Vintage Chronographs that Won’t Break the Bank

手の届く価格で手に入るヴィンテージ・クロノグラフ

by Felix Scholz.Mar 26, 2021

 ヴィンテージ・クロノグラフの魅力に、説明はいらない。そこには、デジタル以前――機械式の精度が意味を持ち、単なる時刻表示以上の役割を担っていた時代の空気が凝縮されている。

 宇宙開発、モータースポーツ、科学的未来……こうした人類の営みにおいて、クロノグラフはイメージリーダー的な役割を果たしてきた。だから、ヴィンテージ・クロノグラフは、われわれのイマジネーションを強くかき立てるのだ。

 しかし、そのノスタルジックな魅力には代償が伴う。著名ブランドの人気モデルは価格が高騰し、新規参入者にとってはハードルが高くなりつつある。

 〈スピードマスター〉や〈カレラ〉といった定番は、ヴィンテージ・クロノグラフに初めて触れようとする人にとって、ますます手の届きにくい存在となっている。

 とはいえ、まだ“お値打ち”は残されている。視野を広げ、少し深く探せばいい。知名度は高くなく、現在は消滅しているブランドの中にも、驚くほど魅力的な時計が存在し、有名ブランドよりも手頃な価格で手に入る。

 重要なのは、“何を見るべきか”を知っていることだ。

 ヴィンテージウォッチ・ディーラー、Analog/Shiftでヴィンテージおよび中古時計部門のマネージャーを務めるヴィンセント・ブラセスコは、こう語る。

「まず何より大切なのは、予算に関係なく“自分が好きかどうか”。そこから始めるべきです。そのうえで、バルジューやヴィーナスといった高品質なベースムーブメントを使ったプライベートブランドにも目を向けてほしいですね。大手ブランドよりもデザインが面白いことも多いのです。ル・ジュール、イエマ、トラディションといったブランドは、作りも良いのに、まだあまり注目されていません……、今のところは」

 この意見に呼応するのが、ATGヴィンテージウォッチの創業者であり『Chasing Time』の著者でもあるアリステア・ギボンズだ。

「いまはSNSの影響でブランド名が過剰に重視されていますが、本来はムーブメントに目を向けるべきです。無名に近いメーカーでも、ブライトリングやホイヤーと同じムーブメントを使っている例は少なくありません」

 ヴィンテージウォッチを選ぶ際、内部機構を確認するのは出発点として有効だが、情報の少ないモデルについて調べるには、リファレンス番号を検索するだけでは不十分で、もう一歩踏み込んだ調査が求められる。

 そこで本稿では、編集部が独自にリサーチを行い、時代性あるデザイン、確かな背景、そして腕元での存在感を兼ね備えながら、過度な価格に達していない9本を選び出した。

 どれも小さな金額とはいわないが、決して手の届かない額でもないはずだ。

ブローバ〈ディープシー ダイバー〉

バルジュー7733を搭載した1971年製ブローバ〈ディープシー ダイバー クロノグラフ〉
(Image: CraftandTailored.com)

 1875年創業、アメリカの老舗ブローバは、力強いデザインと革新的な技術の豊かな歴史を持つ優れたブランドである。近年のアーカイブシリーズの充実ぶりを見る限り、現在の運営側もその価値を再認識しつつあるようだ。

 ブローバといえば音叉式電気時計〈アキュトロン〉の技術で知られるが、そのムーブメントはメンテナンス性に課題があり、状態によって当たり外れが大きい。

 しかし、この1971年製〈ディープシー ダイバー〉は完全なアナログ仕様で、しかも手巻きムーブメント、バルジュー7733を搭載している点が魅力だ。

なぜクール?

 まず最初に言っておくべきは、ダイヤルに記された防水性能はあまり信用しないほうがいい、ということだ(理由はいくつもある)。

 それを差し引いても、この38mmケースの個体は、ヴィンテージとして理想的な経年変化を見せている。

 ブルーのベゼルは柔らかな“ゴースト”状のパティナを帯び、ダイヤルも個性を保ちながら決して疲れた印象ではない。魅力と端正さを兼ね備えた一本といえるだろう。

 価格はおよそ2000ドル前後が目安だ。

ブライトリング〈エアロスペース〉

〈エアロスペース〉は、クォーツムーブメントとアナデジ表示という最新技術を採用した、目的志向のツールウォッチである(Image: hqmilton.com)

 ブライトリングの名前がこのリストに入っているのは、少し意外に感じるかもしれない。というのも、ヴィンテージ・クロノグラフの世界では定番ブランドであるが、その価格帯は今回の想定予算よりやや高めで推移することが多いからだ。

 もっとも、〈エアロスペース〉であれば話は別だ。しかし、1985年に登場したこのモデルは、紛れもないアイコンである。

なぜクール?

 エアロスペースは、クォーツムーブメントとアナデジ表示という当時の先進技術を取り入れた、明確な目的を持つツールウォッチである。カレンダー、クロノグラフ、第2時間帯表示、アラームといった多機能を備え、しかもそれらはすべて単一のリューズで操作できる。

 ベゼルのライダータブや、チタンやゴールド素材で展開された点もあり、スタイル面でも強い個性を放つモデルだ。さらに小ぶりなサイズと軽さによって、装着感にも優れている。

 価格はおよそ2000ドル前後が目安だが、限定仕様や特別なダイヤルの個体もあるため、そうしたモデルも視野に入れて探してみるとよいだろう。

コンコルド〈デプスゲージ〉

1970年代に遡るコンコルド〈デプスゲージ〉は、独自の内蔵式デプスゲージ表示で知られている(Image: AnalogShift.com)

 1908年創業、スイスのコンコルドは、あまり頻繁に耳にするブランドではない。1970年代後半から80年代初頭にかけて、超薄型クォーツで一時代を築いたが、高価格化と嗜好の変化により、その勢いは次第に失われていった。

 しかし、このモデルには“薄さ”も“クォーツ”も関係ない。鮮やかで個性的なデザインに加え、デプスゲージを備えた、非常にユニークなクロノグラフである。

なぜクール?

 理由はいくつもある。まずクッションケースは43mmと大ぶりで、現代的な装着感を備えている。そして目を引くのが、このイエローのカラーリングだ。

 とはいえ、この時計を特別な存在にしているのはやはりデプスゲージである。1970年代の手巻きクロノグラフでありながら、独自の機構を備えている。

 このコンコルドは、キャピラリーチューブ式デプスゲージを採用していると見られる。厚みのある風防に溝(チャンネル)を刻み、3時位置に設けられた開口部から水が入り込む構造だ。

 潜水して水圧が高まるにつれ、水はチューブ内を押し進められ、その位置を固定されたアルミ製ベゼルの目盛りで読み取ることで、水深を把握できる。

 市場に出る機会は多くないため、価格はコンディションにもよるが、2000〜3000ドル程度が目安となる。

ドゥゲナ〈クロノグラフ〉

ドゥゲナ〈クロノグラフ〉は、1960年代のホイヤー製レーシングウォッチと同様のスタイルを備えている(Image: Alistair Gibbons / ATGVintageWatches.com)

 ドゥゲナは、1960〜70年代に活動していたクロノグラフメーカーの中でも、比較的耳にしたことがあるブランドかもしれない。というのも、この時期のドゥゲナのクロノグラフはホイヤーが製造していたからだ。

 現在ではインハウス志向が当たり前になっているが、当時はこのようなOEM生産が一般的だった。

なぜクール?

 正直に言えば、この個体――ブルーのアクセントが効いた、ひと目でそれと分かるパンダダイヤルの良品――は、今回の想定予算をやや上回る可能性が高い。それでも、ドゥゲナのスポーツクロノグラフは、数百ドル程度のものから数千ドルクラスまで、幅広い選択肢が存在する。

 いずれにせよドゥゲナは、あの時代特有の“モータースポーツ的なクロノグラフの雰囲気”を手頃に味わえる、魅力的な選択肢といえる。

アイクポッド〈ヘミポッド〉

アイクポッドの時計は、カニエ・ウェストのようなデザイン愛好家の間でカルト的な人気を誇る。実際、彼は2020年にビバリーヒルズで開催された『ヴァニティ・フェア』のオスカー・パーティーにおいて、ゴールドの〈アイクポッド・ヘミポッド・クロノグラフ〉を着用している姿が確認されている。

 2020年5月以前にアイクポッドを知っていたとすれば、相当な時計好きかデザインマニアだったはずだ。このブランドは一般的な知名度とは無縁の存在だった。

 しかし同年5月、アメリカ版『GQ』の表紙にカニエ・ウェストが登場し、その腕に――そう、ゴールドのアイクポッド〈ヘミポッド〉が載っていたのである。

なぜクール?

 アイクポッドは1994年、オリヴァー・アイクとインダストリアルデザイナーのマーク・ニューソンによって創業された。

 ニューソンはその後、アップルで頻繁にデザインに関わることになり(アップルウォッチにアイクポッドの影響が見て取れるのも納得だろう)、その出自からして〈ヘミポッド〉は純粋にオリジナルなデザインピースといえる。

 小石のような有機的ケースに、ミニマルな造形と本格機構が同居する独特のバランス――非常に興味深い一本である。

 価格帯はおおよそ2000〜3000ドル。ウェストの着用以降、この90年代の異端児にようやく注目が集まり始めている。

ル・ジュール〈ブロードアロー・クロノグラフ〉

ル・ジュール〈ブロードアロー クロノグラフ〉は、退色したベゼルに加え、矢じり形の時針と、赤いクロノグラフ秒針先端の大型ロリポップが特徴である(Image: AnalogShift.com)

 ル・ジュールはフランスのイエマ傘下のブランド名である。

 ル・ジュールは、1960〜70年代にモータースポーツやダイビングにインスパイアされたスポーツウォッチで成功を収めながら、80年代のクォーツショックによって急速に失速した典型的なブランドである。いわゆる“誰もが知るブランド”ではないが、その名には興味深い背景がある。

なぜクール?

 この〈ブロードアロー クロノグラフ〉がホイヤーのそれとどこか似ているのも、偶然ではない。1960年代以降、アメリカ市場向けのクロノグラフはホイヤーによって組み立てられていたのだ。

 ケース径は38mmで、長く伸びたストレートラグを備えたバランスの良いサイズ感だ。ムーブメントには信頼性の高いバルジュー7733を搭載するが、多くの同時代の時計と同様、やはり心をつかむのはダイヤルの魅力である。

 退色したベゼル、矢じり形の時針、そして赤いクロノグラフ秒針先端の大きなロリポップ――いずれも60年代らしいディテールであり、ノスタルジーを凝縮した一本といえる。

 ベゼルやダイヤルにはさまざまなバリエーションが存在し、流通量も比較的あるため、価格帯は2000〜3000ドル程度で見つけることができる。

オメガ〈クロノストップ〉

オメガ〈クロノストップ “ドライバー”〉は、クルマの運転中に視認性を高めるため、手首の内側に装着することを前提に設計されたモデルである(Image: AnalogShift.com)

 クロノグラフは複雑で情報量の多いものだと思っているなら、ぜひオメガ〈クロノストップ〉を紹介したい。単一のプッシャーと積算計を持たないシンプルな構成により、この60秒計測のタイマーは「クロノグラフとは何か」という問いそのものを考えさせられる。

 1966年に登場し、1974年までケースやスタイル、ダイヤルのバリエーションを変えながら生産された。

なぜクール?

 クロノストップの魅力は、そのユニークさにある。確かに最大60秒までしか計測できないストップウォッチは実用性が高いとは言えないが、その割り切りがむしろ楽しい。

 この1967年の個体は、さらに特別だ。“ドライバー”モデルで、通常は12時位置にあるインデックスが3時位置に配置されている。

 これは運転中の視認性を高めるため、手首の内側に装着することを前提とした設計である。そして、わずかにトロピカル化したグレーダイヤルにオレンジのアクセントが加わり、非常に魅力的な表情を見せる。

 価格は1000ドル程度から見つかるが、より個性的でコンディションの良いもの(この個体のようなモデル)は3000ドル近くに達することもある。

セイコー〈スピードタイマー〉6139-6002“パルセーション”

1970年に登場したセイコー6139-6002には多くのバリエーションが存在するが、ここで紹介するのは、内側にパルセーションベゼルを備えた、深みのあるチョコレートブラウンのダイヤルを持つ希少モデルである。
(Image: CraftandTailored.com)

 1969年、セイコーはヨーロッパに衝撃を与えた。ゼニスのエル・プリメロ、そしてホイヤーやブライトリングらのCal.11/クロノマチックとほぼ同時期に、自社初の自動巻きクロノグラフを発表したのである。

 しかもセイコーは、スイス勢と肩を並べるだけでなく、はるかに手頃な価格でそれを実現した。統合型でコラムホイールを備えた6139搭載モデルは、非常に競争力の高い存在となった。

なぜクール?

 それから50年以上が経った現在でも、セイコーの先駆的クロノグラフはヴィンテージ市場で十分な競争力を保っている。近年は価格がやや上昇しているとはいえ、依然として1000ドル未満で見つかることが多い。

 この価格帯であれば、多彩な選択肢があり、たとえば1970年製の6139-6002 “パルセーション”のように、内側にパルセーション(脈拍計)ベゼルを備え、チョコレートブラウンのダイヤルを持つ珍しいモデルにも手が届く。

 6139系は長期間にわたって生産されたため、多くのバリエーションが存在する。購入の際にはリサーチが欠かせないが、それこそがヴィンテージ時計の醍醐味である。

ティソ〈シースター・クロノグラフ〉

トロピカル化したオックスブラッドダイヤルとボリュームのある針を備えた、信頼性の高いレマニア製手巻きムーブメント搭載のティソ〈シースター・クロノグラフ〉は、抗いがたい魅力を放っている(Image: CraftandTailored.com)

 1853年創業、スイス、ル・ロックルを故郷とするティソは、手頃な価格帯で質の高い時計を提供してきた老舗であり、スポーツ計時の分野でも長く豊かな歴史を持つ。〈シースター〉のような、無駄のない信頼性の高いスポーツウォッチを数多く生み出してきた。

 この長寿ラインは時代とともに進化し、多様なスタイルを展開してきたが、その頂点のひとつが1960年代のクロノグラフである。

なぜクール?

 ヴィンテージ・クロノグラフに求める要素がすべて詰まっていると言っていい。力強いシルエット、38mmケース、そして60年代スポーツウォッチの精神を完璧に体現するデザイン。

 トロピカル化したオックスブラッドダイヤル、存在感のある針、ブルーとオレンジのアクセントに加え、信頼性の高いレマニア製手巻きムーブメントを備える。

 それでいて価格は1500〜2500ドル程度。すでに一流ブランドのコレクションを持っていたとしても、このティソに惹かれずにはいられないだろう。

※価格相場は2021年5月のものです。