精緻な幾何学模様が光を受けて繊細な表情を生み出すギヨシェは、機械式時計の文字盤装飾を象徴するメティエ・ダールの一つである。旋盤と職人の手仕事によって刻まれるこの伝統技法の起源や製作工程、そして現代の時計における役割をひも解いていく。
Understanding Métiers d’Arts: Guilloché
メティエ・ダールを理解する:幾何学模様の美―ギヨシェ編
精緻な幾何学模様が光を受けて繊細な表情を生み出すギヨシェは、機械式時計の文字盤装飾を象徴するメティエ・ダールの一つである。旋盤と職人の手仕事によって刻まれるこの伝統技法の起源や製作工程、そして現代の時計における役割をひも解いていく。
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by Cheryl Chia . Mar 5, 2024 |
復活する手作業による装飾
メティエ・ダール(装飾芸術工芸)は、何世紀にもわたって時計製造の歴史に深く織り込まれてきた。エナメル装飾、ジェムセッティング、エンジンターン、彫金、ミニアチュール絵画といった装飾技法の歴史は、16〜17世紀にまでさかのぼる。
装飾芸術の発展は、ルネサンス期ヨーロッパにおいて時計精度の追求と歩調を合わせるかたちで進んだ。地上や天体を測定する数学者や天文学者が精度の向上に取り組む一方で、職人たちは時計を華麗な装飾、鮮やかな色彩、精緻な細工によって彩ったのである。
最初期の携帯用時計は、小さな装飾的タイムピースであり、ペンダントとして首から下げられたり、指輪に収められたり、ベルトから吊されたり、あるいはポケットに忍ばせたりして使われた。バロックやロココの時代には、装飾はいっそう華やかになっていった。
やがて啓蒙時代が訪れると、時計における装飾芸術にも大きな変化がもたらされた。理性や科学を重んじ、伝統的権威に疑問を投げかけた啓蒙思想は、文化のさまざまな分野に浸透していった。
美意識もまた変化し、それまでの過度な装飾から離れ、簡潔さ、秩序、そして合理性が好まれるようになった。この流れは装飾芸術にも影響を与え、装飾はより抑制されたものとなり、古典的モチーフのデザインが多く見られるようになった。
19世紀の産業革命は、製造技術と生産方法に大きな変化をもたらし、これらの装飾工芸の発展をさらに後押しした。そこでは職人技と工業化の融合が起こる。エンジンターン用の機械が大量生産されるようになり、時計ケースや文字盤ブランクなどの部品もより多く生産できるようになったことで、こうした基盤の上に装飾工芸を施す道が開かれた。また美意識も変化し、新たに台頭したインダストリアルデザインの影響を受けて、すっきりとした線と機能性が重視されるようになっていく。
しかし世界大戦では、時計には機能性、耐久性、精度が何より求められた。時計メーカーは、安価で丈夫な軍用時計の大量生産へと舵を切った。さらに1970年代のクォーツ危機は、この状況に追い打ちをかけた。若い世代の間で装飾工芸への関心が薄れ、装飾技術の知識や技能の多くが失われてしまったのである。
それでも機械式時計の復興とともに、状況は再び変わり始めた。ムーブメントのアングラージュや面取りといった手作業による装飾が見直され、エングレービングやエナメル、マルケトリといった装飾工芸も改めて注目を集めている。こうした復興の背景には、精密な機構だけでなく、優れた美しさや個性を備えた時計を求める人々の関心の高まりがある。
ここでは、文字盤に繊細な幾何学模様を刻み出す伝統技法“ギヨシェ”に焦点を当て、その魅力や歴史、製作工程、そして現代において活躍する職人たちについて紹介していく。
ギヨシェ:エンジンターンの歴史
機械彫刻によって幾何学模様を刻み出すギヨシェは、今日の時計製造において最もポピュラーな装飾技法のひとつである。“guilloché”という言葉はフランス語の“guillocher”に由来し、反復する模様を表面に彫り込むことを意味する。
ギヨシェが時計装飾として用いられるようになったのは17世紀にさかのぼり、1680年にジュネーブの時計師ピエール・デュアメルが製作した、エンジンターン装飾を施したケースの時計がその最初期の例とされる。
ギヨシェを施すための機械はローズエンジン旋盤と呼ばれる。これはもともと木材や柔らかい素材を加工するための装飾旋盤を発展させたものである。
ローズエンジンという名称は、加工物の動きを制御するカム状の部品“ロゼット”に由来する。設定を調整することで、職人は波紋やスパイラルなど、さまざまな幾何学模様を生み出すことができる。
しかしローズエンジンは大型で高価なうえ、完全に手動操作の機械であったため、裕福な工房や職人だけが扱うことのできる道具であった。

▲ ジョシュア・シャピロの象徴的な〈インフィニティ・ウィーブ〉パターン。
時計の世界にとどまらず、ギヨシェはロシア皇帝のためにファベルジェが製作したインペリアル・イースターエッグをはじめ、銀器やサービングトレーなど、さまざまな装飾品にも用いられてきた。
18世紀末には直線を刻むことのできる機械も登場し、1786年にはアブラアン-ルイ・ブレゲが自身の時計にこの技法を取り入れている。19世紀に入るとギヨシェは広く普及し、さらに20世紀初頭にはエンジンターン機械の量産が可能になったことで、その人気は一段と高まった。
1930年代から1950年代にかけて、ギヨシェは腕時計にも広く採用され、パテック フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、さらにはロレックスのモデルにも見られるようになる。
しかし1970年代に入ると状況は一変する。嗜好の変化に加え、クォーツ危機の影響によってエンジンターン職人の多くが姿を消し、この技術は一時ほとんど消滅の危機に瀕した。
こうした状況の中で、21世紀へと技術をつなぐ重要な役割を果たしたのが、故ジョージ・ダニエルズである。機械式時計の偉大な擁護者として知られる彼は、1969年以降の自身の作品でエンジンターンを積極的に取り入れた。
さらに後に多くの時計師にとって“聖書”とも称される著書『Watchmaking』では、30ページ以上をエンジンターンの解説に充てている。そこではローズエンジンやストレートラインエンジンの操作や調整方法、ケースバックやケース側面、文字盤への応用などが詳細に紹介されている。
また、ダニエルズの親しい友人であり英国の時計師であったデレック・プラットも、卓越したエンジンターン職人であった。彼が手がけたギヨシェ文字盤のいくつかは、ウルバン・ヤーゲンセン&ゾナー(Urban Jürgensen & Sønner)の時計に見ることができる。
現代の職人と工房
今日では、エンジンターン文字盤の制作は再び活気を取り戻し、その需要も高まりつつある。この分野における代表的存在のひとりが、独立時計師カリ・ヴティライネンである。彼は長年にわたりエンジンターン機械を収集してきたことで知られ、2022年には著名なギヨシェ職人ジョルジュ・ブロードベックの工房“ブロードベック・ギヨシャージュ”を、そのエンジンターン機械一式とともに取得した。
ヴティライネンは次のように語る。
「現在、シャポー・ド・ナポレオンにある私たちの工房には、ストレートライン・エンジンが4台、ローズエンジンが4台あります。さらに、エンジンターン専門会社であるブロードベック・ギヨシェには20台以上の機械があります。合計すると30台以上になります」
こうした設備拡張は、彼の文字盤工房“コンブレミン”への注文が増加しているからだ。ヴティライネンは自身のブランドだけでなく、多くの時計ブランド向けに文字盤を製作している。
また、ジュラ地方に拠点を置く文字盤メーカー、“メタレム”も、ギヨシェ文字盤の大手である。年間およそ40万枚の文字盤を製造しており、エナメル、ジェムセッティング、エングレービングなどを施した多様な文字盤を手がけている。顧客にはオーデマ ピゲから フィリップ・デュフォーまで、幅広いブランドや独立時計師が名を連ねている。

▲ 左:ヴティライネン 〈レトログラード・デイト 217QRS〉。ホブネイル、ウェーブ、バーリーコーンという3種類の異なるギヨシェ模様が施された文字盤。 右:ヴティライネン〈28SC-SB “アール・デコ”〉。チャプターリングにはエカイユ・ド・ポワソン(魚の鱗)模様のギヨシェが施され、ソリッドゴールド製のセンターには波状のギヨシェにフランケ・エナメル加工が用いられている。
この技法を専門として守り続けている独立時計師としては、まずロジャー・スミスが挙げられる。彼はジョージ・ダニエルズ唯一の弟子であり、ダニエルズが使用していたエンジンターン機械を2台受け継いでいる。
また、ロサンゼルスを拠点とする時計師ジョシュア・シャピロにも注目すべきで、極めて複雑な独自の織物状パターンを開発している。
さらに特筆すべき例として、中国ブランドのアトリエ・ウェンがある。同ブランドは比較的手の届きやすい価格帯の時計を製作しているが、その文字盤には中国初のエンジンターン職人とされる蔡承宇(チェン・ユー・ツァイ)の手仕事が用いられている。
独立系の職人だけでなく、大手ブランドもこの技術を守り続けている。ブレゲ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ジャガー・ルクルト、パテック フィリップなどが、現在もエンジンターン装飾を採用している。
ただし、真に手作業で施されるギヨシェは、主に最高級の時計に限られるのが実情である。これらのブランドの中には、エントリークラスやミドルレンジのモデルにおいて、CNC加工や油圧プレスによるスタンピングといった、よりコスト効率の高い方法を併用している場合もある。
例えばヴティライネンの工房コンブレミンでも、ブランド向けに機械加工によるギヨシェを提供している。そのため、こうした技法の違いを見分けることが重要になる。
CNC、スタンピング、手作業?
現在の時計製造では、機械加工やスタンピングによるギヨシェが広く用いられている。見分けることは年々難しくなっているが、それでも判別は可能だ。
カリ・ヴティライネンは次のように説明する。
「手作業のエンジンターンは、工具で金属を削り取って模様を刻みます。そのため表面はシャープで、溝の底にも鋭いエッジが生まれます。これに対してCNC加工では回転する工具で削るため、表面にはミーリング痕(切削痕)が残ります。一方、スタンピングは金属を押し潰して模様を成形する方法なので、シャープな切削面は生まれません」

▲ ジョシュア・シャピロが生み出したインフィニティ・ウィーブ模様は、細い直線を幾重にも重ねて織物のようにした幾何学模様。特別に製作されたパターンバーを備えたストレートライン・エンジンによって刻まれている。
エンジンターンの違いについて、蔡承宇は使用されるカッターの特性に触れながら説明する。
「ローズエンジンのカッターは、90度、100度、110度、120度といったさまざまな角度に設定されています。加工は、工具を押し当てて金属を削り取り、余分な部分を取り除くという方法です。その結果、表面にはきらめくような質感が生まれます」
一方でCNC加工についてはこう語る。
「CNCの工具もさまざまな角度に設定できますが、先端にはわずかなベベル(面取り)が施されています。これは切削を助けるためで、このベベルがなければ、圧力がかかったときに工具の先端が折れてしまうのです」
アトリエ・ウェンの創業者であるロビン・タランディエは、スタンピングによるギヨシェの限界について次のように述べている。
「スタンプで作られた文字盤は、深みやシャープさ、立体感に欠けます。全体的に平板で鈍い印象になりがちです。ただし珍しいことではありますが、非常に出来の良いスタンプ文字盤も存在します。例えばパテック フィリップの仕事を見ると、その完成度の高さが分かります」
さらにタランディエはこう付け加える。
「ローズエンジンの切削工具は、表面に連続した横方向の細い切削筋を残します。これはスタンプ文字盤には見られない特徴です」
CNC加工による文字盤については、彼は二つのタイプに分類する。
「ひとつはミーリング(フライス加工)のドリルを用いるもの、もうひとつは“旋削”するタイプのドリルを使うものです。前者では、先ほど述べたような溝は現れず、手作業のギヨシェに比べて深さや立体感も乏しくなります。後者の場合は溝が現れ、深さも本物の手彫りギヨシェに近い仕上がりになります」
最も優れたCNC加工のギヨシェと、手作業によるギヨシェを見分けることは容易ではない。タランディエはこう語る。
「最終的には職人への信頼と、仕上がりの“完璧さ”を見ることです。もし文字盤があまりにも機械的に完璧に見えるなら、それは機械で作られた可能性が高いでしょう」
また、ジョシュア・シャピロは次のように強調する。
「もしブランドが自分たちの手作業の技術を積極的に示し、誇っているなら、それは良い指標になります」
同時に彼は注意も促している。メディアやブティック向けのデモンストレーションで、長年使われていなかったローズエンジンを突然持ち出してくるブランドもあるため、そうした演出に惑わされず、より深く質問し、背景を確認する必要があるという。
そして最後に、カリ・ヴティライネンは次のように語る。
「模様が大きく粗い場合はCNCでも作れます。しかし、非常に小さく繊細な模様になると、それは手作業でしか作ることができません」
ローズエンジンの使い方
エンジンターンには数多くの工程があり、極めて専門的な技術を長年かけて習得する必要がある。ロジャー・スミスは次のように語る。
「この技法で最も難しいのは、機械を完全に理解することです。加工する素材(ワーク)の固定方法や切削工具の準備が成功の鍵になりますが、それは経験によってしか身につきません」
またジョシュア・シャピロはこう述べている。
「エンジンターンには非常に多くの変数があります。彫刻工具は鏡面に研磨され、鋭く研がれていなければなりません。模様を導くロゼットやパターンバーは、数学的にも機能的にも完全である必要があります。さらにギヨシェ職人は、切削とインデックス操作のあいだ常に集中力を保たなければなりません。そして何より大切なのは、誤りを修正できるよう、常に謙虚で柔軟な姿勢を持つことです」
ローズエンジンは、メインフレーム、スピンドル(回転軸)、ヘッドストック(回転機構の中心ユニット)、そしてロゼットなど、いくつかの主要部品で構成されている。作業はまず、加工する素材(ワーク)をローズエンジンのスピンドルに固定することから始まる。多くの場合、素材はチャック(固定具)に取り付けられる。
ローズエンジンの中心的な役割を果たすのがロゼットである。これは切り欠きの入った円盤状の部品で、カムのような働きをする。ロゼットに刻まれた切り欠きの配置や形状、数によって、出来上がる模様の複雑さや性格が決まる。
各切り欠きは模様の特定のポイントに対応しており、ロゼットが回転すると、その切り欠きをタッチピースと呼ばれる触子がなぞることで、ワークの回転運動が制御される。

▲ ローズエンジンの中核を成すロゼット(Image: J.N. Shapiro)
カッターはスライド内に取り付けられ、トラバーススクリュー(送りネジ)を備えたスライドレストによって支えられている。このトラバーススクリューにより、スライドは横方向に精密な移動が可能となる。
切削の深さはラバー(切削深のストッパー)と呼ばれる部品で調整され、これはネジによって設定される。切削のあいだ、カッターを保持するスライドには常に手で圧力が加えられる。同時に、ワークを回転させるスピンドルはクランクによって手動で操作される。つまり作業者は両手を同時に使い続ける必要があり、この技法がいかに手作業に依存しているかがよく分かる。
著書『Watchmaking』の中で、ジョージ・ダニエルズは次のように述べている。
「エンジンターンにおいて最も習得が難しい技術は、スライドに一定の圧力をかけ続けることだ。この一点が作品の視覚的品質を大きく左右する」
これは、彫られる線や模様の深さと均一性を決定づけるためである。作業中に圧力が変化すると、模様に不規則な部分が生じてしまう。
蔡承宇もまた、ギヨシェ加工は旋盤への熟練だけでなく、カッターの鋭さや角度にも大きく左右されるとしており、工具の仕立てそのものが重要な技術であることを指摘している。
ローズエンジンは、単純な幾何学模様から複雑な花模様や渦巻き模様まで製作することができる。また、回転運動を直線運動へ変換するアダプターを備えた機械も存在する。ストレートラインエンジンでは、ワークはプレートに取り付けられたノーズピースに固定される。
ここではロゼットの代わりにパターンバーが用いられ、プレートに取り付けられたタッチピースがそのパターンバーをなぞることで、ワークは水平および垂直方向にスライドし、切削されることになる。一方、カッター側のスライドレストは、ローズエンジンと同じ構造になっている。

▲ ローズエンジンによって刻まれた、アトリエ・ウェンの文字盤に見られるフィッシュスケール(魚鱗)模様のギヨシェ。
複雑な模様を生み出すためには、「フェージング」と呼ばれる操作が行われる。これは、切削の合間にロゼットの位置を調整したり、わずかにずらしたりする工程を指す。同じロゼットやパターンバーを用いながら、この調整を行うことで、エンジンターンの表面にさまざまな変化や異なるパターンを生み出すことができる。
エンジンターンに必要な資質について、ロジャー・スミスは次のように語る。
「何よりもまず必要なのは忍耐です。そして学ぼうとする意欲と、自分が何を達成しようとしているのかを理解すること。さらに、自分の仕事を客観的に見て、ときにはそれを退けることができる姿勢も必要です。完璧に到達するまで、自分を高め続けなければなりません」
これらの機械の多くはすでに100年以上前に製造されたものであり、入手することはまさに宝探しに近い。著名なブランドや時計グループも、ヤードセールやオークションを巡りながら機械を探している。
カリ・ヴティライネンは2023年にニューヨーク時計学会で行った講演の中で、スイスにおけるエンジンターン機械の不足について言及した。巨大グループが費用を惜しまず買い集めており、他の業界関係者が機械を入手するうえで大きな障害となっているという。

▲ 自ら製作したローズエンジン旋盤を用いて作業する蔡承宇。
欧州から遠く離れた場所にいる職人にとって、選択肢は二つに分かれる。現代のエンジンターン機械を購入するか、あるいはゼロから自作するという困難な道を選ぶかである。
蔡承宇は2014年、ロシア製のタバコ箱に施されたギヨシェを初めて目にしたことをきっかけに、エンジンターンを極める決意を固めた。その後数年にわたり、彼はローズエンジンとストレートラインエンジンを自ら作り上げるという驚くべき挑戦に取り組んだ。当時、実物の機械を一度も見たことがなかったにもかかわらずである。
2018年、三度の失敗を経て、ついに最初の実働機械を完成させた。その機械は、部品の90%以上を手作業で製作したものだった。そして2021年までに彼は7台目の機械を完成させ、そのうち4台が実際に稼働した。
さらに蔡承宇は、水平ライン用と垂直ライン用にそれぞれ独立したストレートラインエンジンを製作している。これら4台の機械によって、彼は1000種類以上のギヨシェ模様を刻むことができるという。
代表的な7つのギヨシェ模様
代表的なギヨシェ模様としては、ウェーブ、バーリーコーン、モアレなどがあり、これらは主にローズエンジンによって刻まれる。一方、クル・ド・パリ(ホブネイル)、サンバースト、バスケットウィーブといった模様は、ストレートラインエンジンで作られる。
ロジャー・スミスは次のように語る。
「私にとって最も難しいのは、いつもバスケットウィーブ模様です。これは、切削のたびに同じ送り操作を繰り返さなければならないためです。送りのリズムが無意識にできるようになるまで練習し、意識を切削に集中する必要があります。そこに到達するまでには相当な経験が必要です」

▲ 〈グレート・ブリテン〉のダイアルは、ロジャー・W・スミスにとっての最高傑作といえるもので、個別にエンジンターンが施された34個もの部品によって構成されている。
ジョシュア・シャピロはこう語る。
「ストレートライン・ギヨシェ、特にバスケットウィーブのようなパターンは、円運動を用いるローズエンジンの作業よりも、はるかに難易度が高いのです」
彼はその違いを具体的に説明する。
「〈ランゲ1〉のダイアルなどに見られる典型的なパターン、あるいは一般的なバーリーコーン模様であれば、フェージングはほとんど必要なく、中心まで到達するのに20〜30回ほどのカットで済みます。熟練したギヨシェ職人なら30分ほどで仕上げることも可能です」
しかし彼はこう付け加える。
「モアレ模様になると、事情は少し変わります。これはローズエンジンによるパターンの中でも特に難しいものです。一方、メインダイアルにバスケットウィーブを刻む場合、ひとつのユニットを完成させるだけでも約160回のカットと6段階のフェージングが必要になります。完成までには何時間もかかる作業です」
ロビン・タランディエはパターンの複雑さがどのように決まるのかを説明する。鍵となるのは模様の密度であり、一本の線に含まれるカーブの数、線同士が交差するかどうか、さらにはマスターパターンの中にサブパターンが含まれているかどうかといった要素である。
「通常のダイアルでも制作には約12時間を要します。しかし中には、それをはるかに上回る時間がかかるものもあります。今回あなた方と進めているシルバードダイアルは、なんと36時間も必要なのです。複数のパターンを組み合わせたものになると、完成までに数日、場合によっては数週間を要することさえあります」
さらにマスター・チェンは、間もなく登場するRevolutionのリミテッドエディションについて次のように語る。
「各ダイアルの制作には、3人のエンジンターン職人が24〜28時間、ほとんど途切れることなく作業に集中しなければなりません。そして、ほんのわずかなミス――0.002mmを超える誤差が生じただけでも、それは肉眼ではっきりと見えてしまうのです」

▲ J.N.シャピロの〈リサージェンス〉のダイアルは、20点の個別パーツから構成されている。このモデルでは、シャピロ独自のインフィニティ・ウィーブ模様が4つの同心レイヤーにわたって展開されており、それらを正確に位置合わせするには極めて精密な調整が求められる。
スミスがこれまでに製作した中でも、最も複雑なダイアルのひとつが〈グレート・ブリテン〉のダイアルである。これは個別にエンジンターンが施された多数のパーツをろう付けして構成されたものだ。
スミスはこう語る。
「グレート・ブリテンのダイアルを作る工程は非常に複雑で、その方法を開発し習得するまでに約3カ月を要しました。多層的なレリーフを持つ立体的なダイアルは、およそ34点の個別パーツから構成されています。私にとっての課題は、旗の3色を再現するために、それぞれのセクターで異なるギヨシェ模様と高さを使い分けながらも、ダイアル全体の繊細なバランスを保つことでした」
一方、シャピロは「インフィニティ・ウィーブ」と呼ばれる独自のパターンを開発した。これはバスケットウィーブの中にさらにバスケットウィーブを組み込んだ構造であり、そのために専用のパターンバーを自ら製作する必要があった。
彼はその複雑さについて次のように説明する。
「小さなバスケット模様は“インタラプト・カット”で刻まれます。つまり、それぞれの小さなバスケットを個別にエンジンターンしなければならず、大きなバスケットのパターンに滑り込んでしまわないよう細心の注意が必要なのです」
シャピロはさらに、ケースにもエンジンターン装飾を施している。彼はその工程をこう語る。
「ケースへのエンジンターンはローズエンジンで行いますが、ダイアルとはまったく異なる向きで作業します。ダイアルは二次元の作業ですが、ミドルケースは三次元です。文字通り、作業にもう一つの次元が加わるのです」
さらに彼は続ける。
「作業は難しいですが、同時に瞑想的でもあります。完全な深さを得るために、同じカットを10回ほど繰り返すこともあります。滑ったりチャタリング(ビビり)を起こしたりしないようにするためです。平面と曲面の双方で、完全に同心かつ垂直に整列させる必要があります」
エンジンターンの作業中、ミドルケースにはラグは取り付けられていない。ラグがあると、美しくない途切れたカットが生じてしまい、エンジンターンが不可能になるからだ。
装飾が完了した後に、ラグ用の凹部を切削で作り、ラグはネジで固定される。
通常、ラグはケースと一体成形されるか、あるいはろう付けされる。しかし後者の場合、酸化を除去し余分なろうを整えるためにポリッシュ作業が必要となる。ところがケースバンドにエンジンターンが施されている場合、ポリッシュを行えばギヨシェ模様が損なわれてしまう。そのため、シャピロのケースではスクリュー固定式ラグが採用されている。
仕上げに求められる繊細な技巧
ギヨシェ・ダイアルの仕上げは、極めて手間のかかる作業であり、高度な繊細さが求められる。とりわけスミスとシャピロは、銀製ダイアルに対して「ディプリ―ション・ギルディング」と呼ばれる処理を行う。
スミスはこう説明する。
「この白さは、炎でダイアルを加熱することで得られます。すると純銀の酸化物が表面に浮き上がってくるのです。その酸化物を取り除き、この工程を何度も繰り返します。こうして銀に含まれる不純物をすべて焼き切ることで、最終的に純白の質感が現れるのです」
シャピロは付け加える。
「この処理によってダイアルはマットなフロスト仕上げになります。これは“ブレゲ・フロスティング”とも呼ばれますが、現在のスウォッチ・グループのブレゲが行っている方法は少し異なります。この工程を繰り返すことで、最終的には表面に純銀の層が現れ、ほとんど発光しているかのような白さを帯びるのです」
ジョージ・ダニエルズは著書『Watchmaking』の中で次のように記している。
「表面が全体的に均一な白色になると、エンジンターンによる模様のコントラストは肉眼では判別しにくくなる。そこでダイアルを流水の下に置き、柔らかい真鍮製ワイヤーブラシで軽くブラッシングする。このブラッシングは、隅々まで均一に表面を明るくするため、非常に丁寧に行わなければならない」
こうして溝と表面部分のコントラストを際立たせるのだ。
一方、ブレゲではダイアルに無垢の金のみを使用している。そのため銀色の仕上げを得るには、ギヨシェ加工の後にシルバーコーティングが施される。粉末状の銀をプレートにブラシで擦り込むことで仕上げられ、求める仕上げによって円運動または直線的な動きで行われる。
その後、銀が時間とともに変色するのを防ぐため、薄い保護コーティングが施される。銀色のダイアルは電気めっきによっても実現でき、この技法はダイアル工房コンブレミーヌでも用いられている。ヴティライネンはこう説明する。
「ガルバニック処理の前に、まずダイアル表面を整えます。ギヨシェ加工の後、湿式のサンドブラストで軽く処理することで、衝撃を与えずに細かなマット面を作ります。その後、ガルバニック浴でロジウムめっきを施すことで白色に仕上がるのです」
カラー・ダイアルについては、加熱処理、陽極酸化、電気めっき、ラッカーなど、さまざまな方法が用いられる。シャピロはこう説明する。
「ジルコニウムのダイアルは加熱処理によってダークグレーに仕上げますし、チタンは陽極酸化でブルーにすることができます。サーモンカラーの場合は、無垢のローズゴールドを使います」
そして彼はこう付け加える。
「私はできるだけ塗料やラッカー、めっきには頼らないようにしています。もちろん過去にはそれらすべてを試しましたが、その多くは失敗し、たくさんのダイアルを廃棄しました」
ギヨシェ・ダイアルはどのように評価されるのか
ヴティライネン、スミス、シャピロによれば、高品質なギヨシェ・ダイアルの決め手は、エンジンターンによって刻まれた表面がいかに均一で滑らかであるかにあるという。
ヴティライネンは次のように強調する。
「表面の角にバリが残っていてはいけません。エンジンターンの表面は、加工直後の段階で強い輝きを持っているべきであり、その輝きはダイアルの仕上げ工程を経た後も保たれていなければなりません。もしマットに見えるなら、それは表面の不均一さを隠している可能性があります」
スミスも同意見だ。
「ほんの小さな欠点でも隠すことはできません。だからこそ、一貫した仕上がりが最も重要なのです」
シャピロは、人間の目はわずかな違いでも見分けることができると指摘しつつ、過度な完璧さには注意すべきだと語る。あまりにも完璧すぎる仕上がりは、CNC機械による加工を疑わせてしまうからだ。彼が強調するのは、完璧さを追求しながらも、彫刻にはどこかに人の手による温かみが残っているという、その微妙なバランスなのである。

▲ リストチェック ×アトリエ・ウェン限定モデルのダイアルに施されたモアレ・ギヨシェ。
タランディエはさらに、評価の際にはパターン全体の整列や規則性、模様を構成するカットの回数や反復数、そこから生まれる立体的な深み、そして仕上げの清潔さや傷の有無を見ていると語る。また、ブランド名やロゴのために残された余白にも注意を払うという。
「その部分は、マスター・チェンにとっても特に難しい箇所です。そこにはギヨシェが施されないため、工具はそのエリアに到達する直前で引き上げなければなりません。絶対に傷をつけてしまってはいけないのです」
彼は続ける。
「これらすべてにおいて完璧なダイアルというものは存在しません。人の手による仕事である以上、それは不可能なのです。それでもマスター・チェンは、100パーセント完璧なダイアルを作ることが決してできないと分かっていながら、毎日すべての時間とエネルギーをその制作に捧げています。その絶望的とも言える献身には心を打たれます」
時計製造そのものと同様に、多くの手作業が加わるほど工芸としての価値が高まるように、本物のエンジンターンは、それを身に着ける人と、丹念に作り上げた職人とのあいだに親密なつながりを生み出す。
それは、画集の中で再現されたゴッホの絵を見るのと、美術館で本物の作品を前にし、筆致の生々しさを感じる体験との違いに似ている。真のエンジンターンは職人の手仕事を感じさせ、繊細なパターンのひとつひとつに魂が宿っているのだ。
