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パテック フィリップ〈カラトラバ〉ムーブメント進化の系譜

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最初期リファレンス96に搭載されたキャリバー12-120から、最新作リファレンス6119のキャリバー30-255 PSまで──カラトラバを支えてきた

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The Evolution of the Patek Philippe Calatrava Movement

パテック フィリップ〈カラトラバ〉ムーブメント進化の系譜

最初期リファレンス96に搭載されたキャリバー12-120から、最新作リファレンス6119のキャリバー30-255 PSまで──カラトラバを支えてきたムーブメントの変遷を振り返る。

by Cheryl Chia. Mar 11,2025

モダニズムを宿した時計

 85年以上にわたり、パテック フィリップの〈カラトラバ〉は、時刻表示のみのドレスウォッチの規範として広く認められてきた。誕生したのは、1932年。世界恐慌によって価値観が大きく揺らぎ、ジャンとシャルルのスターン兄弟が経営権を握った直後であった。パテック フィリップに新時代をもたらした一本である。

 先行する時代の華美なスタイル(典型例がゴンドーロに見られる意匠)とは対照的に、カラトラバはラウンドケースでありながら新時代のデザイン哲学を宿していた。それはモダニズム、とりわけバウハウス的思想で、“Less is more(少ないことは豊かである)”、“Form follows function(形態は機能に従う)”といった哲学である。

 そして、エレガントかつミニマルという基本を守りながらも、カラトラバは年代ごとに、文字盤からケースサイズに至るまで、数多くの違いがある。そしてまた、ムーブメントも大きな変化を遂げてきたのである。

パテック フィリップ〈カラトラバ〉Ref. 96(1936年頃/Image:Bonhams)

 カラトラバのムーブメントの系譜をたどっていくと、それらの設計には、形態と機能が相互に作用し合う“再帰的ループ”のような、一貫した思想に貫かれていることがわかる。

 最初期の12リーニュ手巻きムーブメントCal. 12”’SC、12”’400、12”’120 から、ブランド初の自動巻きである12-600AT、極薄自動巻き240、そして最新のクル・ド・パリRef. 6119に搭載された30-255に至るまで、その進化は必然でありながら革新的でもあった。

▲  左:キャリバー 12-600AT(Image:Christie’s) 右:キャリバー240

▲  Ref. 6119G カラトラバ。“クル・ド・パリ”として知られるギヨシェ彫りのホブネイル・パターンを特徴とする。

 この一連のムーブメントは、時計づくりの進歩―センターセコンドから自動巻き、薄型化、そして高性能化へと至る道筋を包括的に振り返るアーカイブとしての役割も果たしている。

 とりわけパテック フィリップにおいては、こうした探求が、比類なき美意識を持って行われている。今日私たちが理解する“ドレスウォッチ用ムーブメント”という概念は、パテック フィリップが形作ったといっても過言ではない。

黄金期の手巻きムーブメント

 カラトラバの最重要モデルであるRef.96が発表されたのは1932年のことだ。ケース径31mm、厚さ9mmという小ぶりな時計だった。

 当時、パテックはル・サンティエにあるジャガー・ルクルト製ムーブメントに依存しており、最初の2年間に製造されたカラトラバには12リーニュ(27.1mm)のルクルト製ムーブメントが搭載されていた。

 その後、社内体制の刷新が進むなかで、スターン家は時計師であり時計学者でもあったジャン・フィスターを技術ディレクターに任命する。フィスターはパテック フィリップの自社開発能力の確立を目指し、彼の下で最初に開発されたムーブメントがキャリバー12”’120(12リーニュ120)であった。

 このムーブメントは1934年から1973年まで製造された、以後のすべてのRef.96に搭載され、初代カラトラバの歴史を支える屋台骨となった。

1932年に登場したパテック フィリップを代表する初代カラトラバRef. 96。

自社製キャリバー 12”’120(Image:Bukowskis)

 キャリバー12”’120は、伝統的なジュネーブ様式のアーキテクチャを特徴とし、同社が懐中時計で築き上げてきた評価を継承することを目的として設計された。

 当時のムーブメントに多く見られるように、12’’’120もスモールセコンドを備える構成で、1分間に1回転する4番車を6時位置に配置し、そこから秒針を直接駆動する方式が採用されていた。

 この伝統的レイアウトは、可動部品を同一平面上に広く配置できるため、ムーブメント内部の空間効率を最適化する。脱進車と4番車はそれぞれ専用のブリッジによって保持され、ムーブメント全体にわたって伸びる細長い独立ブリッジが2番車と3番車を支える構造となっている。

キャリバー 12-120 の輪列(ホイールトレイン)レイアウト。

 懐中時計に由来するこのフィンガー・ブリッジ構造は、20世紀初頭の手巻きムーブメントにおける原型的なデザインであった。

 フルプレートや3/4プレートのムーブメントとは異なり、複数のブリッジで輪列を保持する設計は、各部品への視認性とアクセスが良好で、整備性に優れる。同時に、ブリッジの配置やエッジの増加が装飾表現を豊かにするため、美観を追求しやすい構造でもある。

 このようなマルチブリッジ構造は製作に手間がかかり、一部の高級時計以外、クォーツ危機後のコスト削減の波で姿を消すこととなった。

 キャリバー12’’’120に見られる注目すべきディテールとしては、脱進車を支えるコック上の黒鏡面仕上げのスチールプレート(ブラックポリッシュ)、官能的な面取り(アングラージュ)と鋭い内角を可能にするブリッジ形状が挙げられる。

鋭い内角を備えたメインブリッジのクローズアップ(Image:Phillips

 このムーブメントは、慣性調整用のビスを備えたテンプの上に、スワンネック型微調整機構を装備している。

 テンプを支えるテンプ受けには、キャップジュエルを固定するための2本のネジで保持された、大きな円形のハブが設けられており、この広い面がブラックポリッシュを施すための理想的なスペースとなっている。

 こうした設計は、ショックアブソーバーが普及する以前の懐中時計でよく見られた伝統的な構造である。

 1932年、パテックはキャリバー12’’’400を発表した。これは基本的には12’’’200とよく似た構造であったが、レギュレーターのデザインが変更された点、テンプに耐震サスペンションが追加された点が大きな違いであった。

パテック フィリップ キャリバー 12-400(Image:Vintage Gold Watches London)

キャリバー 12-400 を搭載した、同ブランド初の量産型耐磁時計Ref. 3417(Image:Phillips)

  このムーブメントは後に、1958年に登場したブランド初の量産型耐磁時計Ref.3417に採用された。

 その後1960年には ジャイロマックス・テンプやベリリウム、デュオクロームといった耐磁性素材が追加され、ムーブメントは27-AM-400(AM=Anti-Magnetic:耐磁)という名称へとアップグレードされた。

 センターセコンドの探求

 当時、パテック フィリップが取り組んでいた最も興味深い課題のひとつが、センターセコンドを実現することだった。

 今日では腕時計の当たり前となっているセンターセコンドだが、当時のムーブメントは スモールセコンド(6時位置の小秒針)を前提に設計されており、輪列は6時位置で終点を迎え、そこから直接秒針を駆動する方式だった。

 パテック フィリップの12リーニュ・ムーブメントは発展し、1939年に12-120 HU、1940年に12”’120 SC(SC=センターセコンド)が誕生した。これはRef.96のほか、Ref.565やRef.570にも採用された。

 このムーブメントには、ル・サンティエの高級ムーブメント工房ヴィクトラン・ピゲが製作した間接駆動式センターセコンド機構が組み込まれていた。これは、時計史において最も初期のセンターセコンド搭載ムーブメントのひとつとされる。

間接駆動式センターセコンドを搭載したカラトラバ Ref.565(Image:Phillips)

精巧かつ複雑な間接駆動式センターセコンド機構を組み込んだキャリバー 12-120 SC(Image:Antiquorum

  外観としてはクロノグラフに似ており、この機構は6時位置の4番車から駆動される3つの追加ギアで構成されていた。これらのギアは輪列の上側に配置され、秒針を再び中央へ戻すための役割を果たす。

 この方式は現在、間接式センターセコンドを実現するための標準的な手法として定着しているが、ヴィクトラン・ピゲが設計した仕組みはとりわけ精巧で、中間車を支えるために 支点を持ったピボットレバーが使われるなど、非常に高度なセットアップとなっていた。

 間接駆動式の輪列を持つムーブメント(クロノグラフを含む)では、歯車同士の遊びによって、秒針がわずかに震える現象がおきる。これを防ぐために、右側に見えるテンションスプリングとピボットレバーが用いられ、適度な圧力を加えることで歯車の噛み合いを安定させている。

 1949年、パテックは27 SCを発表した。これは直接駆動式のセンターセコンドを備えた非常に巧妙なムーブメントである。

 現代のムーブメントでは、秒針を中央から直接駆動するため、4番車をムーブメント中央に置く設計が一般的だが、その場合、分針を駆動する2番車がセンターから外れてしまう。

 そのため、分針を再び中央に戻すには、追加の輪列(多くは3番車から動力を取る)が必要 となる。

 理論的には、秒を間接駆動するより分を間接駆動する方が効率的である。なぜなら、

4番車は輪列で最も高速回転し、かつトルクが最も小さい歯車なので間接駆動でロスが生じやすいが、分針側はより大きなトルクを扱うので間接駆動でも安定しやすいからだ。

 しかし、どちらの方式でも、追加の補助輪列はムーブメントの厚み増加につながる

ことを覚えておくべきだ。

カラトラバ Ref.570 に搭載されたキャリバー 27 SC(Image:A Collected Man)

  しかしパテック フィリップは27 SCにおいて、これら2つの方式の欠点をいずれも回避するため、秒を担う4番車と分を担う2番車を、同じ中央軸上に同軸で積み重ねるという構造を採用した。これにより秒針・分針のどちらも中央で直接駆動されることが可能になった。

 この方式も、前述のいずれの手法と同様に、ムーブメントの高さが増すという代償を伴う。

実際、6時位置から8時位置にかけてブリッジが高く盛り上がっていることからも、その影響が見て取れる。

 しかしこの設計は、追加の輪列が不要。その結果、バックラッシュ、テンションスプリング、摩擦増加といった副作用・対策一式も不要という大きな利点をもたらした。

 さらに、この巧妙な構造によって、ムーブメントは12-120が持っていた美しい基本アーキテクチャ(フィンガーブリッジ構造)をそのまま維持することができた。

キャリバー 27 SCは、2番車(分針駆動)と4番車(秒針駆動)を中央に配置することで、秒針・分針の双方を直接駆動している(Image:A Collected Man)

ランドマークとなった自動巻き

 1952年、パテック フィリップはブランド初となる自動巻きムーブメント、キャリバー 12-600 AT(AT=automatic winding:自動巻き)を、記念碑的モデルRef.2526において発表した。

 この時計が特筆される理由は、パテック フィリップが当時誇った三つの技術革新を一つの時計に統合したことにある。自動巻き機構、ジャイロマックス・テンプ、防水ケースである。

 Ref.2526は、後に続くパテックの自動巻きドレスウォッチの基準を確立したランドマークとして位置づけられている。

ブランド初の自動巻きムーブメント12-600 ATを搭載した記念碑的モデルRef.2526(Image:Phillips

精巧に構築されたキャリバー 12-600 AT。

  キャリバー12-600 ATは、その卓越した構造設計および仕上げにおける完成度の高さから、史上最も優れ、精巧に作られた自動巻きムーブメントのひとつと評価されている。

 1931年にロレックスが発表した初代パーペチュアル・ムーブメントとは対照的に、12-600 ATはパテックの手巻きムーブメントに用いられてきた伝統的なフィンガー・ブリッジ構造を保持していた。

 この構造は、自動巻き機構の普及とともに、多くのブランドで姿を消していった。理由は、ローターを収めるためにブリッジや輪列を再配置する必要があったこと、そしてスポーツウォッチの台頭に伴い、剛性を確保するため大きなブリッジが求められるようになったことである。

 加えて本機には、美しい手彫りのエンジンターン模様(ギヨシェ)が施された18K金無垢ローターが搭載されている。

 さらに、当時存在した他の自動巻き方式との差別化を図るため、パテック フィリップは 極めて複雑かつ効率性の高い巻き上げ機構を開発した。

 その中心となるのはローターで駆動される偏心車である。この偏心車は2本のロッカーアームを動かし、ロッカーの先端に取り付けられた2つの爪がラチェットホイールの歯と噛み合うことで、主ゼンマイを巻き上げる仕組みになっている。

 興味深いことに、ジャイロマックス・テンプとスワンネック型レギュレーターが並行して使用されている。

 おそらく、パテック フィリップ独自のフリースプラング式テンプ=ジャイロマックスがまだ登場したばかりで、長期的信頼性のデータが不足していたため、単独で採用するのはリスクがあり、過渡期としてスワンネックを併用したと思われる。

 1951年に登場したジャイロマックスは、一端を重くした切り欠き付きの回転式ウェイトが外周に取り付けられているのが特徴で、その重い側を外向きにすることで慣性を増すことができる。

 さらに驚くべきことに、このテンプにはブレゲひげオーバーコイルも組み合わされている。これらは当時として非常に高度な仕様であり、同一ムーブメント内で併用されることは極めて稀だった。

 複雑な自動巻き機構についても改良が重ねられ、後に伝説的なキャリバー27-460が登場する。この改良版では、ローター支持部のルビー軸受からボールベアリングへの変更、ひげゼンマイ固定部の調整可能なスタッドホルダーといったさらなる洗練が施された。

 そしてこのムーブメントにおいて、ジャイロマックスは、独立した方式として単独で使用されている。

超薄型手巻きの時代

 機能性とスタイルを融合させるという当時の熱気は、1950〜60年代にかけて超薄型時計のブームを生み出した。これに対するパテック フィリップの回答が、1965年に発表されたカラトラバ Ref.3520である。

 Ref.3520はクル・ド・パリ・ベゼルを特徴とし、発売当時は“世界で最も薄い防水時計”として宣伝されていた。

特徴的なクル・ド・パリ・ベゼルを備えた超薄型カラトラバ Ref.3520(Image:WatchBox

 25年間にわたる生産期間の中で、このモデルには当初キャリバー175が、そして1969年以降にはキャリバー177が搭載された。

 いずれのムーブメントも、超薄型かつコンパクトなフレデリック・ピゲ、キャリバー21をベースとしている。

 このキャリバー21は、腕時計黎明期に誕生した原型的な超薄型手巻きムーブメントであり、その優れた設計から、カルティエからロレックスに至るまで、実に幅広いブランドによって採用・改良されてきた。

名機として知られるフレデリック・ピゲのキャリバー21を基盤としたパテック フィリップ キャリバー177。

 このムーブメントの直径は9リーニュ(20.30mm)、厚さは1.75mmまたは1.77mmであった。2mm未満という極薄でありながら、構造はきわめて伝統的で堅牢、さらに審美性にも優れた仕上がりである。

 ムーブメントのパワーリザーブはおよそ42時間。キャリバー175ではジャイロマックス・テンプが2.5Hzで駆動し、キャリバー 177ではより現代的な3Hzへと引き上げられている。

主力手巻きムーブメント

 1975年、パテック フィリップはキャリバー215を発表した。このムーブメントは10リーニュ径(22.5mm)で、12-120や23-300をはじめとする一連の10リーニュ系ムーブメントの後継として設計されたものである。

 215 PSは現在に至るまで カラトラバの中心的ムーブメントとして使われ続けており、

Ref.3960、Ref.3919、Ref.5196、Ref.5116、Ref.5119といった数々の代表的リファレンスに搭載されている。

1989年、創業150周年を記念して発表された、オフィサーズケースを備えるRef.3960 (Image: Christie’s)

キャリバー 215 PSは、現代のカラトラバの多くのモデルに搭載されている。

  キャリバー 215では、さらなる精度の向上に重点が置かれていた。登場当時、このムーブメントは4Hzで駆動するジャイロマックス・テンプを初めて採用しており、従来の3Hz以下の振動数に比べて、衝撃に対するテンプ運動の安定性が大幅に改善された。

 さらに、44時間という十分なパワーリザーブも確保しており、高振動化と実用性を両立させている。

 輪列の配置そのものは12-120とほぼ同じだが、ブリッジの形状と構成は、もはや当時ほど複雑ではない。

 2番車と3番車の上部軸受を支えるフルブリッジは、かつてのような凝った輪郭ではなく、鋭い内角を伴わない、よりシンプルな形状へと改められている。

 さらに、4番車と脱進車を支えるブリッジは、従来のように個別のフィンガーブリッジを与えるのではなく、共通のブリッジにまとめて支持される設計となった。

 とはいえ、このムーブメントはコストを抑えつつ、性能と審美性の均衡という難題を見事に両立させている。これはクォーツ危機によってもたらされた大きな変化を反映している。

 この時代以降、ムーブメント設計の“ゲームのルール”は刷新され、美観よりも精度や耐久性がより重視されるようになったのである。

 主力自動巻きムーブメント

 2006年、パテック フィリップはRef.5296を発表した。このカラトラバはRef.96に着想を得ながらも、現代的ニーズに応えるべく再解釈されたモデルである。

 搭載ムーブメントは、自動巻きの主力となったCal.324 SCである。このムーブメントは 間接駆動のセンターセコンドとデイト表示を備えている。

 Cal.324 SCはCal.315の後継機にあたり、2007年から2019年までの期間、ノーチラスの大半のモデルを駆動したことでも知られている。

38mmケースに、センターセコンドとデイト表示を備えたRef.5296 R。

パテック フィリップ キャリバー 324 SC。

  パテックの初期の自動巻きムーブメントと比べると、この系統のキャリバーはより実用性を重視した設計を採用しており、大きなブリッジ構造を持つことから、より堅牢な時計に搭載されることが多い。

 直径27mmのキャリバー324には、ブランドの現在持てる技術がすべて盛り込まれている。4Hzで駆動するジャイロマックス・テンプや、それに組み合わされるスピロマックスひげゼンマイ(シリコン製)などである。

パテック フィリップのカラトラバに搭載される324 SCは、追加の歯車を一切用いることなく、間接駆動のセンターセコンドを実現する巧妙な仕組みを備えている。

  キャリバー315と同様に、324も間接駆動のセンターセコンドを採用している。しかし、324がセンター秒を実現する方法は特筆に値する。なぜなら、補助輪列を一切必要としないからである。

 このムーブメントでは、3番車が中央のピニオン(秒針軸)を直接駆動する仕組みになっている。さらに、通常センターに位置するはずの4番車が中心には存在せず、裏蓋側から見るとローターハブの10時方向に配置されている。

 これにより、ムーブメント中央のスペースが空き、自動巻きの巻上げ機構を中心部に配置できる。結果として、ムーブメントはわずか3.3mmという薄さを実現している。

 なお、3番車は秒針だけでなく、文字盤側の分針輪も駆動している。

超薄型自動巻き

▲ 超薄型の自動巻きムーブメント、キャリバー 240

 1977年に発表された、美しい自動巻きムーブメント、キャリバー240は、現代カラトラバの中でもとりわけ個性的なモデルである6000/6006Gにおいて、その実力を発揮している。

 キャリバー240は5120をはじめとする他のカラトラバにも搭載されてきたが、この6000/6006Gこそが、ムーブメントが持つ現代的な性格をダイヤルデザインにまで反映させ、

全体の統一感が表現されたモデルといえる。

Ref.6006 G 。現代カラトラバの中でも、とりわけ個性が際立つ一本。

  キャリバー240は、クォーツ危機のさなかに“クォーツの精度をも凌駕する、機械式ならではの工学的エレガンスを示すこと”を目的として開発された。厚さはわずか2.53mmしかなく、手巻きの215 PSよりもさらに薄い。

 この薄さを保つため、ローターは22K無垢金が採用され、十分な慣性モーメントを確保している。また、ローターは一方向巻上げ方式を採用しており、逆転車を不要とすることで摩擦を減らし、耐久性を高めている。

 キャリバー240が、当時の他のマイクロローター式ムーブメントと決定的に異なっていた点は、極めて優雅なアーキテクチャ(配置設計)にある。

 自動巻き機構の歯車系、香箱、輪列、そしてテンプに至るまで、ムーブメントの片側に“弧状”に配置されており、その結果、オフセンターのマイクロローターを、同一平面上に収めるスペースが生まれている。

 この高度に整理されたレイアウトこそが、キャリバー240が機械式ムーブメント史における名作と評価されている理由である。

 とりわけ注目すべきは、分針を直接駆動するためにセンターホイールを中央に置く一般的な構造を採らず、キャリバー240ではセンターホイールが左側にオフセットされている点である。

 これは、より大型のローターを収め、歯車の重なりを最小限にし、ムーブメント全体の厚みを抑えるための設計である。

 この構成では、2番車のピニオンが文字盤側のミニットホイール(分針輪)を駆動し、

その分針輪がカノンピニオンを回す。つまり、センターホイールが直接カノンピニオンを回す通常のムーブメントとは異なる方式が採られている。

 こうした弧状の輪列レイアウトの結果、秒針が取り付けられる4番車は裏蓋側から見て“8時位置”という非常に珍しい場所に配置される。そのため、6000や6006のような例外的なモデルを除き、多くのキャリバー240搭載モデルでは秒針が省略されている。

 自動巻きキャリバー240は登場以来、多方面に応用されてきたものの、基本構造は今も当初の設計を踏襲している。振動数は3Hzで、現在は等時性を高めるスピロマックスひげゼンマイを採用。また、輪列の歯形も改良され、摩耗が減ったことで48時間のパワーリザーブと長期的な信頼性を得ている。

高性能手巻きムーブメント

クル・ド・パリ装飾を施したRef.6119R。39mmケースに、秀逸なキャリバー30-255 PSを搭載する。

 パテック フィリップが長年にわたり培ってきたムーブメント設計の専門技術は、Ref.6119 に搭載されたキャリバー30-255 PSに結実した。

 このムーブメントは、芸術性と工学的合理性が融合した存在であり、技術面でも視覚面でも、まさに傑作と呼ぶにふさわしい。

卓越した設計を誇るキャリバー30-255 PSは、ダブルバレルと、驚くほど大きな慣性を備えたテンプを特徴とする。

  このムーブメントの厚さは2.55mmで、215 PSと同じ薄さを実現しているが、直径は13.7 リーニュ(30.9mm)と大きく設計されており、その分、並列配置のダブルバレルを収めることが可能になっている。

 通常、パワーリザーブ延長を目的とした直列接続の香箱とは異なり、並列配置の香箱の目的は、より大きく安定したトルクを得ることにある。さらに、各香箱に蓄えられるエネルギーが半分になるため、香箱自体を薄く作ることができるという利点もある。

 今回のムーブメントでは、パテック フィリップの他のムーブメントと比べて振動数も慣性モーメントも高いテンプを駆動するために、より強いトルクが必要とされた。

 テンプは毎時 28,000 振動(4Hz)で駆動し、その慣性モーメントは10 mg/cm²。これは同社の他の4Hz テンプの2倍に相当する数値である。

 このように、強力なテンプ慣性と65時間のパワーリザーブを、2.55mmの薄さの中で両立させている点は特筆すべき成果であり、キャリバー30-255 PSの設計がいかに優れているかを物語っている。

 ムーブメントの厚みを抑えるため、極めて小さな中央ピニオンが分針を駆動している。

これにより、歯車の重なりが最小限になり、歯車を同一平面上に広く配置することで、

ムーブメント内部の水平方向のスペースを最大限に活かしている。

 この中央ピニオンは、さらに中間車を介して本来のセンターホイールを駆動する構造となっている。

 ムーブメントの薄さを保つだけでなく、小型でソリッドなこの2つのピニオンは、高トルクに対しても理想的な構造となっている。事実、これらは香箱の直後に位置する“実質的な大径輪(グレートホイール)”の役割を果たしている。歯車のスポーク形状は輪列が進むにつれて順に変化し、3番車・4番車が最も薄く軽量となる。

 さらに驚くべきことに、ムーブメントにはストップセコンド機構も組み込まれている。輪列の外周に沿って配置された2本のピボットレバーによって構成され、正確な時刻合わせが可能となっている。

 加えて、複数のブリッジやコックが入り組むように連なることで、ムーブメントは視覚的にも極めて美しく、高性能と優れたデザインを両立させた模範的な作品となっている。

※本記事は、もともと2021年9月8日に作成されたものです。

Brands:Patek Philippe

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