ランゲ&ゾーネの数あるコレクションのなかでも、ブランドの歴史と美学を最も純粋に体現した存在だ。
A Retrospective On The A. Lange & Söhne 1815 Collection
A.ランゲ&ゾーネ〈1815〉コレクションの30年を回顧する
A.ランゲ&ゾーネの数あるコレクションのなかでも、〈1815〉はブランドの歴史と美学を最も純粋に体現した存在だ。1995年の誕生以来、シンプルな三針時計から超複雑機構までを包み込みながら進化を続けてきた。その30年の歩みを振り返る。
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by Troy Barmore . Mar 25, 2025 |
ドイツを代表する時計ブランド、その“顔”
A.ランゲ&ゾーネの物語は、ドイツ・ザクセンにおける時計産業の歴史そのものである。宮廷に仕えた何人か時計職人はいたものの、私たちが“近代史”として語る物語は、1815年にフェルディナント・アドルフ・ランゲが誕生した年から始まる。
この年を起点に210年にわたる歴史が紡がれ、現在の高級時計においてランゲが頂点のひとつとして位置づけられる世界へとつながっていく。
A.ランゲ&ゾーネの6つのコレクションの中でも、フェルディナント・アドルフ・ランゲの生年にちなんで名付けられた〈1815〉コレクションは、とりわけ伝統的かつ魅力的な存在である。
このコレクションは、ブランドが復興を遂げた1990年に初めて構想された。古典的な時計美学が凝縮されており、精緻で控えめ、そしてエレガントである。均整の取れたデザインは、そのピュアさから生まれる美を宿す。
アラビア数字がダイヤルの外周を巡り、その外側には線路のようなレイルウェイ・ミニッツスケールが配される。視認性向上のために施された洗練されたディテールが、この時計の魅力をさらに高めている。

▲ 百年を隔てたダイヤルの比較( Image: Langepedia)
過去30年にわたり、このコレクションはランゲの長い歴史の中でも、とりわけ名作の数々を生み出してきた。純粋な時刻表示のみのシンプルなモデルから、驚くほど複雑な機構を備えた作品に至るまで、そのラインナップは壮観である。
そして、1815という“清廉なキャンバス”は、コレクターと時計師の双方にとって、変わらぬインスピレーションの源となり続けてきた。 ゆえに、このコレクションが30年という節目を迎えるにあたり、特に記憶すべきモデルを振り返ってみたい。
1995年〈1815〉のデビュー
A.ランゲ&ゾーネの復活は、1994年、ドイツ・ドレスデンのレジデンツ城(王宮)において、盛大な喝采とともにその幕を上げた。デビュー時は〈ランゲ1〉〈トゥールビヨン プール・ル・メリット〉などが発表された。
1815シリーズが披露されたのは翌1995年のことであった。コレクションの中心的存在となったこの1815は、クリーンかつスタイリッシュなタイムピースであった。
35.9mmというケース径に収められた手巻きキャリバーL941.1もまた、同様に控えめな佇まいを見せる。しかし、そこにはグラスヒュッテが誇る、独自の仕上げ技術が惜しみなく注ぎ込まれていた。

▲ A.ランゲ&ゾーネ〈1815〉ホワイトゴールド。

▲ 1815のムーブメントは、A.ランゲ&ゾーネの哲学を最も純粋に体現した手巻きキャリバーである。その設計の随所に、かつての懐中時計黄金期を彷彿とさせる意匠が息づいている。
数年後、1815はそのストイックなまでの簡潔さと優れた視認性——時・分、そして6時位置のスモールセコンド——を維持しながらも、サイズと性能の両面において再定義されることとなった。
時代の潮流に合わせ、ケース径は40mmへと大型化。それに伴い、パワーリザーブも45時間から55時間へと引き上げられ、実用性が大きく向上したのである。

▲〈1815〉ピンクゴールド。ブランド創業者フェルディナント・アドルフ・ランゲの生誕年に由来する、A.ランゲ&ゾーネの原点ともいえるタイムピースだ。
〈1815 アップ/ダウン〉
1997年、1815シリーズに〈1815 アップ/ダウン〉が加わった。スモールセコンドを4時位置へと移し、それと対をなす8時位置にパワーリザーブ表示を配置。凛とした対称美の意匠である。
1815という名がブランドの歴史を象徴する一方で、このUP/DOWN(アップ/ダウン)表示は、1879年にランゲがその特許を取得した懐中時計の系譜を色濃く反映している。

▲ 1815 アップ/ダウン ホワイトゴールド。1879年に特許を取得した伝統のパワーリザーブ表示AUF/AB(アップ/ダウン)を継承する、ブランド屈指の人気モデルである。
1815 アップ/ダウンは、数々の変遷を経てもなお、機能的で不可欠な情報の組み合わせを維持し続けている。それは“実用性”が最優先された時代への回帰である。
いかに優れた時計技術の粋を集めた傑作といえども、突き詰めればそれは第一に「時を刻む道具」であった。ゆえに、このモデルが提示するのは、根本的に必要な情報のみであり、それ以上でもそれ以下でもないのである。

▲ 1815 アップ/ダウン ピンクゴールド。18Kピンクゴールドの温かな輝きが、懐中時計の黄金期を彷彿とさせる気品高きモデルである。
〈1815 オートマティック〉
2004年、1815シリーズに大きな転換点が訪れる。それまで手巻きのみであった同シリーズに、初となる自動巻きモデルが加わったのだ。
搭載されたのは、伝説的なマイクロローター式ムーブメントSAX-0-MAT(サクソマット)。3/4サイズに設計されたローターにより、ハンドエングレービングが施されたテンプ受けなど、ムーブメントの精緻な意匠を遮ることなく堪能することができる。
また、実用性を追求した“ゼロリセット機構”も特筆に値する。リューズを引くと同時にスモールセコンドが瞬時にゼロ位置へ戻るこの機能は、時計の時刻合わせに便利である。

▲〈1815 オートマティック〉イエローゴールド。2004年に発表されたこのモデルは、1815シリーズで初めて自動巻きムーブメントを搭載した記念碑的な一作である。
〈1815 クロノグラフ〉
1999年、スイス時計業界を震撼させた〈ダトグラフ〉の興奮が冷めやらぬ中、〈1815 クロノグラフ〉は誕生した。ダトグラフと同じく、フライバック機能とプレシジョン・ジャンピング・ミニッツカウンター(秒針が60秒を刻んだ瞬間に、分カウンターが「パチッ」と1目盛り分ジャンプする)を備えたムーブメントを搭載している。
特筆すべきは、ダトグラフの象徴であるアウトサイズデイトをあえて排した点にある。それにより、ダイヤルレイアウトはより一層の調和と静謐さを獲得した。

▲〈1815 クロノグラフ〉Ref. 414.031 / 414.026 ダトグラフからアウトサイズデイトを排し、純粋に「計測機」としての美しさを追求したモデルである。パルス計(拍動計)スケールを備えたクラシックなダイヤルデザインが特徴となっている。
数年の歳月をかけ、細かなデザイン変更と進化を繰り返した末、1815 クロノグラフはついに完成形へと到達した。
最新の仕様では、60時間のパワーリザーブを誇る改良型の手巻きムーブメントを搭載。ダイヤルの外周にはパルス計(拍動計)スケールが刻まれている。
多くの愛好家から「史上最も美しく、洗練されたクロノグラフの一つ」と称されるこの1815 フライバック・クロノグラフは、今やランゲのカタログにおいて欠かすことのできない存在である。

▲ キャリバー L951.5 は、A.ランゲ&ゾーネの〈1815 クロノグラフ〉に搭載されている、世界最高峰の手巻きクロノグラフムーブメントである。
〈1815 ラトラパント・パーペチュアルカレンダー〉
1815シリーズには、これまでカレンダーウィークやアニュアルカレンダー、ムーンフェイズといった暦に関する複雑機構がいくつか存在してきた。しかし、その頂点に君臨するのは、間違いなくこの〈1815 ラトラパント・パーペチュアルカレンダー〉である。
本モデルの最大の特徴は、クロノグラフ用とラトラパンテ(スプリットセコンド)用にそれぞれ独立した、二つのコラムホイールを備えた伝達機構にある。この時計製造技術の粋を集めた傑作は、さらにパーペチュアルカレンダーとムーンフェイズをも統合している。そのカレンダーの精度は、西暦2100年まで調整を必要としない。

▲〈1815 ラトラパント・パーペチュアルカレンダー〉ピンクゴールドRef. 421.056FE 2023年に発表されたこのモデルは、ランゲが誇る二つの高複雑機構——ラトラパント・クロノグラフと永久カレンダー——を見事に融合させた、現代屈指のグランド・コンプリケーションである。

▲ 伝統的なレイルウェイ・ミニッツトラック、アラビア数字、そして4つのサブダイヤルの完璧な調和。このダイヤルこそが、1815ウォッチファミリーの本質を象徴している。カレンダー機構の修正が必要になるのは、今から数十年後の2100年3月1日のことである。グレゴリオ暦の規定により、この年は閏年(うるうどし)が省略されるため、1日分だけ手動での更新を要する。
2013年にピンクゴールドとプラチナのモデルが初めて発表され、その後、2017年には、目を見張るようなハンドヴェルクスクンスト(Handwerkskunst)モデルが限定発表された。
これはホワイトゴールドのダイヤルに、ブルーのエナメル塗装と浮き彫りを施した、工芸品と呼ぶに相応しい逸品である。
さらに2023年には、ホワイトゴールドのケースにピンクゴールド無垢のダイヤルを組み合わせたエディションが、わずか100本限定で製作された。

▲ 〈1815 ラトラパント・パーペチュアルカレンダー〉プラチナRef. 421.025FE 2013年のデビュー時に発表された、本シリーズの最高峰に位置するプラチナ仕様のモデルである。
〈トゥールビヨン “プール・ル・メリット”〉
1994年に発表された機械式時計における金字塔である。最大の特徴は、ムーブメントに搭載された“チェーンフュジー(鎖引き)”機構にある。
その繊細な美しさもさることながら、この機構は主ゼンマイが解ける際のトルクを均一に保つ役割を果たす。その結果、36時間のパワーリザーブ期間を通じて、常に一定のエネルギー伝達と高い精度を実現している。

▲ 〈1815 トゥールビヨン “プール・ル・メリット”〉プラチナRef. 701.005は、ランゲ復活の象徴として1994年に発表された、同社の現代史を象徴する最重要タイムピースである。
〈トゥールボグラフ “プール・ル・メリット”〉
1815 トゥールビヨンをも凌駕する、ランゲの技術力の集大成ともいえるモデルである。世界で最も複雑かつ魅惑的なタイムピースの一つとして数えられる本作は、キャリバー L903.0 を搭載している。
このムーブメントは、動力伝達を均一にする“チェーン・フュジー(鎖引き)”、重力の影響を補正する“1分間トゥールビヨン”、そして高度な計測を可能にする“ラトラパント(スプリットセコンド)・クロノグラフ”という三つの複雑機構を統合している。

▲〈トゥールボグラフ “プール・ル・メリット”〉プラチナRef. 702.025F。2005年に発表されたこのモデルは、ランゲ&ゾーネの復活後における技術的到達点を示す傑作である (Image: Sotheby’s)

▲ キャリバー L903.0 は、1815 トゥールボグラフ “プール・ル・メリット” の心臓部であり、時計製造における“小宇宙”と称されるほどの圧倒的な密度を誇る (Image: Sotheby’s)
〈トゥールボグラフ・パーペチュアル “プール・ル・メリット”〉
複雑機構の組み合わせがこれ以上増えて収拾がつかなくなる前に……ということだろうか。〈トゥールボグラフ・パーペチュアル “プール・ル・メリット”〉は、2017年に発表された後、2020年にもフェルディナント・アドルフ・ランゲ生誕175周年を記念した“F. A.ランゲへのオマージュ”エディションとして再び登場した。どちらのモデルも、製作数はわずか50本という希少な限定品である

▲ 左:A.ランゲ&ゾーネ〈トゥールボグラフ・パーペチュアル〉ハニーゴールド “F. A.ランゲへのオマージュ” 18Kハニーゴールド製Ref. 706.050FE 右:〈トゥールボグラフ プール・ル・メリット〉プラチナ製Ref. 706.025FE
〈1815 グランド・コンプリケーション〉
A.ランゲ&ゾーネの時計製造における卓越した手腕を表現しようと、次から次へと最上級の言葉を並べ立ててみたところで、語彙が限界を迎え、単なる誇張に聞こえ始めてしまうのは時間の問題だ。だが、このグランド・コンプリケーションを論じるにあたっては、あえてもう一度、その禁じ手を使わざるを得ない。
これこそが頂点であり、いわば時計界という山の頂(いただき)である。2013年にわずか6本のみが製作されたこのタイムピースは、時計製造における金字塔といえる。

▲ A.ランゲ&ゾーネ〈1815 グランド・コンプリケーション〉18Kピンクゴールド製Ref. 912.032F
5つのパーツを精巧に組み合わせたエナメル文字盤は、その下に隠された驚くべき複雑さを、静かに、しかし誇らしげに物語っている。
この時計には、グランド・ソヌリやプチ・ソヌリ、ミニッツリピーターといった音の機構に加え、分積算計とフドロワイヤント(稲妻秒針)を備えたスプリットセコンド・クロノグラフ、さらには永久カレンダーやムーンフェイズまでが詰め込まれている。
これほどの複雑さと、それを形にするための熟練した技術は、もしランゲというブランドの圧倒的な実力がなければ、信じることすら難しいレベルにある。
200年以上にわたる時計作りの英知をたった一つの作品に凝縮したグランド・コンプリケーション。それは、1815というモデルが、あらゆる時計の理想を形にするための、最高のキャンバスであることを証明しているのだ
Brands:A. Lange & Söhne
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