ロレックスが公式に〈レインボー デイトナ〉を発表する約20年も前に製作された、唯一知られる“レインボー・ゼニス・デイトナ”が、2024年11月、ジュネーブで開催されるフィリップスのオークションに登場した
A Closer Look: The Only Known Rolex ‘Rainbow Zenith’ Daytona
伝説の1本、ロレックス“レインボー・ゼニス・デイトナ”とは
ロレックスが公式に〈レインボー デイトナ〉を発表する約20年も前に製作された、唯一知られる“レインボー・ゼニス・デイトナ”が、2024年11月、ジュネーブで開催されるフィリップスのオークションに登場した。
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by Cheryl Chia. Oct 23, 2024 |
唯一無二の〈コスモグラフ デイトナ〉
ロレックスと“レインボー”ジェムセッティングの関係は、1970年代後半にさかのぼる。ブランドはこの頃、〈チェリーニ〉のベゼルにグラデーション状に配されたサファイアをあしらい、時にはその装飾をブレスレット全体にまで広げたモデルを製作していた。
しかし、レインボー・ジェムセットの腕時計が熱狂を呼ぶようになったのは、2018年に発表された〈コスモグラフ デイトナ〉Ref.116595RBOW、通称〈エバーローズ レインボー デイトナ〉の登場以降である。
数ある個性的なロレックスのなかでも、このモデルはカルト的な人気を獲得し、ロレックス社の高度なジェムセッティング技術を示す好例となった。
このモデルが登場したのは、ロレックスが2012年に発表した初代〈レインボー デイトナ〉を生産終了させた数年後のことだった。2012年に登場したそのモデルは、イエローゴールドのRef.116598RBOWとホワイトゴールドのRef.116599RBOWの2種類である。
しかし実は、その2012年のモデルより約20年も前、ロレックスはすでにレインボー・サファイアをベゼルに配した唯一無二のコスモグラフ デイトナを製作していた。
それが1994年頃、中東の顧客のために製作されたホワイトゴールド製のコスモグラフ デイトナ Ref.16599SAAECである。ベゼルには虹色のサファイアがグラデーションでセッティングされており、今日“レインボー・ゼニス・デイトナ”の通称で知られる、極めて特異な一本となっている。

▲ 左:〈レインボー チェリーニ〉Ref.4949(Image: The Keystone Watches) 右:〈エバーローズ レインボー デイトナ〉Ref.116595RBOW(2018年)

▲〈レインボー デイトナ〉イエローゴールド Ref.116598RBOW(2012年)

▲ “レインボー・ゼニス・デイトナ”Ref.16599SAAEC(Image: Revolution)
この特別注文の一本が製作されたのは、1988年に登場した初の自動巻き〈コスモグラフ デイトナ〉Ref.16520の誕生から6年後のことである。ジェムセット・ウォッチの場合、宝飾に加えて、その中身=高性能なムーブメントを積んでいればいるほど、その魅力はいっそう増す。
レインボー・ゼニス・デイトナは、ゼニスの伝説的なエル・プリメロムーブメントを搭載し、さらにロレックス独自の改良が施された自動巻き機構を備えていた。ジェムセッティングという工芸技術を表現するための理想的なキャンバスだったのだ。
宝飾時計に手を付け始めた頃のロレックスは、まずダイヤモンドのアワーマーカーがついたモデルの提供から始めた。1994年から1999年にかけて、サファイア、エメラルド、ルビーなどを用いたさまざまなジェムセット・ベゼルを展開し、その表現は一気に広がった。それらは基本的に単色の宝石で構成され、ダイヤモンドと組み合わせられるのが一般的であった。
そうした流れの中で誕生したレインボー・ゼニス・デイトナRef.16599SAAECは、ロレックスのクラシックなクロノグラフにおいて、ひときわ異彩を放つ、大胆で特異なバリエーションだった。

▲ “レインボー・ゼニス・デイトナ”Ref.16599SAAEC(Image: Phillips.com)
リファレンス番号の末尾に付くSAAECは、フランス語の“Sapphire Arc-en-Ciel”を意味し、直訳すると“サファイアの虹”を指す。
ロレックスは1980年代からすでに〈デイデイト〉にレインボー仕様のモデルを製作していたが、コスモグラフ デイトナは明らかに性格が異なっていた。
もともとプロのレーサーやアスリートのために設計されたスポーツウォッチに、多数のカラフルなサファイアをあしらうという発想は、当時のロレックスにとって異例の試みだったのである。

▲ (Image: Phillips)
卓越したロレックスの宝石技術
レインボー デイトナがロレックスのカタログに正式に登場したのは2012年のことである。素材は18KホワイトゴールドのRef.116599RBOWと、18KイエローゴールドのRef.116598RBOWの2種類で、ベゼルには36個のマルチカラー・バゲットカット・サファイアがリング状にセットされていた。
これらの宝石は、隣り合う石同士が微妙に色合いを変えるよう選別されており、なめらかなグラデーションとなっている。12時位置の深紅のレッドから始まり、タンジェリンオレンジ、レモンイエロー、フォレストグリーン、ブルー、パープル、ライラック、マゼンタへと移り変わり、再び深紅へと戻る虹の環を描いている。
さらに、ラグの上面とリューズガードには合計56個のブリリアントカット・ダイヤモンドがセッティングされている。

▲ 左:〈レインボー デイトナ〉イエローゴールド Ref.116598RBOW 右:ホワイトゴールド Ref.116599RBOW(2012年)
ロレックスは、宝石学者とジェムセッターからなる専門チームを擁しており、スペクトロメーターやX線イメージングを用いて宝石の分析と選別を行っている。これらの装置により、色、透明度、カット、カラットが精密に評価される。
それぞれのサファイアは、色相、彩度、透明度が高い基準を満たしていなければならない。さらに、隣り合う石と完全に密着するよう、正確な形状である必要がある。そのため選別過程では多くの石が除外される。
ジェムセッターは一石ずつ丁寧にセッティングしていく。宝石のカッティングとセッティングには、高度な技術と膨大な手間が必要なのである。
文字盤はブラックラッカー仕上げで、サブダイヤルには“ゴールドクリスタル”と呼ばれる模様が施されている。一見するとメテオライト(隕石)のようにも見えるこのテクスチャーは、ロレックスが独自に開発した結晶化プロセスによって生み出されたものだ。
初期モデルの特徴として、四つのクォーター位置にはアラビア数字が配され、そのほかのインデックスにはブリリアントカット・ダイヤモンドがセットされている。さらに針には赤いワニスが施されている。
ホワイトゴールドモデルには、新たに開発されたグレーゴールド合金が使用され、この年に特許が取得された。この合金はアレルギーを引き起こすニッケルや銅を含まず、それでいて十分な硬度と高い白色度を備えており、通常必要とされるロジウムメッキを施す必要がない。

▲ ホワイトゴールド Ref.116599RBOW(2012年)
2018年、ロレックスは18Kエバーローズゴールド製のレインボー デイトナRef.116595RBOWを発表した。
この独自の合金は、一般のローズゴールドが時間経過とともに生じる色調変化(やや赤みがかる)を抑え、理想的なローズカラーを実現するために開発された。
実現には、パラジウムとインジウムに加え、シリコンやカルシウムが用いられているという。

▲ 〈エバーローズ レインボー オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ〉Ref.116595RBOW(2018年)
Ref.116595RBOWには、ブラックラッカー文字盤または全面パヴェダイヤモンド文字盤の2種類が用意されていた。
このモデルではベゼルと調和させるため、従来のダイヤモンドのアワーマーカーがレインボーカラーのバゲットカット・サファイアへと置き換えられている。
サブレジスターの針にはブラックワニスが施され、一方でクロノグラフ秒針はピンクゴールド製となっている。

▲ パヴェダイヤモンド文字盤を備えた〈エバーローズ レインボー オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ〉Ref.116595RBOW
2022年には、ホワイトゴールドRef.116599RBOWとイエローゴールドRef.116598RBOWのモデルが発表された。これら2018年および2022年のモデルはいずれも現在も生産が続けられている。
これらのモデルには、2000年に導入されたロレックス自社製の垂直クラッチ式クロノグラフムーブメント、キャリバー4130が搭載されている。キャリバー4130は、時計製造における垂直クラッチ式クロノグラフムーブメントのなかでも、とりわけ精緻に設計された優れた機構のひとつであり、性能だけでなく整備のしやすさにも配慮して設計されていることで知られている。

▲ 左:〈オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ〉ホワイトゴールド Ref.116599RBOW 右:イエローゴールド Ref.116598RBOW
“レインボー・ゼニス・デイトナ”Ref.16599SAAEC詳細
レインボー・ゼニス・デイトナ Ref.16599SAAECに搭載されたゼニス・デイトナ用キャリバー4030は、ロレックスが施した徹底的な改良によって、特別な存在となっている。
その改良点は200以上に及び、たとえば自動巻きのリバーサー機構にはより堅牢なラチェットシステムが採用され、第4輪にはインボリュート歯形が用いられてトルク伝達の安定性が高められている。さらに、ガンギ車の歯には潤滑油を保持するための凹部が設けられるなど、細部に至るまで改良が施された。
こうした膨大な変更によって、このムーブメントはもはや単なる改良版エル・プリメロではなく、独自の存在とも言えるキャリバーとなったのである。

▲“レインボー・ゼニス・デイトナ”Ref.16599SAAECとキャリバー4030 (Image: Phillips.com)
エル・プリメロ・キャリバーと同様に、キャリバー4030も水平クラッチ式を採用している。自動巻きクロノグラフにおける水平クラッチ機構は、今日の時計製造においては次第に少なくなりつつあり、クロノグラフ史における過渡期の設計を示すものでもある。
もっとも、エル・プリメロのキャリバー400の特徴は、毎時36,000振動という高振動数にあり、これにより10分の1秒単位の計測が可能であった。しかしロレックスは耐久性とパワーリザーブの向上を重視し、振動数を毎時28,800振動へと引き下げた。その結果、パワーリザーブは約4時間延長されている。
重要なのは、キャリバー4030では緩急針を廃し、マイクロステラナット付きのフリースプラング・テンプが採用された点である。加えてテンプにはブレゲ式オーバーコイルのヒゲゼンマイが組み合わされている。こうした綿密な改良は、ロレックスのスーパーレイティブ・クロノメーター認定を達成するためだったのは間違いないだろう。
外観に目を向けると、この時計は後年の通常生産モデルとは明らかに異なる表情を持つ。ぱっと見では気づきにくいが、ベゼルには一般的な36石ではなく、44石のバゲットカット・サファイアがセッティングされている。これにより色の移ろいはより繊細となり、グラデーションがいっそう優雅に広がっている。

▲(Image: Revolution)

▲左:ベゼル裏側。12時位置にコロネットロゴが刻まれている。右:ラグの間、ケース側面に刻まれたリファレンス番号。(Image: Phillips)

▲ (Image: Revolution)
この時計では色の配列が通常とは逆順になっている。通常の生産モデルでは、12時位置に鮮やかなスカーレットレッド、6時位置にアジュールブルーが配されるが、Ref.16599SAAECではこれらの位置にパステル調の色合いが用いられており、全体としてより穏やかな印象を与えている。
しかし、その存在感は決して控えめなものではない。文字盤には全面パヴェダイヤモンドが敷き詰められ、さらにブルーのブリリアントカット・サファイアによるアワーマーカーが配されている。宝石の色合わせとセッティングの精度は極めて高い。ロレックスの完璧主義をよく示している。
文字盤の四つのクォーター位置にはアラビア数字が配置されている。この意匠は2012年のレインボー デイトナにも引き継がれた。針はすべてホワイトゴールド製で、時計にはロレックスのロゴ入りホワイトゴールド製フォールディングクラスプが備えられている。
まさに伝説的な一本である。これはレインボー デイトナの先駆けとなっただけでなく、唯一無二の特別注文品であり、市場に初めて登場する個体でもある。
この時計は、2024年11月8日、ジュネーブのホテル・プレジデントで開催されるフィリップスのオークション“Reloaded: The Rebirth of Mechanical Watchmaking, 1980–1999”に出品される予定である。推定落札価格は300万スイスフラン以上とされている。
※編集部注:Ref.16599SAAECは、約550万5000スイスフラン(当時のレートで約9億7,100万円)にて落札された。
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