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メティエ・ダールを理解する:エングレービング(彫刻)編

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ここでは、時計製作における最も高度で要求の高い芸術工芸=エングレービングの世界を、詳しく掘り下げていく。装飾が施された文字盤は、驚異の小宇宙ともいえる存在

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Understanding Métiers d’Arts: Engraving

メティエ・ダールを理解する:エングレービング(彫刻)編

ここでは、時計製作における最も高度で要求の高い芸術工芸=エングレービングの世界を、詳しく掘り下げていく。装飾が施された文字盤は、驚異の小宇宙ともいえる存在である。

by Lee Sheng .Mar 12, 2024

石器時代にまで遡る芸術

 機械式時計の復興は、メティエ・ダールと呼ばれる装飾工芸の復活をもたらした。ムーブメントに施されるアングラージュや面取りといった手作業の装飾が再び重視されるようになり、マルケトリ、エナメル、ギヨシェ、ジェムセッティングといった工芸も復興を遂げた。単に複雑な機構だけでなく、卓越した美しさの、より魅力的な時計を求める需要が高まっているのだ。

 ここではエングレービング(彫刻)という工芸分野に焦点を当て、その奥深い世界と独自の考え方、明日への課題を探っていく。

 現代の時計製作において、エングレービング(彫刻)は装飾技法の中でも重要な位置を占め、メティエ・ダールの一つとして高く評価されている。A.ランゲ&ゾーネのテンプ受けに施された彫刻や、ナオヤ ヒダのクラシカルな文字盤の例が示すように、その美しさはコレクターに感嘆をもたらしてきた。

 時計における彫刻は、繊細で気品ある工芸として知られ、その地位も非常に高い。そして、その起源はとてつもなく古い。エングレービングの歴史は石器時代にまで遡る。洞窟の住人たちは石壁や石器に絵柄を刻み残し、その痕跡は今日の私たちでさえ見ることができる。

手彫りエングレービングと手彫りギヨシェを施した文字盤を、透明エナメルで覆った一点物のパテック フィリップ〈ウェイ・オブ・ザ・ボウ〉懐中時計。

 エングレービングの技法は、数千年にわたる長い歴史の中で発展を遂げ、それに比べたらつい最近始まった時計製作の世界にも取り入れられるようになった。古代から続く技術が、時計に装飾として取り入れられたのである。それは単に美しさを高めるだけでなく、深い文化的背景や歴史の重みをも時計に与えている。

 本稿では、この魅力的なエングレービングの世界に踏み込み、その制作工程や使用される工具、そして現代を代表する彫刻師たちについて紹介していく。

エングレービングの工程と工具

 多くの芸術分野と同様に、エングレービングの魅力に目覚めた愛好家は、さまざまな時計を見比べながら、コレクションにふさわしい最も美しい作品を見極めようとする。そしてこの工芸の美しさを深く知るにつれ、こうした作品がどのような技法によって生み出されているのかという点に興味が湧いてくる。

 エングレービングの制作は、いきなり文字盤を削り出すわけではない。まず紙の上でスケッチを描くところから始まる。その内容は単純なレタリングから、著名な絵画の再現に至るまでさまざまだ。とりわけ一点物の文字盤を制作する場合、この構想段階は極めて重要となる。デザインが固まると、それを文字盤へと転写する工程に移る。

 デザインを文字盤へ移す方法はいくつかある。伝統的な方法の一つがフリーハンドでの下描きである。彫刻師は文字盤の表面を軽く引っかき、浅い輪郭線を作って、その後の彫刻作業のガイドとする。

 たとえば鉛筆で下描きをした後、先端の尖ったバニッシャーで表面に細い線を刻む方法がある。この工程は“ドライポイント”と呼ばれる。

 もう一つよく用いられる方法は、紙に印刷した図案を金属の上に置き(印刷面を下にする)、アセトンを染み込ませた綿棒で擦ることでデザインを転写する方法である。紙が乾くと印刷されたインクが金属表面に残る。このインクを定着させるため、彫刻師はヒートガンで加熱し、トナーを金属に固定する。

彫刻する図案を下描きしている様子(Image: Vacheron Constantin)

 一方、現代ではレーザーによる下彫りなどの方法も広く用いられており、とりわけ量産される文字の彫刻では、精度と効率の両立を可能にしている。後ほどマスターエングレーバーへのインタビューでも触れるが、レーザー技術を取り入れることは、伝統に対する冒涜とは見なされていない。

 また、インデックスや装飾的な彫刻をスタンプによって施す方法もある。レーザーやスタンピングは、特にブランドロゴのような幾何学模様を扱う際に、精度を保ちながら作業時間を短縮できる。

 エングレービングの工程には厳格なルールがあるわけではなく、複数の方法が状況に応じて使い分けられる。場合によっては、図案の転写を省き、文字盤ブランクに直接フリーハンドで彫刻を行うこともある。

 しかし、アルトゥール・アクマエフのような熟練の彫刻師が、時計部品や文字盤にフリーハンドを用いることはほとんどない。アクマエフによれば、主要な要素はあらかじめ決めておくほうがいいという。特に大きなモチーフの場合、サイズや配置を誤ると全体のバランスがっ狂ってしまう。一度彫ってしまうと、後からの修正は非常に難しい。

 アクマエフは、作業時の視野の狭さについても言及している。彫刻は顕微鏡の下で行われるため、デザイン全体を把握することが難しく、大きなモチーフの比率を確認するのも容易ではない。限られた視野の中で要素の位置を見失うと、作品全体を損なうようなミスにつながる。

彫刻師が使用する工具の図解。『The Art of Engraving』(James B. Meek)より。

 アクマエフの彫刻は、彼のインスタグラムに投稿された動画からも分かるように、高い品質と精密さを備えている。図案を文字盤ブランクへ転写する際、彼自身はどのような方法をとっているのであろうか?

 アクマエフによれば、彼はデザインをすべてベクターグラフィックソフトで作成し、ファイバーレーザー彫刻機を用いて輪郭を刻み、作業のガイドとなる方向線を作るという。レーザーで刻まれた基本的な線を適切な深さと幅を持つ彫刻へ仕上げるには、その後さらに何度も切り込みを加える必要がある。

 図案の輪郭が文字盤に転写されると、彫刻師は素材を削り取りながら彫刻面を整えていく。この作業は複雑で、さまざまな工具を必要とする。金属を削り取るための主な工具は仏語でビュラン、英語でグレーバーと呼ばれる彫刻刀である。これは細長い鋼製の刃先と、それを保持するための丸いグリップから成る。

 この刃先は円錐形ではなく、複数の面を持つ形状をしている。先端の前面には45度に傾いた菱形の平面があり、その下側、いわゆるヒール部分が鋭く外側へ向かっている。実際に彫刻に用いられるのはこの平面の下側だけである。

 またヒール部分には小さな面取りが施されており、通常およそ0.5ミリほどの平らな面が作られている。この構造によって刃先は金属の文字盤上を滑らかに滑走し、彫刻中に引っ掛かるのを防ぐことができる。

エングレービングでは、45度の角度でビュランを用いる (Images: Vacheron Constantin)

 刃先が文字盤の上を舞うように走ると、そこにはV字形の溝が刻まれ、光と影を生み出す面が形づくられる。こうした立体的な表情が、彫刻によるインデックスを平面的な印刷文字盤や、アプライドインデックスと異なるものにしている。

 時計文字盤のエングレービングはカリグラフィにも似ており、極めて精密なコントロールを必要とする。ビュランの進む軌跡は綿密に計画されなければならず、なめらかな線と接合部を刻み出さなければならない。一つひとつの切り込みは彫刻家のノミのように金属を形作り、繊細な陰影を生み出していく。線の太さから溝の深さまで、すべての細部が作品の要素となる。

 実際の作業は極めて高度な手と目のはたらき必要とする。彫刻師はビュランを前へ押し進めながら、同時に回転台に固定された文字盤を回し、刃の進行方向を調整していくのである。

ケースの裏蓋に施されたエングレービング。

  彫刻師の工具箱に欠かせないもう一つの道具がスクレーパーである。ビュランが文字盤表面に線を刻むと、その過程でバリと呼ばれる細い金属片やめくれた縁が生じる。これらの微細な金属片は丁寧に取り除かなければならず、その際に用いられるのがスクレーパーだ。

 現代の彫刻師は、もはや自ら工具を作る必要がないという点で恵まれている。実際、鋼材の品質管理や焼き入れ工程の精度を考えると、工具を手作りするよりも工場生産のものを使う方が、コスト面でも精度面でも優れている。しかしながら、ビュランの刃を研ぐ作業は、依然として彫刻師自身が行う仕事である。

 ビュランの研磨は極めて重要な仕事であり、粗目と細目のベンチストーン、細かいルビーストーン、ルーペ、鋼棒、そして研ぎ上がった刃を試すための銅板などの道具が用いられる。刃先だけでなくヒール部分も正しく研ぐことが大切であり、ヒールが適切に整えられていないと刃の滑りが悪くなり、刃先が跳ねたり、金属を貫通してしまうこともある。

 さらに現代では、ビュランの研磨にも技術の進歩が取り入れられている。角度調整が可能な道具を用いることで、研磨石に対して刃を正確な角度で当てることができる。また、研磨旋盤や回転式の研磨ホイールと組み合わせて使用するGRS Apexといった専用治具もあり、より高い精度とコントロールを実現している。

5種類のエングレービング

 多くの人は、エングレービングといえば、まずA. ランゲ&ゾーネの時計に見られるバランスコックの彫刻を思い浮かべるかもしれない。しかしこの技法はそれにとどまらず、さまざまな技法を用いることで、文字盤やケースに多彩な表現を施すことができる、幅広い装飾技術なのである。

ツートーン仕様のケースを備えたNAOYA HIDA&CO.〈Type 1D〉。ブランドの象徴ともいえる文字盤には、手彫りによるブレゲ数字が施されている。

 #1:スタンダード・エングレービング

 まず最も一般的な技法であるスタンダード・エングレービングから見ていこう。これは金属表面に直接彫り込みを入れ、控えめでありながら長く残る印象を生み出す技法である。

 繊細な線によってシャープな文字や正確なインデックス、精緻なフローラルモチーフなどが形作られ、ネガティブレリーフ(凹彫り)による美しい表情を生み出す。

 この技法は応用範囲が広く、多様なデザインに対応できることから、多くの時計ブランドに採用されている。ただし、スタンダード・エングレービングは単一の技法というわけではなく、さまざまなスタイルが存在する。

 その一例がテクニカル・エングレービングである。これはスッキリとした仕上がりの彫刻で、明瞭さと視認性を第一に考える技法だ。数字や文字などのシンプルなものに使われ、線の太さや間隔、全体の仕上がりにおいて高い精度が求められる。いわば、金属の上で行われるカリグラフィーで、高い専門性が必要となる。

精緻な手彫り装飾が施されたヴァシュロン・コンスタンタン〈コペルニクス・セレスティアル・スフィア〉

 
 一方で、モデリング・エングレービングは芸術性を前面に押し出した彫刻である。職人の手によって金属は小さな彫刻作品へと変貌し、葉の形や質感、さらには人物像に至るまで、写実的に表現される。ここでは芸術的な自由が発揮され、小さなキャンバスの上でさまざまな挑戦がなされる。

 重要なのは、スタンダード・エングレービングが、他の多くの彫刻技法の基礎となっている点である。後に触れるレリーフ彫刻や、複数の技法を組み合わせたミックス技法なども、この基本的な技術の上に成り立っている。

#2:レリーフ・エングレービング

 レリーフ・エングレービング(バスレリーフ彫刻とも呼ばれる)は、スタンダード・エングレービングよりも手間がかかり、複雑な技法とされている。この彫刻では平らな背景から模様や文字が浮き上がるように表現される。

 工程は大きく二段階に分かれる。まず、スタンダード・エングレービングと同様に、文字盤に図柄の輪郭を彫り込む。次の段階では、その手彫りの輪郭の外側にある金属を削り取っていく。

 作業は、V字型のビュランを用いてレリーフの側面に向けて傾けながら輪郭を刻むことから始まる。これにより、片側が垂直で、もう一方が平らな傾斜を持つカットが形成される。続いて、幅の異なる平刃のビュランを使い分けながら余分な金属を取り除き、浮き上がる部分の形状を整えていく。この作業には緻密なコントロールが求められ、文字盤には深い奥行きが生み出される。

ヴァシュロン・コンスタンタン〈レ・キャビノティエ・グランド・コンプリケーション “フェニックス”〉に施された、極めて精緻な彫刻装飾。

 
 熟練彫刻師のヤスミナ・アンティは、CNCのような機械が手仕上げの前段階として余分な金属を取り除く作業を補助することは認めている。しかし、真のバスレリーフ彫刻においては人の手による表現が重要だと強調する。デザインそのものを機械に彫らせてしまえば、それはもはやハンドメイドではなく、単なるハンドフィニッシュになってしまう。

 アンティはまた、五軸CNCや3D加工といった高度な機械技術によって、極めて精巧なコピーが可能なことも認めている。しかし、この芸術は人の手だけが生み出せるニュアンスや質感に宿るものだと訴える。

 こうした懸念は、近年とくに顕著になっている、機械技術は伝統工芸の領域へと入り込んでいる。機械加工品の高い精度は認めつつも、アンティは、手仕事による情感や個性が失われてしまうことを危惧しているのだ。

#3:ライン・エングレービング

 ライン・エングレービングは、彫刻技法であると同時に、構図表現の技法でもある。深さや太さの異なる複数の細い線を用いて図像を構成する。これらの線の間隔や密度を調整することで、陰影などの視覚効果を生み出すことができる。

 線を彫り終えた後、表面は細かいヤスリやサンドペーパーで研磨され、平滑に整えられる。また場合によっては、線の溝に塗料を流し込み、輪郭をより際立たせることもある。

パテック フィリップ〈20141M-001 “ジャパニーズ・スタンプス”〉。中央の彫刻装飾には、透明エナメルが充填されている。

 #4:ハンマリングとスティップリング

 ハンマリングおよびスティップリングは、文字盤やムーブメントプレート、ケースなどの表面に無数の細かな点を生み出し、きらめくような質感を作り出すために用いられる。こうした仕上げはフロステッド仕上げと呼ばれることもある。

 ハンマリングは、ビュランとハンマーの両方を用いて行う。ハンマーを持った手でビュランの後端を叩き、金属表面に微細な点状の痕を刻んでいく。一方、スティップリングはハンマーを使わず、ビュランだけで表面を突くようにして細かな点を作り出す。

 求める質感によっては、石、ブラシ、カッターなど別の工具が使われることもある。また、空気圧式ビュランが使用されることもある。この装置は空気圧によって連続した打撃を生み出すことができる。

ヤスミナ・アンティが彫刻を手がけた、サイモン・ブレット〈クロノメーター・アルチザン・スースクリプション〉の“ドラゴン・スケール”文字盤。

#5:スカルプティング

 時計のサイズの制約からあまり多く見られる技法ではないが、スカルプティング(立体彫刻)は、おそらく最も難度の高いエングレービングの一つである。なぜなら、この技法は三次元的な彫刻だからだ。

 通常の彫刻が平らな金属表面から素材を削り取って模様を作るのに対し、スカルプティングでは金属の塊から素材を削り出し、立体的な造形物を作り上げる。こうして作られた小さな彫刻は文字盤に取り付けられ、従来の彫刻では得られない強い奥行きをもたらす。

 この技法の例としては、MB&Fの〈LM1 Xia Hang〉や、数多くのドラゴンをテーマにした時計などが挙げられる。

MB&F〈LM1 Xia Hang〉では、スカルプトされたエイリアンのフィギュアがパワーリザーブ表示に合わせてお辞儀をする仕組みが組み込まれている。

 技法の組み合わせ

 精緻な彫刻が施された文字盤では、複数のエングレービング技法が組み合わされていることも珍しくない。たとえばドゥ・ベトゥーン〈マエストリ・アート I〉の文字盤には、浮き彫りと沈み彫りの双方が用いられている。

 ドラゴンのモチーフはレリーフ・エングレービングによって表現され、雲の模様はスタンダード・エングレービングによって刻まれている。

 さらに、色彩を加えるための仕上げやインレイの技法も取り入れられている。ブラックの文字盤そのものはドゥ・ベトゥーンの専属メタルルジスト(金属の専門家)、デニス・フラジョレによって作られ、金色の部分には金線のインレイが施されている。

ドゥ・ベトゥーン〈マエストリ・アート I〉

 現代には人の手を介さずに高度なエングレービングを行う方法もある。代表的なものとして、五軸CNC機械やレーザー加工が挙げられる。とくに文字や数字のように芸術的表現よりも精度が重視される彫刻では、機械彫りと手彫りを見分けることは難しい。

 彫刻師アルトゥール・アクマエフは、その見分け方のヒントを示している。注目すべきなのは、角や稜線、つまり二つまたは三つの面が交わるポイントの形状である。もしすべての角が同一の角度と精度で完全に一致しているなら、それは機械彫刻である可能性が高い。もちろん手彫りでも完璧に近い仕上がりは可能だが、すべての角度がまったく同じ精度で揃っている場合には、機械加工が疑われる。

現代の優れた彫刻師たち

 現在、時計におけるエングレービング芸術を実践している個人や組織は、大きく三つのグループに分類することができる。

 第一のグループは、文字盤制作を専門とする工房である。その代表例がジュネーブに拠点を置くオリヴィエ・ヴォーシェで、大手ブランドから小規模な独立時計師まで幅広く文字盤を供給している。

 この工房からキャリアをスタートさせた著名な彫刻師も多く、たとえばハンネローレ・ラスはここで経験を積み、現在は夫であるクリスチャン・ラスの時計の彫刻を手がけている。

 第二のグループは、自社のメティエ・ダール工房を持つ高級時計ブランドである。ヴァシュロン・コンスタンタンやパテック フィリップは、毎年オブジェ・ダールのコレクションを発表し、精緻なエングレービングを取り入れた作品を発表している。

 また、ハイジュエリーも手がけるブランドであるピアジェやカルティエも、社内に彫刻師を抱えている。

ロンジン〈マスターコレクション 190th アニバーサリー〉は、レーザーによって深く彫り込まれたブレゲ数字を備えている。

  一部の時計師は、エングレービングをメティエ・ダールとしての装飾というよりも、時計の機能部品を装飾する手段として用いている。

 たとえば、グルーベル・フォルセイはフロステッド仕上げのムーブメントプレートで知られ、アクリヴィアはハンマー仕上げのムーブメントプレート、ロジャー・スミスは手彫りの文字盤とムーブメント、モリッツ・グロスマンおよびランゲはムーブメントのバランスコックに施されたフローラル彫刻で知られている。

 第三のグループとして、多くのブランドと協働して独創的な作品を生み出す独立系の彫刻師が存在する。

 代表的な彫刻師としては、ミシェル・ローテン・ルベテ、エディ・ジャケ、ヤスミナ・アンティ、アルトゥール・アクマエフ、クリスチャン・ティベール、ディック・スティーンマン、そして金川恵治などが挙げられる。

 こうした職人たちは世界各地に存在している。エングレービングは非常に古い芸術であり、さまざまな文化圏で受け継がれてきたからである。

ルイ・ヴィトン〈タンブール カルペ・ディエム〉は、精緻なエングレービングによって表現された頭蓋骨と、それに巻き付く蛇の立体的モチーフを備えるタイムピースである。蛇の胴体にはアニタ・ポルシェによるエナメル装飾が施され、彫刻はすべてディック・スティーンマンによって手がけられている。

 エングレービングの尽きない魅力

 エングレービングが施された文字盤がいかに美しく、またいかに高級感を湛えるものになるかを改めて説明する必要はないだろう。そこには他の装飾では得難い、圧倒的な視覚的奥行きが生まれる。しかし、エングレービングという芸術の真の魅力は、完成した美しさだけでなく、その制作行為そのものにもある。

 メティエ・ダールの文字盤装飾は、大きく二つのカテゴリーに分けることができる。第一は、完璧な加工精度を何よりも重視する装飾である。ギヨシェやマルケトリがその代表で、いずれも切削の正確さが絶対条件となる技法だ。

 第二は、優れた技術を必要としながらも、芸術的な創造性をより重視する装飾である。エナメル装飾、とりわけミニアチュール・エナメル絵画がその好例である。

 その二つの中間に位置するのが、まさにエングレービングである。彫刻には高い精度が求められ、たとえば文字盤に輪郭を刻む工程など、ある程度の反復作業も伴う。しかしそれ以上に重要なのは、職人がビュランを操り、立体的な溝を切削する工程だ。そこから生まれる彫りの線は、まるで文字盤の上で生命を得たかのように躍動する。

 だからこそエングレービングという芸術は、人間の持つ最良の資質“忍耐力”と“創造力”を引き出す営みなのである。どれほど精密な機械であっても、その本質を完全に置き換えることはできないのだ。

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