チューダーの原点にあるのは、ハンス・ウイルスドルフがロレックスで培ったオイスターケースの技術を受け継いだ実用時計チューダー〈オイスター〉である。ブランド誕生からオイスターケースの進化、そしてヴィンテージ市場で高く評価される希少モデルまで、チューダーの礎を築いた名作の魅力をたどる。
The Tudor Oyster Story
チューダーの礎を築いた名作〈オイスター〉の魅力を探る
チューダーの原点にあるのは、ハンス・ウイルスドルフがロレックスで培ったオイスターケースの技術を受け継いだ実用時計チューダー〈オイスター〉である。ブランド誕生からオイスターケースの進化、そしてヴィンテージ市場で高く評価される希少モデルまで、チューダーの礎を築いた名作の魅力をたどる。
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by Ross Povey . Jun 9, 2021 |
チューダーの歴史
時計の世界は、ハンス・ウイルスドルフという人物がいなければ、今ほど豊かなものにはならなかったであろう。彼は、ロレックスとチューダーという、きわめて重要な二つの時計ブランドを築いた人物である。
ロレックスは高級ブランドとして誕生し、チューダーはその兄弟的存在として、より実用性を重視したブランドとして生まれた。
近年、チューダーはヴィンテージ時計の世界でも高い人気を集め、コレクターたちから注目される存在となっている。チューダーは長い歴史を持ち、その魅力はヘリテージシリーズによって現代に受け継がれている。
このシリーズは、2010年に1971年の名作チューダー“ホームプレート”クロノグラフをもとにしたヘリテージ クロノグラフが登場して以来、毎年話題を集めてきた。
では、そのチューダーの歴史は、いったいどこから始まったのであろうか。

▲ “ロングT”とは、ロゴ内の「T」の右側が長く伸び、ほかの文字の上まで覆うようにデザインされた仕様である(Image: Tudorwatch.com)
ウイルスドルフのチームは、1926年にまず“チューダー”の名称を登録し、1932年には早くもチューダーブランドの腕時計を発売していた。初期モデルには、レクタンギュラーケースやクッションケースの腕時計があり、当時流行していたアール・デコ様式のデザインをとりいれていた。
これら最初期のモデルには、コレクターのあいだで“ロングT”と呼ばれる特徴的なロゴが使われていた。「T」の右側が長く伸び、ほかの文字の上まで覆うようにデザインされていた。
ムーブメントと文字盤にはチューダーの名が入っていたが、ケースは複数のケースメーカーによって製造されており、ロレックス・ウォッチ・カンパニー(RWC)やハドリーなどのものが採用されていた。
これらの時計は特にオーストラリアで成功を収めた。当時、主に同国最古の家族経営宝飾店であるカタナックスによって販売されていた。実際、多くの個体には、チューダーと販売店名の両方が文字盤に記された“ダブルネーム”仕様が見られる。
こうした市場での成功を受け、1946年にモントル チューダーSAが正式に設立された。
チューダーといえば、代表的なコレクションとしてサブマリーナーとクロノグラフがよく知られている。いずれも実用時計であり、サブマリーナーはダイバーのために、クロノグラフは主にモータースポーツの計時用として作られた。
しかし、こうした重要モデルが登場する以前、チューダーはシンプルで上品な三針時計を製造していた。そしてその文字盤には、ウイルスドルフ一族最大の功績を示す伝説的な名前“OYSTER”が刻まれていたのである。
チューダーを支えたケース
チューダーのオイスター搭載モデルは、1946年に手巻き時計として登場した。多くは34mmのステンレススチール製オイスターケースに収められ、文字盤には非常に多くのバリエーションが存在した。
1952年には、“オイスター プリンス”が発表された。“プリンス”の名は自動巻きムーブメントを意味し、ロレックスにおける“パーペチュアル”に相当する呼称であった。
この自動巻きムーブメントは、フルリエ製キャリバー390をベースにチューダーが改良したものである。その頑丈さは非常に優れており、壊れにくさでは群を抜いていた。
筆者は長年にわたり、こうしたモデルを数多く見てきた。その中には一度もオーバーホールされていないにもかかわらず、いまなお完璧に作動し、高い精度を保っている個体もあった。
ハンス・ウイルスドルフは当初から、チューダーの時計をロレックスと同じく、非の打ちどころのないものにしたいと考えていた。彼の手元には、ロレックスで築き上げた二つの重要な要素があった。すなわち、オイスターケースと自動巻き機構である。
この二つの革新的な要素をチューダーにも与えるという決断こそ、彼の高い理想を実現する鍵であった。さらに、チューダーはロレックスと同様の完全保証も受けることができた。この体制は、今日に至るまで受け継がれている。

▲ チューダー〈オイスター プリンス〉の広告(Image: Tudorwatch.com)
私にとって、チューダーやロレックスの大きな魅力のひとつが、オイスターケースである。アイコニックで、20世紀を代表するデザインのひとつだと考えている。
均整の取れたケースデザインは、見た目の美しさと実用性を見事に両立している。初期モデルの純粋な姿から、1970〜80年代のサブマリーナーやクロノグラフ、そして近年のヘリテージ ブラックベイに至るまで、さまざまな形で受け継がれてきた。
しかし、オイスター本来の魅力を知るには、1950年代のブランド創成期までさかのぼる必要がある。当時それらは華やかな時計ではなく、建設作業員が着用する広告に見られるように、実用時計として販売されていた。まさに誰もが使える時計、働く人々のためのオイスターであった。
では、オイスターとは何なのか。名称は、水中で生きる貝である牡蠣に由来している。ウイルスドルフは、ムーブメントをケース内部に密閉する仕組みを考案した。
それを実現した基本となる要素は、ねじ込み構造とシーリングである。リューズはケース側面にねじ込んで固定され、従来弱点とされていたリューズまわりの開口部から水分が侵入しにくい構造となった。
同じ考え方はケースバックにも採用され、ミドルケースへねじ込んで固定し、さらにゴム製ガスケットで密閉された。風防もまた密閉されており、初期には圧入式、その後は風防保持リング方式へと進化していった。
こうした仕組みこそが、現代のロレックスやチューダーの高い防水性能へと受け継がれているのである

▲ チューダーのオイスターケースは20世紀を代表する、審美性に優れたデザインである。
モノブロッコ構造とは?
初期のオイスターは、イタリアのコレクターたちによってモノブロッコ構造と呼ばれる、二体式ケース設計であった。これらの時計は、ミドルケースとベゼルが一体のスチール削り出しで製造されていた。
ケースバックはミドルケースにねじ込まれて時計を密閉し、風防は圧入式シールによってケース内側から装着されていた。そのため、風防交換には時計全体を分解する必要があり、作業には時間を要した。
7809などのリファレンスはモノブロッコ構造であり、実際に1952年から54年のグリーンランド遠征で使用されたモデルでもあった。
三体式ケースの導入により、擦り傷やひび割れのある風防の交換は大幅に容易になった。この方式は、今日に至るまでなお採用されている。ねじ込み式リューズとケースバックは引き続き重要な要素であったが、第三の構成部品として、風防の上から圧入されるベゼルが加わった。
時計のミドルケースには小さな段差が設けられ、そこにトロピック(デイト表示拡大レンズなし)またはサイクロップ(拡大レンズ付き)の風防が装着された。その後、ベゼルリングが風防外周に沿って圧入され、ケースを密閉した。
この構造により、ムーブメントとケースバックを外すことなく風防交換が可能となり、作業は格段に容易になった。この改良はリファレンス番号にも反映され、7904(手巻き)や7909(自動巻き)といった79XX系モデルとして展開された。

▲ 809などのリファレンスはモノブロッコ構造を採用しており、1952年から54年にかけてのグリーンランド遠征で使用された(Photography by Adam Priščák)
コレクターにとって、こうした古いチューダーを収集するうえで最も興味深い要素のひとつが文字盤である。多くのリファレンスが存在する一方で、文字盤バリエーションの多さは驚異的である。
私自身、いまなお見たことのない仕様にかなりの頻度で出会う。70年も前に作られていたものなのに、そのディテールへのこだわりには毎回驚かされる。
特筆すべきは、コレクターの間で“ワッフル”ダイヤルと呼ばれるテクスチャード文字盤である。ブラックであれ、穏やかに経年変化したアイボリーであれ、こうしたワッフルダイヤルは時計の魅力を新たな高みに引き上げる。
あるいは、油だまりのように深く美しいブラックの上に、立体的な印字が施されたギルトダイヤルも見逃せない。
どのような趣向をお持ちであれ、あなたにふさわしいヴィンテージ・チューダー オイスターは存在するのである。
トロピカル 7909
この個体は、実に見事な“トロピカル”ギルトダイヤルを備えている。トロピカル効果とは、もともとブラックであった文字盤が経年変化によってブラウン系の色調へと変化した状態のことで、コレクター間での愛称である。
ダイヤルほとんどキャラメルのような色合いにまで変化しており、リベット構造のオイスターブレスレットとの組み合わせも見事である。

▲ トロピカル 7909(Photography by Adam Priščák)
モノブロッコ 7809
このFEF390搭載の自動巻きオイスターは、1952年から54年にかけてチューダーが支援したグリーンランド遠征で使用された個体と同系統のモデルである。
文字盤は長年を経て非常に魅力的なアイボリーカラーへと変化しており、12・3・6・9時位置には沈み込み式の数字インデックスが配されている。

▲ モノブロッコ 7809(Photography by Adam Priščák)
ワッフルダイヤル 7904
手巻き式オイスターは、ムーブメントに自動巻きローターを備えないため、薄いケースを使うことができる。これほど複雑な構造の文字盤でありながら、製造当時を考えれば印字品質は驚くべき高さである。
文字盤は全体的に均一な経年変化を遂げ、パンナコッタを思わせる色合いとなっている。

▲ ワッフルダイヤル 7904 (Photography by Adam Priščák)
オーバーサイズ 7919 オイスターデイト ワッフル
この時計が特別な存在である理由はいくつかある。まず第一に、文字盤が実に素晴らしい。ブラックのワッフルダイヤルに鮮明なギルトレタリングが入り、日付窓の開口部にはギルトカラーの縁取りが施されている。
さらに、日付ディスクにはルーレット式を採用し、偶数日は赤、奇数日は黒で表示される。これだけでも十分に魅力的である。
しかし7919の真価はそれだけではない。この時代のオイスターの大半がケース径34mm、ラグ幅19mmであったのに対し、7919は20mmラグを備えた大型ケースを採用している。これは当時の“オベットーネ”ロレックスを思わせる仕様である。
このような文字盤を備えたロレックス・デイトジャストが2万〜3万ポンドで取引されていることを考えれば、このチューダーの評価が今後さらに高まっていくことは間違いない。

▲ オーバーサイズ 7919 オイスターデイト ワッフル(Photography by Adam Priščák)
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