Why is the Universal Genève Polerouter So Collectible?

〈ポールルーター〉が永遠のコレクターズ・ピースである理由

人々の手に届く、本物のアイコン
by Felix Scholz . Nov 13, 2024

 ユニバーサル ジュネーブの〈ポールルーター〉は、ヴィンテージ時計愛好家の間で絶大な人気を誇る。その理由は明快だ。時計界の巨匠、ジェラルド・ジェンタによるデザイン。何十年にもわたり、多彩なスタイルとリファレンスで展開されてきた系譜。そして、実際に時計史に残る革新的なメカニズムを備えている──このモデルは、ヴィンテージウォッチの魅力を凝縮した一本と言えるだろう。

 さらに素晴らしいのは、〈ポールルーター〉が数多の名作とは異なり、いまだに比較的手に届く価格帯にある点だ。

〈ポールルーター〉誕生の背景

 本題に入る前に、まずユニバーサル ジュネーブというブランドの歩みを振り返っておきたい。多くのスイスブランドと同様、その起源は19世紀後半のエタブリスージュ(外注分業式)時計製造にまで遡る。

 ユニバーサル・ウォッチとして1894年にル・ロックルで創業し、1919年にジュネーブへ移転。ブランドは着実に存在感を高め、1936年には正式に“ユニバーサル ジュネーブ”を名乗るようになった。

 クロノグラフで名を上げた同社だが、1954年、ブランド史において後々まで語り継がれる一本を発表する──それが〈ポールルーター〉である。

1894年、ル・ロックルで創業したユニバーサル・ウォッチ。

左:1919年、ジュネーブのグラン・ケーに移転したユニバーサル ジュネーブ。 右:1959年、ジュネーブ郊外カルトゥージュに構えたユニバーサル ジュネーブの自社工房。

1954年頃に製造されたユニバーサル ジュネーブ〈ポールルーター〉Ref.20214-2(Image:Phillips)

 〈ポールルーター〉誕生の物語には、実に多くの魅力が詰まっている。カジュアルにもドレッシーにも使える佇まい、耐磁性といった実用性、そして航空史と結びついた背景。

 しかし、今日のコレクターたちがもっとも心を奪われるポイントは、やはりデザイナーがジェラルド・ジェンタであるという事実だ。

天才と言われた時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタ(1931〜2011年)

 〈ポールルーター〉(当初の名称は「ポーラルーター」)は、当時23歳だった ジェラルド・ジェンタのデザインによるもので、彼の最初の腕時計デザインとして広く知られている。

この点が、誕生から70年が経っても人気が続く大きな理由のひとつだと言えるだろう。

 ただし、この初期モデルには、のちの作品で見られる“ジェンタらしさ”がはっきり現れているわけではない。それでも、この時計は非常に完成度の高いデザインとなっている。

 中心の黒いダイアルと、それを囲むエンジンターンド仕上げのチャプターリングによる“タキシードのような”見た目が特徴で、これこそがポールルーターの象徴だと感じるコレクターも多い(ただし、この仕様はすべてのバリエーションにあるわけではない)。

 そして文字盤が強く印象に残る一方で、ほかの要素もよくまとまっている。ライアー型ラグ(竪琴を思わせる反りのあるラグ)や、35mmの控えめなケース径など、初代ポールルーターは全体として非常にバランスの取れた時計だった。

ユニバーサル ジュネーブ〈ポールルーター〉Ref.20367/1(Image:Antiquorum)

 〈ポールルーター〉の魅力は、デザインの完成度だけではない。そこには語るべき物語がある。

 1950年代は、商業航空が一気に発展し始めた時代である。1954年11月15日、スカンジナビア航空(SAS)はロサンゼルスーコペンハーゲン間の新ルートを開設した。現代では平凡な航路に思えるが、当時としては画期的で、所要時間は22時間。従来より14時間も短縮することができていた。その理由は、これまで不可能とされてきた北極圏の直行ルートを飛行したためだ。

 このルートは長らく、磁極が航法機器に悪影響を与えるため実現不可能と考えられていた。しかし、この障壁を突破したことは航空史における重要な出来事であり、初便にはデンマーク、スウェーデン、ノルウェーの首相まで同乗していた。

 この歴史的な新ルートの開設を記念して誕生したのが、ユニバーサル ジュネーブ〈ポールルーター〉だったのだ。ユニバーサル ジュネーブは当時、耐磁時計の製造技術において高い評価を得ており、磁気の影響が大きい極地飛行に適した時計として選ばれた。

 このつながりを象徴するように、SASロゴ入りの特別ダイヤルを備えたポールルーターが少数だけ製作されているが、現存するのは数十点にすぎないといわれている。

スカンジナビア航空(SAS)とユニバーサル ジュネーブ〈ポールルーター〉の当時の広告(Image:universalgenevepolerouter.com)

 今日では、極地飛行の偉業はそこまで特筆すべきことではないが、〈ポールルーター〉のデザインが長く愛されてきたことは疑いようがない。航空史的な背景を超えて、独自の“静かなコレクション領域”を形成するまでに成長したのである。多くのコレクターにとって、〈ポールルーター〉はヴィンテージ収集の入り口のような存在だった。

 ユニバーサル ジュネーブ復活について昨年Revolutionに寄稿したスティーブン・プルビレントは、〈ポールルーター〉の魅力を端的にまとめている。

「複雑だが、行き過ぎていない。希少で高価にもなり得るが、極端ではない。豊かな歴史があるが、まだ解明と理解の余地もある。ブログ文化の広がり、SNSの始動、ヴィンテージディーラーのオンライン進出が重なり、ユニバーサル ジュネーブが通好みの間でブームとなったのはある意味当然の成り行きだった。まさに完璧な条件がそろったのだ」

代えがたい〈ポールルーター〉の魅力

 その“完璧な条件”は、現在も続いている。この10年間で積み重ねられた研究と理解が、その魅力をさらに高めたと言える。〈ポールルーター〉はいまもヴィンテージ収集の優れた入門モデルだ。

 昔のように、スリフトショップで数百ドルで見つけた、という話はさすがに減ったが、それでも価格は常軌を逸してはいない。この記事を執筆している時点で、中古物販サイトChrono24には132本の〈ポールルーター〉が出品されており、そのうち数十本を除けば、価格は5,000米ドル以下であった。

1963年製 ユニバーサル ジュネーブ〈ポールルーター〉(Image:Chrono24.com)

 ポールルーターのもうひとつの大きな魅力は、そのバリエーションの豊富さである。初代リファレンスだけでなく、〈スーパー〉、〈デイト〉、〈デイデイト〉、〈ジェット〉、〈デラックス〉など、多彩な派生モデルが存在する。

 ヴィンテージ・ウォッチとして「一人前」と見なされる基準のひとつに、専用ファンサイトの存在が挙げられるが、アダム・ハンブリーが運営する“The Polerouter Reference Website” はまさにその好例で、ポールルーターに関する膨大な情報がまとまっている。

 そこでは数千に及ぶバリエーションが整理されており、新生ユニバーサル ジュネーブにとっても、このアーカイブは将来の復刻に向けた土台となるだろう。

〈ポールルーター〉はどこから始めるべきか

 ポールルーターの大きな魅力である長い生産の歴史は、同時にコレクション参入のハードルにもなる。リファレンス番号、シリアル、製造期ごとの違いがあまりに多く、どこから手をつけてよいか迷ってしまう。

 もし最初の一本を選ぶ指針が欲しいのであれば、以下の3つのリファレンスがよい。いずれもこの時計の歴史的転換点、あるいは多様性を象徴するモデルである。

ポールルーター Ref. 20214 / 20217

Ref. 20214 ユニバーサル ジュネーブ〈ポールルーター〉の初期リファレンスのひとつで、若きジェラルド・ジェンタによるオリジナル・デザインを色濃く残すモデル。エンジンターンドのチャプターリングと35mmケースが特徴で、初期ポールルーターを代表する一本(image:Antiquorum)

 もっとも初期の〈ポールルーター〉である35.5mm径のRef.20214とRef.20217は、その後ユニバーサル・ジュネーブが数十年にわたり踏襲することになるデザインの“ひな型”を確立したモデルである。ただし、ひとつ大きな違いがある。それはムーブメントだ。

 〈ポールルーター〉といえば多くの愛好家にとってマイクロローター式ムーブメントの代名詞だが、初期のモデルは別の形式のキャリバーを搭載している。キャリバー138SSである。

 このムーブメントは1948年にユニバーサル ジュネーブが発表したもので、自動巻き機構がバンパー式と呼ばれるタイプだ。ローター(オシレーティング・マス)は半円運動のように限られた弧の中で往復し、端に達するとバネに当たって「コツン」という感触が手首に伝わる。この特徴的な動作により、バンパーという名称が付けられている。

キャリバー138SS(Image:Chrono24.com)

 20124は金張りケースを採用したモデルで、ブラック、ゴールド、シルバーの文字盤が存在し、針は夜光あり/なしの両バリエーションが確認されている。一方、20217はより人気の高いスチールケース仕様で、ブラックまたはシルバー文字盤がラインナップされている。

 最初期のモデルは常に歴史的意義を持ち、コレクションする価値がある。しかし、〈ポールルーター〉というモデルの魅力をより完全に味わうなら、次世代モデルのほうがいっそう惹きつけるものがある。

ポールルーター Ref.20357

ユニバーサル・ジュネーブ〈ポールルーター〉Ref.20357-1(Image:Chrono24.com)

 1955年に登場したリファレンス 20357-1は、ブランド初の自社製マイクロローター式ムーブメント、キャリバー215を搭載したポールルーターである。キャリバー215は1955年当時“特許出願中”であり、1958年に正式に特許登録された。一部の初期20357には “Patented Rights Pending” の刻印が入る個体も存在する。

 このムーブメントは、時計技術における大きな進歩を意味している。小型ローターを地板に埋め込む構造により、ムーブメント全体を薄く仕上げることが可能になった。

 また副次的な効果として、愛好家がよく語るように、マイクロローターは地板側の視界を遮らず、機構全体をよりよく見せるという利点もある(もっともポールルーターの場合は、ねじ込み式リューズの構造上、裏からの視認性は限定されていた)。

キャリバー 215 (Image: Chrono24.com)

 20357を探す際に考慮すべき点のひとつは、ケースサイズである。この初期リファレンスは33.5mmとかなり小振りで、現代的なサイズに慣れた人には物足りなく感じられるかもしれない。

 その場合、1956〜59年に製造されたリファレンス20360が選択肢となる。こちらは35.5mmで、多くの人にとってより受け入れやすいサイズ感である。

ポールルーター サブ Ref.204615

ポールルーター サブ 204615/1(Image:tropicalwatch.com)

 ユニバーサル ジュネーブが人気モデル〈ポールルーター〉にダイバーズ仕様を作っていたとしても、ここまで読んできた皆さんなら驚かないだろう。ただし、そのダイバーズ版が複数存在するとなると話は別だ。

 もっとも知られているのは、デュアルクラウンを備えた20369/1で、コンプレッサー式のインナーベゼル搭載モデルだ。しかし、写真のポールルーター サブ 204615はまったく異なるキャラクターを持つ一本である。

 このモデルは1964〜65年頃に製造され、当時としては大ぶりな37.5mmケースを採用した、ビッグクラウン系ダイバーズだ。まず目を引くのが、アール・デコ調のフォントで描かれた時表示。台形のプリントインデックスは、デイト窓の形状と呼応する意匠で、じつにユニークだ。

 さらに文字盤中央にはレッドのクロスヘア、〈Sub〉表記の“u”にはトライデント(三叉槍)のようなモチーフまで添えられている。

 もし〈ポールルーター〉の名前を伏せて見れば、単純に凝ったつくりの魅力的なヴィンテージ・ダイバーズだろう。しかし、この一本をポールルーターという壮大な系譜の中に置き直したときにこそ、このモデルの価値が際立つ。

 シリーズがどれほど広く、深く、そして愛されてきたかを象徴する存在なのだ。ユニバーサル ジュネーブ〈ポールルーター〉がコレクターズ・アイテムとして特別な地位を占める理由が、ここにも明確に現れている。