアウトは非常によく似ているが、後者では12時位置に独立した24時間計が追加されている。

 しかし機械的には両者はまったく別物であった。5100はクォーツ危機の只中で設計されたムーブメントであり、低コストかつ高い実用性能を両立することが強く求められていた時代背景を反映している。

レマニア 5100を搭載したジン〈157 St Ty〉

  まず、レマニア 5100は垂直クラッチを採用しており、これにより堅牢性が高く、軍用にも適していた。

 水平クラッチ式では、クロノグラフ秒針は中間車を介して駆動されるのに対し、垂直クラッチでは通常、第四輪と同軸に統合され、クロノグラフ秒針は直接駆動される。

 もっとも、すべての垂直クラッチ式ムーブメントが第四輪を中央に配置しているわけではなく、その場合には間接的な輪列を介して秒針を駆動する。

 このようにクロノグラフ秒針が直接駆動される構造により、5100は優れた耐衝撃性を持つとされた(当時の水平クラッチ式クロノグラフは、衝撃によって秒針が停止しやすかった)

コスト効率を重視したピラー型構造を採用するレマニア 5100。脱進車の隣に配置された垂直クラッチは第四輪と一体化されており、その上にあるクロノグラフ秒輪を直接駆動する。(Image: watchguy.co.uk)

  構造は思い切って簡略化されていた。

 ムーブメントの地板とブリッジはピラー(支柱)によって固定され、可動部を上下から挟み込む構造を採っていた。

 これにより、部品は切削ではなくプレス加工で製造でき、歯車を収めるための窪みを地板に削り出す必要がなくなり、製造コストは大幅に削減された。

 さらに、レマニア 5100ではコラムホイールやクラッチプレート、カレンダー車といった部品に、デュポン社製の高機能樹脂デルリン(摩擦が少なく潤滑油をほとんど必要としない素材)が用いられている。

 また、レマニア 1340のボールベアリング支持ローターとは異なり、ローターは硬質鉄製ベアリング上に据えられ、プッシュフォークによって固定されていた。

 このように構造面では簡素化が徹底されている一方で、スペックはむしろ先進的であり、振動数4Hz、パワーリザーブ約48時間という性能を備えていた。

 バルジュー 7750(1974年〜現在)

 一方、バルジューが先行する自動巻きクロノグラフに対抗して送り出したのがCal.7750である。これはその後の時計製造において欠かせない存在となる。

 多くの点で、レマニア 5100と同様に、クォーツ危機を見据えて設計されたムーブメントであり、“最小限の部品で最大の性能を引き出す”という思想が反映されている。

 7750が初期の段階からCAD(コンピュータ支援設計)を用いて設計された。これにより輪列などの伝達機構は最適化され、性能向上が図られている。

 また、主ゼンマイが高トルクなので、永久カレンダーやトゥールビヨンといった複雑機構を追加することができた。

 その堅牢性と信頼性から、輪列設計はクロノグラフに限らず多くのムーブメントで流用されてきた。

 5100と同様に、7750もコラムホイールではなくカムによる切替機構を採用しているが、クラッチは大きく異なる。

 5100が複雑な垂直クラッチを採用したのに対し、7750はオシレーティングピニオン(揺動ピニオン)を用いている。

 これは両端にピニオン(小歯車)を持つアーバー(軸)が動き、噛み合う、極めてシンプルな機構であり、地板上の第四輪とその上のクロノグラフ秒輪とを効率よく接続する。

 構造がコンパクトであるため、クロノグラフ作動時の秒針の横ずれ(サイドステップ)を抑え、振り角低下も最小限に抑えられている。

 一言でいうならば、7750は“合理設計の極致”として機械式クロノグラフを支え続けるムーブメントである。

積層構造の切替カムとオシレーティングピニオン(揺動ピニオン)を備えたバルジュー 7750。

 オシレーティングピニオンは、ヴィーナス 170やバルジュー 92といった過去のムーブメントにも採用されていたが、それを現代クロノグラフ設計の前面に押し出したのがバルジュー 7750であった。

 クォーツ危機以降、バルジューはETAへと統合され、さらにスウォッチグループの一部となる。

 その中で7750は、自動巻きクロノグラフの事実上の標準機として広く採用されるようになった。

フレデリック・ピゲ 1185(1988年〜現在)

 その後のクロノグラフは、クォーツ危機を色濃く反映する存在となっていく。1988年、フレデリック・ピゲは、高級仕様をふんだんに盛り込んだ自動巻きクロノグラフムーブメントCal.1185を発表した。

 このムーブメントは、コラムホイール+垂直クラッチという最も高度かつコストのかかる構成を採用し、さらにボールベアリング支持のローター、マイクロメーター緩急針、キフ耐震装置を備えている。

 しかしその真価は、個々の要素の寄せ集めを超えた完成度にあった。

 長らく1185は、最小かつ最薄の自動巻きコラムホイール式クロノグラフとして知られ、直径26mm、厚さ5.5mmという驚異的なサイズを実現していた。これは前年に登場した手巻き超薄型のCal.1180をベースとしているためである。

 1185は、第4輪が中央に配置されていないタイプの垂直クラッチ式クロノグラフの好例でもある。輪列配置はスモールセコンドを持つ通常の三針時計に近く、第4輪は6時位置に置かれる。そのため、中央のクロノグラフ秒輪は脱進車ピニオンによって駆動される構造となっている。

 この設計により、ムーブメントのコンパクト化が可能となった。さらにボールベアリング式ローターもわずか1.55mmという薄さに抑えられている。

 1185は“薄さと高性能を両立した完成形”といえる自動巻きクロノグラフである。

▲ 2時位置のブリッジ下に第四輪が見えるフレデリック・ピゲ 1185。

 性能面では、フレデリック・ピゲ 1185は3Hzで作動し、約42時間のパワーリザーブを備える。引き出し得る最大限の効率を実現したムーブメントである。

 翌年には、このキャリバーを基に、厚さわずか6.9mmの世界初の自動巻きラトラパンテであるCal.1186が誕生した。

 その後、フレデリック・ピゲがブランパンに統合されたのちも、1185はスウォッチグループ内外で広く採用された。とりわけオーデマ ピゲ〈ロイヤルオーク クロノグラフ〉に搭載されたことで知られている。

それぞれの時代を代表したクロノグラフ・ムーブメントたち。

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