ゼニス〈G.F.J.〉Calibre 135は、精度を競い合った時計製造の黄金時代を象徴する傑作ムーブメントを現代に復活させたモデルである。
A Closer Look: Zenith G.F.J. Calibre 135
蘇った傑作ムーブ、ゼニス〈G.F.J.〉Calibre 135
ゼニス〈G.F.J.〉Calibre 135は、精度を競い合った時計製造の黄金時代を象徴する傑作ムーブメントを現代に復活させたモデルである。
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by Cheryl Chia.May 1, 2025 |
伝説の復活
2025年に創業160周年を迎えたゼニスは、その記念モデルとしてゼニス〈G.F.J.〉Cal.135を発表した。創業者ジョルジュ・ファーブル=ジャコのイニシャルを冠したこの時計には、歴史的名機Cal.135を現代的に再設計し、技術的な改良を加えた新世代ムーブメントが搭載されている。
私がこの時計を目にしたのは、ウォッチズ&ワンダーズ2日目の比較的早いアポイントメントだった。長旅の疲れがまだ抜け切っておらず、プレゼンテーションテーブルの脇に並べられたバフ掛け用のヤスリやリンドウの木材を見ても、その意図をすぐには理解できなかった。
しかし、時計そのものを目にした瞬間、すべてが腑に落ちた。
段差を設けたラグを備えるプラチナケース。強烈な存在感を放つ文字盤。そして伝説的なCal.135の復刻にあたり、ストップセコンド機構や延長されたパワーリザーブ、わずかに大型化されたテンプなどの改良が加えられていること。
さらに驚かされたのは、その仕上げのレベルだった。会場には数え切れないほどの新作が並んでいたが、この時計が放つ魅力は際立っていた。まさに予想外の、そして強く心を惹きつける一本だったのである。

▲ 創業160周年を記念して発表された〈ゼニス G.F.J.〉。伝説的なCal.135を現代に蘇らせたモデルだ(Image: Revolution©)
Cal.135は1949年から1962年にかけて製造されたムーブメントで、その間に約1万1000個が生産された。
このムーブメントには2つの仕様が存在した。ひとつは一般販売用のCal.135。そしてもうひとつが、天文台コンクールへの出品を目的として開発されたCal.135-Oである。
Cal.135-Oは驚異的な成績を収めた。製造期間中に獲得したクロノメトリー賞は実に235回にのぼり、とりわけ1950年から1954年までの5年間、ヌーシャテル天文台コンクールで連続優勝を果たしたことは、時計史上でも屈指の快挙として知られている。
2022年には、このCal.135-Oのヴィンテージムーブメント10個が修復され、再調整と手仕上げが施された。さらに独立時計師カリ・ヴティライネンとフィリップスの協力のもと、それらは10本限定の特別モデルとして蘇った。
そして今回、Cal.135は再び現代へと復活を遂げた。新しいムーブメントには外観を損なわない範囲で控えめながら重要な改良が施されており、160周年を記念する160本限定モデルとして発表されたのである。
華やかな外観が魅力的
2022年に発表されたカリ・ヴティライネン × フィリップスの限定モデルは、Cal.135-Oのストイックな性格を反映するかのように、ケースや文字盤のデザインは控えめで抑制の効いたものだった。
一方、今回のG.F.J.は明らかに異なる方向性を採っている。時計としての本質――すなわち伝説的なCal.135に由来する優れたクロノメトリー性能と時計製造の伝統――はそのまま受け継ぎながらも、外観ははるかに華やかで豊かな表現を与えられているのである。
つまりG.F.J.は、Cal.135の持つ時計史的価値を損なうことなく、よりラグジュアリーで存在感のある姿へと昇華させたモデルと言えるだろう。

▲〈G.F.J.〉の文字盤は、エングレービング入りのチャプターリング、ラピスラズリのセンターディスク、MOPプレートの下にブルーを敷いたスモールセコンドの3つのパーツで構成される。華やかでラグジュアリーな仕上がりが印象的だ(Image: Revolution©)
G.F.J.は、直径39mm、厚さ10.5mmのプラチナケースを採用する。
2022年の限定モデルよりわずかに大きいが、それはケース自体がまったく新しく設計されたためだ。ベゼルとラグには段差を設けたステップ構造が採用され、クラシックでありながら洗練された印象を与えている。
一方で、ラグ・トゥ・ラグは45.75mmに抑えられており、実際に腕に載せるとコンパクトに感じられる。
ケースの仕上げも実に丁寧だ。ケース側面にはヘアライン仕上げが施される一方、ベゼルとラグ上面の面取り部分は鏡面仕上げとなっている。ブラッシュ仕上げとポリッシュ仕上げの境界はシャープで、ゼニスの高い加工技術を物語っている。 リュウズも鏡面仕上げとされ、その表面には「G.F.J.」のモノグラムが刻印されている。

▲ 面取りと鏡面仕上げが施されたホワイトゴールド製の針とインデックス。文字盤のさまざまな質感を背景に、そのシャープな造形が光を美しく反射する(Image: Revolution©)
G.F.J.の文字盤は非常に凝った造りとなっており、遠目にも強い存在感を放つ。一方、近くで見るほどに新たな魅力を発見できる。
文字盤は3つの要素で構成されている。まず、外周にはエングレービングが施されたチャプターリング。中央にはラピスラズリのディスク。そしてスモールセコンドには深い青色のマザーオブパールが用いられている。
チャプターリングには、ゼニスのル・ロックル本社工房のレンガ造りのファサードに着想を得たブリックパターンがCNC加工によって刻まれている。
そこに配置されるのが、面取りとダイヤモンドポリッシュ仕上げが施されたホワイトゴールド製インデックスだ。さらに40個のホワイトゴールド製ビーズがアクセントとして配されている。
こうした輝く金属パーツが、豊かなテクスチャーを持つ文字盤に生命感を与えている。
中央のラピスラズリは、夜空を思わせる深い青色と天然の黄鉄鉱(パイライト)が生み出す金色の斑点によって、壮麗な印象を演出する。
一方、MOPのプレートの下にブルーを敷いたスモールセコンドは、色彩と質感の両面で柔らかなコントラストをもたらしている。
鏡面仕上げの輝き、精緻な彫刻、天然石、そして真珠層特有の虹彩。それら異なる要素がひとつの文字盤の中で見事に調和し、華やかでありながら決して品位を失わない表情を生み出しているのである。

▲(Image: Revolution©)
ストラップにはダークブルーのアリゲーターレザーが組み合わされる。
一方で、フルプラチナ製ブレスレット仕様も用意されている。ブレスレットのセンターリンクには、文字盤のチャプターリングと同じブリックパターンが刻まれており、時計全体のデザインに統一感をもたらしている。
ただし、このブレスレット仕様には相応の代償が伴う。価格は大幅に上昇し、レザーストラップ仕様と比べると、ほぼ倍額に達するのである。
進化したCal.135
G.F.J.に搭載される新しいCal.135は、単なる復刻ムーブメントではない。その設計はオリジナルのCal.135を忠実に受け継ぎながらも、性能面では全面的な見直しが図られている。
主ゼンマイから輪列、テンプに至るまで、ほぼすべての主要部品が再設計されており、現代の基準に合わせて性能が向上している。
一方で、Cal.135のアイデンティティともいえる設計思想は守られている。ムーブメントの基本構造や13リーニュ(約30mm)の直径はオリジナルと同じであり、伝説的なクロノメーター・ムーブメントのプロポーションと美しさをそのまま受け継いでいる。

▲ 熾烈な精度競争の時代に名を刻んだCal.135。〈G.F.J.〉では、パワーリザーブの延長、輪列の歯形最適化、大型テンプの採用、ストップセコンド機構の追加に加え、最高峰の仕上げによって現代に蘇った(Image: Revolution©)
Cal.135の基本設計を手掛けたのは、時計師エフレム・ジョバンだった。彼は当時のゼニス技術責任者シャルル・ツィーグラーから、ヌーシャテル、ジュネーブ、キュー・テディントン、ブザンソンといった天文台コンクールで勝利できるクロノメーター級ムーブメントの開発を託された。
こうして誕生したCal.135は、設計段階から極めて優れた資質を備えていた。
さらに、その潜在能力を最大限に引き出したのが、ルヌ・ジガックスやシャルル・フレックといった一流のレギュラー(調速師)たちだった。
彼らはムーブメントの調整と精度追い込みを担当し、Cal.135が持つ本来の性能を余すことなく引き出したのである。
その結果、Cal.135は天文台コンクールで数々の栄冠を獲得し、時計史上屈指の高精度ムーブメントとして名を刻むことになった。

▲ 1954年のゼニス広告。Cal.135の精度追い込みを担った名調速師ルヌ・ジガックスが登場している(Image: Zenith)
精度を追求するために
Cal.135の設計における最大の特徴のひとつが、輪列を中心からずらして配置した独特のレイアウトにある。
これは意図的な設計であり、毎時1万8000振動で作動する大型テンプのためのスペースを確保することが目的だった。
通常のムーブメントではセンターホイール(二番車)が中央に配置されるが、Cal.135ではこれを左側へ移動している。そしてセンターホイールは三番車とセンターピニオンの両方を駆動する構造となっている。
こうしたレイアウトによって、テンプのための空間を最大限に確保したのである。
もっとも、「センターホイールが中央にあっても、上下で異なる高さに配置されるのだから大型テンプは搭載できるのではないか」という疑問も生じるだろう。
実際、カリ・ヴティライネンのCal.28などは、一般的な輪列配置を採用しながらも大型テンプを実現している好例である。
しかしCal.135では、センターホイールを移動したことでセンター軸とピニオンを大幅に小型化することが可能となり、その結果テンプ径を約1〜1.2mm大きくすることができた。
一見わずかな差に思えるかもしれない。
だが、天文台コンクールのような精度競争の世界では、そのわずかなアドバンテージが勝敗を左右することも少なくなかった。
さらにCal.135では、ガンギ車受けの位置も低く抑えられており、その上にテンプが一部重なるように配置されている。
こうした設計はすべて、「より大きなテンプを搭載し、より高い精度を追求するため」の工夫だったのである。
だからこそCal.135は、単なる美しいムーブメントではなく、天文台コンクールで勝つために徹底的に最適化されたクロノメーター・ムーブメントとして伝説的な地位を築いたのだ。

▲ Cal.135では大型テンプのためのスペースを確保する目的で、センターホイールをクラウンホイールの隣へオフセット配置している。このセンターホイールが三番車とセンターピニオンを同時に駆動することで、テンプ周辺に十分な空間を生み出している(Image: Revolution©)
ゼニスは公式発表では明言していないものの、新しいG.F.J.に搭載されるCal.135のテンプは、オリジナルの14mm径テンプよりもわずかに大型化されているようだ。
その結果として得られる慣性モーメントは、エル・プリメロのテンプのおよそ9倍にも達する。
また、パワーリザーブも従来の40時間から72時間へと大幅に延長された。この改良は、香箱芯(バレルアーバー)の小径化に加え、ジェネラル・ルソール社製の「Bioflex(バイオフレックス)」と呼ばれる新しい主ゼンマイを採用したことで実現している。
バイオフレックスは、高い弾性と優れた耐疲労性を兼ね備えた現代的な高性能合金として知られている。
さらに輪列の歯車についても歯形が最適化されており、動力伝達効率の向上が図られている。
そして最後に、ストップセコンド機構が追加されたことで、このムーブメントは精度追求という目的をより徹底したものとなった。
巨大なチラネジ付きテンプには、ブレゲひげゼンマイが組み合わされている。また、オリジナルのCal.135-Oが備えていたダブルインデックス式緩急調整機構も継承された。
こうした構成は先代と同様、精度を最優先した設計思想の表れである。その成果として、新しいCal.135はCOSC認定クロノメーターを取得しており、日差は最大でも±2秒という極めて優れた精度を実現している。

▲オリジナルには備わっていなかった耐震装置をテンプ軸周辺に追加。日常使用で生じる衝撃から繊細なテンプ軸を守り、実用性を高めている(Image: Revolution©)
時計史上最も熾烈な精度競争の舞台で勝利するために生まれたムーブメントが、その卓越した機械性能にふさわしい仕上げを与えられたことは実に喜ばしい。
ブリッジには文字盤と共通するブリックパターンが施され、その輪郭には丸みを帯びた美しい面取り加工が与えられている。
また、ルビー受け石やネジ穴には丁寧な皿取り加工が施されており、細部に至るまで高級機らしい作り込みが見て取れる。 さらにブリッジの形状もわずかに見直されており、鋭い内角が新たに設けられた。
こうした内角は機械加工だけでは仕上げることができず、熟練職人による手作業を必要とするため、高級時計の仕上げ技術を示す見どころのひとつとなっている。

▲ブリッジには滑らかな曲線を描くアングラージュが施される一方で、手作業でしか仕上げることのできない鋭い内角も取り入れられている(Image: Revolution©)
プラチナケース、極めて凝った3層構造の天然石文字盤、そして高水準の仕上げが施された進化版Cal.135を考えれば、その価格設定には十分な説得力がある。実際、このレベルの仕上げを備えた独立時計師による三針時計と比較すると、G.F.J.はかなり割安に感じられる。
なかでも多くの独立時計師は、かつての天文台コンクール用時計の伝統を受け継ぎながらクロノメトリー(精度追求)に取り組んでいるだけに、その比較はなおさら興味深い。
G.F.J.が特別なのは、単に往年の名機を復活させたからではない。この時計は、精度こそが時計製造における最高の価値とされた時代へと直接つながっている。
Cal.135はもともと、機械式時計の限界に挑み、天文台コンクールで勝利するために開発されたムーブメントだった。
そして現代に蘇ったG.F.J.は、その輝かしい歴史を受け継ぎながら、最新の技術と仕上げによって新たな命を吹き込まれたのである。
Tech Specs
ゼニス〈G.F.J.〉 Calibre 135 リファレンス:40.1865.0135/51.C200 ムーブメント:手巻きCal.135 パワーリザーブ:約72時間 機能:時・分表示・スモールセコンド ケース:プラチナ製 直径39mm 厚さ10.5mm 防水性能:50m 文字盤:ラピスラズリ製センターディスク/マザーオブパール製スモールセコンド/外周にブルーのブリックパターン・ギヨシェ装飾 限定本数:160本 ¥6,952,000
Brands:Zenith
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